公共R不動産のプロジェクトスタディ
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誰でも道路が使える!地域・民間中心のウォーカブルなまちづくりを加速させる、兵庫県姫路市の新しい取り組みとは?

2023年2月13日(月)に「姫路がめざすウォーカブルなまちなか」シンポジウムが兵庫県姫路市で開催されました。姫路市独自の新しい道路活用の仕組み「ウォーカブル促進プログラム」のご紹介と共に、これまでの様々な公民連携事例、姫路市長も交えて行われたトークセッションの様子もあわせて紹介し、多角的に展開する姫路市のまちづくりについてレポートします!

「姫路がめざすウォーカブルなまちなか」シンポジウムのアーカイブ配信はこちら!

居心地が良く、歩きたくなるまちなかを目指して

姫路市では令和2年度、街に多様な居場所の選択肢を生み出し、身近な生活圏が豊かになることで住みたい街・住み続けたい街になることを目指した姫路市ウォーカブル推進計画を作成しました。公共空間利活用の仕組みづくりやリノベーションまちづくりなど、魅力的なまちづくりに向けた様々な活動の指針になっています。

さらに令和5年度からは、「居心地が良く歩きたくなるまちなか」の形成を加速させるため、「ウォーカブル促進プログラム」がスタートします。ワンストップ窓口の開設や許認可手続きのサポートなど、商店街・自治会・市民団体・住民・個人店、道路を活用したい人の想いの実現をサポートする仕組みができるそう!

ここに至るまでには行政・民間・地域が連携した多様な実証が積み重なっています。姫路市のシンボルロード大手前通り、古くからの街並みが残る駅西エリア、個性的な店舗が点在する白鷺町エリア、姫路駅北口駅前広場など、各エリア特性を生かした個性豊かなまちづくりの実践があります。記事でも追って各取り組みをご紹介します!

誰でも道路活用の相談&申請サポートが受けられる!
「ウォーカブル促進プログラム」とは?

道路活用の裾野を広げるため策定される「ウォーカブル促進プログラム」では、産業振興課・都市計画課・道路管理者・警察などで構成される「姫路市公共空間活用会議」がその運用を担います。「姫路市公共空間活用会議」が中心に民間からの相談をとりまとめ、姫路市独自の審査基準で企画を認定し、各種許認可(道路占用許可、道路使用許可)の取得を後押しします。

ウォーカブル促進プログラムの3つの特徴

窓口となる産業振興課に行けば申請前の相談もいつでも可能で、道路活用の取組に対するアドバイスや必要な情報を得やすくなります。これまで民間にとって大きなハードルだった各部署・管理者に個別相談する手間が省け、道路活用という手段がぐっと身近になりそうです。

審査基準は「姫路市ウォーカブル推進計画」を基に作成。従来はほこみちなど国の特例制度に則る必要がありましたが、今後は姫路市としての基準を持ちながら、道路管理者・関係各課だけでなく警察も含んだ座組みで議論し、市のビジョンにマッチするかを判断できるようになります。

プログラム活用の流れや体制図。産業振興課が窓口となり、事前相談から許認可手続きをワンストップでサポート!

このように、広く一般に開かれた道路活用を促進する仕組みは全国初。まちなかにより多様な居場所の選択肢を生み出せる可能性が広がることはもちろん、「姫路市ウォーカブル推進計画」でも掲げられている街への誇りと愛着を持つ”主体的なプレイヤーを増加させることも期待されます。

全国初のほこみち制度活用道路
姫路市のシンボルロード「大手前通り」

「ウォーカブル促進プログラム」の策定に至るまでどのような取り組みが行われたのでしょうか?
ここからは、姫路市の魅力あるまちづくりに向けた活動をご紹介!

