RePUBLIC CARAVAN
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[レポート後編]RePUBLIC talk第2弾 米・ニューヨークの公園施策から考える 「豊かな公共空間がエリアにもたらす価値とは?」

全2回にわたり紹介する「RePUBLIC Talk」イベントレポート。後半は、ゲストの島田さんに加え、国土交通省の町田課長、LIFULL HOME’S総研の島原さん、そしてモデレーターに公共R不動産ディレクターの馬場を迎えたトークセッションの様子をレポートします。

NY市から学ぼう、パクろう!

前編はこちら
後半のディスカッションは、モデレーターの馬場さんのこんな発言からスタート。
「公園管理・運営について、NY市と日本とでは、思考のベース、いわばOSが違うので同じ土俵で語っても仕方ない。今日のモードは、“NY市から学ぼう、パクろう!” です」

島田さんを質問攻めするパネラー陣

以降、ディスカッションを流れに沿ってご紹介しましょう。(敬称略)

町田氏(以下、町田)

島田さんのプレゼンを聞いていて、NY市と日本の公園を管理・運営するシステムがまるきり違うという感じでもないなと。圧倒的に違うのは、国でも自治体でも、日本の場合幅広いバリエーションが認められていないこと。日本は公共物を管理するときに、ひとつの形にはめようとしますね。全体としての効用、個性も少なくなるように思います。たとえば、指定管理者といえばすべて同じような運用に。個別解として、ここは地域に、ここは民間に任せちゃえ、などという整理の柔軟性もない。行政がバリエーションを持とうとしないし、市民も、議会も許さないという感じかもしれない。

モデレーターの馬場正尊(公共R不動産ディレクター)

島田氏(以下、島田)

もともとの日本とNY市の公園の状況が違う、ということは関連していると思います。以前NYの公園は落書きがひどかったり、治安が悪くホームレスや麻薬常習者が多く危険な場所でした。コンサーバンシーやエリアマネジメントが同時に現れたというより、変わりゆく経済や環境にあわせてそれぞれの目的ををもってできたシステムが、必要とされる時代に導入されてきたので多様性が存在するのだと思います。日本は、ベースになるもともとの環境が整っている状況から公園管理が始まっているので、統一した仕組みではなく、多様性がなぜ必要なのかと考えてしまうのではないでしょうか。

島原氏(以下、島原)

印象に残ったのは、計画の立て方が緻密なことですね。GISやそれを活用した都市計画の一部などからそう感じました。統計的なデータを引っ張りつつ、市民の経験・声を入れて、欲しいものを把握してからつくるとか、キャッチボールしてつくっている。

もうひとつは、市民がポジティブに関わっていること。ある自治体の方から、水辺を含めて公共空間を使おうとしたとき、最大の障壁は法律や規制でなく市民のクレームだという話を聞きました。職員はやる気はあっても、手が縮こまってしまうと。制度や仕組みだけを理解していても活用が難しいのかもしれません。

あと、ウェブサイトのデザインが役所のものとは思えないほど素敵ですよね。「街路樹マップ」なんて見てるだけでも楽しい。それに引き換え日本の役所のサイトは本当にダメ。デザインも情報の整理も、市民に見てもらいたいという意図が感じられない。

20年で公園がまちのリビングに変化した、プロセスと目標設定

馬場

さて、島田さんの前半のお話によると、NY市では相当治安の悪かった公園が、昨今までの20年ほどで魅力的な場所に変わったのですね。その変化のプロセスをお聞かせください。

島田

NY市は、危険で近寄れないという「マイナス」な低いレベルから公園の改革が始まりました。着手したのは、1994年から2001年まで市長を務めたルドルフ・ジュリア―ニ前市長、とにかく犯罪を減らし町を安全にしようと、まず「ゼロ」を目指して、市として徹底的に政策を練り上げました。公園は市の公共インフラの一つでもあり、公園局が何かしらやりたくても単体ではできることは限られている。それが市の政策となったので、計画が実行しやすくなったのではないかと思います。一方、具体的な目標と、それに達するための施策は公園局が適切な案を生み出してくと。

私が公園局に入局した約9年前には、GISスペシャリストやGISを使った仕事は本当に限られていました。今はスペシャリストという専門職でなくても、ある程度GISが日常で使える職員も増え、日常のオペレーションにも広く使われるようになりました。このGISという「ツール」が全ての決定権を持つわけではありませんが、政策決定の過程で状況の把握、情報の関連性を明確にし、データに基づく評価を行い、それが決定に繋がるという意味では重要な役割を果たしています。

馬場

公園政策の目標が数字で示されると。

島田

数字がすべてではないけれど、目標を立てるためのファーストステップですよね。そこから数字では計れない内容や情報を組み合わせ、明確な目標をたてる。その上で、それを達成するための短期・中期・長期の計画が立てやすいと思います。
「PlaNYC」(最初の長期環境計画)についても、計画を立ててから2,3年後に再評価して、目標を必要に応じて調整しました。

「日本とNY市では基本的なところは違いがない」と町田氏

町田

日本でも目標は立てています。公園や保全系の緑地についての法定計画では、10年後の目標などをKPI的に示しています。計画という枠組みも、日本行政の持っている仕組みよりも単純にNYのほうが優れている、とは言えないのではないかと思う。

