ハビタ的 自然化する都市のつくり方
ハビタ的 自然化する都市のつくり方

葉山で進行中。住民から始まるグリーンインフラの取り組み(前編)|ハビタ的 都市のつくりかた vol.8

人間や植物、その他の生物たちが気持ちよく共存するハビタット(居住・生息空間)をつくる、これからの都市デザインについて考える連載「ハビタ的 自然化する都市のつくりかた」。vol.8は、葉山で行われる、住民によるグリーンインフラづくりについて。水がまちをどう流れるのかを住民と把握するフィールドワーク手法としての「みずみちウォーキング」をレポートします。

水害リスクを自然の力でいなす「グリーンインフラ」

昨今、豪雨の規模が大きくなり、多発化し、水害や土砂災害が各地で増加していることを毎年この時期の出水期のニュースや、あるいは自分が住むまちにおいてもひしひしと感じる。令和元年の水害被害額は約2兆1,500億円となり、国の統計開始以来最大であった(※1)。気候変動により、更なる水害の頻発、激甚化が懸念されており、国土交通省によると、20世紀末と比べて2040年頃には、全国の一級水系で洪水の発生頻度は平均約2倍になると試算されている(※2) 。

※1 国土交通省:「流域治水」の基本的な考え方,2021,
https://www.mlit.go.jp/river/kasen/suisin/pdf/01_kangaekata.pdf
※2 国土交通省,気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会:気候変動を踏まえた治水計画のあり方提言,2019, https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/chisui_kentoukai/pdf/04_teigenhonbun.pdf

これだけの規模や頻度が拡大した地球規模の変化である大雨にどう対応するのか。治水とは、河道に水を早く流し、堤防で防ぐのが基本であったが、国土交通省は、もはや河道と堤防だけで洪水を防ぐことは難しく、流域の多様なステークホルダーの連携・協働によって、流域全体で水を貯めることにより、洪水を防ぐ「流域治水」という基本方針を2020年に発表した(※3)。これは、明治以来の河道中心のはやく流す治水から、流域全体で水をゆっくり流す治水への大転換であるといえる。河川管理者だけが行う治水から、山林から街までいろいろな場所で様々なプレイヤーが水を貯める全員参加型の治水への転換である。

このような転換は、日本だけでなく世界中でも同様の変化があり、気候変動への適応策として、自然の力をうまく活用し、防災・減災を行いながら、地域の魅力向上などにも貢献する取り組みである「グリーンインフラ(Green Infrastructure)」という考え方が各国の都市で広がっている。

※3  国土交通省:流域治水の推進,2020,
https://www.mlit.go.jp/river/kasen/suisin/index.html

米国ニューヨーク市ゴワナス地区では、雨水をいったん土に浸み込ませるデバイスとして、グリーンインフラを取り入れている。運河の手前に浸透緑地「スポンジパーク」が整備され、道路の表流水が運河に流入する直前に砂利層でゴミや汚染物や泥をこしとって運河に流れていく。左側が道路、右側が運河。

グリーンインフラには様々な方向性、手法があるが、豪雨や水害への対応という点では、雨水の浸透貯留を行うタイプが最も有効なグリーンインフラの方法である。米国環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)の定義(※4)では、植生、土壌など自然のプロセスを復元して水管理を行い、より健全な都市環境を創出することであり、近隣区、敷地規模では、自然を模倣した雨水管理システムにより雨水の浸透、貯留を行うことである。

※4  EPA (2014):what is green infrastructure? 
https://www.EPA.gov/green-infrastructure/what-green-infrastructure

例えばニューヨーク市では2010年に”NYC Green Infrastructure PLAN”が策定され、2030年までに非浸透域の雨水表面流出10%削減(約25mm/時間降雨)を掲げ、15億ドルのインフラ投資を計上している。同様のことは、ポートランド、ロンドン、コペンハーゲンなど世界中の都市で進んでいる。この理由は、都市はアスファルトやコンクリートなどのつるつるの非浸透域に覆われてしまい、降雨が土に浸透せずに地下の下水道に入り、それが川へ一気に流出されることによって洪水のリスクが高まり、また汚水と雨水管が同じ合流式下水道では水質の悪化を招いているのが世界共通の構造的な課題であるからである。