大手前通り街づくり協議会会長の岡本一さんより、JR姫路駅と姫路城を一直線に結ぶシンボルロード「大手前通り」の活動の紹介がありました。1955年に誕生した大手前通りと地域が共に歩んできた歴史は長く、2005年には歩道を活用したオープンカフェの実証が行われるなど、魅力あるまちづくりに向けた取り組みを数多く推進されています。

大手前通りの道路活用の歴史をまとめた岡本一さんのスライドより

こちらの記事でもご紹介した社会実験「大手前通り活用チャレンジ(ミチミチ)」が始まったのは令和元年。「大手前通りエリア魅力向上推進事業」の一環で、1回目は1ヶ月間、2回目は約1年間実施しています。

1回目の社会実験では大手前通りの歩道部分に様々な店舗が並びました。沿道マーケットを毎日開催したり、週末には姫路の食を紹介するマルシェやイベント、体験型ワークショップなどを展開。そんな多くの方が参加した1回目を経て、2回目はより日常に近い居心地のいい空間して道路を機能させることを目的に設定。そのため、気軽に飲食ができたり、なかには電源やWi-fiも使用できるような、様々な用途のストリートファニチャーを設置。結果的には周辺の飲食店の売上もアップするなど、様々な効果が見られたそう。

さらに2021年には国土交通省による道路活用推進施策「歩行者利便増進道路(通称:ほこみち制度)」に全国で初めて市が指定したことで、より日常的な賑わいの風景がつくりやすくなったそう。岡本さんは、「姫路の玄関口として大手前通り自体がより楽しめる空間になるように、今後も様々な活動を続けていきたい」と意気込みを話します。

>「“エリアの個性が滲み出すストリート“を実現するための社会実験|姫路市「大手前通り活用チャレンジ”ミチミチ”」

2005年のオープンカフェの社会実験の様子

自治会が主体となる道路活用事例
白鷺町エリアでの3日間限定マルシェ

続いて、姫路城のすぐそばに位置する白鷺町自治会会長の池尻康則さんから、2022年6月に3日間連続で行われたマルシェ「ぶらり城下町散歩@白鷺町の紹介がありました。

ぶらり城下町散歩@白鷺町の様子。こどもから大人まで様々な方が訪れたそう!
飲食店の前にもベンチやテーブルを設置することで客席が拡張。

「ウォーカブル促進プログラム」の仕組みの実証も兼ねたこちらの社会実験は、自治会が主体となり計画が進められました。11時〜16時に車両通行止めを行い、駐車場を活用したこどもの遊び場づくり、周辺店舗の飲食や物販の出店などがメインコンテンツとなり、3日間で6000人もの来場があったそう!アンケート調査では、来場者の91%が「満足」「やや満足」の回答、来場者の72%が20分以上の滞在したという結果に。90%の出店者が「他の出店者との交流が図れ、繋がりができた」と回答があったと言います。

「告知や人員不足などの面で課題はあるものの、自治会が中心となって企画を実現できたこと、出店者同士の横のつながりを生み出せたことが特に大きな成果だった」と池尻さんは話します。次回は2023年秋頃に開催予定とのこと。お近くの方はぜひお立ち寄りください。

白鷺町自治会会長の池尻康則さんのスライドより

企業と地域の共生事例
駅前広場を活用したPiole labo GARDEN

JR姫路駅に隣接したショッピングセンター「piole姫路」を運営するJR西日本アーバン開発株式会社の河野果奈さんからは、駅前広場の憩いの場「ピオレラボガーデンの紹介がありました。

駅前広場の憩いの場「ピオレラボガーデン」の様子
ピオレラボガーデンで楽しむ人々の様子

令和4年9月から駅前広場での社会実験がスタート。ベンチやハイテーブルを設置し、日中は学生や主婦層がのんびりくつろぐ場所として、夜間は飲み物片手に大人が立ち寄り歓談する場所として、すでに多くの地域住民に親しまれている場所になっているそう。

この取り組みの背景には、館内の地域活動発信拠点「ピオレラボ」がベースにあると河野さんは話します。「ピオレラボ」とは、ネットショップや姫路・播磨地区等で活躍する地元店などが期間限定で出店するポップアップスペース。ここで培ったつながりが「ピオレラボガーデン」に大きく活かされているそう。

河野さんは「短期的に分かりやすい成果が見える取り組みではない分、社内でのゴールや評価指標の設定、費用対効果とのバランスは今後の検討課題」と話します。それでも、社会実験前の利用状況と比較すると、滞留者数は平日は2.8倍、土日は3.1倍と増加。利用者アンケートでも9割以上が満足またはやや満足という結果になっていると言い、「地域になくてはならない場づくりを目指し、周辺用地の活用を視野に入れながら取り組みを継続したい」と河野さんは今後の展望について語ります。

