公共R不動産がピックアップする物件
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AIで廃校活用のアイデアを生み出す!? 福知山市で展開する廃校活用プログラム

京都府福知山市では、京都銀行と「公民連携促進に関する連携協定」が締結され、公民連携に関するさまざまなプロジェクトが動いています。今年は廃校活用に関するプログラムとして、昨年に続いてのバスツアーやアイデアワークショップなども企画され、積極的な動きを見せています。ワークショップではなんとAIを活用してアイデアを作り出したとのこと!? 一体どういう仕組みなのか、ワークショップに潜入してきました。

2020年10月に行われた「廃校マッチングバスツアー」からちょうど1年後、アグレッシブに廃校の活用を進める福知山市役所が新たな取り組みを始められたと聞き、取材に伺ってきました。今回も「公民連携促進に関する連携協定」を締結している地元の金融機関、京都銀行と協業されています。

おさらいをすると、福知山市では平成24年度に27あった小学校のうち、この10年足らずで一気に16校が廃校になりました。なんと過半数以上が一気に廃校に…。恐らく同じことが日本各地で起こっているのだろうと思いますが、福知山市がすごいのは「廃校を活用する!」と今の担当部署が心に決めて動き出してから、2年程度で既に6校で新たな活用が進み、さらに数校は具体的な活用相談の段階になっているその実績とスピードです。

その胆力と手法は去年に書いた記事をご覧いただければと思いますが、そんな彼らが新しく今年度始めたのが「アイデアと発想の手助けをするアプローチ」を取り入れた、よりブラッシュアップされたプログラムです。

今年7月に実施された「廃校マッチングバスツアー」を第1弾とし、今回のワークショップはプログラムの第2弾ということで、より具体的な廃校活用を検討している方が集まり、アイデアを出していくというものです。

2021年7月に開催された「廃校マッチングバスツアー」の様子。

「地域アイデアワークショップ」の開催

実際の廃校を見てもらうバスツアーに加え、今年から始められたこのアプローチは、「どの場所どの建物でもできる事業」ではなく「福知山市の廃校でしか実現できない事業」を考えてもらうためのサポートでした。その目的で開催された「地域アイデアワークショップ」。このワークショップは、今流行りのAIを使って廃校の活用アイデアを出していくもの。株式会社博報堂とTIS株式会社が共同開発した発想支援クラウドサービス「AIブレストスパーク」を使って行われました。

今回のワークショップの目的。

ワークショップの参加者は、廃校活用に興味のある民間企業の方で世代も性別も違う多様な約30名の方が集まりました。5つのグループに分かれて、さらに福知山市役所の方もチームに入り、お互いの自己紹介とワークショップ中の基本的なルール(アイデアの下に平等、メンバーのアイデアを否定せず乗っかる、等)が説明され、午前中は「ブレストの仕方」について講師の方からレクチャーがありました。

会場は廃校になった旧天津小学校の一室で行われました。

アイデアを出すための道のり

ご存知の通り、博報堂は国内有数の広告代理店で、日々クライアントの課題解決のためにゼロからアイデアを絞り出してそれを実現しています。そのアイデアを絞り出すために、今までは数日、数週間、多い時には数ヶ月かけて行っていたアイデアブレストや、アイデアのスクラップアンドビルドをAIの力を使って効率的にできるようにしたものが「AIブレストスパーク」というサービス。

AIブレストスパークを開発した博報堂エグゼクティブクリエイティブディレクターの八幡氏。

余談ですが、著者自身も実はかつて広告代理店に勤めていました。私個人の経験からしても、アイデアを考えるためにはまず頭の中をからっぽにしなければならず、デスクでパソコンとにらめっこしていてもアイデアは出てきません。

ソファに座って音楽でも聴きながらコーヒーと甘いものを食べて‟あ〜だ”‟こ〜だ”とメンバーと雑談し「あ、それいいね!」「なんか良さそう!」と盛り上がったり、しばらくすると「やっぱダメだね」「そのアイデア面白くないね」と盛り下がったり、「一旦今日は帰ってクールダウンして明日の夜またやろうか(何故かアイデア出しは夜が多かった)」といったことを何百回と繰り返していました。

今回のワークショップはスケジュール上10〜18時ということもあり、上述したようなアイデア出しの一連の作業の中で無駄に見える状態(煮詰まった状態)がないと、飛躍した良いアイデアが出てこないというアイデア出しの‟プロセスの重要さ”と、そのステップを予めAIに任せられるという「AIブレストスパーク」のサービスの使い方の説明がありました。

今回のファシリテーター株式会社そもそもの赤松氏。赤松氏も博報堂出身。

「AIブレストスパーク」で、一見無関係の2つのワードを組み合わせる

講師の方は‟意外接着”という言葉を使われていましたが、「ん?それ一体何のこと?」と思う全く関係のない言葉がくっつくことで、急にアイデアが拡がることを指しており、今回のワークショップでは「AIブレストスパーク」によって『ママの味方×福知山廃校』『福知山廃校×ウォーキング』『福知山廃校×肌感覚』など、意外だけれど考えてみたら実は面白そうなアイデアが弾き出され、それを出発点にして参加者がさらにアイデアを拡げていました。

AIブレストスパークの画面。参加者が入力されたキーワードが表示され、AIがランダムに組み合わせていきます。
AIブレストスパークによって導き出された意外接着の2ワード。
アイデアが溢れる各班のテーブル。
各班から出された数々の活用アイデア。

3箇年計画の折り返し地点

以前の記事でも書きましたが、福知山市役所の担当部署は、3年で廃校の活用を達成することを目指しています。今年はそのちょうど折り返しのタイミング。11月1日に行われたワークショップに続く廃校活用事業の一環で、廃校活用を検討する企業とともにアイデアを磨き、具体的な活用イメージを描くことを目的とした「アイデアブラッシュアップワークショップ」も11月30日に実施されています。

そして今後は個別に企業に寄り添ってサポートするフォローアップを続けていく予定です。残された10個の廃校についても個別交渉は諸々進んでおり、今後の動きに益々目が離せなくなる福知山市役所の挑戦。引き続き、注目していきたいと思います。

廃校活用を推進する福知山市役所財務部次長兼資産活用課長 松本氏。

PROFILE

水口 貴之

株式会社51ActionR&D 代表 株式会社51Action 代表 1982年京都府生まれ。同志社大学を卒業後、東京にて広告代理店・株式会社ディー・エヌ・エーにて営業・アライアンス業務を担当。 祖父の家が築数百年の茅葺屋根の古民家であることから、同じように「趣きのある物件」を住みつなげるようにしたいと2016年に帰京し独立。 2017年、不動産業を取得し10箇所目のR不動産となる「京都R不動産」をオープンする。 同年、京都市東山区の五重ノ塔を望む築50年のアパートをリノベーションした「RC HOTEL 京都八坂」もオープン。 自社運営しながら、住民減少で存続が危ぶまれ同町内会の町内会長も務めている。 また、京都中央卸売市場の場外にあたり、事務所も構える京都市下京区朱雀宝蔵町のまちづくりメンバーとして同エリアの活性化に取り組んでいる。

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