公共R不動産のプロジェクトスタディ
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“エリアの個性が滲み出すストリート“を実現するための社会実験|姫路市「大手前通り活用チャレンジ”ミチミチ”」

2020年に、ウォーカブル推進法(改正都市再生特別措置法)が成立し、ますます注目を浴びる「ウォーカブルなまちづくり」。そんな中、兵庫県姫路市では、全国でも先駆的な道路活用の取り組みを進め、居心地良く滞留する道路のあり方、そして持続的なマネジメントの形を模索しています。道路活用の社会実験「大手前通り活用チャレンジ”ミチミチ“」の様子と合わせて、姫路市のウォーカブルなまちづくりに向けての取り組みについてレポートします。

エリアの価値をあげるための道路活用

今回の社会実験は姫路市都市計画課、産業振興課、街路建設課、道路管理課という関連部署による横断チームと、民間事業者として全体の企画・コーディネートにハートビートプラン、そして地元姫路のコーディネーターとしてはりま家守舎がコアチームとなって企画実施を進めています。
今回は、はりま家守舎の梶原さんにお話を伺いました。

左から、はりま家守舎梶原さん、都市計画課井澤さん、都市計画課服部さん、産業振興課杉野さん。フラットな横断チームです

大手前通りは、姫路駅から姫路城に抜ける、全長約800mの道路。姫路城に向かう人は駅から一直線に見えるお城を目的に大手前通りを歩いていく、いわば姫路城への玄関口となっている通りです。令和2年3月末には道路整備が行われ、駅前のロータリーが歩行空間化し、さらに歩道が拡幅され、歩行者にやさしい通りに変化しています。

姫路駅からは大手前通りの先にある姫路城が臨める

ハード整備は進む一方で、沿道の建物は銀行が多く飲食等のサービス系店舗が少ないことから、姫路城に向かう人も道すがらを楽しめるコンテンツが少なく通過動線になってしまっていました。また、地元の方も日常的に歩く場所として利用している方は少なく、何か明確な用事があるとき以外はなかなか出てこないような状況だったそう。

「大手前通りの課題を突き詰めていくと、姫路城に向かう観光客は一定数いるから商圏はありそうなものの、日常的な人の流れがあまり多くないので『大手前通りでやっても失敗するだろう』という期待値の低さが大きな原因の一つであることがわかりました。そこでまずは大手前通りのイメージを上げ、ここで出店すれば売上が上がるかもしれないという期待値を持ってもらうためのアクションが必要だと感じ、社会実験『姫路大手前通り活用チャレンジ:ミチミチ(以下「ミチミチ」』の構想が立ち上がりました。」(梶原さん)

社会実験をするにあたり、まずは大きなゴールイメージを描くことが重要。姫路市としては、「エリアの個性の『にじみ出し』が彩る大手前通り」というキャッチコピーを掲げ、大手前通りだけではなく、沿道建物1階の用途が通りと一体的な活用をすることで、歩いて楽しく、日常的な賑わいが生まれる空間になって、最終的にはエリアの価値が向上する。そんなストーリーを描いて社会実験の展開につなげていきます。

大手前通りの将来イメージを掲げ、周辺の建物オーナーや関係者とも共有していった

持続的なストリートマネジメント体制

今後の継続的な道路活用につなげていくためにも、より実行力のある体制を構築すべく、地元の事業者が中心となり、将来ビジョンを実行するためのストリートマネジメント組織「OMK(大手前みらい会議)」を設立。OMKが行政との協議、地元オーナー・テナントとのコミュニケーション、母体となる協議会への報告等を行い、機動力高く交渉が進んでいきました。
1回目の社会実験の運営はあくまで地元主体ということにこだわり、OMKを中心とした地元事業者がすべてのビルオーナー、地権者へ協力を打診。その結果、ご協力いただいた沿道店舗の8割に出店いただいたとのこと。粘り強く将来ビジョンを語り、共感を集めながら実行している事がよくわかります。