エリアの新しい価値を発掘するリノベーションまちづくり
みんなでつくる顔の見えるマーケット @駅西エリア

続いて、「姫路市ウォーカブル推進計画」においても重要な取り組みの1つと位置付けられている姫路市でのリノベーションまちづくり事業についてご紹介。リノベーションまちづくりとは、空間資源だけでなく、文化や歴史などあらゆる資源を発掘して、新しい地域の魅力を発掘する都市戦略の1つ。

シンポジウムでは、リノベーションまちづくり事業をリードする姫路市産業振興課の坂元洋介さんと、「リノベーションスクール@姫路」の受講生であり駅西エリアの店舗を事業継承した土田由里さんより、活動の紹介がありました。

姫路市のリノベーションまちづくりの推進拠点、姫路駅西エリア(久保町・忍町・西駅前町の一部)は、かつては卸売市場として200以上の店舗が建ち並ぶ賑わいのあった街。歴史ある建築物も多く、昔ながらの雰囲気が魅力的なエリアですが、近年は空き店舗や駐車場が増加傾向にあると言います。「リノベーションまちづくりを通して新たなアイデアと歴史や文化を組み合わせることで、エリア価値の向上を目指している」と坂元さんは話します。

かつて卸売市場として賑わった姫路駅西エリアの街並み。(写真:©Azusa Nakajima)

「リノベーションスクール@姫路」の受講を経て、創業約60年の荒物店「蒲田商店」を事業継承した土田さんは、「卸売市場だったこともあり店主のみなさんの朝は早い。午前2時過ぎから1日が始まり、11時頃にはお店が閉まるお店もあります。そうなると、若い世代は営業していることを知らず、シャッター街だと思っている人も多い。でも各ジャンルに専門性の高い目利き店主がたくさんいて、本当に素敵なエリアなんです。もっと多くの人にこの魅力を知ってほしい」と話します。

そんな土田さんは、昨年からエリアビジョンの作成と推進に取り組んでいます。「人と人が出会い”かえる”まち」というビジョンを掲げ、2022年12月には、14店舗以上を巻き込んだ朝市を開催!「日常に少しだけ特別感をプラスして、日常をイベント化する」というコンセプトで「旧市のきさき朝市」と名付けられたイベントには多くの人が訪れたそう。

「エリアビジョンの”かえる”には、物が”買える”だけでなく、それによってまちを”変える”、元々の市場の文化に”還る”、世代交代の”代える”、そして新しい文化が”孵る”など様々な意味を込めています。今後も朝市を定期的に続け、このエリアの魅力を伝える新しい発信方法を考えていきたい」と土田さんは話します。駅西エリアに新しい動きを生み出す土田さんのこれからに期待です!

2022年12月に姫路駅西エリアで開催した朝市の様子。

トークセッション「ウォーカブルなまちなかにするためには?」

シンポジウムの最後に行われたトークセッションには姫路市長も参加し、ウォーカブルなまちづくりに向けた課題や展望を議論しました。トークセッションで語られたいくつかのキーワードやトピックをご紹介します!

登壇者 :姫路市 清元 秀泰氏(姫路市長)
     地元  池尻 康則氏(白鷺町自治会 会長)
         土田 由里氏(蒲田商店)
         梶原 伸介氏(コガネブリュワリー株式会社 代表取締役)
     有識者 西村  浩氏(株式会社ワークヴィジョンズ 代表取締役)
         園田  聡氏(有限会社ハートビートプラン 取締役)
     進行役 泉  英明氏(有限会社ハートビートプラン 代表取締役)

トークセッション登壇者のみなさん

居場所としての道路活用の可能性

有限会社ハートビートプラン取締役であり「ウォーカブル促進プログラム」の策定にも関わった園田さんは、白鷺町での社会実験について「今回地域のみなさんが最も大切にされたのは”こどものための”場づくりでした。親子で楽しめる道路活用のアイデアを考えた結果、道路が公園的な遊び場になったり、道路を客席にすることで普段はベビーカーで入りにくいお店も体験できたり、道路活用によって地域の思いを形にできたことが大きな成果だったのではないか」と振り返ります。

