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公共R不動産のプロジェクトスタディ
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オープンスペースから生まれる新しいシーン
Do it Theaterの取り組みと未来の展望

Do it Theaterは、2014年秋から屋上や野外を利用したシアター空間をつくり、新しい文化が生まれることを目的として活動を行っている集団です。今、新型コロナウイルスの感染拡大によって、ドライブインシアターが、安全に映画体験ができる方法として再注目されています。屋外で実施し不特定多数の他者との近距離接触をしないという特徴は、感染症対策が必須の今後のイベント運営にとってのヒントとなり得るかもしれません。

Do it Theaterが提案する新時代のドライブインシアター

ドライブインシアター (Drive-in Theater)という施設はご存知でしょうか?
ドライブインシアターとは、巨大な駐車場にスクリーンを配置し、カーステレオから音を出して車に乗ったまま映画が鑑賞できる上映施設のこと。アメリカ発祥のこの鑑賞スタイルは、1980〜90年代には日本でも多くの施設があったものの、地価の上昇やテレビやビデオの普及、レンタル店の登場などにより衰退、いつの間にかノスタルジックな過去の産物となっていました。

Do it Theaterは、今や映画のワンシーンでしか体験できないドライブインシアターを日本で復活させようと、2014年秋に『ドライブインシアター 浜松』を開催。その後も継続的に広場や駐車場などを映画館にアレンジし、上映活動を行うシアタープロデュースチームです。

Do it Theater のスローガンは「新しいシーンは、シアターからはじまる」。
ドライブインシアターだけでなく、屋上や野外を利用したこれまでの概念にとらわれないシアター空間をつくり、新しい文化が生まれることを目的として活動しています。

駐車場や遊休地の活用法としてのドライブインシアターの魅力や今後のイベント運営のヒントについて、株式会社ハッチ シアターイベント事業部 Do it Theater代表の伊藤大地さんにお話を伺いました。

Do it Theater 伊藤大地さん

2014年、長年の空白を経て浜松市で復活したドライブインシアター

現在30代前半の伊藤さん。もともとアメリカ映画などで見たドライブインシアターに憧れていたものの、実際に体験したことはありませんでした。
東京藝術大学大学院を修了後、サウンドデザインと映像制作の仕事をしていた伊藤さんが「30歳までにドライブイン・シアターを体験したい」と夢を叶えるべく、思いを共有した仲間と自分たちでやってみようと動き出したのがきっかけだとか。

「今の若い世代にとっては憧れの空間になりそうだし、昔世代の人には懐かしく感じられる。時代がクロスオーバーしてみんなで楽しめるんじゃないかという思いが高まりました。」

2014年10月、 浜松市の遊園地・浜名湖パルパル駐車場を利用して、3日間のドライブインシアターイベントが開催されました。広さ150×150mの敷地に1日120台の車入場が可能。1日ごとに想定顧客層を変え、参加者は、若者から子供連れの夫婦やファミリー、昔を懐かしむ高齢者の姿もあるなど、幅広い層の来場で賑わいました。

また、映画上映だけでなく、会場には地元で知られる飲食店の出店など食事が取れるマーケットを併設し、県外からの来場者に浜松を知り楽しんでもらう工夫も施しました。

車内の雰囲気はさまざま。自由なスタイルで映画を楽しめる。

なぜ最初のプロジェクトが、伊藤さんご自身と縁のない浜松だったのでしょうか?

「プロジェクトメンバーに浜松出身者がいたというシンプルな理由だったんですが、浜松自体が自動車会社や工場などもあって車社会で、ドライブインシアターと相性がいい街だったんですね。駐車場や遊休地も多く、そうした空間の有効利用としてドライブインシアターをやれないか?と行政に提案しました。もともと昔、浜松に施設があったこともあり、先方も乗り気でした。」

浜松には、駅前活用などで既におもしろいことを企んでいる人たちがいたため、新しいこの試みに賛同してくれる空気があったといいます。その後、建築や電気技師などもいる浜松の現地チームと伊藤さんたちの東京チームで連携。最終的に「みんなのはままつ創造プロジェクト」という事業の文化助成金に採択され、イベント実施にあたってはクラウドファンディングも活用し、実現に至りました。

イベント実現まで1年強、資金集めと会場設備に苦心

開催した場所は浜名湖のほとりにある舘山寺温泉近くの遊園地。夕方には閉園、駐車場も広く、今は使っていない空き駐車場を無償で借りられるなど、立地や開催条件は良好でした。

とはいえ、企画スタートからイベント実現までに1年以上かかるなど、その実現には多くの苦労も伴いました。伊藤さんは、一番大変だったのはやはり資金集めだったと振り返ります。メンバーの中に地元の若者はいたものの、主宰の伊藤さんは外の人間。何度も現地に出向き、商工会議所や温泉協会の方などとの信頼関係を築いていったことで、応援体制ができ、活動が進展してきました。

