異常に暑い夏を乗りこなす
2025年は暑く、長い夏でした。
北・東・西日本では夏(6~8月)として歴代1位の高温を記録、梅雨明けは早く、残暑も厳しい──気がつくと4か月近く暑さが続いていました。長期的な気温上昇が進む中で、日本の夏は、これからさらに暑く長くなっていくのでしょう。
コンビニに行くだけで倒れそうになる暑さの中で、屋外で過ごす人の姿は明らかに減りました。近年、公園などの公共空間では、日陰やミストを設置するなどの対策が進んでいますが、効果は限定的に感じられます。


そんな猛暑の中でも、人々はパブリックスペースに繰り出し、また、同時にそこには多くの「暑さを乗りこなす」対策が展開されています。
たとえば1970年以来55年ぶりに開催された、大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)は、その多くが外部空間でありながらも、連日多くの人で賑わいました。私が訪れた9月も当然気温は35度を超えており、会場内ではいろいろな暑さ対策が行われていました。



印象的だったのが、入場ゲート前の広場です。屋根はありませんが、閉会が近づき来場者が増加する9月でも、待機スペースが埋め尽くされることはないくらいに余裕を持った面積が確保され、体感7割ほどの人が日傘をさしながら並んでいました。
私自身も今年から日傘を持ち始め、もう夏は手放せません。日傘をさせる余裕のあるスペースを確保しておく、というのは利用者に委ねられた最低限の暑さ対策ではありますが、猛暑によって利用者の行動が変わると、公共空間に求められる機能や面積といった原単位が変わっていくのだろうと予感する体験でした。


同じ頃、大阪駅前に展開する4.5万平米の緑空間・グラングリーン大阪では、夜の公園を使ってみる実証実験「Night Park」が実施されました。この猛暑で、昼間は足が遠のく夏の公園も、夜になると多くの人が集まり、利用のニーズの変化と、新たな公園利用の可能性が感じられます。
この取り組みからも、猛暑によって人々の行動が変わりつつあり、その行動にあわせた公共空間の新たなあり方が求められていくのだろうと感じます。

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このように、暑さ対策は現在、実証的・仮設的な取組として行われていますが、この異常な暑さが日常になっていくとすると、いずれは公共空間の基本的な機能のひとつとして位置づけることが求められます。
ただ、まちづくりにおける暑さ対策は、手法や体系が確立されておらず、ガイドライン等も少ないのが現状です。また、単にハードを整備するだけでなく、その後の維持管理、運営、利用者側の行動変容といった、公共空間に関わる全員で取り組むべき課題です。
どんどん暑くなる日本の公共空間に、そしてそこを使う私たちに、何ができるのでしょうか。
旅の視点1:猛暑対策に力を入れる韓国・ソウル
では、海外の都市ではどんな風に暑さを乗りこなしているのでしょうか?
暑さ対策でまず思いつく「日陰」。地域によって、いろいろなつくり方や使い方があります。私がここ数年、旅で訪れた場所で出会った様々な日陰をご紹介します。
韓国・ソウル市は「猛暑対策」に力を入れており、日除けパラソルやミスト付き休憩所の設置を進めるほか、エアコン利用を促進する電気代補助などの経済的支援や、猛暑警報発令時には区が雇用する清掃員の作業時間の調整や作業自体を中止するなど、総合的なアプローチを取っています。
市内の交差点の至るところにパラソルが設置されており、信号待ちの時間を日陰で過ごすことができました。実際にパラソルの下に入ってみると涼しく、信号待ちのストレスが軽減されているように感じました。

旅の視点2:暑さを前提とした生活・建築様式のアブダビ
一方、5月から9月までの平均気温が35度を超え、年間を通じて降水量が少ない砂漠気候のアブダビでは、暑さを前提とした生活が根付いていると感じました。
市内の公園では、屋根が設置された遊び場が多く、昼間でも日陰で遊ぶことができます。さらには、夜9時ごろでも子どもたちが遊具やサッカーで遊んでいました。このように、暑い時間を避けて公共空間を使うライフスタイルが当たり前になっていることが伺えました。

