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RePUBLIC talk(4) “パブリックライフ”と公共空間のこれから[レポート]

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海外ではもはや「当たり前」になっている「歩行者」や「人の活動」を中心に据えた公共空間のあり方を、日本ではどうしたら実現できるのか。7月29日に行われた、「“Republic talk “パブリックライフ”と公共空間のこれから」では、公共R不動産ディレクター馬場正尊が、異なる立場で都市に向き合う識者3人とともに、その可能性を考えました。4回にわたってお届けしてきたイベントレポートの最終回は、パブリックスペースを変えるための3つのポイントである「新しい指標」「新しい組織」「新しいプロセス」のうちの、プロセスについてのダイアローグと、ゲストから今後の公共空間の未来に向けたメッセージです。

(登壇者のプロフィールはこちらからご確認いただけます。)

 

公共空間を変えるポイント③:「新しいプロセス」

馬場正尊敬(以下、馬場):最後に、新しいプロセスの話をしたいと思います。今、まちの風景をつくるプロセス自体が変わろうとしているんだなと感じているのですが、中島さん、ニューヨークやゲール・アーキテクツが取り組んでいる計画や進め方の、どこが画期的で、我々はどこを取り込むべきかという視点をお話しいただけますか?

中島直人(以下、中島):一つは短期的な実験と長期的なビジョン、両面のバランスがあります。広場化は社会実験から始まっている。それは日本でも同じようにやっている。違うのは、やはり評価する指標がかなり工夫されているというところです。単に数が増えたという話ではなくて、いかに質が上がったという指標をつくる。広場化したことで、周りで働いている人たちが、広場周辺でランチをとる回数がどれだけ増えたかなどをニューヨーク市が測ったりして、これを社会実験の効果だとしてとして次に進めていく。社会実験って、結局は行政内の説得もあるけど、市民に支持されなきゃいけない。市民に認識され、彼らが理解できる手法で進めるというのが、すごく面白い。さらに、実験で作り出される部分部分の偶然の集積だけで都市が出来ていくのではなく、そこにはきちんと都市デザインのビジョンがある。長期的なビジョンというのが別にあって、その中でのアドホックなトライアルをやっていくという、両方が極めてバランスよくあるというかたちです。東京の場合、長期的に都市をどうするという話がないので、小さな動きもやりにくいですよね。

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馬場:今の話の中でも、やっぱり社会実験の評価指標が素敵だ、というお話でしたが、センシュアス指標が日本の社会実験の指標にならないんでしょうか?

島原万丈(以下、島原): まあ、行政が使うにはいくつかヤバイものもありますけど、ある程度は使えるんじゃないかなと思っています。 60個くらいの言葉から32個にする過程で「この指標によって、街の魅力が代弁できている」というレベルまで煮詰めているので。

馬場:あのセクシーな指標を、よくあんな真面目に数値化しますよね、そのギャップが面白いなと思ってるんですけど。今日の参加者は行政の方も多いので彼らに向けて話をしますと、まちの評価指標にセンシュアス指標を取り込んでもらえると、全然違う評価体系ができるんじゃないかと思っていています。

 

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馬場:新しい都市計画の指標を切り開いたのが、まずコルビュジェで、約100年前だった。その後ジェイコブスは60年代です。さらに、ジェイコブスは都市計画家ではなくてジャーナリストでした。彼らが新しいアメリカの指標を作っているから、それがボディブローのように効いていて、今のニューヨークにつながっている。『パブリックライフ入門』にあるように、ジェイコブスからゲールに至る系譜みたいなものがあって、ニューヨーク市はそのコルビュジェ型から、いわゆるジェイコブス型へ完全に変換してますよね。日本的に言うと、丹下健三がコルビュジェだとするならば、今和次郎が語られて、中島さんや島原さんがその系譜の中にいて、新しい都市の指標をつくる。だから、日本も、丹下型から今和次郎型へ路線を変えなきゃいけないと思っています。今日は、それを俯瞰したいという衝動にかられましたが、そういうジャーナリスト目線も重要なんじゃないかと。

