コラム

横浜市が取り組む公共空間オープン化にむけた新たな挑戦

text = 公共R不動産

横浜市で、平成30年1月〜3月にかけて「都心臨海部の魅力向上につながる横浜市公共空間活用モデル事業」の民間事業者向け公募が実施されました。公園、道路、港湾地区を含む40箇所の公共空間につき、そこを活用したい事業者さんを公募し選定。事業期間は1年以内とされ、今後の横浜市での新しい民間連携のモデルとなる事業実現を目指したものです。

目的は、①公園などの公共空間のポテンシャルを民間の自由な発想やノウハウで引き出し活用してもらうこと、②市の財政課題の解決を視野に入れること、③複数の公共空間を活用することで回遊性を高め、横浜のさらなる魅力向上につなげること。

公共R不動産では、公民連携分野のフロントランナーである横浜市の新たな公共空間活用の取組に注目し、その大胆なプロジェクトの事務局を務める政策局共創推進課の河野学峰さん(以下、河野さん)、岡田正子さん(以下、岡田さん)に、お話を伺いました。

”横浜ならでは”の公共空間活用を!

― 遡れば、プロジェクトが始動したきっかけは、平成28年2月の横浜市会で挙がった、渋谷区など他都市の公共空間活用例が紹介され「横浜市でも、企業ノウハウを生かした連携ができるのでは?」という意見だったと伺っています。その意見に市長も賛同し、翌月にはプロジェクトチームが結成されるスピード感と、政策局、文化観光局、都市整備局、港湾局など庁内横断型のオープンなかたちでの新しい公共空間活用のとりくみが始まったのですよね。公民連携分野では実績の多い横浜市が、2年の歳月を経て、現在のかたちでプロジェクト募集に至った経緯はどのようなものだったのでしょうか。

河野さん「初期は、メンバーたちの認識も”どうやら、横浜の公園にもカフェをつくるらしいぞ・・・?”という印象をもつメンバーが多く、わかりやすい民間連携事例として、”カフェ”がとっかかりになっていました(笑)。ですがプロジェクトを進めるうちに、店舗展開以外にも、”横浜ならでは”のやり方があるのではないだろうか、という議論に変わりました。1年目は、他都市の事例研究や視察、有識者との意見交換を行いました。そうすると、行政が公共空間で稼ぐ重要性をより強く実感したり、道路空間活用の可能性から道路管轄の部署が自主的に加わるなど、方向性に合わせてチーム編成も変化していきました。」

横浜市政策局共創推進課の河野学峰さん

― そんな経緯で開始した「都心臨海部の魅力向上につながる横浜市公共空間活用モデル事業」は”新たな賑わいの創出”と”地域ネットワークの形成”が主なねらいで、建築行為はせず、ソフト面で新しい取組を生み出すことが目的です。みなさんの目指す”横浜ならでは”の公民連携とはどのような構想なのでしょうか?

河野さん「まず、新しいことにチャレンジしながらも、横浜の港町らしい景観などを生かした活用事例をつくろうという点です。もうひとつは、地域力です。横浜市は地域団体の活動が非常に活発で、市の大きな誇りとなっています。事業のなかで、行政がコーディネートしながら企業と地域団体をマッチングしたり、新しい賑わいをつくることで、これまで以上に公共空間の周辺店舗、お客さん、住民がつながりあうきっかけをつくりたいですね。」

―平成30年1月10日〜3月9日までの公募の結果、17法人等から20件の提案があり、うち14件が採択されました。選定はどんな基準で行われたのでしょうか。

河野さん「点数化する審査ではなく、公募要項の条件に合っているかのネガティブチェックだけを行いました。条件に合っていれば、企画ジャンルや実現性についてはなるべくゆるやかに広く採択しています。(通常公共空間では難しいとされている)多少、商業色の強いものでも、議論の中で着地点が見えそうなものは採択しました。」

公共性と事業性のバランス

―この事業は、採択されても提案の実現が必ず保証されるわけではなく、あくまで庁内各部署と事業者の間で協議・調整を行いながら企画実現を「目指す」もの。つまり、通常は採用されないようなアイデアも実現に向けて広めに採択したということですよね。庁内では、本事業を企画している共創と、実際に公共空間を提供する所管の部署の間での交渉が難航しそうですが、実際どうなのでしょうか?

