公共R不動産のプロジェクトスタディ
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公園を飛び出し地域と連携する、これからのパークマネジメントのかたち

誰もが気軽に訪れることができる都市の中の自然として存在感を増す公園。東京の西部を中心に、現在、都立18公園、市立55公園のパークマネジメントに携わるNPO birthは、海外の公園のあり方からヒントを得て、日本ならではのパークマネジメントのスタイルを確立してきました。そんなNPO birthが運営する公園は、周辺エリアとも連動しながら、まさに地域のハブとして、またグリーンインフラとして重要な役割を担っています。そんなパークマネジメントのあり方について、NPO birth事務局長の佐藤留美さん、事務局次長の礒脇桃子さんに、公共R不動産のプロデューサーの馬場正尊と、メディア事業部マネージャーの飯石藍がじっくりお話を伺いました。

NPO birthがマネジメントを行う武蔵国分寺にて、公園地元のパン屋さんが主体となって開催された「Sunday Park Cafe」

NPO birthのミッションは都市の「公園力」を向上させること

飯石 佐藤さん、この度はお話を伺う機会をいただきありがとうございます!NPO birthは都立18公園、市立55公園と、とても多くの公園マネジメントに携わっていらっしゃいますが、あらためて組織の設立の経緯や活動内容などについて教えてください。

佐藤留美さん(左)と馬場正尊(右)。公共R不動産のメンバーも興味津々で出席します。

佐藤留美(さとう・るみ)
NPO法人NPO  b i r t h 事務局長/NPO法人Green Connection TOKYO代表理事 ほか
仙台市出身。東京農工大学農学部 森林利用システム学科卒業後、1997年にNPO birth設立。2006年に指定管理事業開始。現在都立18、西東京市立54公園、守口市立1公園​​の指定管理を担う。2018年 GCT設立。施策の検討会等に参画​​。著書(共著)に『パークマネジメントー地域で活かされる公園づくり』(学芸出版社、2011年)、『パークマネジメントがひらくまちづくりの未来』(マルモ出版、2020年)、『みどりの市民参加-森と社会の未来をひらく-』(日本林業調査会、2010年)​​​​がある。

佐藤 NPO birthは1997年、「人と自然が共生できる社会」の実現を目指して、4人の仲間と共に設立しました。NPOという組織形態が注目され始めたのは1995年の阪神大震災がきっかけとされていますが、特定非営利活動促進法(NPO法)が制定されたのが1998年なので、NPO birthはまさにその黎明期に立ちあげたことになります。

当時の日本にはまだ自分たちがやろうとしているNPOのロールモデルが存在していなかったので、設立前にはNPO先進国であるアメリカに視察に行き、興味のあるNPOを片っ端から訪ねてまわりました。多くの海外事例から学んだ市民協働のノウハウを取り入れつつ、少しずつNPO birthとしての活動を国内でも展開していきました。

転機となったのは2006年に初めて都立公園(狭山丘陵の4公園)の指定管理を担ったことです。設立から実に10年かかりました。そして、この時になってようやく人を雇う体制が整いました。今目の前にいる礒脇が初期からのスタッフです。新卒で入ってくれました。

飯石 新卒でNPOとは、思い切った決断ですね。

佐藤 そうですよね。こうして、組織としての体制が徐々に整い、指定管理者として関わる公園も増え、いよいよ私たちがやりたかったパークマネジメントが本格的に業務としてスタートしました。

強力なスタッフである事務局次長の礒脇桃子さん。

佐藤 パークマネジメントの根底には「グリーンインフラ」という考え方があります。これは「社会課題の解決に、緑の力を生かそう」というもので、具体的には緑の力を使って、コミュニティを活性化させたり生活の質を向上させたりしていくということを目指しています。そして、グリーンインフラを活用したまちづくりには産官学民の相互連携が不可欠とされていますが、そのためには相互を繋ぐハブのような組織が必要になってきます。