「姫路市は大手前通りのようにしっかりした歩道がある道路は少なく、歩行者と車が共存する小さい道路が多い。その場合は安全を優先して、まず歩行者天国の実施調整を行う必要があります。ウォーカブル促進プログラムが地域の取り組みを後押しする仕組みになれたら」と園田さんは言います。白鷺町自治会会長の池尻さんによると、マルシェによって売り上げが増加した店舗も多かったそう。

白鷺町の場合それが「こども」というキーワードだったように、社会実験を機に、地域で大切にしたいことを改めて考えること自体がエリアの価値向上につながることが期待されます。加えて、道路活用によって人々の回遊性が高まり、地域経済を循環させるきっかけになり得ることも道路活用の普及にあたっての大きなポイントになりそうです。

白鷺町でのぶらり城下町散歩の様子

時代の変化に合わせて、街を事業継承すること

株式会社ワークヴィジョンズ代表取締役の西村さんは、人口減少や少子高齢化などの時代や社会の変化に合わせ、公民連携によって街をアップデートさせていくことを「街の事業継承」と表現します。


公民連機の必要性について、「”街”という空間に存在する”不動産”を活用して人々の暮らしをより良くする方法を考えるという意味では、それぞれ考えるベクトルが違うだけで、公共も民間も目指すところは同じなんです。 例えば公共なら街の安全性を、民間なら自分の飲食店で住民を楽しませながら儲かり続ける方法を考える。すべての”不動産”をつなぐ道路を人ごとにせず、もっと多様なプレイヤーが連携し合いながら街全体のこれからを考えていく必要があると考えています」と西村さんは話します。

トークセッションの様子

ほこみち制度が地域にもたらした影響とは

大手前通りにおけるほこみち制度の占用者として大手前通り街づくり協議会が採択されたのは2022年5月。大手前通り街づくり協議会でも、2019年からの3年間は、様々な社会実験を重ねながらエリアの未来についての議論を重ねていました。

自身も大手前通りで「コガネブリュワリー」というブルワリーを営む大手前通り街づくり協議会メンバーの梶原伸介さんは、「大手前通りにおけるほこみち制度活用の道路占用者は公募だったので、地元の団体じゃなくても採択される可能性がありました。だからこそ僕たちもこのエリアの未来を真剣に考える機会になり、協議会や地元のメンバーとワークショップや話し合いを重ねました」と採択までの経過を振り返ります。ほこみち制度が本格導入されてから半年が経ち、以前よりもエリアの回遊性が高まり、店舗の売上にもいい変化が見られるそう!

民間中心のまちづくりを推進するために

トークセッションには姫路市長も参加し、登壇者の方々と活発に意見交換を行いました。姫路市としては、姫路城世界遺産登録30周年記念のプレイベント「姫路城 Castle history 鏡花水月」の開催が、改めて行政の役割を意識するきっかけになったと話します。

「姫路城を始め、姫路市らしい資源を活かしながら、同時に地域経済との連動が重要だと考えています。そのためにも、地域や民間主体の取り組みを支援する仕組みをいかに構築できるかがポイント。地域とつながり、姫路市ならではの魅力あふれるコンテンツを楽しむ流れを民間も行政も一丸となってつくりだしたい。市民・企業・団体が中心となるようなまちづくりの施策を検討していきたい」と公民連携による魅力あるまちづくりに向けた市長の思いが語られました。
その他にも、トークセッションでは大手前通り、駅西エリア、白鷺町エリアでの取り組みの裏側、プレイヤーのみなさんの思いをたっぷり聞くことができます。ぜひこちらからアーカイブ配信をご覧になってみてください!「ウォーカブル促進プログラム」のリリースで、より草の根的な道路活用の普及に期待が高まる姫路市の動きに今後も注目していきたいと思います。

参考リンク
>「姫路がめざすウォーカブルなまちなか」シンポジウム アーカイブ配信
姫路市ウォーカブル推進計画

PROFILE

阿久津 遊

1988年宮城県生まれ。ワークショップ等のこども向けプログラムの企画運営に携わり、公共空間活用に関心を持つ。2018年から公共R不動産にライターとして参加。

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