河野さん「正直、内部的には事業化に向けた調整はなかなか難航しています。企業が単独で公園で何かやりたいと所管課に申請しても、通常はほぼ門前払いです。なぜなら施設を管理する部署では、公共空間は地域のためにあるもので、公共性が高く、地域の皆さんのための公平性を担保すべき、というルールに基づく考え方が根強くあり、商業的な行為を敬遠する傾向にあります。地域住民などのことを考えるが故に、新しいことに挑戦することのハードルがあるのです。企業が公共空間を活用する事業性(営業行為)と、一般利用者や地域住民への配慮などの公共性とのバランスの難しさに直面しています。」

―なるほど。所管の部署とのやりとりのボトルネックは、やはり公共性の高い場所を占有し、一企業が営業行為をするという点にあるんですね。その他に、ネックになる点はどんなことでしょうか。

河野さん「そうですね。やはり商業色の観点などでうまくいかない場合が多いです。市民の皆さんが受け入れやすい企画を考えることはとても重要なのですが、もともと仮に100%だった商業色を、80%まで削るべきか、60%まで削るべきかも実施する場所によって温度差があり、調整状況にばらつきがあります。参加費徴収、施設内での物販、キッチンカー出店など、細かく上げるときりがないですが、企業連携による事業の実施実績があるかどうかで受け入れやすさが変わったりもするので、ネックになる点はまちまちです。」

公共空間で「稼ぐ」とは?

河野さん「今回の目的のひとつは、厳しい財政状況の中、横浜市の公共空間を行政が管理する対象(=コストのかかるもの)から、公民連携で持続可能な運営のできる対象(=稼ぐ空間)へ変えていく、ということを庁内で共有することです。公共施設の整備費や管理費が減少すれば、痛んだ公園の遊具を使用停止または撤去するなど、市民サービスの低下を招きます。それを防ぐためにも、行政も自ら収入を得て、かつ、公共空間の新たな魅力を引き出せるような公民連携を進めていきたいのです。」

「もちろん、公募が始まる前から管理部門へも説明をしていました。しかし横浜市という大きな自治体では各部署も大きく、扱う公共空間の数も多いため、なかなかすべての関係者に共通の意識が浸透するには時間がかかります。企業が何かするというと、”公平性に欠ける”とか”公共空間で商売していいのか”という意見がまだまだあります。」

―公共空間をより使いやすくすることで、財政的にメリットがあるかたちにするという意図なんですね。とはいえ、財政や公共空間をめぐる資金的な問題は全国共通。横浜市ではどんなふうに公共空間を通して収入をつくりだそうと考えているのか、目指したい収益モデルについて伺えますか?

河野さん「目指す収益モデルはまだ議論中です。イベントでの場所の使用料は、現在も一応設定はしていますが稼げるレベルではありません。今回の経験を生かして、今後はイベントなどでも平米数に応じた料金体系を考える可能性はあるかもしれません。また、将来的に店舗出展を含む公民連携事業を進めた場合は、賃貸料をいただいたり、売上の何割かをいただくということで稼ぐ方法はあり得ると思います。

また、賃料収入の議論だけではない考え方もあると思います。たとえば企業がどこかの公共空間にレストランを建築するとき、周辺も一緒に整備してもらうことで、企業の活動を地域に還元してもらうという考え方もあります。あるいは、どこかの公園に人が集まり、周囲に人が回遊することで商店街などの店舗にもお金が入るという、全体的で長期的なメリットをとる考え方もあります。しかしこれは都市政策を考える部署の発想です。管理部門はすぐにはそうはなりませんので、庁内でも公平に考えていく必要はあります。」

事業化第一弾!