社会課題の解決に、緑の力を生かす「グリーンインフラ」としての考え方。

私が、NPO birthの立ち上げ前、アメリカに視察に行った際にとりわけ興味深かったのは、このハブとなる組織=中間支援組織の必要性が広く周知されていたことです。中間支援組織は、行政と地域、あるいは企業と市民など複数の団体が協働する際に、それぞれの間に入って繋がりをサポートする役割を担います。アメリカでは既に中間支援組織としてのNPOが多数存在していましたが、当時の日本では中間支援組織というものが何なのかさえ理解されていなかったと思います。しかし、私たちは早くから中間支援組織の存在に着目し、地道に仲介役としての活動を続けてきました。

中間支援組織にはバラバラに機能している各団体を繋ぐこと以外にも、地域の声を聞いたり資金を集めたりする役割も期待されているので、今後ますます中間支援組織の需要は高まってくると思っています。 

産官学民の相互連携のためには、ハブとなる中間支援組織の存在が重要。

「人と自然の関係性」が学生時代から続く一貫したテーマ

飯石 そして今では都内、特に西東京エリアを中心とした公園のマネジメントを多く手がける組織にまで成長されたんですね。

ところで、佐藤さん自身はどんなきっかけで公園のマネジメントに興味を持たれて、今このような仕事をしているのですか?

佐藤 私の出身は、仙台市の城下町にあたる地域です。都市でありながら、川や山も近くんあり、子どもの頃から虫など生きものが大好きでした。けれどこの頃は米ソの冷戦時代。核戦争が始まるのではという危機感があって、人間は自然を壊してしまう厄介者ではという気持ちをずっと抱いていました。

自然に関わる仕事をしたいと、大学は農学部へ進学し林学を学びました。東京といっても、大学があるまちは西側のエリア。樹林地や畑がたくさんあって、自然とともにある暮らしぶりにとても驚きました。

その地域は江戸時代、荒地だった場所に水を引き、林を仕立て、耕した土地だったのです。人間は自然を壊すだけの存在ではない、自然を豊かにする力もあるんだ。その気づきがNPO設立に繋がる自分の原点だと思っています。

私が一貫してテーマとしているのは、「人と自然の関係性」です。自然を守るというよりも、自然と自身とのつながりを取り戻すことこそが重要です。身近にある自然の価値とは、その地域特有の自然と人とが織りなす文化そのものです。「関係性」という目に見えないつながりを顕在化することが自分の卒業論文のテーマでもあり、今も続くライフワークになっていますね。

まちに地みどりマップ。まちに住む人々が、楽しみながらみどりを育むことで、こんなまちが実現するという「みどりのまちづくり」の将来ビジョンをあらわしている。

飯石 なるほど。「人と自然の関係性」というテーマから、公園のマネジメントにつながっていくんですね。

佐藤 はい、公園は誰もが気軽に来れる場所ですから、ここで自然とのつながりや価値を感じてもらおうと、指定管理事業に参画しました。公共の場所だけではなく、企業や屋敷林など民間の緑地も、とても価値あるみどりです。まちの各所に、人と自然、人と人、人と社会との関係をつなぐ場をつくっていくのが私たちの仕事です。

花壇や森のお手入れをしたり、菜園をつくったり、川のお掃除をしたりすれば、確実に自然は応えてくれます。そうした活動の中で、人も自然の一部であることに気づくことができますし、活動を通して仲間ができてコミュニティが生まれます。まち全体の環境もよくなります。自然も人もまちも元気になっていく。いいことづくめです。

徹底した部署制が複層的なパークマネジメントを可能に

飯石  NPO birthという組織そのものについてもお聞きしたいのですが、どのような人がいて、どのような役割を担っているのですか?