グリーンインフラでは、単機能的に水を貯めるダムのような「グレーインフラ」と比べて、たとえば、まちの浸透地の緑により、都会のオアシス的な癒やしスポットが増えたり、生息できる生物が増えたりといった多機能性の発揮や多様な便益を提供できることが特徴となっている。そして、自然のナチュラルな機能をうまく活用するので、アスファルトのように施工後はある程度放置していいというものでなく、適切な維持管理が必要で、地域の主体の参加も非常に重要とされている。

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ニューヨーク・ゴワナス地区のグリーンインフラ|ハビタ的 都市のつくりかた vol.5

住民が主体的に関わるグリーンインフラとは?

一方で、上述したような流域治水、グリーンインフラを市民や行政が様々なステークホルダーと連携・協働しながら取り組もうとするとき、様々な困難にあたることが想像される。

たとえば、流域とはそもそも何なのか?雨水が集まる範囲を自分の地域でどう知ればいいのか、さらに、まちの中で雨水はどう流れて川に至るのか、自宅の雨樋や道路の側溝はどう下水道に接続されて、下水道はどこに水を運ぶのか。

「雨が降って、まちなかを水が流れる」という本来シンプルであったはずの現象を知ろうとするだけでも、分からないことだらけである。ましてや、その雨水をどのようにして市民や民間企業、行政が連携協働しながら貯めて、流して、治水につなげればいいのか、そのソリューションは簡単には見えてこない。

本記事では、住民の目線にフォーカスし、上から押し付けられたり、やらされるのではなく、自ら主体的に、水のリスクを発見し、周囲と共有し、「自分ごと」の取り組みとして、防災や減災に寄与するグリーンインフラや流域治水を導入する方法を提示する。

神奈川県三浦半島の葉山町。

本手法は、筆者が2年前より居住している神奈川県三浦半島の葉山町で実践した取り組みをベースとしている。手法としては主に2つ。

① 水がまちをどう流れるのかを住民と把握するフィールドワーク手法としての「みずみちウォーキング」

② 雨水を敷地で貯め、浸透させることで、洪水を抑制するレインガーデン(あまにわ)をコミュニティガーデンとして市民協働でつくる

ひとつめがリスクの把握、ふたつめがソリューションといえる。それぞれシンプルな手法だが、組み合わせると効果的なグリーンインフラや流域治水のミニマム版を形成することができる。この方法論では、行政のスケールや河川管理者のスケールでなく、自分が住む家、自分たちがすむ街の町内会エリアでまずは自主的にやってみることを目標としている。

本稿では、まず「みずみちウォーキング」から紹介し、次回にレインガーデンを取り上げる。では、レッツウォーク。

まちに雨水がどう流れるのかを知る「みずみちウォーキング」

葉山のランドスケープの特徴は、市街地が相模湾に面した低地から丘陵地に多くが集中し、背後の斜面地から平地までの距離が短いことだ。鎌倉、逗子なども同様であるが、住宅地の裏にすぐ樹林化した崖である斜面林と面している。

また、「こみち」と呼ばれる小さな細道のネットワークがたくさんあり、それらはかつての農道や旧道であったことが多い。葉山町には、森戸川、下山川の2河川が流下し、ほぼ町内だけで源流から河口まで流域が完結するのだが、まちなかでは、小さな水路や暗渠化されている部分も多く、全面的には流れが見えないようになっている。

