シビックプライドの拠点として
2015年、岐阜市の中心市街地にメディアコスモスが開館した。以降、「シビックプライド」を市政のキーワードとして掲げる柴橋正直市長のもと、同施設はその理念を体現する中核拠点として位置づけられ、さまざまな取り組みが展開されてきた。
夜の図書館を舞台に岐阜の魅力を掘り下げるトークイベント「みんなの図書館 おとなの夜学」や特集本棚「シビックプライドライブラリー」は、その代表的な取り組みだ。
さらに2022年には、1階に「シビックプライドプレイス」が誕生。市民による情報提供や編集を通じて構築される情報アーカイブであり、同時にまちの魅力を発信する拠点として機能している。

エリアのなかにはモニターとiPad端末が設置され、3つの機能が備わっている。
①まち歩きステーション
岐⾩らしい魅力あるスポットが約230ほど(2025年現在)紹介されている。情報の多くは市民から寄せられ、文化施設や史跡などの観光情報のほか老舗の飲食店や話題のカフェといった日常的なスポットもたくさん。市民から提供されるからこそのニッチな情報がたまらない。
利用者の興味関心に合わせてスポットを選ぶとオリジナルの散歩マップが作成され、スマホにダウンロードできるのも嬉しい。それを片手にまちを散策できるという仕掛けだ。
②ぎふ歴史ギャラリー
江戸時代から平成にかけて、時代ごとの過去写真と地図を展示。古地図に現在の標高データを重ね合わせることで古地図が立体的に見られて、地形的文脈から地域性が見えてくるのがおもしろい。
昔の写真は、市民から自宅に眠るものを募集しているが、単なる資料としてではなく、その一枚にまつわる思い出やエピソードも一緒に届けてもらうよう市が呼びかけている。そして写真とともに解説文としてそのエピソードが展示される。誰かの物語を想像しながら写真を見ると、見知らぬ昔の風景でもどこか親しみを感じられるから不思議だ。
③岐阜な人カード
岐阜で活躍する人を紹介するエリア。過去の偉人と並列して、現在岐⾩で活躍している伝統工芸の職人やまちづくりのプレーヤーなどを紹介するカードが並ぶ。名所や絶景だけでなく「人に会いに行く」という新しい観光の提案でもあるかもしれない。

市民が担い手となり情報を育てる
このシステムでは、市⺠と協働で情報拡充を進めているのがポイントだ。
まち歩きステーションでは、最初は職員がコンテンツを作成していたが、情報発信を市民と共に進めようと、2020年頃からは「メディコス編集講座」を開講し担い手を育成してきた。修了生が市民ライターとなり実際にまちへと出て、撮影や取材・執筆活動を行っている。
同じくぎふ歴史ギャラリーでも、最初は市の歴史博物館や広報担当が保有する写真を集めて展示を始めたものの、その後は市民と協力して資料を増やすようになった。館内に「自宅で眠る写真を提供してください」というチラシを掲示すると、1か月ほどで約100枚もの写真が集まったという。自分の過去の記憶がまちの情報としてアーカイブされていくことは、多くの人にとって小さな誇りにつながるのかもしれない。

市民の日常が小さな観光へ
テーマのひとつに「小さな観光」という言葉がある。この考え方は、シビックプライドプレイスが大切にしている「市民のまなざしからまちの魅力を再発見する」という思想をよく表している。
市民のストーリーや想いが集積したこのシステムには独特のぬくもりがあって、不思議と「この場所に行ってみたい」と背中を押される。市民が当たり前に通う喫茶店やそこの名物店主といった日常の断片が、誰かにとっての旅の物語になるのだ。そんな小さな観光のきっかけが、このデバイスには詰まっている。

シビックプライドプレイスの整備をサポートした株式会社HUMIコンサルティングの中村佳史さんはこのように話す。
「地域の人は意外と自分たちのまちの魅力や特徴に気づいていない現状がありますよね。だからこそ、まち歩きステーションをきっかけにして市民が自らの視点でコンテンツを集めて編集し、発信することが結果的にシビックプライドの醸成につながっていくはず。それが外から来た人にとっての観光情報にもなって、新しいアクションにつながっていくといいなと思います。
ぎふ歴史ギャラリーでも、そのまちの長い歴史の中で培われてきたもの、変化しているものに気づいてもらうことが大きな目的です。古い写真を通して“その地域の⾒⽅”を掴んでもらえるといいなと思います」

市民とともに新しい価値を見出す情報発信のスタイル
今後はシビックプライドプレイスに集まった情報の一部を、ウェブサイトでも展開する予定だという。「ほかの検索サイトでは出てこないニッチな情報を集約しながら、コンテンツを広く公開することで市民ライターのみなさんのモチベーションを上げていきたい」と岐阜市役所 ぎふ魅力づくり推進部 ぎふメディアコスモス事業課 企画係長の見廣篤彦さんは話す。
図書館や公共施設が担う情報発信・アーカイブとは、単に郷土資料を保存したり、観光情報などを提供することだけではない。市民一人ひとりの記憶や日常の視点を引き出し、それらをともに集めて編集し、伝えていくプロセスそのものが、新しい情報発信やアーカイブのかたちなのかもしれない。そこには、まちを知ることだけでなく、まちと人との関係性を育てる力が潜んでいる。