佐藤 NPO birthには3つのチームがあります。2000年頃に「環境入会論」というサステナブルなまちづくりのための方策について、代表の折原と共に論文を書きました。それに基づいた考え方で組織体制をつくっています。その時に描いたコンセプト図は、SDGsウェディングケーキの図と同じ構造になっているんですよ。

SDGsウェディングケーキの図がみなさんにはわかりやすいと思うので、それで説明しますね。この図では、3つの層があります。これら3つの層をパートナーシップで充実させていくために、NPO birthの3つのチームが活躍しています。まず社会全体の基盤となる「環境」=地域の生態系を育むのが「自然環境マネジメントチーム」。「社会」=コミュニティを育むのが「レンジャー・環境教育チーム」と「協働コーディネ―トチーム」。「協働コーディネートチーム」は「経済」=地域経済を活性化させる役割も担います。

公園や樹林、民間緑地、農地などの「みどり空間」を活用することで、SDGsの達成に貢献できることを示している図。NPO birthでは3つのチームを組織し、これら三層の充実とパートナーシップによる目標達成を促進している。

それぞれのチームには「エコロジカルマネージャー」、「パークレンジャー」、「パークコーディネーター」といった専門スタッフが所属しています。サステナブルなまちづくりを実現するために必要な3つのチームですが、特に「パークコーディネーター」は産官学民の多様なニーズを把握し、地域や公園の特性に応じたコミュニティづくりを進めるという役割を担い、協働連携の鍵になります。 

また実際に公園でパークマネジメントを進める際には、私たちだけではなく、他の専門分野を担う会社とコンソーシアムを組んで取り組んでいます。例えば造園会社からは「ランドスケープマネージャー」、スポーツメーカーからは「スポーツコーディネーター」、防災関連の団体からは「防災・安全コーディネーター」。またコミュニティガーデンづくりを担うガーデナーの団体と組んでのプロジェクトもあります。

公園の質を高める専門スタッフ

たとえば、武蔵野地域にある7つの都立公園(野川公園、武蔵野公園、浅間山公園、武蔵国分寺公園、六仙公園、玉川上水緑道、東伏見公園)では、西武造園、NPO birth、ミズノスポーツサービス、防災教育普及協会の4者で「武蔵野の公園パートナーズ」を構成し、指定管理を担っています。

このような体制をとることにより、構成団体が得意分野を活かすことができて、多様なニーズに柔軟に応え、安定した公園のマネジメントが可能になっています。

西武造園、NPO birth、ミズノスポーツサービス、防災教育普及協会の4者からなる「武蔵野の公園パートナーズ」。コンソーシアムを組むことで各組織それぞれの得意分野を生かした公園マネジメントが可能となる。

パークマネジメントを通じて地域の課題解決をはかる

飯石 公園によってその規模や性質など様々だと思うのですが、いつもどのようにしてマネジメントの方向性を決めているのですか?

佐藤 まず公園の設置目的など、行政が定めた方針を確認します。その上で、実際の現場の状況を把握するために、公園と地域の特性を調べるポテンシャル分析を行います。ポテンシャル分析は3年ごとに更新し、日々のマネジメントに取り組む公園スタッフ全員で、来園者からの意見要望なども分析しながら公園づくりの方向性を見出していきます。

私たちは公園は地域課題の解決の場であると考えています。公園づくりを担う私たちが、どうやったら解決できるのか、どんな団体とどう組んでいくべきかについて、ディスカッションしています。地域課題を解決する鍵は、市民との協働です。

NPO bitrhがマネジメントに関わる公園。様々な組織とコンソーシアムを組んで取り組むことも多い。

例えばとても治安が悪い公園がありました。その公園の特性として多くの花壇があったんですが、手入れが十分ではなく荒れた雰囲気がありました。そこでここを地域のみんなでつくる「ガーデンパーク」としようと考え、来園者のレベルに応じたプランを考えました。隣接する高校も巻き込み、年間のべ千人以上の人たちが花壇づくりに参画するようになりました。数年すると以前のような危険な雰囲気はすっかりなくなり、花と人々の笑顔いっぱいの公園になりました。

また広い芝生広場のある武蔵国分寺公園では、地元のパン屋さんから園内で「コミュニティカフェ」をしたいという希望がありました。公園の周辺には集合住宅が並んでいるんですが、一人暮らしの高齢者が多く、子育てする親も孤立しがちだというのです。そこで「地域の人が出会える週末カフェ」を行うことになりました。この週末カフェは、何かやってみたい!という市民のチャレンジの場にもなっていて、市民企画のライブやワークショップなどが週替わりで行われています。驚くほどたくさんの人たちが訪れるようになり、楽しくくつろぎながら、新たな関係が生まれる場となっています。

