コラム

RePUBLIC talk(1) “パブリックライフ”と公共空間のこれから[レポート]

text = 菊地 マリエ

7月29日に開催された『RePUBLIC talk “パブリックライフ”と公共空間のこれから』。国内外の公共空間の変化を広く研究され、ヤン・ゲール著『パブリックライフ学入門』(鹿島出版会)の翻訳を手掛けられた東京大学の中島直人准教授、『センシュアス・シティ[官能都市]』レポート著者のHOME’S総研 島原万丈所長、ディベロッパー兼プランナーという役割の実践者であるUR都市機構 秋山仁雄氏の3名をゲストにお迎えして、公共R不動産ディレクターである馬場正尊とともに公共空間の活用におけるパブリックライフのかたちや、都市における公共空間の展望ついて考えました。トークイベントの模様を全4回にわたりお届けします。

公共空間を有効活用するための検討が全国各地で進んでいる昨今、社会実験や実証実験という形でマルシェやオープンカフェなどのプログラムが行われています。ニューヨークのタイムズスクエアをはじめ、海外ではもはや「当たり前」になった感のあるこうした「歩行者」や「人の活動」を中心に据えた都市のあり方ですが、日本ではまだまだこれから、といったところ。レポート初回は、まずファシリテーターの馬場よりトークのテーマとなる、公共空間と、より大きな「都市」という空間に対する問題提起をさせていただきました。

urevent1馬場からの問題提起
馬場正尊(公共R不動産/openA)
1994年早稲田大学大学院建築学科修了。
博報堂で博覧会やショールームの企画などに従事。 
その後、早稲田大学博士課程に復学。
雑誌『A』の編集長を経て、2003年OpenA Ltd.を設立。 
建築設計、都市計画、執筆などを行う。
同時期に「東京R不動産」を始める。 
2008年より東北芸術工科大学准教授、2016年より同大学教授。 
建築の近作として「観月橋団地(2012)、「道頓堀角座」(2013)、
「佐賀県柳町歴史地区再生」(2015)など。 
近著は『PUBLIC DESIGN 新しい公共空間のつくりかた』(学芸出版,2015)、 
『エリアリノベーション 変化の構造とローカライズ』(学芸出版,2016)

 

変革を迎えている日本の公共空間

この3、4年、僕はパブリックスペースを変えていきたいという強い思いがあって、『RePUBLIC 公共空間のリノベーション』(学芸出版)という本を3年前に出版しました。これは、「こんなことができたらいいな」という空間を集めた200ページにわたる企画書です。発刊した当初は単なる妄想だったんですが、かなり妄想じゃなくなってきている。ものすごい勢いで日本の公共空間が変わろうとしているところに立ち会っているのではないかという感覚があります。

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馬場が公共空間に関わる聞かっけとなった著作

 

僕は、13年前に「東京R不動産」という、一見ボロボロの物件だけど、ある人にとっては魅力的な物件ばかりを集めたサイトを立ち上げ、結果、中古物件流通の活性化につながったわけですが、この公共版が必要だなと感じていました。公共空間を買ったり、売ったり、貸したり、使ったりできるようにしたい。

 

そこで公共R不動産を立ち上げ、全国に有り余っている公共施設とそれを使いたい人や企業をマッチングするサービスを始めました。特に行政から様々な問い合わせがありますが「山ほど余っていてどれから手をつけて良いか分からない」という趣旨のものが想像以上に多いです。制度的、慣習的に非常に硬直化している。これが現在の日本の硬直を象徴しているように思えて仕方がない。

ニューヨークでは、シェイクシャックのような公園からスタートして上場する企業が登場しているわけですよ。日本だってそれをやるべきだし、できる気がします。

 

公民の対立構造から中間組織の可能性へ

今後、人口が減少し経済も縮小していく中で、現存する膨大な公共施設のストックを全て維持していくのは無理です。日本の公園が禁止事項だらけになり、こんなにつまんなくなっているのも、行政に時間がない、人手が足りないから。つまり、すでにリソース不足になっているのです。だったら、主体を変えていくしかない。今は管理しなければいけない立場にある行政と使いたい民間がいて、企業や市民が「自分たちが責任とります」と言っても、結局何かあったら責任をとらなきゃいけないのは行政、と言う構図になってしまっている。だから行政は保守的にならざるを得ない。この対立する構造が壊れない限り公共空間は変わらない。

民間と行政の間に何らかの組織がいるなと感じています。その組織を “PPPエージェント”(Public and Private Partnership)と呼んでいるんですが、この行政の責任を一部負うようなかたちで、行政と民間の言葉を通訳しながら、連合体として動くことを構想しています。それを職能としてきちんと定義することで、日本でもパブリックライフが動きだすのではないか。そのような中間領域、中間組織、その辺りにヒントがあるのではないかと感じています。実は次の本ではそれを主題にしようと画策しています。自分にプレッシャーをかける意味でも言っておきます(笑)。今日はそんなことを意識しながらみなさんにお話を伺いたいと思います。

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PPPエージェントのダイアグラム(馬場正尊)

 