―調整に難航している企画もありますが、先日は、本事業を通じた第一弾のイベント「こそだてMIRAIフェスタ produce by BABY&KID’s FESTA」(主催:こそだてMIRAIフェスタ実行委員会)が日本丸メモリアルパークで実現したのですよね。実施してみて気づいた点はありますか?

イベントのエントランス

こそだてMIRAIフェスタ produce by BABY&KID’s FESTA ステージの様子

岡田さん「開催までの調整に時間がかかり、広報に十分な時間が取れなかったことです。いくら良い企画でも、開催周知が足りないと人はなかなか集まりません」

―その後、第二弾イベント「横浜ドッグウィーク マリンドッグパーティー ナイト・ドッグラン」(主催:横浜ドッグウィーク実行委員会)がパシフィコ横浜臨港パークで開催されました。

横浜ドッグウィーク マリンドッグパーティー ナイト・ドッグランの様子

岡田さん「このイベントはチラシでの広報ではなく、インスタグラムなどSNS上での広報がメインとなりました。会場には、海をバックにしたパフォーマンス用ステージを設置していたのですが、そこに犬を座らせて海を背景に写真を撮るという、予期せぬインスタ映えスポットになってしまいました(笑)。素敵な写真が撮れると話題になり、大変盛り上がりました。結局、ステージでのプログラムは別の場所で実施したくらいです。たった一枚の写真をきっかけに、チラシをいくら配っても叶わないようなPR効果があったのです。これは行政だけだとなかなかできない、面白い体験でしたね。」


予期せずフォトスポットに

これからに向けて 郊外エリアの活用

―今後の、本事業の展開について教えてください。

河野さん「今回の募集は都心臨海部だけでしたが、横浜には里山のようなところもありますので、将来的にはこの事業を横浜市内全体に広げていきたいと考えています。例えば、郊外部で人口が密集しているエリアの特定の公共空間を指定して、「家族向けの遊びや学び」「地域防災への支援」をテーマにしたりして公募をするなど、地域が期待することを行政から民間事業者の方へ分かりやすく提示することで、その企画に特化した事業者さんに乗っていただける可能性があるのではないかとも感じました。」

今回の募集エリア

岡田さん「ただその場合、企業が協賛を集めにくいデメリットも生まれます。なのでたとえば、地域をマーケティングや実験の場にできるような、行政側のオープンな姿勢も必要なのではと感じます。
最近、AIやオープンデータなどの議論も盛んですが、行政でもデータを可能な範囲で公開するなど、最先端技術を活用する可能性もあるのではないかと思います。子育て世代の多いエリアが遊具や玩具などの商品開発の場になったり、お年寄りの多いエリアが健康増進のための活動の場になったり、行政からも提案しながら試行錯誤し、企業と連携しやすい土壌をつくっていきたいですね。」

これからに向けて 民間主体のとりくみを増やす仕組みづくりを

―少しでも多くの提案の実現に向け、公共性の高い企画にアレンジしたり、企業単独ではなく既存の地域団体と連携を図ろうとするなど、粘り強い調整が続いているんですね。それほど労力をかける理由はどこにあるのでしょうか。

河野さん「市が共催に入るという手段をとれば楽にクリアできることはたくさんあるのですが、それでは従来の手法と変わりません。公共空間を行政も民間も持続的に稼げる場所にするために、民間が単独で主体になれる仕組みづくりを実証することが事業の目的です。なので、市は補助金を出していませんし、後援という立場でかかわっています。

これからに向けて 事業者向けガイドライン作成

―民間事業者に公共空間を活用してもらおうという今の動きと並行して、行政内部では民間が参入しやすい仕組み作りとして、ガイドライン整理という事業が行われているそうですね。それについても教えてください。