このような市民企画は「あったらいいなをみんなでつくる公園プロジェクト」と銘打ち、子育てパパ企画のフェス「Picnic Heaven」や地元アーティストによる「てのわ市」、ミュージシャンによる「うくフェス(ウクレレのライブ)」などが開催されています。

地域のアーティストによる「てのわ市」で開催される「森の美術館」

年間来園者数のグラフを見ていただくと、特に収益施設も遊具もない公園なのに、ぐんぐん数が増えています。さらに子育て世代も激増しています。これはプロのイベンターではなく、市民が主体になって企画することの効果にちがいありません。

都立武蔵国分寺公園の利用者の変化。年間来園者数が増えただけでなく、利用者層にも変化が見られた。

超能動的!パークコーディネーターの仕事に迫る!

馬場 これらの企画はどこからどう生まれるのですか?

佐藤 こういった市民企画のイベントに参加した市民が「自分にもできるかも!」と思い、次は自分もやろう!と企画を持ち込んでくれます。市民同士の間で、化学反応がどんどん起こっていく感じがあります。

これらの企画を伴走支援しているのが、公園の専門スタッフ「パークコーディネーター」です。パークコーディネーターは、公園にいるだけではなく、まちにどんどん出ていきます。まちづくり関連のプログラムやイベントに行けば、キーパーソンに出会えて、そこから芋づる式に関係がつながっていきます。

飯石 パークコーディネーターは公園にいるだけではないんですね!

佐藤 そうですね。「公園ではこんなことできますよ」って自らプレゼンしに行くんです。地域の困りごとも、公園で解決できるかもしれませんよって

ほとんどの人が、市民が公園を使いこなしていいんだ、なんて思ってもいないんです。できるよ!って言っても半信半疑(笑)。実際に市民がやってみているのを見て、初めて「ほんとにできるんだ!」って信じてくれるんです。

日本の公園って、「管理」が優先されて「ルール看板」ばかり目立っている。公園で「できない」ことばかりクローズアップされている。それより、公園でどんなことが「できる」かを知らせることが大事。海外では公園の歴史などが入口サインで解説されていて、公園の存在が市民の誇り、プライドにつながっています。市民が公園に関わりたくなる仕掛け、関わっていいんだ!という雰囲気をつくりたいと思っています。

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話が広がってしまいましたが、パークコーディネーターは、市民の意識的なハードルを下げて、公園をもっと使ってもらうために、まちに出ていくんです。

馬場 公園からまちに出ていくパークコーディネーター!超能動的ですね。

礒脇 そうなんです。パークコーディネーターは公園を使ってもらうための営業マン的な役割と言ったらいいのでしょうか。まちに出て、どんな人がいるのかリサーチして、公園を使ってくれそうな人を見つけたら声をかけます。まちに眠っている人材を掘り起こすということですね。

かつ、やみくもに声をかけるのではなく、公園づくりの方向性を理解してもらえる人を見極めながら声をかけています。

佐藤 こちらから「◯◯をしてください」とお願いすることはしません。公園を活用することがまちのためになり、そこから新たなコミュニティや地域ビジネスが生まれるかもしれない。そういう機会創出の場としての公園を活用してもらいたいと思っています。

飯石 依頼する/されるの関係ではなく、あくまでやりたいことがある人のサポートをしていくという関係性が重要なんですね。お話を聞いていると、パークコーディネーターにはすごく多様なスキルが必要だなと感じました。

礒脇 そうですね。パークコーディネーターのスキルってなんだろうと改めて考えてみたのですが、

・リサーチ能力
・課題発見能力
・企画力
それらに加えて
・客観性
・公平性
も必要かなと思います。
これらを意識しながら、相手との距離感を意識することも重要です。親しくなることはよいのですが、なれ合いになってはいけません。なんのために公園を活用するかをよく話し合い、軸をぶらさずに、客観性・公平性を保ちながら良い関係性をつくっていきます。

馬場 パークコーディネーターって、なんだかミステリアスですよね……。お話を聞けば聞くほど、パークコーディネーターの存在がひたすら気になってきます(笑)。新卒が多いのですか?中途採用で入ってくる方もいますか?どのような経験をされてきた方が多いのでしょう?

