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公共R不動産のプロジェクトスタディ
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廃校を地域のクリエイティブ拠点へ。
良品計画の「土着化」への試み

良品計画の新たな事業として、千葉県大多喜町、鴨川市、南房総市などを舞台に、地域密着型のチャレンジが行われています。そのひとつの拠点である、大多喜町の旧老川小学校にうかがいました。

千葉県大多喜町の旧老川小学校。小学校には見えないモダンな建築!
千葉県大多喜町の旧老川小学校。小学校には見えないモダンな建築!

あの「無印良品」を運営する良品計画に、「ソーシャルグッド事業部」というチームがあるのをご存知ですか?  千葉県鴨川市で里山保全活動を行ったり、野菜や果物の直売所を運営したり、南房総市では「小屋」を販売したり、千葉県を中心に地域密着型の活動を進めている部署なのです。

今回は、2017年からコワーキングスペースとして、2019年からは「菓子シェア工房」としての活用も開始した、千葉県大多喜町の旧老川小学校にお邪魔しました。良品計画と千葉とのつながり、行政との関係、地域密着型活動の狙いなど、気になることがたくさん。株式会社 良品計画 ソーシャルグッド事業部の高橋哲さんと中川正則さんにお話をうかがいました。

中川正則さん(左)と高橋哲さん(右)。中川さんは旧老川小学校のマネジメントを中心に行い、高橋さんは鴨川市や南房総市を含めた千葉県での活動全体を取り仕切っている。

旧老川小学校との偶然の出会い。
地元団体と協力した運営体制

良品計画の千葉県での活動は、鴨川市での棚田保全活動からスタートしました。きっかけは鴨川市のNPOからの問い合わせだったそう。高齢化に伴い、維持管理が困難になっていた棚田の現状を知った良品計画では、棚田保全のイベントを開始。今ではお米作りだけでなく、里山文化を保全することを目的とした「鴨川里山トラスト」として活動を発展させています。

大多喜町にある旧老川小学校をコワーキングスペースとして活用しはじめたのは、2017年のこと。高橋さんが千葉県での活動を拡張できないかと周辺を回っていたところ、偶然この素敵な校舎に巡り合ったのだそうです。

生徒数減少のため、2013年に閉校した旧老川小学校。

「ふらっと坂を登ったら、このすごい校舎が見えました。大多喜町役場に話を聞きにいくと、当時はほとんど使われていなかったことが分かりました。スピード感のある町長のおかげもあり、半年もかからず賃貸借契約を結べました」と、高橋さん。

契約にあたっての条件は、地域行事でのホールの解放、緊急時の避難所やヘリポートとしての活用など、最低限のことだったそうです。草むしりや清掃などの校舎の維持管理は、良品計画が入る前から現在に至るまで、この学校の卒業生が集まって設立した「やまゆりの会」が行っています。

千葉県材も活用している校舎。

コワーキングスペースの様子。各教室の黒板などもそのまま残っています。

地域の新たな「コト」を生むコワーキングスペース

廃校をコワーキングスペースとして活用しようと思った理由をうかがうと、「良品計画として、地域に根ざした新しい小商いが生まれる場所をつくりたかったのです。理想としたのは、地域で人もモノもコトも循環するような場づくりです。鴨川市で高齢化という課題があるように、地域にはそれぞれの課題があります。せっかくなら住民の方々を巻き込みながら、地域の課題解決につながるようなことを楽しくやりたいと思ったのです」と高橋さんは話します。

つまり、良品計画はコワーキングスペースの利用料金だけでビジネスを成り立たせようとしているのではなく、地域に根ざした事業が生まれるハブとしてコワーキングスペースを運営しているのです。そのために、地域課題を楽しみながら学ぶイベントやワークショップを企画することもあります。

たとえば、この辺りで深刻な被害を生んでいる獣害を知ってもらうための「ジビエ料理ワークショップ」や、成長も繁殖も早いために増えすぎて問題になっている「竹」被害をテーマにしたシンポジウムなどが開催されています。大量にある竹を何かに利用できないか考えるなど、課題をポジティブに捉え、解決の糸口を探る機会をつくり出しています。

コワーキングスペースには、翻訳家、コンサルタント、自然教育の関係者などの地元の方も入居している他、遠方から休暇を兼ねてやってくるスポット利用の方もいるそうです。入居者のスキルを活かした住民向けワークショップを企画することもあるそうで、地域に開かれたコワーキングスペースとしての交流の場にもなっているようです。

コワーキングスペースの様子。

「食」を通した地域コミュニティの再構築

大多喜町の課題のひとつには、高齢者が気軽に集まる機会や、親子で遊べる場所が少ないこともあるそうです。それを知った高橋さんと中川さんは、地域コミュニティの再構築を目的とした「みんな食堂」という取り組みも始めました。

「みんな食堂」とは、こどもから大人までみんなで料理をつくって食卓を囲む活動です。参加者から希望を引き出してテーマやレシピを考えるのは、料理が得意なソーシャルグッド事業部のメンバー。多いときで30名以上の参加者がいて、毎回とても盛り上がるそう。

「みんな食堂」の会場になる元家庭科室。

小商いを応援する「菓子シェア工房老川」

2019年9月には、「菓子シェア工房老川」が新たに始まりました。教室がキッチンスペースとして改築され、地域内外問わず、誰でも利用することができます。

菓子シェア工房には、お菓子づくりに必要な設備、道具がたくさん。

マルシェなどのイベントで個人でつくったお菓子を販売するためには、菓子製造業で定められている衛生条件や設備の整ったキッチンが必要です。菓子シェア工房老川はその条件に見合った設備を持っているので、ここを利用すれば、誰もが気軽にお菓子販売を始めることができます。

