公共R不動産のプロジェクトスタディ
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所沢の各所でまちを使いこなし、魅力を引き上げる二日間!社会実験「STREET PLACE CHALLENGE」&回遊プログラム「TOKOROZAWA DESIGN WALK」開催レポート

2023年11月18日(土)19日(日)、所沢駅周辺エリアのパブリック空間を活用した社会実験「STREET PLACE CHALLENGE」が開催されました。さらに、同日開催のイベントと連携し、ガイドマップを通じた魅力発信プログラム「TOKOROZAWA DESIGN WALK」も同時開催。エリア一体の回遊性を高めながら、パブリック空間やストリートの活用可能性を探りました。当日の様子をお届けします。

令和3年度、埼玉県所沢市では、所沢駅周辺エリアにおける街づくりの方向性を示す「所沢駅周辺グランドデザイン(以下「グランドデザイン」)」が策定されました。RFA・オープン・エー(公共R不動産)・ハートビートプランの3社で、グランドデザインをベースに、エリアの未来を描き・具体的に実践するプログラム「TOKOROZAWA STREET PLACE」を推進しています(詳しくはこちらの記事もご覧ください)。
今回の記事では、2023年11月18日(土)19日(日)に開催した社会実験「STREET PLACE CHALLENGE」と、同日開催したエリア回遊プログラム「TOKOROZAWA DESIGN WALK」の模様をお届けします。

所沢旧町エリアの未来を描き、実験!「STREET PLACE CHALLENGE」

2022年度に続き2回目となる社会実験。今回はグランドデザインで設定した重点エリアの10箇所のうち、”元町コミュニティ広場””旧市役所前””所澤神明社”を会場に選定。昔ながらの商店街が残りながらも、タワーマンションが立ち並び、新たな住民も多く暮らす、新旧住民が混在しているエリアです。パブリック空間を活用した社会実験を通して、エリアの印象を変え、近隣の住民がこのエリアの暮らしを楽しんでもらうようなきっかけをつくりたい。そんな思いのもと、今年の「STREET PLACE CHALLENGE」では所沢ローカルの魅力をぎゅぎゅっと詰めた企画を展開!

クラフトや食のマーケットを開催した元町コミュニティ広場

元町コミュニティ広場では、石窯ピザのキッチンカー、ドーナツ、コーヒー、織り物やアートワークショップの体験スペース、お花や地元産の野菜を販売するお店を集めたクラフトと食のマーケットを開催。オリジナルのストリートファニチャーも設置し、普段何気なく通りすぎる場所を居心地のいいリビングのような空間に設えました。

ロスフラワーを活用したお花屋さんの出店も
多くの方で賑わうマーケット

旧市役所前では、車の乗り入れの心配もなく広いスペースが確保できることから、ハンモックやソファなどを使いよりゆったり過ごせる空間に。こども向けの遊具や駄菓子屋さん、本屋さんやコーヒースタンドなど、親子で楽しめる「プレイパーク」のような場所を作り出しました。

ダンボールを活用したこども向け遊具。
ポータブルなこども向けプレイキットも設置
大人も楽しめる本屋さんも登場
こどもたちも気軽に買える価格の、昔懐かしい駄菓子屋さん

所澤神明社は、敷地に入ると豊かな緑が迎えてくれる、都会の雑踏を消してくれるような場所。静けさと自然とのつながりを感じてもらえるような空間を意識し、アーティストによるサウンドインスタレーションをメインに、親子でもゆっくり過ごせるエリアとして天然酵母のパン屋さんや焼き芋、お茶やコーヒーを提供。また、当日は七五三で来場する家族連れも多数いたことから、家族連れでも落ち着いて過ごせる場の設えを意識し、ファニチャーやベンチも設置。他の会場とは少し空気の異なる、ゆったりとした空間となっていました。

神社の入り口付近で開催したマーケット。
気軽に自分なりの憩いの場を作り出せる「プレイスメイキングキット」のファニチャーを設置
手前に見えるマップには、来場者の皆さんに付箋でおすすめスポットを記載してもらいました

コーヒー片手におしゃべりしたり、ローカルの作家さんやアーティストの方と会話しながら買い物をしたり、こどもがあちこちで遊んでいたり。個性あふれる出店者の皆さんと一緒に、日常の風景をおだやかに変化させる実験的な空間が生まれた今回の「STREET PLACE CHALLENGE」。
全体の企画に携わる公共R不動産の飯石は、「今回は、昨年度の社会実験でテーマに掲げた「ローカルの経済循環」「地元の人が地元を知る・新たな魅力に出会う」という要素を引き続き意識しつつも、ストリートファニチャーやこども向けのプレイキット、音楽を活用した環境づくりなど、空間自体の可能性を広げることも意識しました。STREET PLACE CHALLENGEという名前に込めたのは、社会実験であるという意味合いももちろんのこと、所沢で新しく何かチャレンジしたい人たちを応援する場でもありたいという思いです。

今回のようなマーケットへの出店をはじめ、将来的には、街なかの空き店舗などを活用してお店を出して、沿道の風景が変わっていくような、そんなエリアの未来も見据えて社会実験の企画を考えていきました」

また、今回の社会実験の目的を検証するための調査も実施しました。出店者の多くが、今回の社会実験の取り組み・意図に共感して出店してくださっていたことに加え、売上に関しても当初想定よりも高かったという回答が多く、エリアとしてのポテンシャルや地域内経済循環に向かう成果が見えてきたことも特筆すべき点として挙げられます。