ミチミチの実施体制。多様な関係者との調整を進めながら企画実行していきます

将来ビジョンに向けて段階的に実施した社会実験

自治体との協議、警察協議、ファニチャーの設計施工、そしてイベントの企画など、様々な準備を経てミチミチはスタートしました。1回目は2019年度に1ヶ月間、そして2回目は期間を伸ばして2020年12月から2021年12月までの約1年間実施しています。

1回目の社会実験では、11月の1か月間にわたり、大手前通りの歩道部分にさまざまな店が並びました。「茶室」や「やぐら」などのイベント、姫路の美味しいものを展開する「てくまるしぇ」、沿道マーケットなどは毎日開催。
期間中の週末は、姫路のおいしいグルメの食べ歩きや魅力的なマルシェ、ワークショップの体験型コーナーなども実施。散歩しながら楽しめるコンテンツが盛り沢山。

飲食スペースではスペシャリティコーヒーショップも出店(提供:梶原氏)
第1回目社会実験で賑わっている様子(提供:梶原氏)
社会実験実施時は歩行者の数も増えた(提供:梶原氏)
道路空間を走るのは日本初!パーティーバイク(提供:梶原氏)
夜間も賑わいが途切れず温かい空間に(提供:梶原氏)

より”日常”に向かう2回目のミチミチ

 多くの方が参加した第1回目の社会実験。1ヶ月間開催し、まちの方が居心地良く過ごす風景が生まれた一方で、課題も見えてきたそう。

「飲食を伴う店舗の前にテーブルを設置すると滞在時間が伸びたというデータが出ており、飲食は道路をテラス席として活用できることで事業拡大の可能性が大いにあると感じました。一方、イベント中は人が集まるけれど、日常的な場面では利用率が低かったんです。そもそも日常的に大手前通りを利用する人が少ないことが改めて根深い課題として浮かび上がってきました。」(はりま家守舎:梶原さん)

 1回目で見えてきたフィードバックを活かし、事業者の売上向上を目指すというよりも、まずは居場所としての道路、居心地が良く過ごしたくなる道路としての価値を追求し、より日常に向かっていくという方向性を定めました。その考えを元に、第2回の企画が進んでいきます。

第2回ミチミチから生まれる大手前通りの好循環イメージ

大手前通りに日常的に人がいる風景を作るということで、単発ではなく一定期間ファニチャーを設置し、滞留行動を促したり、くつろぐ場所作りをすることをメインにプランニング。

また、体制についてもアップデートがあり、実行部隊のOMKを、方針決定をするコアチームと、企画立案・実施をする企画チームに分け、より企画実行力の高い編成に変えていきました。

第2回ミチミチの実行体制図

ファニチャーを設置するゾーニングやファニチャーの設計については、地元の方とのワークショップで意見を集めて決めていったそう。地元の人の「ほしい」を形にする丁寧なプロセスで作り上げています。

コンビニのあるゾーンには、座ってくつろげる大型のファニチャーを設置。電源やwifiも完備し、冬にはヒーターも設置して少しでも滞在時間を長くするための工夫が盛り込まれています。
実際、お昼休みや休憩時間には目の前のコンビニでテイクアウトをしてここで食べるという風景が生まれているそう。

リビングのような寛げる空間

やぐら型のファニチャーも出現!冬にはこたつが設置され、茶の間のようにくつろぐ風景が広がっていました。「目線を高くするとまちの見え方が変わるので、いつもの風景とは違う見え方をするので利用者の評判が良かったですね(梶原さん)」

やぐら型ファニチャー(現在は利用中止)

オフィスビルの前には待合室的な位置づけとなるようなスタンディング形式のファニチャーを設置。

スタンディング型のファニチャー

バス停前にも追加でベンチを設置。バス会社と協力して設計していったそう。

バス停の待ち合いファニチャー

子供が安全に過ごせるよう、芝生を敷いたファニチャーも。このファニチャーの目の前が地元でも人気のとんかつ屋さんで、テラス的な利用や順番待ちの時間を過ごす場所として活用されているそう。

大人も子どももくつろげる芝生ファニチャー

また、学生によるアイデアコンペを実施し、受賞したものは実際に作って設置するという取り組みも実施。使い方を多様な方と一緒に考え、実践していくプロセスが散りばめられています。