お菓子工房を始めた理由について「小商いを始めたい人や、個人の挑戦を応援する仕組みをつくりたかった」と高橋さんは話します。「様々な作物が採れる大多喜町では、毎週のようにマルシェが開かれます。さらに良品計画で運営する鴨川や南房総でのイベントと連動すれば、賞味期限が比較的長くて運ぶこともできるお菓子の販売機会はたくさんあるのです」

都心にある同様のキッチンスペースに比べると、利用料金がとても安いのもポイント。4時間2000円から借りられる安さもあり(2020年1月現在)、様々な人が利用しているそうです。

地域とつながり、地域に特化した商品開発・店舗経営へ

「食」は、良品計画としても注目しているテーマだと高橋さんは話します。

無印良品といえば、いくつもの人気商品が思い浮かびますが…「地域に根ざしてみると、野菜も米も当たり前のようにその地域でつくられていることを実感します。良品計画としても、現在の品揃えだけではなく、地域に特化した食の商品があってもいいと考えています」

菓子シェア工房老川で生まれたお菓子が、ゆくゆくは千葉県のオリジナル商品として無印良品の店頭に並ぶなんてこともあるかもしれません。 実際に鴨川では、里山トラストプロジェクト発のオリジナルの日本酒が生まれ、東京や大阪、福岡の店舗で販売されています。

会社全体で地域を意識した取り組みが増えているのは、海外店舗数の増加や消費者とものの関わりの変化も大きいとお二人は話します。

「実は2019年12月時点で、無印良品の店舗数は海外が国内を上回りました。ものが売れにくい時代に、国内事業はなにをやるべきか。人は、独自性がなければものを買いません。すべてが同じ“無印良品“ではなく、鴨川なら鴨川の、大多喜なら大多喜の、ローカルに根ざしたお店があっていいと思うのです。地域と繋がりあい、課題解決を目指しながら、良品計画だからできることを生み出すことが大切だと考えています」

ここで言う「ローカル」とは、人口の多さや都心部かどうかに関係なく、東京でも大阪でも、人が住んでいる以上ローカル性があると考えているそうです。良品計画が地域に入ることでよりユニークさを引き出せるようになりたい、とお二人は言います。

“お店のない無印良品”という実験。
土着化のノウハウを全国へ広げていく

こうしたローカルに根ざした新しい事業づくりは、これからの良品計画のあり方を考える上での実証的な側面もあると言います。

「千葉では鴨川市、南房総市、大多喜町で活動していますが、運営形態や関わり方がそれぞれ違います。南房総は新しいライフスタイルを提唱する“小屋”の商品販売がメイン。鴨川市の直売所は、行政から指定管理を受けて運営しています。そして大多喜町では“お店”や“商品”がないのです。お店のない無印良品という実験でもありますね」

鴨川市で良品計画が運営する直売所「里のMUJI みんなみの里」写真提供:良品計画

これらは社会貢献活動ではないので、あくまでビジネスと両立させていかなければなりません。そのために、千葉県の取り組みをモデルとして他店舗に普及させていくことも意識していると高橋さんは話します。

「鴨川から良品計画全体に広がったのは日本酒だけでなく、しめ縄づくりワークショップもあります。鴨川で人気のワークショップを各店舗が独自に行なっているのです。他店舗の社員を千葉に呼んで、“ローカルに土着するとはどういうことか?”を肌で感じてもらいながら、研修を行なったりもしています」

ビジネスとして成り立たせるために意識していることをうかがうと「社内単独の活動にせず、社内外と繋がっていくことを大切にしています。今は、様々な輸送ルートを活用して千葉の商品を都内に運べないか模索しています。常にいろいろなコトやプレイヤーを繋げることを考えています」

「なにかしら動いていくと回っていくんですよ」と笑いながら話す高橋さん。

地域のプレーヤーとして。
行政と企業が連携した新しい地域づくりの形

旧老川小学校にしろ、鴨川や南房総の取り組みにしろ、共通して言えるのは行政や地域の方々との有機的な連携が不可欠だということ。「とにかく一緒に考えることが大事」だと高橋さんは話します。

「私たちは地域の人が求めていることを形にしたい。それは行政の方も同じで、一緒に考えること、一緒に汗をかくことを大切にしています。コンサルタント会社だと計画だけで終わることもあるかもしれませんが、良品計画は地域の人と繋がり、コミュニケーションベースでニーズを引き出すことが得意です。そのための場づくりを行なっています」

「みんな食堂」の様子 写真提供:良品計画

それらの取り組みを経て、行政から新たな相談を受けることもあるそうです。良品計画の活動は、企業が何か一つのコンテンツを地域に提供する以上の、まさに新しい地域づくりに寄与している動きに思えます。

大多喜町の菓子シェア工房も、みんな食堂も、鴨川の直売所も、あくまで何かやりたい個人や生産者のみなさんが主役の取り組みです。それらの活動は地域課題をきっかけに生まれ、さらに良品計画もビジネスとしても両立させようとするからこそ、持続力のある活動になっているのではないでしょうか。

茨城県常総市との市営住宅活用のための協定や、積雪などのあらゆる気象条件でも対応する全天候型自動運転バスのデザインなど、ますます目が離せない良品計画の取り組み。引き続き注目していきたいと思います。

編集:中島彩
撮影:森田純典

PROFILE

ライター
公共R不動産

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