熱海ですさまじい土石流による被害が発生した2021年7月1日から3日の豪雨では、葉山町でも観測開始以来最大値になる累積雨量320mmに達し、逗子インター付近で崖崩れが発生し復旧に数ヶ月を要した他、市内の住宅地背後の斜面林で複数箇所の崖崩れが発生した。葉山町では、幸い人命に関わる災害は発生しなかったが、斜面林の状況や、防災や減災に関心を持つ住民が増えていった。

そのような状況の中で、「葉山みずみちウォーキング」というイベントを企画した。まちに降った雨がどのように自分たちが住むまちなかを流れて、川へ達するのかを追跡し、実感するまちあるきイベントである。

雨は、すぐ川に入るわけではない。道路の表面を流れ、校庭や公園の土壌から溢れ出し、側溝から地下の雨水管という下水道に入り川へ流されるパターン、水路に入り流れていく経路などいろいろある。時には雨水が溜まり水溜りになっている場所や道路なのに川のように流れている場所だってあるだろう。これらを住民で歩きながら、把握し、まちなかの雨水の流れを追いかけるのだ。

イメージとして、ミズベリング的「流域治水」ソーシャルデザイン2022において、葉山以外でも、府中、横浜市白根地域で行った「流域ウォーキング」のイラストを図1に掲載する。

図1 流域ウォーキングのポイント(ミズベリング的「流域治水」ソーシャルデザイン2022研究会パンフレット https://mizbering.jp/archives/28968 より)

「葉山みずみちウォーキング」は、NPO葉山環境文化デザイン集団と私の共催で行うこととし、2022年1月15日に第一回を開催した。みずみちウォーキングの出発地点は、堀内の地域のコミュニティー拠点であり、葉山の暮らしを楽しむ一棟貸しの宿泊・スペース貸し施設「平野邸 Hayama」を選んだ。

葉山平野邸

平野邸では、地域の住民らによるコミュニティーガーデンが営まれており、また、雨水浸透貯留施設である「あまにわ(レインガーデン)」を筆者ら地域の有志で設営している。集まった参加者は、地域の住民や町内会長、環境団体メンバー、編集者ら20名ほど。ウォーキングにあたり、歩くエリアでどのように雨水が地表を流れているのか、GISを用いて、地形的に尾根線で囲まれて水が集まる範囲である集水域(小流域)を、エリアの中で分割した小流域区分マップ(図3)を配布する。

小流域マップには分割した各小流域の最も標高が低いラインに沿って、地形的にはここを水が流れますよという推定された支流の位置をプロットした。

(図3)葉山みずみちウォーキングマップ
左 みずみちウォーキングの様子。 右 堀内向原を流下する森戸川支流。

川のように水が流れるこみち

平野邸にて、葉山の地形や水系についての説明、あまにわを通した市民協働による流域治水の解説を行った。その後、葉山町堀内向原地区を流下する森戸川支流に沿って、低地エリアを歩いた後、山側に向かって坂となっているこみちを上った。

坂の途中で住民から「雨のときは、ここは川のように水が流れる」と指摘された場所があった。擁壁に囲まれ、アスファルトとコンクリートで覆われたこみちは、三面コンクリート張りの水路と同じような状況になっており、ある程度雨が降ると、確かにここが川のように雨水の通り道になりそうだなということが一見して分かる。そのみちでは、道路を横断する側溝で表流水を受け止め、道路脇の縦断方向の側溝に雨水を流すようになっている。

雨の日は川のように流れるこみち。

横から縦方向の側溝に雨水を移す部分にコンクリート枡があるのだが、ここから雨水が吹き出しているという指摘もあった。ならば、この枡を浸透化すれば、溢水が抑えられるのではないか。浸透枡ひとつであれば、地域の住民によって市民で工事して(市民普請 ※5)浸透化することができるのでないか、などが現場で議論が起こった。こみちは葉山の住民にとって身近な存在なので、かつての「溝浚え」のように、自分たちで水の流出をケアできるかもしれない。