それは現代建築でも同様です。ルーブル美術館の分館として知られるルーブル・アブダビ(ジャン・ヌーヴェル設計)は、アラブの入り組んだ市街地「メディナ」を想起させる低層建築群が、巨大なドーム屋根で覆われています。このドームはレイヤー構造になっており、自然光を屈折させて取り入れることで、明るさを保ちつつ、暑さを軽減しています。その屋根の下を海風が通り抜けるため、半袖では肌寒く感じるほどでした。
長年暑さと付き合ってきた国だからこそ、建築と広場をまるごと屋根で覆い心地よい空間をつくるという、大胆な建築を受け入れる風土があるのだろうと思います。

旅の視点3:紫外線対策としての日陰を強化するオーストラリア
非常に紫外線が強いオーストラリアでは、国を挙げて紫外線対策に力を入れており、そのひとつとして日陰の確保が重視されています。赤道に近く、オーストラリアの中でも紫外線の強いクイーンズランド州北部のケアンズもまた日陰の多い街でした。メインストリートは建築と一体となった大きな庇がかかり、多くの人が日陰を歩いています。一方で、日向で過ごすのが好きな人も多いようで、日当たりのいいベンチに座っている人々も多く、気分や天気に応じて日陰と日向を使い分けているように思いました。
ケアンズの都市計画は、”トロピカル・アーバニズム(Tropical Urbanism)”をコンセプトとしていて、開発において建築の緑化や日陰の確保を定めています。その中では、「光と影のコントラスト」をポイントとして記載されています。ケアンズでは、単に暑さを避ける日陰だけでなく、日光を取り入れることも、魅力的で活気ある都市空間の創出につながると考えられています。利用者が日向と日陰を選び取れる「選択肢」をデザインすることが、夏の公共空間の快適性と魅力の向上にとって重要と考えられていると言えます。


夏の公共空間デザインを考える視点……緩和策と適応策
ここまで見てきたように、暑さ対策は国や地域の状況、そしてその地域の自然環境やライフスタイルに根ざして進められており、そうした取組自体が都市の魅力のひとつになる可能性も秘めています。
日本においても、夏と冬の大きな気温差、高い湿度、台風や地震といった自然環境に適応し、地域の気候や住民の特徴に合わせた魅力的な夏の公共空間デザインが求められていくでしょう。そのためには、日陰をつくるなどのハード整備だけではなく、公共空間の維持管理・運営や、利用者の使い方もアップデートしていくことが必要になるはずです。
今後、夏の公共空間デザインを考えるにあたって、少し視点を整理しておきます。暑さ対策は、地球規模の課題である気候変動の文脈で語られる場面が多く、本連載でも、まずはそのフレームワークを用いて考え始めてみようと思います。
気候変動の対策は、主に以下の2つに分けられ、この両輪で取り組むことが重要とされています。
- 緩和策:気温上昇などの原因を低減する取組
- 適応策:上昇した気温による被害や影響を回避・軽減する取組

日本のまちづくりにおいては、国土交通省都市局により、中心市街地などを中心に、快適性の維持を目的とした屋外の取組(まちなかウォーカブル推進事業など)が進められようとしています。

私たちは、まちづくりにおける暑熱対策は緩和策にも繋がると考えており、もう少し幅を広げて、緩和策と適応策両方に注目していきます。また、緩和策は管理者と利用者が一体となって行う取組中心で、適応策は管理者が主体となって行う取組と、利用者のライフスタイルや使い方に関する取組があると考えられるため、適応策については管理者と利用者それぞれの視点から考えていきます。

次回は、暑さ対策の視点をふまえて、海外の都市がどのように暑さと向き合い、どんな考え方で公共空間をデザインしているのかを見ていきます。気候や文化の違いが猛暑の中の公共空間デザインにどう影響するのか、事例を深堀りしながら、日本の都市に活かせる学びを探っていきます。