資金面だけでなく、もうひとつの大きな難題が、会場設備の問題。
ドライブインシアター全盛期から約30年のブランクがあることで、当時のイベント運営を知る人に辿り着けず、自らで一から設営の工夫をする必要がありました。「どうやって行うか?」やり方を考えるのが準備期間1年のうち7割くらいだったそう。

前例がないため設備も手探り、会場設備も自分たちの手で行った。

例えば、映画上映に必須の大型スクリーン。屋外開催のため、風の影響などを考慮した通常使用とは異なる強度が必要となります。結果、スクリーンは既存のものを利用できず、自主開発をすることに。製作にあたっては、浜松で車のシートをつくっているメーカーの職人さんと縁が出来、共同開発を行うなど、地元企業との連携も進めていきました。

また、会場設営の点では、フォーマットがないためゼロベースで設計する必要があり、検証を重ねました。手法も手間暇をかけ、設計士などの建築チーム2名で運用を担当。高さ10mのスクリーンは建築基準法の「工作物」に当たるため、設営で協働した地元の建設会社を通じて確認申請を行いました。

スクリーン設営時は、映像がどう見えるかを会場の位置ごとに画角計算し、想定した駐車場所でヘリウム風船を飛ばし、席の位置から1台ずつ検証するなど、苦労を重ねて実現へと至ったそう。まさに手探りの状況が目に浮かびます。

地元企業と共同で開発した巨大スクリーン。

移動式サーカスのように各地で展開可能なエンターテイメント

ドライブインシアターと通常の映画館、野外シアターとも違う点は、来場者が多彩なことが挙げられます。音楽フェスに来るような層から、車の中であれば騒いでも問題ないため、普段なかなか映画館に行けない子連れやベビーシートに赤ちゃんを乗せた家族連れなども数多く参加。また、ドライブインシアター全盛期を懐かしむ高齢の方だけでなく、オープンカーやクラシックカーなどの車好きな方たちも来場し、イベントの縁日的な賑わいをさらに彩りました。

また、Do it Theaterでは車専用の上映ではなく徒歩入場も可能とし、視野角を工夫し芝生を敷いて前列に配置、会場のスピーカーで楽しめるようにするなど、幅広い層に受け入れられるイベントとして工夫をしています。

映画だけでなく食事や買物を楽しめるブースも設置。

伊藤さんは、Do it Theaterを「移動式サーカスに近いコンセプトでやっている」と話します。次はどこの街にこの賑わいを移動していくか?設備そのものは大規模ですが、ドライブインシアター開催のノウハウと土地があれば展開可能なエンターテイメントのフォーマットだと言えそうです。

会場運営のためのマンパワーは、浜松の場合は地元大学の学生に広報活動や会場設営のお手伝いなどの協力を得ました。イベント毎に主催者が異なり、違う条件で開催するため、成立させるためには地元の人的・金銭的協力が必須です。

現在は、クラウドファンディングの活用や協賛金集めなどで金銭的なハードルを乗り越えるなど、地道な活動の継続で成り立っていますが、文化を守り、かつ経済活動を活性化するという位置づけでイベントを継続できるスキームがより確立できれば、さらに開催を希望する地域が増えると思われます。

学生スタッフなど多くの協力を経てイベントが実現。

行政との協業は予算とクリエイティブ面の認識共有が鍵

浜松での初開催後も、遊園地の駐車場などを利用し、1年に2〜3回のペースで開催されてきたドライブインシアターですが、公共空間を使って映画上映を開催したのは愛知県豊田市の事例があります。豊田市は知る人ぞ知るアニメーションの街。初のアニメーション映画祭として2017年11月、TOYOTA ANIME CINEMA NATIONAL FESTIVAL 2017が行われました。

そこではドライブインシアターと野外シアターを設置。ビッグスクリーンは駅前の大通りを封鎖して設置するという大胆な空間設計が話題を呼びました。

TOYOTA ANIME CINEMA NATIONAL FESTIVAL 2017(愛知県豊田市)。
駅前通りを封鎖して話題となった野外スクリーンイベント。
矢作川河川敷の千石公園橋梁下で行われたドライブインシアター。

行政と組んでプロジェクトを行う際に苦心したことはあったのでしょうか?伊藤さんは、「場所を提供してくれている行政、協力いただいた企業と、作り手である私たちとで、話す言語や軸が違う」と指摘します。特に、行政と組む場合は、予算の兼ね合いもあり、クリエイティブにおける考え方の違いに対して、関係者間での合意を作るのに苦心することが多いようです。

「目的は同じだけれど、仕上げレベルや予算面で「そこまでやらなくても」となりがちです。普通にスクリーンを野外に置いて、ドライブインシアターの設備だけをつくるならそんなに難しくはない。ただ、自分たちはその「システム」を売ってるわけでなく、「クリエイティブ」を売っている。非日常感を大事にしているので、ソフトなものにお金をかける発想が潤沢でない場合、その部分での理解を得るのに時間がかかることはあります。」