※5 市民が主導的な役割を果たしながら、地域を豊かにするために実践する公共のための取り組み

横断側溝が縦に切り替わるポイントで溢水する。ここを浸透桝に変えたい。

さらに、坂を登っていくと、擁壁の下に水が出ている水抜き穴があったが、住民によると常時水が出ていることが判明した。地形的にも斜面への傾斜が急に切り替わる変換点で、斜面林からの湧水が出ているポイントであった。

土砂災害では、擁壁の水抜き穴から濁水や、普段よりたくさんの水が出ることなどが異変の予兆として一般的に捉えられるようだ。ならばこの湧水も、日常から斜面地の地下水の状況をモニタリングするポイントとして価値があるのでないかということが共有された。

常時水がでている擁壁下の水抜き穴

「雨のときは、滝のように流れてくる」と住民が言う坂と出会う。この坂から流れる雨水は、その下方向にある住民の住宅敷地に流れ込んできて、庭に水がぐずぐずに溜まってしまう場所があるという。その場所に砕石などを使い地中に水を浸透させるレインガーデンを設置すれば、水はけが改良され、こみちの表流水の流れから自宅を守ることができるのではないかとの議論を行う。

このように、現地でまちなかを流れる雨水の流れを見ながら、住民が自分たちでできること、身や家という資産を守るためのソリューションを議論できたことが、みずみちウォーキングの思いの外の効果であった。参加者が当事者としてみずみちを捉えたことが、議論を誘発するのでないかと考える。

雨の日は滝のようになる坂
上の写真の坂から自宅の庭に水が流れ込んでくる。ここにレインガーデンをつくって浸透させたい。

がけ崩れの現場で

まちの坂を登りきったところに、住宅地に面した斜面林が現れ、昨年7月に発生した崖崩れ現場を訪れた。崩落現場は、大峰山を源流とする森戸川の支流が谷戸から出て屈曲した地点にある。崩落は、自然の渓流がコンクリートの水路に切り替わった先のポイントで起こっていた。水路のすぐ下流部には砂防堰堤があり、崩落した土砂は砂防堰堤背後の水路を埋める形で留まった。その結果、隣接する家屋への被害はかなり軽減され、決定的なダメージには至らなかったことが不幸中の幸いであった。斜面林と住宅地のあいだにバッファーゾーンが存在することが被害を軽減するために重要であることが参加者に理解された。

2021年7月3日豪雨のがけ崩れ現場

斜面の崩壊のメカニズムは、非常に多い累積雨量によって斜面の土壌が飽和し、葉山層群の脆い砂岩泥岩互層が泥化し、一気に表層が崩れたことが考えられる。

このときに斜面に這えていた大きな樹木の自重がトリガーとなったことも否定できない。葉山に限ったことでないのだが、日本中の郊外の里山エリアでは、かつては薪や炭として定期的に伐採されていた樹林が、化石燃料へのエネルギー源の変換により、1960年代以降には人の手が入らなくなり、いわば現在は、歴史的に最も樹林が「野生化」した時代であるといえるのだ。

放置された樹林は巨大化し、林冠は葉に覆われ、林床まで光が入らず、下草が貧弱な状態になっている。その結果、表面土壌は雨で流出し、樹木の根がむき出しに露出し、根が地中に深く隅々まで入り、土壌や岩石を保持する力が低下している。放置された斜面林の巨樹は、根が浅く、強風に煽られて倒れやすい。土壌が不安定な時に倒木が起こるとがけ崩れを誘発する。郊外の斜面林の土砂災害は、このような高度経済成長期以降のヒトの利用の変化も含む複合的な要因により発生している可能性がある。

以上の土地利用の変遷を踏まえ、斜面林から市街地にかけてグリーンインフラによるソリューションを展開するイメージを図4に示す。

図4 斜面林から市街地のグリーンインフラ展開イメージ(筆者作成)

まず斜面地と住宅の間に適切な距離のバッファーゾーンを設定することが理想的には必要である。コンクリートの水路よりは、この図のように雨水を一時貯留できる水田や溜池、市民農園的な畑地などがあると、水循環としても望ましい。