礒脇 十人十色ですね。新卒も中途もいますし、それまでの経験もいろいろですよ。また、パークコーディネーターとしてのあり方も正解があるわけではないので、自分なりのコーディネートの方法を実践の中で見つけていく必要がありますね。

佐藤 パークコーディネーターが相対する人や団体は、みな違いますから、相手の状況に応じたコーディネート力が求められます。やりすぎず、やらなすぎず、相手が自分の力を発揮できる状態に持っていくのが理想です。センスも必要ですが、経験の中でスキルがどんどん磨かれていきますね。

ただ人と関わる仕事ですから、対応に悩んだり、迷ったりすることもあります。ですから、私たちは現場のパークコーディネーターをバックアップする体制をいつも備えています。なにかあれば、組織として後ろから支えて、安心して仕事ができるようにしています。

行政との役割分担。行政にしかできないこととは?

飯石 お話を聞いていると、例えば「公平性」など、本来行政が持つべき視点までをもパークコーディネーターひいてはNPO birthが持っているようにも思えるのですが、逆に行政にはどんな役割を担って欲しいと考えていますか?

礒脇 公園で民間事業者がイベントを開催する際、行政との協働のハードルが高いという声をよく聞きます。確かに公園では営業行為の規制があったり屋外広告の規制があったりと、やりにくい部分も多々あるので、その辺りの規制緩和などは行政にしかできません。

馬場 確かにそれは行政の人にしかできないことですよね。あとは許認可とか。

佐藤 日本ではいままで行政が本当にがんばってきて、さまざまな整備をし、安全で安心なまちづくりをけん引してこられたと思います。しかし財政的に厳しい状態となり、いままでのようにはいかなくなった。市民からのニーズも多様で受け止めきれず、なにが公平で平等なのかも問い直されるようになった。行政の職員自身がどんな役割を担うべきか、思い悩む時代になったと感じています。

そういう時代だからこそ、官も民も互いに歩みより、よりよい方策をみんなで考えていけるとよいですね。いままでの役割に固執することなく、柔軟に話し合える関係づくりがお互いに求められていると思います。

様々な行政マンとお付き合いがありますが、予算が限られている自治体ほど、コミュニケーション能力が高いなという印象があります。自分たちで何かを仕掛ける予算が多くない分、市民の企画を生かそうと、積極的にコミュニケーションを図り、企画実現に向けて共に推進しようとする印象がありますね。

飯石 NPO birthが各地で公園マネジメントを進める際、行政とは主にどのような役割分担になっているんですか?

佐藤 指定管理者という立場は「行政の代行者」という位置づけです。しかしそう認識している民間事業者、行政担当者は、もしかすると少ないかもしれません。委託の延長のように思われていたり、または民間に任せすぎてしまったりするケースが散見されます。私たちが都立公園の指定管理を始めた時、とても幸運だったのは、都の担当者がその意識を持ってくださっていたことです。互いに初めての指定管理事業だから、問題は共有し、対話を重ね、より良い制度運用をしていこうという気概がありました。私たちの指定管理公園が最高評価を取り続けているのは、都のご担当者のみなさんが常に寄り添ってくださっていたからと思います。

なにかあれば電話ですぐ連絡を取り合う関係ですし、月に1度の履行確認会議では、事業報告はもちろん、来園者からの意見要望をリストやグラフにして共有しています。現場を預かる指定管理者がすべきことと、行政側がすべきことを分担しながら、共に問題解決に取組むという姿勢を大切にしています。

また指定管理者制度では、評価も重要です。公園の役割は時代と共に変化しています。都ではそうした社会情勢や現場の実践をもとに常に評価制度をブラッシュアップしています。指定管理者制度を本格的に導入する自治体も増えていますから、都の制度運用は参考になる点がたくさんあると思います。