島原:会場に来られている方に要望したいことがあります。今、東京のいたる所でどんどん再開発が進んでいる。しかもどこも同じように再開発されていく。これの大義名分になっているのは、防災なんですよね。今回の都知事3候補とも、木密地域は全て解消しますといっている。でも、超高層マンションじゃないと防災化にならないのかというとそうではないはず。横丁のまま防災化し、その風景を守る方法などを建築家の方々に考えて欲しいです。

馬場:日本では、何かとハードで解決しようとし過ぎるんですよね。あと、委員会みたいなところで、ソフトな解決を模索しましょうと言いづらい雰囲気がある。それは社会的なコンセンサスの形成と並行してやるしかないんでしょうね。社会的なムーブメントとしてパブリック空間を使っていこうという状況を作っていけば、今は変わり者扱いされて、くすぶっているやる気のある行政マンもやりやすくなるんじゃないですか。

島原:あと、プロセスについてもう一つ言っておきたいのは、日本の再開発事業はプロセスが非常に不透明で、僕らが知る頃にはもう手遅れ。何年も前から都市コンサルが地権者の家を回っているじゃないですか。で、計画が出てきて行政がOKを出した頃にはほとんど変更できない状況になってしまっている。このやり方そのものを変えていきたいと思いますよね。

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まず、街をつくる人がもっと街を楽しもう!

馬場:それでは、最後に一言ずつお願いしていいですか。

秋山仁雄:通常よく“PDCAサイクル”(Plan-Do-Check-Act cycle)なんていわれますけど、先が見えないこの時期にやるべきはDCPAじゃないかと言っている人がいて、まずやって、チェックをして、それをフィードバックしてプランニングをしてというそういう順番で小さな取り組みから始めていければなと思っています。

島原:今日はそういう分野に興味をもっておられる、あるいはすでに関わられている方ばかりがいらっしゃっていると思うんですが、街に出て楽しんでいない人が計画するとダメだなという気はすごくしていて、水辺にしても何にしても、計画が健全すぎるし、別に路上に出てチューしているとかそういうのだけではなくて、街に行ったら遊んでみるとか、出張行ったら1日歩いてみるとか、なんかそういう態度みたいなものが、まず都市に関わる人に求められているんじゃないかなという気はいたしました。

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中島:まさにそうですね。私の好きな都市計画家に石川栄耀という人がいますが、彼は「都市味倒」、つまり都市を味わい倒す態度が大事だと主張しました。私は、都市計画家が都市をつくるのではなく、都市が都市計画家をつくると思っています。東京も、日本の都市もこういう場が少しずつ増えてきていて、絶対そこには若い人たちがいる。こういう場を経験して、そういうところで遊んでいる若い人たちが、都市計画に関わると都市は絶対良くなりますので、そういう意味では期待しています。是非、私もそういう気持ちで都市を味わい倒しつつ、つくってきたい、それでまた次の都市計画家が育つ。そのサイクルをまわしていきたいです。

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馬場:今日は頭出しだったような気がするのですが、ここで出された問題提起をどう社会に実装していくかを本気で考えなければいけないと思っているし、こういうメンバーだからありえることのような気がします。みなさん、今日はありがとうございました。

 

いかがでしたでしょうか。日本の公共空間を変革してゆくのに必要な新しい「指標」と「組織」と「プロセス」、それぞれの課題が少しクリアになり、なんだか動き出したくてうずうずしてきませんか?公共R不動産では日本の公共空間をもっと楽しく使えるよう、今後も多くの方から学び、実践につなげていきたいと思います。

 

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PROFILE

菊地 マリエ

公共R不動産/アフタヌーン・ソサイエティ。1984年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。日本政策投資銀行勤務、在勤中に東洋大学経済学部公民連携専攻修士課程修了。日本で最も美しい村連合特派員として日本一周後、2014年より公共R不動産の立ち上げに参画。現在はフリーランスで多くの公民連携プロジェクトに携わる。共著書に『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』。

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