アイデアコンペで上がったアイデアを具現化すべく何度も打ち合わせを実施
学生と一緒に制作
デザインは明石工業高等専門学校、制作は神戸芸術工科大学。学生コラボの作品です

本来は5月に終了予定だった活用チャレンジですが、コロナ禍でより日常的に公共空間を使ってもらう動きを浸透させたいという意向もあり、延長して現在も実施中です。

ファニチャーの設置が始まって9ヶ月ほど経過していますが、ファニチャーの前にある飲食店は売上が上がっているとのこと。飲食店舗のテラス席としてファニチャーが効果的に活用されているようです。

また、人工芝を敷設したファニチャーでは、地元の高校生による飾り付けなどがイベントで行われました。コロナ差の撲滅を願って立ち上げられたシトラスリボンプロジェクトに賛同された同イベントでは、プロジェクト主宰の方とオンラインで交流。高校生にとって貴重な体験となったようです。

 

ほこみち制度を導入した継続的なストリートマネジメントへ

そんなさなか、ウォーカブル推進という取り組みの中で、国の制度としても道路活用を後押しする「歩行者利便増進道路(通称:ほこみち制度)」が登場し、姫路市は全国でも初めてこの制度を活用し、歩道内にオープンカフェを設置する等の規制緩和を受け、より日常的な賑わいの風景が作りやすい状況になりました。

ほこみち指定をしたのは駅からお城までの大手前通り一帯。令和3年度中に公募指針の策定及び指針に基づく占用者の選定を行い、令和4年からの占用開始にむけて準備を進めています。

(記者発表資料より)

姫路における「ウォーカブルなまち」とは

そして2021年7月、姫路市としてウォーカブルなまちの方向性を示した「ウォーカブル推進計画」も発表。
https://www.city.himeji.lg.jp/shisei/0000017111.html

本計画では、ハード整備がメインではなく、まちに暮らす人が多様な居場所の選択肢や、まちへの誇り・愛着を持てることが大切であること、そのために時間軸を持って段階的なプログラムを進めることで、日常的にウォーカブルな環境が整備することが記載されています。これまでの社会実験で小さな積み重ねをしているからこそ見えてきた課題、そしてハードありきではないプログラム中心のウォーカブル推進計画は、現実的且つ実行力のある計画として今後のウォーカブルの重要な指針になりそうです。

都市の「ハブ」機能としての道路のこれから

2回目となる今年度の社会実験は、コロナの影響もあり通常の賑わいとは異なった状況が生まれているとのこと。ただ、このような状況だからこそ、密を避け、ゆったりと過ごすことができる屋外空間の可能性はより広がっているように感じます。そういった意味でも、まちなかで佇むことができるミチミチのような取り組みによって、今後の道路に対する考え方も変化していくことを期待しています。

まちなかの空間で過ごすことが当たり前になると、そこで商売を行う人が現れて経済活動が生まれてきます。その動きが可視化されると沿道ビルオーナーや周辺の事業者も関心を向けて、通りへの滲み出しを意識し始め、少しずつエリアとして賑わいが生まれてきます。公共空間、特に道路空間の日常的な賑わい創出は一朝一夕で出来上がるものではなく、認知を上げて人の動きが変わっていってこそ生まれてくるものです。姫路市も今後10年、20年を見据えた取り組みの真っ最中とのことで、今後のゆるやかな街の変化が楽しみです。

今年度の実験は現在も実施中(〜2021年12月を予定)とのことですので、お近くにお越しの方は是非訪れて、そして道路空間で過ごす時間を楽しんでみてください。

姫路市 大手前通り活用チャレンジ ミチミチ
https://www.city.himeji.lg.jp/shisei/0000014806.html


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PROFILE

飯石 藍

公共R不動産/株式会社nest/リージョンワークス合同会社。1982年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、アクセンチュア株式会社にて自治体向けのコンサルティング業務に従事。その後2013年に独立し、2014年より公共R不動産の立ち上げに参画。全国各地で公民連携・リノベーションまちづくりのプロジェクトに携わりながら、南池袋公園・グリーン大通りのPPPエージェント会社の立ち上げにも参画。

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