飯石 指定管理の期間は5年ぐらいのスパンが多いようですが、次の公募への不安などはないのでしょうか。

佐藤 不安なく次期応募にのぞむには、毎年の積み重ねがなにより大事です。5年の期間のうち、1年目は公園と地域の特性を把握しながら地域とのつながりをつくっていきます。2年目で地域と連携したさまざまな企画が動き出し、3年目で本格的なイベントやプログラムを展開させ、4目には成果をまとめてコンクールで賞をいただく。5年目に再公募するときには、実績が「見える化」されているため、継続して選ばれる確率が高くなる。これが私たちの指定管理のセオリーです。私たちもより力がつきますし、公園も地域もよくなり、みんながウィンウィンになれるんです。

飯石 すごく明確ですね!賞は結果とはいえ、そういう目標があるとやりがいもあるのではないでしょうか。関わった人も嬉しいですよね。

佐藤 賞をとった時はみんなで大喜びですよ!コンソーシアムのスタッフは、非常勤の方々も含めてみんなで一緒にお祝いします。公園の現場では、常勤も非常勤も分け隔てなくワンチームとしてやっています。

パークマネジメントでは、スタッフのポテンシャルを最大化することが最重要ポイントです。公園の仕事は、普段は雑用や清掃など地味な仕事が多いのです。けれど、まちづくりや環境保全に貢献する素晴らしい仕事と認識して、スタッフ一人ひとりがプライドを持って仕事をすれば、その公園はみるみる生まれ変わるんです。

そのためには常勤も非常勤も同じ方向を向いていることが大事です。研修プログラムや公園スタッフ会議は、みんな一緒に参加してもらいます。非常勤のスタッフは、ビジネスの第一線で活躍してリタイヤされた方などさまざまですが、研修で公園の社会的価値を伝えた際に「こんな素晴らしい仕事にめぐり会えて嬉しい!」って泣かれたことがありました。

このようにスタッフのモチベーションを引出せるか否かで、チーム力が何倍にもプラスになったりマイナスになったりします。これは約20年間、コンソーシアムを運営してきて身をもって実感していることです。

ボランティアのモチベーションマネジメント

都立野山北・六道山公園 里山民家にて。田んぼ活動ボランティアの集合写真。

佐藤 一方で、公園は多くのボランティアの力で成り立っています。私たちはボランタリーな力を集めるマネジメントスキルも磨いています。NPO birthがマネジメントする公園にはボランティアがぞくぞく増えていて、それもさまざまな世代が参加しています。アクセスが悪い公園でも、都心から数千円かけて活動に参加される方もいらっしゃいます。

飯石 それは驚きですね。

佐藤 ボランティア活動でよく課題にあげられるのは、メンバーの高齢化や人が集まらないといった運営の問題です。また同じ公園で活動する団体同士で合意形成がうまくいかず、トラブルになっている例も少なくありません。さまざまな問題が起こるのは、ボランティアに原因があるのではなく、実はマネジメント側に原因があると私たちは考えています。

私たちが管理している武蔵村山市の野山北・六道山公園は、丘陵地にある里山の公園です。田畑や雑木林など、人が手を入れ続けないと自然が守られない環境ですから、ボランティアの力が絶対に必要です。指定管理が始まる前から、行政側でボランティアの登録制度をつくっており、私たちが管理を始めた当初は約70名ほどのボランティアがありました。しかしそのほとんどが70代前後の高齢者で、活動の範囲も狭く、安全管理も不十分でした。一番の課題は、ボランティア活動の目標が曖昧なことでした。そのため、公園で活動する他の自然保護団体との関係もよくない状況でした。

そこで協働を促進する新たなマネジメントシステムを導入し、まずみんなの想いを共有することから始めました。普段声をあげないメンバーが発言しやすい機会をつくったり、他団体と一緒にワークショップをしながら、公園づくりの将来像を描いていきました。それらを「みんなの夢・里山絵図」としてイラストにしたことで、みんなの気持ちがひとつになってきました。

