RePUBLIC CARAVAN
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[レポート前編]RePUBLIC talk第2弾 米・ニューヨークの公園施策から考える 「豊かな公共空間がエリアにもたらす価値とは?」

2018年5月15日、RePUBLIC talk第2弾となる「豊かな公共空間がエリアにもたらす価値とは?」が開催されました。前半は、米・ニューヨーク(以下、NY)市公園局に勤める島田智里さんにNY市の公園整備に関する様々な取り組みについてレクチャーいただき、後半のセッションは、“官能都市”を提唱する島原万丈氏 (LIFULL HOME’S総研 所長)、都市公園法改正のキーマンである町田誠氏(国土交通省都市局公園緑地・景観課長)、馬場正尊(公共R不動産ディレクター)の3名が加わり、公園や公共空間をいかにして魅力的するのか、またそうした空間の価値指標について議論を深めました。
話の内容があまりに濃く、ぜひみなさんに余すことなくお伝えしたいと思っていたらかなりのボリュームになってしまいましたので、前半(レクチャー)、後半(トークセッション)の2回に分けてお送りします!会場は倉庫をリノベーションした目黒のImpact Hub Tokyo。100名の満員御礼!

どこまでもオープンなNY市の公園

NY市はブロンクス、マンハッタン、ブルックリン、クイーンズ、スタテンアイランドの5行政区から成り立ち、公園局はこの5区にある約1万2140ヘクタール、陸地の約14%の面積を管轄。東京ドーム約2500倍もの広さで、公園は4238か所(2017年1月現在)に至ります。

公園局では1992年から2013年の間に、公園に対して5.7ビリオンドル(日本円で約6400億円)の設備投資を進めている。
(出典:ニューヨーク市公園局)

島田さんはまず、現在の公園の管理・運営の背景について、以下のように説明しました。
「公園の管理政策の多くは、2007年にブルムバーグ前市長が立ち上げた長期環境計画「PlaNYC」、2014年に現市長が更に改善した『OneNYC』に基づいています。2040年までの目標として、公園に関わる要素には『災害に強いまちづくり』『健康で公平な環境づくり』『オープンスペースの拡大』『官民連携の強化』『多様な研究・市へのアドバイザリー』『私有地の買取り、用途変更』などが盛り込まれました」

この計画を受けて公園局は、公園の整備に「設備投資」「パートナーシップ」「プログラム&メンテナンス」という3つのコンセプトを設けたそう。計画に基づいた公園づくりをするためにまず10のプロジェクトを設定し、その中でも特徴的なものとして、島田さんは「Community Parks Initiative(以下、CPI)」を紹介しました。

NY市が掲げる“Great Parks”のコンセプト(出典:ニューヨーク市公園局)

「公園局は現在、これまであまり設備投資やサービスが行き届いておらず、かつ人口密度が高い地域の公園を集中的に改善しているところ。CPIの特徴として、事前に公園局と近隣の町内会や住民がミーティングを行って具体的な希望を吸い上げ、それぞれの地域に適したプランを一緒に作り上げていくことがあげられます」。こうした局の資本金が使われている全プロジェクトの情報は、公園局のホームページで公開されています。そのように情報を共有することで、格段に市民の理解や協力を得やすくなるといいます。

CPIについて

Capital Project Tracker

また、公園の質を維持するために定期的にパフォーマンス検査を行っていますが、この情報も公園局のホームページで公開されています。2週間に1回のペースで250カ所、年間にして約6000カ所。検査対象は市運営の公園の中からランダムに選択しています。評価項目は「清掃」「構造」「造園」の3カテゴリー、最大17科目。公園を清潔で居心地よくするために様々な要素について評価を行います。

公園の話題からは少し離れますが、情報処理や情報公開によって市民のとのコミュニケーションをスムーズに行うわかりやすい一例として、島田さんが挙げたのが「NYC311」。市にまつわる様々なクレームや意見を電話やホームページの窓口で一括して受け付け、適切な部署に送る仕組みです。さらに、受け付けた意見やその対応についてはホームページに公開され、地図からも確認できます。情報が一覧化されていることで、市民も他の意見を知ることができたり、よりポイントを絞った苦情を伝えたりすることができます。こういった情報公開が、NY市の公民連携を加速する一因なのかもしれません。

変幻自在な公園管理・運営のかたち

次に、島田さんは、NY市の官民パートナーシップ(PPP)による公園の管理・運営を取り上げました。
「運営の種類は主に4つあります。
① スチュワードシップ(市全体を対象に活動している支援団体)
② コンサーバンシー、またはBID(Business Improvement District、以下エリアマネジメント)公園局や市と契約し公園や公園周辺を運営管理する団体など)
③ コンセッション(公園内でサービスを提供する許可やビジネスの合意がある団体)
④ 基金や企業のスポンサー