五感を使った都市の測り方とその有効性
次に、公共空間に限らず、町をどう捉えるかという視点で島原さんにお話を伺いました。

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センシュアスレポートの前提となる都市への視点を話す島原さん
島原万丈(株式会社ネクスト HOME’S総研 所長)
リクルート入社後、リクルートリサーチ出向配属。
グループ内外のクライアント企業のマーケティングリサーチおよび
マーケティング戦略のプランニングに携わる。
結婚情報誌『ゼクシィ』シリーズのマーケティング担当、
リクルート住宅総研を経て、2013年7月より現職。

 

僕は『センシュアス・シティ[官能都市]―身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング』というレポートを2015年に発行しました。そこでは、パブリック空間の使い方というよりは、もう少し広く都市をどういう物差しでみたらいいのか?という提案をしています。官能というとちょっとエロティックな印象を持たれてしまうかもしれませんが、五感を使って街を評価できないか、という提案です。

僕は仕事柄、住宅という面からたくさんの街をみる機会がありますが、以前から、都市の均質化が問題だと思っていました。 再開発事業を経て、「大街区化」、「良好な歩行者空間」、「良好な居住空間」…というお決まりのフォーマットがコピペされ、街が皆同じになってしまう。専門的な知識を全てすっ飛ばして言うと、この元凶はル・コルビュジェの『輝く都市』が提唱した垂直田園都市のイメージなのではないかと思うんです。

彼が素晴らしい建築家であることは間違いないのですが、彼が都市をやるとこうなるんですね。

スクリーンショット 2016-08-18 9.54.58ヴォアザン計画(1925年)(島原万丈)

 

これは、ヴォアザン計画といって、20世紀初頭のパリに未来都市として構想したものです。ヴォアザンというのは自動車会社です。つまり、いかにパリを車の街にするかという提案だったとも言えます。結局ヨーロッパでは夢物語で終わったけれど、日本ではこのヴォアザン計画が現実味を帯びてきています。しかし実際にそんな再開発の町並みを歩いてみると、快適な歩行空間のはずが、まっすぐ過ぎて全く退屈。その陰で、失われる都市の身体性とでも言うんでしょうか、わい雑な雰囲気。そのようなものが残る街がいいというのは、個人的な趣味だと言われてしまう。本当はみんなが求めている街の魅力を、これまで誰も測れなかったんです。

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輝く都市・垂直田園都市(1922年) (島原万丈)

 

ヤン・ゲールは著書『人間の街』の中で、「街は人々が立ち止まり、座り、聞き、話すのに適した条件をそなえていなければいけない」と言っています。つまり人間の五感と結びついた街であれというのがゲールの主張です。これに習って、アクティビティで都市を測るというのが『センシュアス・シティ』レポートでの試みです。私たちはアンケートという手法でアプローチしました。

指標、つまりアンケート項目を作成するにあたっては、「都市の中で心地よく関係性を保っているか」と、「五感で感じているか」という2つの視点を大切にしました。 例えば、関係性の話でいくと、「共同体、コミュニティに属しているか」という自覚について、「お寺や神社にお参りをした」、「お店の人と無駄話をした」という日常行動に置き換えて測定していきます。また、身体性の指標では、自然を感じるということについて、緑被率を調べるのではなく、「緑や水に直接触れた」、「心地よい風を感じた」という体験ベースで測った方がよりリアルなのではないか、というように。 このような32個の指標で都市を図ったのがセンシュアス・シティ・ランキングです。

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センシュアス・シティ[官能都市]―身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング』(島原万丈)

 

それから、従来のランキングって、住んだら本当に住みやすかったかという結果を誰も計測していないんですね。そこで、レポートでは、「今の街に住んでいて幸せですか?」という質問をして、その回答とセンシュアス度との相関を調べました。結果、相関係数0.4という強い相関が確認できました。ちなみに某出版社の住みやすさランキングとも相関関係を調べたのですが、相関係数は全くないという結果でした。そういう意味では、センシュアス指標の方がよりリアルなのではないかということは言えると思います。

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幸福実感度とセンシュアス度の相関(島原万丈)

 

具体的にセンシュアス・シティがどんな街か知るために、併せて「あなたの街にこんなものはありますか?」という質問もしました。結果、センシュアスな街には、個人経営の店、横丁、センスのある花屋、大手チェーン店が多いという結果が得られています。チェーン店がある街がだめということではなく、それしか入れなくなるとだめということみたいですね。まさに、これはジェイン・ジェイコブスが唱えた4原則 「狭いエリアに用途が混在している」、「古いものと新しいものが混在している」、「路地が多く角を曲がる回数が多い方がいい」、「密度が高い」という考えを網羅しているような結果といえるのではないかと思います。

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ジェイコブズの4原則(島原万丈)

 

このようにレポートは街を測る物差しではあるけれども、パブリック空間の使い方にまでは踏み込めていないので、今日の議論はオープンに楽しめたらと思っています。

 

次回は中島先生から海外事例を、そしてUR都市機構からは新たな取り組みについてご紹介いたします。

来週まで、楽しみにお待ち下さい!

 

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