公園に関わる人たちの想いを集めた「みんなの夢・里山絵図」。1枚目の絵図は5年で夢が実現し、これは2枚目の絵図

次に、イラストに描かれた将来像を実現するために、さまざまな勉強会を企画しました。メンバーが技術力をつけ、仲良しになり、雰囲気が明るくなってくると、新たなメンバーも増えてきました。安全な活動のために研修制度も充実させ、説明会やオリエンテーションなども整備。10年で登録メンバーは500人近く増え、すべての世代が満遍なく揃い、地域の高校なども含めて年間のべ1万人近いボランティアが活動するようになりました。また既存の活動だけではなく、伝統食や文化の伝承や、お茶づくり、外来種の駆除など、メンバーからさまざまな企画があげられるようになり、活動の幅も範囲も広がっています。

野山北・六道山公園​​のボランティア数の推移。約10倍に増えると共に、ほとんどが高齢者だったところから、関わる世代も多様化した。

公園に関わる人たちの夢が実現し、さまざまな活動が起こり、地域全体が元気になっていく。その道筋を整えつくっていくのが、パークコーディネーターの仕事です。しかし私たちが目指すサステナブルなまちづくりのためには、パークコーディネーターに加え、公園の自然の保全プランをつくるエコロジカルマネージャーや、自然の価値を伝えるパークレンジャーの力も必須です。美しい風景をつくるには、ランドスケープの専門家も欠かせません。

体制をつくるまではたいへんなこともありましたが、いまは自信を持って、まちづくりに貢献するパークマネジメントのあり方はこうですよと、モデルとして提示することができるようになりました。

パークマネジメントのラーニングシステム

馬場 僕が一番気になっているのは、NPO birthのラーニングシステムです。パークコーディネーターのような人は、おそらくどこの現場に行っても重宝されるような気がするんです。先ほど研修があるとお話されていましたが、何か特別なラーニングシステムはあるのですか?

佐藤 今は、内部研修とOJTで行っていますが、最近は外部からの依頼もぐんと増えてきました。コーディネートスキルをパッケージ化して、各所に広めていきたいと思っているところなんです。馬場さん、一緒にやりましょうよ。

礒脇 公園という現場があることで、日々スタッフはラーニングの成果をフィードバックできて、常にトレーニングされているような状況です。

馬場 企業や団体ごとに少しずつノウハウが違うから、それぞれ持ち寄って新たなプログラムをつくりたいですね。ニーズはあると思いますよ。

佐藤 NYのセントラルパークは、専門学校と組んでパークマネジメントを学ぶカリキュラムを提供し始めたようです。セントラルパークのマネジメントシステムを学びたい人は数えきれないほど大勢いますから、一人ひとりに対応しきれないですものね。これはいい方法だなと思っていて、ぜひこちらでも同じようにやってみたいんですよね。

飯石 公園を設計する人たちにとっても、パークマネジメントの知見は必要かもしれませんね。

佐藤 はい!そこはとても重要ポイントです。設計側の人たちが運営目線・利用者目線を持ってくれたら、公園は市民にとって、もっとずっと使いやすくなるはずです。設計者とはぜひ頻繁にディスカッションしたいですね。私たちの管理する公園で、行政側が新しい施設をつくるときには、設計協議に参加させてください!と言って、こちらから押しかけています(笑)。

飯石 設計側と運営側がタッグを組んでラーニングシステムをつくるのは最強だと思います。システムをつくるだけではなく人材育成も一緒にやりたいですね。

佐藤 ぜひぜひ。馬場さんが仰るとおり、ニーズはこれからすごく増えていくはずです!

馬場 楽しみになってきました。私たちの未来は明るいですね(笑)。

佐藤さん、礒脇さん、貴重なお話をありがとうございました!

画像提供:NPO birth
撮影:公共R不動産

PROFILE

津田 知枝

武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。卒業後はアートマネジメントに数年従事した後、札幌に移住。札幌では私設図書館「think garden」主宰しつつ大学講師やライターなどを経験し、3年前に再び東京に拠点を移す。現在は「think garden」の進化形をリスタートさせようと準備中。

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