樹林地では巨大化した樹木は伐採し、適切に林床に光を入れ、低木層、林床の下草を成長させ根により土壌を保持させること。竹や木などの素材を利用した粗朶工法を組み合わせ、斜面を安定的に保つこと。土壌の通気性、浸透性を回復させ、土中に浸透した水がゆっくりと地下水として流れ、表面を一気に流出しないような環境を保つことが必要であると考えられる。

砂防堰堤の倒木と向き合う

がけ崩れ現場から斜面林を水平に移動し、開けた水田がある丘陵地に移動した。この丘陵地では土地所有者により、棚田と里山景観が維持されている。水田の水路は背負う山からの水を引いているが、水を辿り山に入ると、倒木や土砂に埋まりつつある砂防堰堤が現れた。

草の上にいる電車

低い精度で自動的に生成された説明
開けた丘陵地の棚田風景、海も見える。
左 水田を流下する水路 右 山側の砂防堰堤

これも先程の堰堤と同様、県の治山事業で建設されたものだが、建設後ずいぶん年月が経っており、きっちり管理がなされているとはいえない状態で、土砂堆積により機能がかなり低下しているように見えた。

参加者からは、自主的に、砂防堰堤に埋もれた倒木を伐採し、薪として再利用してはどうかという意見が出た。葉山は薪ストーブや暖炉など薪を使うニーズがあるので、地産地消で木材を市民がリサイクルすることにより、公共で管理しきれない砂防堰堤の機能を回復させようという意見である。ただ、実際にチェーンソーなどを使って倒木を人が運べるサイズに切る作業も必要で、その能力を意見を出した参加者が持っているかというと、そうでもない。だが、葉山にはチェーンソーを使い、木を切り出す能力を持つ人や組織も多く存在する。

倒木と土砂により埋まったままの砂防堰堤

「まずは倒木を利用することに関心がある人が、能力を持つ人に学び、木を切り出す能力も身につけよう」「エネルギーの自給自足、かつ自立的な防災減災の活動へと展開できるのではないか」という議論に展開した。これは斜面林が伐採されずに大きくなっていることにより、自重で巨木が倒木してしまうことが、土砂災害のトリガーのひとつになっていることの理解から出た意見でもある。

里山の樹林は長らく伐採されず巨木化している

参加者とのディスカッション

最後にスタート地点の平野邸に戻り、参加者と感じたこと考えたことの話し合いを行った。

参加者のディスカッションをまとめると、

「葉山の高低差、景観の多様さに驚いた」
「自分の住まいからスケールを拡大させ水の流れに思いを馳せることができた」
「自分では追いきれない水の流れについて知ることができた」
「突然現れる川、暗渠となって潜る川、水の流れをもっと知りたい」など、

まず第一に、地形のアップダウンを歩くことを通して水の流れを認識することができたこと、その楽しさ、喜びが共有された。

第二に、まちのこみちでの溢水を抑えるために、横断側溝の枡を浸透桝化することや、表流水対策として住宅の庭でレインガーデンを設置することなど、自分たちができることをDIYで行い、身を守ろうという考え方が支持された。

参加者からは、市民が「小さな関与」を通してまちのことを考える重要性が語られ、「小さな関与」を行いながら、葉山のまちづくりに対するグランドデザインも同時に考えていくことが大事だと共有された。

第三に、砂防堰堤の倒木を切り出し、薪化できるスキルを身に着けることを目的とするワークショップを開催し、そのような能力を持つ住民により斜面林の管理を行うアソシエーション(組織体)を形成しようという意見が出た。

個人の活動でなくグループの活動として継続的に斜面林を利用し、資源の再循環に取り組みたいという案だ。これは、薪による暖というライフスタイルの楽しみが、エネルギーの循環や、斜面林の定期的な管理による土砂災害の抑止につながり、多機能性や持続可能性を伴うすぐれたグリーンインフラ的なアイディアだった。

