公共R不動産のプロジェクトスタディ
公共R不動産のプロジェクトスタディ

蚕糸試験場がつむぐキトキトな時間
キトキトマルシェ+コミューンアオムシ

地方都市に眠る歴史的建造物たち。保存だけに税金が使われることも批判されがちですが、単なる商業施設になるのも、違和感がありますよね。山形県新庄市では、文化財の保存と活用を、民間が無理のない範囲で行っています。今回はその1つの、蚕糸試験場の跡地で開かれるマルシェについて紹介します。

平時には公園や展示場として使われています

身の丈にあった文化財の活用

地方都市に眠る歴史的建造物たち。
保存だけに税金が使われることも批判されがちですが、単なる商業施設になるのも、違和感がありますよね。
人口3.7万人の山形県新庄市では、文化財の保存と活用を、民間が無理のない範囲で行っています。

国の研究所を活用

敷地は、昭和初期に農林水産省の研究所として建てられた「蚕糸試験場」の跡地。中心部からは少し離れた、ロードサイドの緑豊かな場所です。蚕糸業の発展に寄与した後に閉所しましたが、2001年に市に譲渡され、新圧市エコロジーガーデン「原蚕の杜(げんさんのもり)」として一般開放されました。

2013年に文化財登録(筆者の祖父もここの研究員でした)

その後、2012年に民間の団体が「ここでマルシェをしたい」と企画したことがキッカケで、敷地を活かした交流拡大プロジェクトが始まります。事業主体となる実行委員会のメンバーを民間が担い、敷地の管理者である行政が事務局として協力することで、民間主導のマルシェ開催につながっています。

キトキト(ゆっくり)を楽しむマルシェ

「キトキトマルシェ」の開催は、雪が降らない5月〜11月の第3日曜日。「キトキト」とは「ゆっくり」を意味する方言で、ゆったりとした時間を過ごして欲しいという想いが込められています。
出展に当たっては「手作りされた物を通して人と人が触れあう」ことを大切にしており、手作りの食べ物や雑貨などのお店が約30店舗が並びます。春はパン祭り、夏はカレーフェスと、毎回テーマが設定され、市内外から2000人以上の人が訪れる人気イベントです。

マルシェの出展条件は手づくり品であること

民間だからつくれる世界観

買物を楽しむ人から、シートを広げてお弁当を食べる人まで、思い思いに過ごしていますが、みんなが世界観を共有しているのが特徴です。あと、若い人が多い。
これは、実行委員会のメンバーにデザイナーの吉野敏充さんが関わっていて、出店条件や会場全体にデザインが行き届いていること。また、メンバーの樋口修さんは建築が専門で、会場にある家具や遊具を市民の方と協働で作ってきたことが、ベースにあるようです。

統一感のある緑の会場が皆さんの活動や個性が引き立てます

行政財産のまま交流スペースを運営

2015年からは、交流スペース「コミューンアオムシ」が週末限定でオープンしました。地元の食材を使ったカフェ、手作り雑貨のショップ、本を物々交換できるスペースがあります。 会場になる建物の利用については、実行委員会という公的な団体が、交流拡大を目的に使用することで、行政財産のまま活用が可能になっています。内装は、既存の建物の良さを活かしながら、地場産材を使って改修されており、こちらもメンバーとボランティアの手で行われたようです。

左 ブックシェアスペースでは本の物々交換ができます 中 ショップは地域の手仕事を紹介するギャラリーに 右 カフェは高校生のボランティアで運営する週もあります

文化財で育む地方のしあわせ

蚕糸試験場が紡いできた時間のように、ゆっくり過ごせる空間。プロジェクト自体も、一歩ずつ前に進んでいます。
無いものは少しずつ自分たちで作っていく。地方のしあわせのカタチを示しているようでした。 みなさんも、たまにはキトキトしてみてはいかがでしょうか。

PROFILE

加藤 優一

Open A/公共R不動産/(一社)最上のくらし舎代表理事。1987年生まれ。東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻博士課程単位取得退学。2011年より東日本大震災の復興事業を支援しながら自治体組織と計画プロセスの研究を行う。2015年より現職にて、建築の企画設計、まちづくり、公共空間の活用、編集・執筆等に携わる。銭湯ぐらし主宰。編著書に『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』。

連載

すべての連載へ

公共R不動産の本のご紹介

クリエイティブな公共発注のための『公募要項作成ガイドブック』

公共R不動産のウェブ連載『クリエイティブな公共発注を考えてみた by PPP妄想研究会』から、初のスピンオフ企画として制作された『公募要項作成ガイドブック』。その名の通り、遊休公共施設を活用するために、どんな発注をすればよいのか?公募要項の例文とともに、そのベースとなる考え方と、ポイント解説を盛り込みました。
自治体の皆さんには、このガイドブックを参照しながら公募要項を作成していただければ、日本中のどんなまちの遊休施設でも、おもしろい活用に向けての第一歩が踏み出せるはず!という期待のもと、妄想研究会メンバーもわくわくしながらこのガイドブックを世の中に送り出します。ぜひぜひ、ご活用ください!

もっと詳しく 

すべての本へ