①スチュワードシップの活動例として、地域活動を行う団体のネットワークの促進、技術支援、アウトリーチやボランティア活動の運営などがあります。
たとえば、団体の一つである「Partnership for Parks」は行政では行き届かないソフトな面のサポートを市全体で広く行なっています。

②コンサーバンシーは日本でいうと指定管理に近いもの。基本的にある一定の公園を管理するための非営利団体ですが、運営体制は千差万別です。規模は大小あり、ボランティアで成り立っているところもあれば、職員の多くが正社員で運営費の多くも自ら出資しているところもあります。

最も歴史があり規模が大きいのは、セントラルパーク・コンサーバンシー。かつてNYの公園は危なく汚かったことから、それを懸念した市民グループが立ち上げたのがきっかけだと言われています。年間運営費約63億円(57ミリオンドル)のうち75%を自ら出資している、稀有な団体です。
マジソンスクエアパーク・コンサーバンシーも、著名な団体の一つ。2000年以降大改革に踏み切り、現在では世界的に名を知られるハンバーガーショップ「SHAKE SHACK」1号店を公園内に立ち上げました。初めは簡易トラック式の屋台から始まり、3年間安定した収益を上げたことから現在のハンバーガー店に発展。今、NYでは、マクドナルドの2倍の収益があると言われているそうです。

SHAKE SHACKがシンボルとなっているマディソンスクエアパーク

一方、ハンターズサウスポイントパーク・コンサーバンシーは職員全員がボランティアで、管理の主体は公園局となっています。

クイーンズ地区の再開発と共に整備された合計11エーカーのハンターズポイントサウスパーク

同じく②に含まれるのが、BIDと呼ばれるエリアマネジメント。基本的には、上乗せ税を元手にコンセッションや公園利用費、寄付などを収入源に、指定の地域において管理整備を行います。この地域の中に公園が含まれている場合は、公園管理を含むという格好。各団体は市の中小企業局と契約を、公園がある場合は公園局とも契約を結びます。現在、市には75団体があります。エリアマネジメント団体が管理する公園の代表格はブライアントパーク。運営費用は、市からの援助を受けず、自立的に運営しています。

年間500万人以上訪れるブライアントパーク

前半のレクチャーの最後に、島田さんは自らが携わるGIS空間分析から得た情報の使い方などについて説明しました。例として、リモートセンシングや街路樹データで都市の緑地化率や地表の様子を把握し、それに調査データ等を重ね合わせマッピングして緑化活動を優先するエリアを見極めます。目的により、要件ごとのデータの変数を変えるなどして今後のプランニングの参考情報として利用したり、新しいプロジェクトを始める際の基礎データや、バックアップデータとしても有効活用しています。

GISを活用し緑化活動優先地域を特定していくPlanning Exerciseの例
(出典:ニューヨーク市公園局)

公園局のさまざまな情報は、どのように市民に公開されているのでしょうか。島田さんが一例として挙げたのは、「NYC street tree map」。驚くことに、市内にある街路樹68万本それぞれのデータが、ひとつのWEBサイトにまとめられています。すべての樹木について、名前からID、樹種、所在地、環境利益およびそれを貨幣換算した数値などが記されます。また、グーグルマップと連動し、ストリートビューや写真、わかりやすいアイコンなどを利用してデータが可視化されていて、一般市民もいつでも気軽に携帯やパソコンからアクセスできるようになりました。

NYC Street Trees Mapの画面。NY市の全街路樹データが検索できます
(出典:ニューヨーク市公園局)

マップ上の木のアイコンをクリックすると詳細が表記されます
(出典:ニューヨーク市公園局)

実はこのデータ収集は、クラウドソーシングを活用した市民ボランティアの参加により行われ、これにより市民の環境への関心が更に高まり、行政の活動への理解も得られる結果となったのだそう。

「誰でも公平に利用できる居心地のいい公園をつくり、維持・管理するには、データによるベースラインの把握、様々な分析、官民連携や市民参加のまちづくりにおける安定した協力体制が重要だと思います」と締めくくりました。

_後編に続く

PROFILE

介川 亜紀

建築、不動産、都市計画、UDがフィールドの編集者。特に、建築や都市の再生に興味津々で全国を飛び回っている。自らも約築40年のマンションに住み、自邸のリノベーションのほか理事として大規模修繕、インフラの刷新に取り組む。昨今は時代に合う住まいや暮らしの在り方についても再考中。

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