最終的に、その場所でどんな効果を生むのが目的か?のゴール設定を可視化し、共通のものにしていくかが成功へのヒントとなりそうです。

「密」を避けられるドライブインシアターの新たな可能性

今年に入り、新型コロナウイルスによる影響でさまざまな大規模イベントが開催中止を余儀なくされています。Do it Theaterのイベント計画も全て一旦白紙となりました。

そんな中、ドライブインシアターは、不特定多数の人との接触を避けることができ、ソーシャルディスタンスを保ちながら安全に映画体験を共有できる今だからこそのコンテンツとして、海外では楽しまれています。

Do it Theaterは、現在日本で継続的にドライブインシアターイベントを開催できるノウハウを持っている数少ない団体です。現在、もともと計画されていた神奈川県大磯町で計画されていたドライブインシアターイベントを、これからのエンターテイメントビジネスとしてリスタートさせることを念頭に、クラウドファンディングでイベント開催の資金を募っています。

「Drive in Theater 2020」スペシャルイベント開催のためのクラウドファンディングサイト。
エンターテインメントの火を絶やさないために。
今こそ、ドライブインシアターを一緒につくろう。
https://motion-gallery.net/projects/driveintheater2020

ドライブインシアターは、人を密集させないでも楽しめるコンテンツとして、今後の大規模イベント開催復活への大きな可能性を秘めています。
伊藤さんは、アフターコロナ時代の対策として、6年前からドライブインシアターを手掛けている自分たちがやらなくてはという想いもあり、企画を続ける決意をしました。

ただし、開催時期や方法に関しては慎重を期したいと考えています。人が殺到しても密にならないやり方を考える必要がある。特に1回目はルールを制限して絶対的な安全を担保しないと、今後のエンターテイメント業界全体に響くことになる、と警戒しつつも、積極的に活動再開への展開方法のアイデアを練っているところです。

2016年大磯ロングビーチで開催された「Suchmos DRIVE IN THEATER」。
密集を避け安全にエンターテイメントを楽しめる。

新しいシアター体験の魅力を発信し続けたい

これから私たちは、感染予防のために政府が提唱する「新しい生活様式」を取り入れながら暮らすことを求められています。
世の中のシステムが変わろうとしている今、安全性が高い憧れの体験をどのようにつくっていくのか?伊藤さんはその新しいルールをつくりたいと話します。

例えば、ドライブインシアターの仕組みを音楽や文化活動まで広げていくことができないか?ドライブインコンサートといった展開例もあるかもしれない。または、まったく密にならない場所で、完全プライベートなドライブインシアターができないか?さらに、プライベート空間が移動するというイメージ展開として、防災コンテンツとしても考えられるのではないか?
たくさんのアイデアとともに、今後コロナケア対策を多くの人と共有したいと考えています。

新たに制定した、感染予防しながら楽しむためのニュールール。

ドライブインシアターの魅力のひとつが、会場に着くまでにドライブで移動するという体験が加わるところだと伊藤さんは指摘します。

「移動することによって景色が変わっていく姿が、日常から切り離されて、段々と非日常化していく体験が魅力的だと思っています。世界観がいきなり変わるよりも、徐々に没入する体験の濃度を上げていく。ドライブインシアターはその仕組みをうまく取り入れているように感じています。」

夕暮れ時、会場まで車で移動する時間も、シアター体験の濃度を上げる。

今、映画そのものは配信などでも気軽に視聴できる時代ですが、ドライブインシアターのような、非日常感を容易に感じられ、賑わいを演出しつつも密になりすぎない大規模イベントは、新しい時代のシアター体験として、大きな可能性を秘めています。また、多用途で展開できる移動性のあるコンテンツとしても、遊休地や公共不動産の活用方法としても、大いに参考になる事例といえそうです。

Drive in Theater Sagamiko Xavier Dolan “Mommy” Japan Premier(神奈川県相模原市)。
スクリーン設備だけでなく総合演出を加えて、新たなシアター体験を創出する。

https://www.ditjapan.com/
撮影:宇田川俊之
編集:木下まりこ

PROFILE

西村祐子

西村祐子

『ゲストハウスプレス』編集長・ワンダラーズライフデザイン代表。 「日本の旅をリノベーションする」を合言葉に、物見遊山的な観光ではなく、暮らしに寄り添う体感型の旅の楽しさをメディア発信。自身の小売業店長、Webディレクター、セラピストなど豊富な職業経験から「新たな視点を得、生き方を見つめ直す」ツールとして旅を再定義、インタビュー取材を中心に、旅や暮らし、まち、移住関連のトピックを多く執筆中。編著『ゲストハウスプレスー日本の旅のあたらしいかたちをつくる人たち』。