来場者からの声では、ファニチャーが置かれていてゆったり過ごせた、街なかでくつろぐことができてよかった、といった声も挙がっています。さらに、パブリック空間の活用が街の魅力につながると感じた方が97%にも及んでおり、今回のようなマーケット等のイベント開催にとどまらず、子供の遊び場が増えるというような日常的な価値まで感じている方が多数いることが見えてきました。他のイベント帰りに寄ってくれたり、散歩がてらマーケットをのぞいてくれる方もよく見かけたとのこと。他のパブリック空間との相乗効果も狙いながら、これからも所沢の街を一緒に面白くすることに共感してくれるまちのプレイヤーの方と一緒に実験を重ねていきたいと飯石は言います。

思わず”歩きたくなる”ストリートに!「TOKOROZAWA DESIGN WALK」
同日開催された7つのイベントとの連携

同日開催した回遊プログラム「TOKOROZAWA DESIGN WALK」では、「暮らすトコロマーケット」やインフラスタンドによる「KAWAYA市」などの地域プレイヤーの主催によるイベントから、西武鉄道やKADOKAWAという大企業主催のものまで、合計7つのイベントと連携して企画されました。

多様なコミュニティや新旧の所沢カルチャーがつながり、街の魅力をたっぷり味わえる2日間を目指し、各連携イベントの紹介や、おすすめコースを掲載したエリアマップも制作。マップ片手に街歩きを楽しむ方々があちらこちらに見られました。いくつかの連携イベントを紹介します。

(TOKOROZAWA DESIGN WALK連携イベント)
・暮らすトコロマーケット(航空記念公園)
「つながる・交わる・暮らしと手しごと」をテーマにしたクラフトフェア「暮らすトコロマーケット」は今年で9回目の開催。所沢や入間、狭山などの出店者を中心に、県外からの出店も多く、2万人以上の来場者が訪れました。

・KAWAYA市(インフラスタンド)
新しいまちの公共トイレ兼コミュニティスペース「インフラスタンド」でのマーケット。今回は前の道路を歩行者天国にし、隣接する都市計画道路の予定地も活用してエリア拡大して開催。夜は「KAWAYA夜」としてアートインスタレーションやライブ演奏も行われ、幻想的な空間が広がっていました。

・一日だけの雑貨屋さん(東京堂時計店)
元町に長く続く「東京堂時計店」の軒先で定期的に開催されているクラフトマーケットです。クラフト作家を中心とした多くの出店者が軒先を彩っていました。

・西とこ文化祭(西所沢エリア10か所)
西所沢駅周辺10カ所を拠点に、まちのカルチャーを醸成するプログラム。アート・音楽・食などを通じて文化を楽しむ「西とこ文化祭」が開催されました。古民家やアパートなど10会場を拠点に、所沢周辺で活動する作家やアーティストが参加しました。

・YOT-TOKO文化祭(YOT-TOKO)
ところざわサクラタウンに隣接する所沢市観光情報・物産館で行われたイベント。移動型銭湯屋台がポップアップで登場。地元の高校生・大学生も参加してイベント企画していくあたりも、文化祭さながら!

・武蔵野回廊文化祭(ところざわサクラタウン)
コスプレや漫画のポップカルチャーと、地元の伝統文化をまぜこぜにしたプログラム。ローカルのプレイヤーに協力いただいた縁日やアニソン盆踊りも開催。

・西武線アプリスタンプラリー(西武鉄道)
西武鉄道では一連のイベントをつなぐ駅周辺を拠点としたデジタルスタンプラリーを実施。

現在、所沢駅東口と西口の再開発を進める西武鉄道。西武線アプリスタンプラリーを担当していた、西武鉄道沿線価値創造本部の今成さんは「今後も地域と連携し、街全体を盛り上げていきたい。駅だけで閉じて街と断絶するのではなく、地域・行政と一体になってまちづくりに寄与するために、所沢の駅ごとの個性を発揮した活動をこれからも続けていきたいと考えています」と話します。

市民、プレイヤー、行政、企業が一緒に進めるまちづくりを目指して

今回のプログラムの主催者である所沢市役所都市計画課の増子課長は、一連の取り組みについて、「今回、実験的に創出された空間はとても魅力的。日常的にこういう場が生まれるような仕掛けを官民連携で考えていきたい」と話します。

「モノを消費する時代から、感覚的な豊かさや共感ベースの思考に価値観がシフトする中で、まちづくりに求められることも多様化しています。行政の役割はハード面の整備などが主となりますが、今後も、多くの人が共感できるパブリック空間の活用実験を通して、市民やプレイヤーの皆さんとソフト面も一緒に考える機会をつくり出せたら」

業務推進メンバーのひとり、RFAの藤村龍至は「今回の社会実験を踏まえて、改めて所沢の価値を見つめ直すことができました。これからも、より多くの方々に所沢の魅力を再発見できるような機会をつくり出していけたら」と話します。

藤村「今回連携した7つ+1のプログラムのうち、4つが”マーケット”で、3つが”文化祭”というスタイルでした。コンセプトやテーマは異なりますが、それぞれが大切にしているカルチャーを醸成・発信しながら、街全体を盛り上げている共通点があります。

地域のあちこちが会場になった西とこ文化祭や、大きな公園や芝生が会場の暮らすトコロマーケット、パブリック空間を活用したSTREET PLACE CHALLENGEなど、エリアの多様な活用可能性を示すことができていることもユニークなところ。2024年度も、個人から行政、企業まで多様なコミュニティが連携し、刺激し合える環境を生み出していけたら」

当日参加したプレイヤーの皆さんへのインタビューを収録した動画レポートも後日公開予定です。ぜひご覧ください。

公式インスタグラム

PROFILE

阿久津 遊

1988年宮城県生まれ。ワークショップ等のこども向けプログラムの企画運営に携わり、公共空間活用に関心を持つ。2018年から公共R不動産にライターとして参加。

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公共R不動産の本のご紹介

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