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”豊島邸"利活用プロジェクト

小田原市 歴史的建造物「豊島邸<一月庵>」現地案内会レポート 後編

小田原市と公共R不動産では、地域に残る歴史的建造物を民間事業者に利活用していただくことを目指したプロジェクトを始動しています(詳細はこちら)。その第一弾として「豊島邸(一月庵)」の活用を目指し、先日は興味のある事業者向けに「現地案内会」を開催しました。前編のレポートでは、豊島邸をはじめ、周辺エリアをめぐったツアーの様子をお伝えしました。後編では、小田原城で行われたトークイベントの模様を中心にお伝えします!
前編はこちら

会場はなんと銅門(あかがねもん)!

階段を上がっていくだけで、気分も高揚します

伝統を生かしながら、未来へつなげる新しいチャレンジを!

まず、小田原市まちづくり交通課の松本課長、猪俣主事より、今回の事業の趣旨や小田原市の概要についてお話がありました。

松本課長「平成30年3月、小田原市が地方再生コンパクトシティのモデル都市として選定されて以来、公民連携による歴史と文化を生かした事業に取り組んできました。歴史的・文化的資源を保全しながらも、民間の力を借りながら市内さまざまなエリアへの回遊を生み出すことで、さらなるにぎわいと交流を生み出していきたいと考えています。」

松本課長からは、小田原市の今だけでなく目指す未来についてのお話も

猪俣主事「建物の保全だけではなく、民間活用による新たな魅力の創出と価値の向上図っていきたいと思っています。課題は、歴史的建造物の敷地面積の広さや老朽化による維持管理コスト。地域市民にも愛されているので、売却・解体を防ぐためにも、ただ保全するだけではない利活用をする方向を模索したいと考えています。事業実現の可能性を高めるため、希望条件を含めた活用アイデア募集をしています。自由な発想でご提案いただき、課題も含めて条件への希望やご意見をあげてほしい。」

猪俣主事からは、事業説明と小田原の魅力を含めた熱い想いが語られました

公共不動産の利活用と豊島邸の可能性

平成28年に小田原城の天守閣がリニューアルされた後、来場者数は過去最高100万人になったという小田原市!そんな小田原市発展の背景には、公民連携など新しいチャレンジに積極的な行政のみなさんの存在も大きいはず。アイデア次第で、小田原市のポテンシャルは今後ますますふくらんでいく予感がします。
続いて、いよいよトークイベント!ゲスト4名それぞれのこれまでの活動や思いについてプレゼンテーション。

「公共空間のこれから」とは?/吉里裕也氏(株式会社スピーク 代表取締役/R不動産株式会社 代表取締役)
吉里裕也さんからは、社会課題と事業課題を空間と仕組みをセットにして解決する、国内外のさまざまな公共空間活用事例を紹介いただきました。古民家を再生してカフェやゲストハウスに、映画館をライブハウスに、道路をカフェやイベントスペースに。「使えない」と思われていたものを民間の力で新たな魅力へと昇華させ、地域の魅力が底上げされることが、自治体経営改善にもつながることなどこれからの公共空間活用に係るさまざまなヒントについてお話をいただきました。

「リアルスペースの面白さをみせていきたい。買い物のためだけならインターネットで済む時代だからこそ、民間と公共の得意なことを掛け合わせ、人々が楽しむ姿を実際に見せることが大事なのではないかと思う。それで社会はどう変わるか?街の必要性はどう変わるか?そんな実験をしていくことで、硬直化した制度や考え方を溶かしたり、さらなるチャレンジが生まれたりしたら面白いのではないかと思います」

吉里さんからは前例に追随するのではなく、最初を目指す!という助言も

伝統+付加価値でさらなる発展を目指す/島田昭彦氏(株式会社クリップ 代表取締役/京都おもてなし大使)
京都を中心に、ひと・もの・こと文化をクリップして新しい文化をつくる事業に挑戦している島田昭彦さん。島田さんは、京都市動物園の全面リニューアルや、京都・祇園にある京町家の民間活用事業など、伝統産業や公共空間の再生事業に数多く関わってきたそう。

「大切なことは、伝統的な建物をそのまま使うのではなく、未来に向けて新しいものをつくること。豊島邸活用のテーマは伝統的な建物をどう未来につなげるか?だと思います。京都市動物園リニューアルでは、敷地が狭いことを逆手にとって、動物を上から見られるように回廊をつくりました。1頭しかいなかった象は、より野生に近い形を目指して4頭に増やしたところ大人気に。園内のレストランは地元野菜を使った自然食レストランに。従来の視点を変えていくことが大切なのです。これからの公共空間には、誰のために・何のために・ここをどのようにかえていきたいのかを徹底的に考えた上で、付加価値をいかにつけるかが非常に重要なのです。」

公民連携を通して、地域資源を魅力に/田代守孝氏(小田原かまぼこ通り活性化協議会 会長/株式会社田代吉右衛門本店 代表取締役)
田代守孝さんは、237年続くかまぼこ屋さんを営んでいます。若い頃から全国各地さまざまなところを体感した結果、小田原市の恵まれた環境を実感していると言います。

「小田原市はとてもバランスがいい地域です。都心からのアクセスをはじめ、自然環境も、一定の人口も、文化や歴史もある。何より、民間からのアイデアのプレゼンテーションも受けてくれるようなやる気のある行政の人もいることが大事ですね。昔は、道路に看板ひとつ置くのにも半年かかりましたが、今は三日で設置できます。“また来たい!“と思ってもらえる地域をつくるためには、ある程度のスピード感を持って公民連携でやっていくことが必要なんです。小田原城リニューアル後、観光客が増えています。この波に乗っていくためには、地域の魅力ある”点“を”面”にしていくことが大切。これからは、磨かれていない地域資源をひとつひとつ掘り出して魅力に変え、さらにつなげていくことが求められると思います。」

育ち、暮らし、商いをしている田代さんのお話からは、リアルな小田原の底知れぬ面白さが!

