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蒲原地区「トライアルパーク」プロジェクト

自転車でまちを巡り、空き家活用を学ぶ「第1回 蒲原・由比 空き家見学ツアー」レポート【第2回は11月25日に開催決定!】

2023年8月5日に「蒲原・由比 空き家見学ツアー」が開催されました。静岡市清水区にある東海道の宿場町「蒲原」と「由比」のまちを自転車で走りながら空き家の活用事例を学び、活用可能な空き家を見学するというツアーです。そして、さっそく第2回の開催も決定しました!本記事では第1回の様子をレポートしながら、次回のツアーについてもお知らせします。

撮影:横山麻衣

まちの魅力を体感しながら、空き家について学ぶツアー

8月5日、天気は晴れ。ツアー参加者がトライアルパーク蒲原に集合して、自己紹介やオリエンテーションが行われました。今回のツアーは、空き家活用の事例を見学しつつ活用可能な空き家も内見していくことで、空き家活用について具体的に考えていこうというもの。さらに自転車でまちを巡ることで、それぞれの空き家を「点」としてではなく、まち全体を「面」として体感してほしいという狙いもありました。

2022年7月にオープンした「トライアルパーク蒲原」。市民、企業、行政が連携しながらこの場所の使い方についてトライアルを重ねていく実験場となっており、公園のように誰でも気軽に訪れることができる。
トライアルパークではレンタサイクルのサービスを完備しており、サイクリングツアーの発着地点として最適な場所です。

今回は東京と静岡市内から参加者が集まりました。蒲原や由比の空き家を活用して事業をしたいと考える人や、自らこの地域のまちづくりに関わっていきたいと考えている人など、モチベーションはさまざまです。

ツアーの案内人は、市内でそれぞれ宿を経営する牧田さんと大澤さん。空き家を活用した事業を実践するお二人からリアルなアドバイスを受けられることもこのツアーの大きなポイントとなりました。

旧東海道沿いの町家で一棟貸しの宿「素空庵」を運営している牧田裕介さん(左)と同じく蒲原でBACKPACKERS HOSTEL「燕之宿」を営む大澤康正さん(右)。

今回のツアーは静岡市が主催しているので静岡市の職員の方々も伴走し、11名がチームとなって走行していきます。それではツアースタートです!

グループ走行の注意点を習い、ヘルメットを装着したらいざ出発!

オーナーさんとの会話から、建物のストーリーを知る

トライアルパークを出発して、旧東海道沿いを走りながら蒲原と由比のまちを巡っていきます。老舗の酒蔵や飲食店、広重美術館などの前を通過し、宿場町の風景やまちのコンテンツに触れられるルートです。

左 駿河湾沿いのルート。青空と青い海を眺める爽快なツーリング。 右 東海道広重美術館の前。旧東海道の味わい深い街並みを感じながら走る。

今回はオーナーさんの立ち会いのもと、活用可能な空き家を内覧していきました。

・由比缶詰所元寮

エメラルドグリーンの外観が目を引く由比缶詰所元寮。建物自体は大正時代のもので、昭和初期にこの場所に移築されたという。
左 木造のレトロな雰囲気がただよう空間。 右 株式会社 由比缶詰所の川島さんがこの建物の歴史や特徴を解説してくださった。

旧東海道沿いでレトロな外観が目を引く「由比缶詰所元寮」。昭和初期、国策として蒲原にアルミ製錬工場が建設される際に技術者が寝泊まりする宿舎となったもので、その後は由比缶詰所の社員寮として使われてきました。

規模が大きいので、ひとつの事業者が借り上げ、ギャラリーやアトリエなど、複数のテナントが入居するかたちで活用していくのがよいかもしれない、といった意見が出ていました。今後も引き続き、活用アイディアを募集していくとのこと。

・S邸

蒲原エリアにあるS邸。オーナーさんによって大切に管理されている。
音楽や美術などを愛するご家族で、インテリアやドアの格子、欄間などに工夫が感じられる空間。

S邸は庭付きの町屋です。空き家になって15年ほど経ちますが、オーナーさんが定期的に風通しに来て、大切に維持管理されています。裏には家庭菜園ができる畑も付いているのもポイント。オーナーさんからは「家族がこの家を大切にしてきた想いを理解いただける方に活用してもらいたい」というメッセージをいただきました。

カフェ、蕎麦屋、シェアスペースなど、空き家活用の事例も見学

空き家活用の事例として3つの場所を見学し、店主さんから空き家活用の体験談をお話いただきました。

その中のひとつは、チャレンジスペースとしてオープン予定の「KITTO」今後シェアハウス、シェアキッチン、レンタルスペースなどの機能が備わっていきます。レンタルスペースは空間を細かく区切り、1区画ごとに手頃な賃料にすることで、ワークショップやカフェ、サロンなど、誰もが気軽にチャレンジができるような場所を目指していくそうです。

KITTOの外観。1階はシェアキッチンやレンタルスペースに、2階はシェアハウスとなっていく予定。
内覧時は工事の真っ只中。オーナーさんの案内のもと、どんな空間になっていくのかイメージを膨らませながら内覧する参加者のみなさん。

近所の空き家オーナーさんもツアーに参加!