平野邸に戻り参加者と流域ウォーキングで感じたこと、考えたことを話し合い共有する。

フィールドワークショップ手法としての「みずみちウォーキング」のポイント

以上、みずみちウォーキングを通して、自分の住むまちの範囲で「流域」を水の流れから体感し、課題を把握し、解決案を住民同士で話し合い、考えることまでが実現できたことを示した。グリーンインフラを住民主体で検討するワークショップ手法としての、みずみちウォーキングのポイントを以下に3点示そう。

一点目は、歩きながら「水の気持ちになって」、水が高い場所から低い場所へと流れていくのを追いかけてみることだ。

都市では、立ち入れない側溝や暗渠、道路などによって水の流れが一見わかりにくい場所もある。そうであっても、水はただ重力に寄って低い方へ流れゆくだけなので、水はどう流れたがっているのか、水の風景を視点で見てみると、流れの繋がりが自然と浮かび上がってくる。水の経路を予想できるようになったら、その分だけ水のリスクを避けることも可能になる。

二点目では、水の流れを把握したら、それがどう利用できるか、どう解決できるのか現場で考えてみよう。

側溝の枡、擁壁の水抜き穴、坂を下る流路、砂防堰堤の倒木、目の前に出現したもろもろの事物は資源になりうるかもしれない。ちょっと手を加えれば、うまく水が詰まらずに流れてくれるかもしれない。少しだけの雨水を地面に浸みこませることができれば、庭がひどく泥まみれになるのを防げるかもしれない。少しだけ引いた目で、水の流れを眺めてみよう。でも後で会議室や集会所で考えては駄目だ。いま、目の前にある事物と共に、周りの人びとと共に考えてみよう。

三点目は、楽しいことは主体性につながるということだ。

防災や減災だからといってびくびくすることはない。水の流れは客観的に把握できるもの。正しくリスクを知ることができたら、あとは楽しみや自分の趣味、気持ちよさといったフィーリングで水や土、植物たちとどう付き合えるのかを考えてみよう。

災害はいつやってくるかわからない。それに備えて、その被害を和らげるのは一時的な付き合いでは駄目だ。継続的な取り組みが必要となる。だったら、楽しくないと続かないのが人間の性というもの。ガーデニングが好きなヒトはそんな気持ちでレインガーデンを作ってみたらいいし、自分で薪を手にいれる生活が楽しいから倒木を切ればいい。「結果的に」防災にも役立っているという順序が大事だ。防災が先なのではない。「あ、これもそれも、実は防災になっていたよね」と。

まずは楽しいことをはばからずに声に出してみよう。インスピレーションは、ローカルのサイズや自分のサイズにぴったりくる「エンジョイ防災スタイル」を導いてくれる。

次回は葉山で住民が実践するグリーンインフラ手法の後編「コミュニティでレインガーデンをDIYし、洪水を抑制する」を掲載します。

PROFILE

滝澤 恭平

ランドスケープ・プランナー/編集者 ハビタ代表、株式会社水辺総研取締役、「ミズベリング・プロジェクト」ディレクター、『ハビタ・ランドスケープ』著者。1975年生まれ。大阪大学人間科学部卒業、角川書店に編集者として勤務。2007年工学院大学建築学科卒業、ランドスケープ設計事務所・愛植物設計事務所にランドスケープデザイナーとして勤務後独立。2014年東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。以降、九州大学大学院工学府都市環境システム専攻博士課程にて都市河川再生とグリーンインフラの研究を行う。2015年水辺総研を共同設立、全国の水辺のまちづくりや河川再生を精力的にサポート。2019年、日本各地の風土の履歴を綴った著書『ハビタ・ランドスケープ』刊行。地元の水辺として、東京杉並区の善福寺川を市民力で里川にカエル「善福蛙」で活動を行っている。

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