河野さん「来年度中に、活用の意向がある事業者向けガイドラインを作成する予定です。民間事業者の方だけでなく、職員にも無駄な労力をかけさせない、効率的な手続き方法を見える化したいと考えています。また、事業性と公共性とのバランスについての課題も踏まえて、一回限りの商業色が強いものではなく、地域にも受け入れられる持続可能な公民連携を目指したいという横浜市のビジョンをしっかり伝え、期待する活用事例なども掲載する予定です。先進的な事例をつくりたい気持ちもありますが、とがったことを継続する難しさも実感しています。公共空間本来の機能を維持しながら地域にも受け入れられ、企業メリットを担保するためには、最終的にはバランスが必要だと感じています。

一方で、事業自体は多少商業色が強いものでも、売上の一部を環境保全や管理費等に還元すれば、公益性が高いと見なせる、という考え方もあります。有識者や市民、事業者など外部の声も取り入れながらガイドラインを作ることで、これまでの庁内の感覚を少しずつ変えていきたいです。透明性のある議論を通して、前例や現在のルールだけでは新しいことはできないという意識を高めていき、ガイドラインという形でオープンにしていきたいと考えています。

行政だけの視点やアイデアだけでは変化は起きません。民間事業者の力による、おもしろくて今までにないアイデアも必要です。100%の提案にはこたえられないかもしれないのですが、トライアンドエラーを繰り返し、どんなかたちならできるのか、一緒に見定めていければと思っています。」

応募のあった民間の提案につき、ひとつひとつ丁寧に民間事業者と所管課と交渉し公共空間を貸し出す実績をつくる。はじめにこの事業の話を聞いたとき、途方もない苦労になると思いました。さらに、お話によればこの手続きは属人的になりやすく、担当者が変われば振り出しにもどってしまいかねない。それにも関わらずあえて挑戦する背景には、民間と所管課との一連の活用手続きの中でのネックとなる要素を抽出し、それを解消すべくガイドラインにまとめていくというミッションが並走している。事業全体が、公民ともに取り組む実験のような位置付けになっているともいえそうですね。このあたりがただでは終わらない、さすが横浜市という気がします。

とはいえ一点、意外だったのは、そこまで労力をかけて「稼げる公共空間をつくりだす」というモチベーションで始まった事業にも関わらず、明確な収益モデルの仮説をもっていなかったこと。実験するには、検証すべき仮説を持っていた方が有意義ではないかと思いますし、本来目的がそこにあるならなおさら議論が必要なところだと思いますが…実現させるための交渉が大変で手が回っていないのが現状なのでしょうか。事実、想定外の所管課との交渉の難航度合いに、今年度末にも同様に実施しようと検討していた本事業の公募は取りやめに。(※ただ、今回の事業は決して規制緩和を用いず、あくまで現状の法の解釈と手続きの改善でできることの幅をより広げるという取組であるため、公募期間でなくとも、随時、提案がある場合は直接市に掛け合えば実現可能性はあります。)

公民連携に前向きな横浜市ですら、苦労している公共空間のオープン化。民間側として、「もっとどんどん、自由に使えるようにしてほしい」と思うけれど、オープンになっていない理由もまた、「市民の為に公共性を担保する」。所管の部署が市民の公共空間が荒らされないよう、細心の注意を払って実施される行為や用途を限定しているわけです。そこで守られるべき「市民の為の公共性」とはなにか?この事業の今後の展開には、所管部署、市民も交え、そのルール自体を見直すような場があればおもしろそうだと感じました。

公共R不動産では、これから実現していく企画のレポートを公開予定。事業者のみなさんの生の声、市民の皆さんの反応について取材を行います。所管部署と民間と絶妙な調整をとり、はたしていくつの事業が実施できるのか。公民連携により、新しい公共空間の魅力を発掘しようとするこれからの横浜市のとりくみに注目&応援よろしくお願いします!