ツアーの半分が過ぎたころ、途中から80代の男性が参加されました。お話をうかがうと、なんとこのエリアにご親族の空き家を持つオーナーさんで、今後なにかいい活用方法はないかと考えているといいます。事前に市がツアーについて地域の回覧板に掲載し、それを見て参加を決めたそうで「ぜひ空き家活用について学び、今後、このツアーの題材として自分の空き家を提供したい」と名乗り出てくださったというのです。

空き家活用の第一の課題は、空き家の情報が出てこないことにあります。その背景には、空き家のまま放置しておいても困らない、もしくは貸すことの手続きや片付けなどが大変で放置しているといった事情があるようです。

空き家活用にはさまざまなハードルがありますが、オーナーさんが「活用したい」という意識を持つことが、空き家問題の解決の重要な糸口となっていきます。今回のオーナーさんの参加は、このツアーにかなり大きな意義をもたらすものでした。

80代の空き家オーナーさんも一緒に自転車でエリアを走ってくださった。その光景は、このツアーの未来を感じさせるものであり、心にグッとくるものがあった。

今後の空き家活用への大きな一歩に

無事にすべてのスポットを巡り、トライアルパークに戻ってきました。

ツアーを振り返って、ひとりの参加者さんからこんなコメントがありました。古民家を活用して事業をしたいと考えており、日頃からこのエリアの空き家について情報収集をしていたという女性です。

「まず、この地域にたくさん空き家があるという実態を知って驚きました。これまでネットで調べてもあまり空き家の情報を得ることができなかったので。

空き家のオーナーさんから直接お話を聞けたことも貴重でしたし、実際に空き家を活用している飲食店のオーナーさんから改修の費用感や運営、集客についてなど具体的な話が聞けたことがすごく参考になりました。このツアーを通じて、牧田さんや大澤さんも含めて空き家活用の知見がある方や気持ちを共有できる方々と出会えたことがすごくよかったです」

こちらの参加者さんはツアーのなかで気になる物件との出会いがあり、後日改めてオーナーさんとお話する機会を設けることになったそうです。

トライアルパークに戻り、ツアーの振り返りが行われた。

本ツアーを主催した静岡市の堀井さんからも、ツアーを振り返ってこのようにコメントをいただきました。

「自転車で走っているとまちの人が声をかけてくれて、蒲原や由比はいいところだと改めて思いました。この取り組みはまだ始まったばかりですが、今日感じたように地元のみなさんが応援してくれているという機運が大切で、空き家単体ではなく、まちの全体として考えていく足がかりになったと思います。

実はここ最近、空き家の情報が集まりつつあります。今回参加してくださったオーナーさんを通じてまた新しい情報が出てくるかもしれないですし、このネットワークが広がっていくといいなと思っています。今日は清水区役所の蒲原支所から担当者の方も参加してくださったので、今後は空き家の情報提供から具体的な活用に向けていい循環をつくっていきたいです」

すでに空き家活用を実践している人、これから空き家を活用したいと考える人、そして空き家のオーナーさんも市のみなさんも、みんなで一緒に地域の未来について向き合った1日でした。とても和やかで有意義な時間であり、今後の空き家活用に向けた大きな一歩につながるツアーとなりました。

ツアー後はトライアルパークにて相談会と懇親会が行われた。参加者のみなさんから意見をもらい、次につなげていく。

そして、さっそく今秋に第2回の開催が決定しました!

次回は蒲原エリアをクローズアップし、より深く空き家活用を考えてもらうために徒歩での開催としました。子連れでの参加も大歓迎です。空き家を活用しているオーナーさんのお話や、活用可能な空き家をじっくり見ていただく予定です。

詳細は以下の通り。蒲原エリアで事業を始めたいとお考えの方は、ぜひご参加ください!

「第2回 蒲原 空き家見学ツアー」

日程 11月25日(土)13:00スタート/ 15:00終了
集合場所 新蒲原駅
定員 なし
参加費 無料
プログラム
13:00〜空き家3~4軒/空き家活用事例
15:00〜個別相談会(希望者のみ)
※雨天決行

申し込み方法(事前予約制)
下記申し込みフォームよりお申し込みください
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfJYOCu3SonGBD-Rgx9kpRABFpgp7PGJ51vA24w10TQYftg_A/viewform

締め切り日 11/10(金) 12:00
問い合わせ先 kaido.tour@gmail.com    

主催:静岡市
企画:公共R不動産
協力:KAI堂 (公式インスタグラム @kaido_tour

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PROFILE

中島 彩

公共R不動産/OpenA。ポートランド州立大学コミュニケーション学部卒業。ライフスタイルメディア編集を経て、現在はフリーランスとして山形と東京を行き来しながら、reallocal山形をはじめ、ローカル・建築・カルチャーを中心にウェブメディアの編集、執筆など行う。

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