アート・クラフトを軸にした発信、つながりの輪/和田真帆氏(nico cafe
豊島邸の近くで、元・建具屋さんをリノベーションしたカフェ「nico cafe」を営んでいる和田真帆さん。カフェ運営のほか、デザイン・設計、アートやクラフト活動、さらに小田原近辺のクリエイターの出展する「カミイチ」というクラフトマーケットを主催しています。

「もともと人が集まる場所をつくりたいとカフェをはじめましたが、小田原の人だけではなく、他の地域からも来てもらえるような場所にしようと、まずはSNSを使った発信に力を入れました。私自身アートやクラフトが好きなこともあって、店舗の一階で展示やイベントをしたり、自分の作品を販売していたら、だんだんものづくりが好きな人たちが集まり始めて盛り上がったんです。それでクリエイターを集めた“カミイチ”もはじめたら、今では九州や北海道からも訪れてくれるようになりました。デザインや設計の仕事もどんどん幅が広がって、小田原の空きビルを使ったゲストハウスPLUM HOSTEL、近隣の店舗や幼稚園の設計などを行なっています。」

「豊島邸、どうする!?アイデア会議」

皆さんの活動をご紹介いただいた後は、吉里さんをモデレーターとしたアイデア会議!食、学び直し、モビリティ、ジャパンカルチャー、さまざまなアイデアが溢れた会議の一部をお伝えします。

それぞれの視点から豊島邸の可能性が浮かび上がってきます

吉里さん「それでは、豊島邸のこれからについてみなさんと議論をしていきたいと思います。プレゼンテーションにもさまざまなヒントがありましたが、他に何かアイデアはありますか?」

島田さん「ここにしかない食材と、世界的なシェフによる飲食店というのはどうでしょうか。おいしいだけではなく、この人のあの料理が食べたい、あの人だから来る、という話題づくりや仕掛けが大事だと思います。例えば、小田原ならではの食材であるかまぼこを使って、海外の有名シェフが期間限定で料理をふるまうとか。」

吉里さん「おもしろいですね。その場合、期間限定のイベントだけではなく、日常的な時期をどう面白くするかがポイントになりそうです。田代さんはずっと小田原市にいらっしゃいますが、地元から見て、どんな可能性があると思いますか?」

田代さん「僕は父親でもあるのですが、小田原は都心に近い分、わざわざ東京や横浜のインターナショナルスクールなどの私立に子どもを通わせている家庭も多いのです。先端的な教育を受けられる学びの場が小田原にもあったらいいなとは思います。」

島田さん「それはいいですね。若い人だけではなく、これからは生涯学び続けるリカレント教育が社会的にキーワードになります。共生、多世代、学びをキーワードとして、子どもからシニアまでを対象とした”小田原留学“を立ち上げ、そのための学びの場所、宿泊施設ができていくのも面白いですね。」

田代さん「小田原って歴史がものすごくあって、茶道や華道や琴など、伝統文化に関連する本物がたくさんあるんです。きちんと小田原ならではのストーリーがあるので、それを生かす手もある気がします。」

吉里さん「まさに城下町の強みですよね。和田さんがもし何か次にやるとしたらどんなことやりますか?」

和田さん「私は、カフェをやっていると、お客さんからよく“この後、どこに行くと楽しいですか?”と聞かれます。もっとお店ができて、人が街を巡って、通りに人がいっぱい歩くようになるといいなと思うんです。最近はレンタサイクルができて、だいぶ便利になりましたが、もっとにぎやかな地域になるといいですね。」

吉里さん「和田さんのお話を聞くと、カフェでもありながら場所自体がメディアになって、お店を起点にどんどんつながって発展しているなと思いました。」

和田さん「単にカフェというだけではなく、地域に大きく目を広げようというのは意識しています。カフェをやるまでは、ものづくりしているひとが小田原にこんなにいるって知らなかったです。どんどんアートやものづくりが好きな人が集まって来て、盛り上がって来ましたね。」

島田さん「レンタサイクルという話がありましたが、セグウェイもいいですね。セグウェイを使えば、コンパクトに、まずはまちの全体を知ることができます。」

吉里さん「そういう新しいことをやろうとすると、他地域での前例の有無について行政のみなさんから聞かれることが多いですが、一番にやるっていうことも大事ですよね。規制緩和のために、まずは社会実験から始めてみる。豊島邸は、あえて活用アイデアの募集という段階からはじめています。事業者のみなさんと協力し合いながら、より良いモデルをつくっていきたいですね。」

参加者からは“保全“と“利活用”というバランスにおいての具体的な質問も!

お天気にも恵まれ、多くの方々にお集まりいただくことができました。ご参加いただいたみなさま、また小田原城址内の銅門という象徴的な場所での開催にご尽力いただいた関係者のみなさま、ありがとうございました!
引き続き、豊島邸の利活用にご注目ください。そして、我こそは!という民間事業者の方々のご応募をお待ちしております。

■今後の予定
〇事業者募集:平成30年12月上旬~平成31年1月上旬
〇審査会:平成31年2月上旬

■お問い合わせ
小田原市役所 都市部 まちづくり交通課 まちづくり係(田邊・泉・猪俣)
電話番号:0465-33-1754
e-mail:ma-machi@city.odawara.kanagawa.jp

PROFILE

阿久津 遊

1988年宮城県生まれ。ワークショップ等のこども向けプログラムの企画運営に携わり、公共空間活用に関心を持つ。2018年から公共R不動産にライターとして参加。

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