日本の場合、計画がしっかりできていても、“遊び(フレキシビリティ)”が少ないのかもしれない。例えば東京都では、上野公園、日比谷公園、山間部の公園の管理の仕方や仕組みが一緒になっているけれど、それでいいわけがなく、日比谷公園は自立的な経営を目指し、山の中の公園は税金で運営したらいい。でも、そういう基本姿勢の差別化は見られない。

私が担当している国営公園は17か所ありますが、いずれも一律入場料410円、子供は80円。来年から実験的に、可能なところはコンセッションに移る準備を進めます。一方で、田舎の地方振興の公園はずっと税金を入れることが必要でしょう。そういう多様性を認めると、個性が生まれると思いますね。

民間事業者の公園管理への参加とリスク

馬場

NYのコンサーバンシーには多種多様な主体者がいるようですね。それはどうやって選ばれて、どのようなプロセスで権限が委譲されるのですか?

島田

行政が一方的に運営の負担を軽減することを目的にコンサーバンシーを作って管理させようというより、どちらかといえば、地域の住民たちと協力し、この公園を向上するために専門組織が必要だからコンサーバンシーをつくりましょう、という順番。エリアマネジメントも同じで、基本的に地域の民間企業や住民が必要を感じて、自ら申請をし専門の団体をつくる。日本ではそういうやり方が主流ではなかったので、どうやって既存のシステムの中にそれを浸透させばいいのかわかりにくいかもしれません。

最初は難しくても、一回火が付けば早いと思いますよ。セントラルパーク・コンサーバンシーも初めから大規模な動きだったわけでなく、近所に住んでいる市民のグループから始まりました。最近、エリアマネジメントでは、ひとり都市計画に詳しい人やアドバイザリーなど、専門知識がある方をメンバーにするという動きもありますね。NY市も躓きながら、公園の管理・運営の改善に常に努力しています。

町田

日本で指定管理者制度が始まって、10数年たちます。今も変わらず、役所が設定している条件が役所側の理論で定められて、絶対失敗しない者が選ばれるという仕組みになっているかもしれません。チャレンジするという感じはないかも。

馬場

プロポーザルに参加すること自体ハードルが高いんですよ、日本は。これだけの条件をクリアしていないとだめ、というケースが多いですね。

島原

そもそも役所の職員が公園を楽しもうという態度というかセンスがあるか、という部分にも違いもあるように思います。公園に偶然立ち寄ったみんながダンスしているような、楽しいシーンを想定して役所が民間事業者に運営業務を発注しているかというと、それはあんまり想像できない。(笑)

「日本は公園を楽しむセンスが足りないのでは」と島原氏

町田

日本の公園管理者は、大変な密度での利用、イベントをまず許さないと思う。事故の危惧が最優先になってしまう。

島田

実は、ブライアントパークが毎日イベント等をやっているのは安全対策の一つでもあります。人がいないところはまた昔のように荒廃してしまうかもしれない。ブライアントパークは人を常に絶やさないことによって、安全性は向上するというコンセプトをもとに、人が集まりやすく来やすいデザインに変えました。昔は公園の回りの歩道から中が見にくく、ひとけのない場所にホームレスや不審者が潜む事も多かった。

NY市の公園より、日本のほうが安全面、機能面ともに質が高いことが沢山あると思います。ただ、ユーザー目線の公園があるのかといえばそれは別。公園は、そこに人がいるからこそ付加価値が生まれ、かつ本来の公園としての機能が最大限生かされると思います。

町田

日本の公園の管理は、つくった時の形を維持する、つまり芝生は刈られている、木は剪定されているなどが本質だったわけですよね。外形的に造ったときの公園であり続ける、掃除ができている、そういうことが優先。

ここ数年、私は「使われてなんぼだと、使われてない公園は価値がない」と言ってきました。なのに日本は、官と民の仕事を極端に仕分けしようとする、だから、官有地で民間のイベントをやるときに大きな収益が発生するのを良しとするのか、という議論も起こりがちですね。

島田

私は公園でボランティアをすることが多いですが、それは他の公園ユーザーと近くなれるから。自分とは全く関係ない職種、英語ができない人ともある一定の行動をともにすることでヒントを得られるわけです。規制、規制と言っている人が自分の子供や家族を公園に連れていくか、といえばそうとは限らない。そんな公園は、他のユーザーが行かなくても仕方ないような気がします。身近な気づきから始め、自分自身も気持ちよく使える公園について考えるのがよさそうですね。

馬場

僕たちはもしかしたら、公園の使い方に慣れていないのかもしれない。具体的にそれを提示して、日常にするように市民側の意識を変えるメカニズムがいるように思います。

NY市の公園の評価指標

馬場

ところで、衝撃だったのは公園をつくるために、2002年以降、市が買った土地の広さ。東京ドーム77個分でしたね。既存の公園のリノベーションも多いとのことでした。どういった評価指標で、公園の新設やリノベを判断するのですか? 日本でも取り入れられないだろうか。

島田

リノベーションの場合は、CPIを中心に行なっています。GISなどの空間分析をはじめとした様々な分析をもとに判断する事が多いと思いですが、運営管理の方法は千差万別なので、評価は難しい。

島原

CPIの際、公園をつくる前に、ユーザーにはどういった内容をヒアリングで聞いていますか?

島田

User Experienceの例として、「家が近いから来ているのか/遠くからわざわざきたのか/用事があった/偶然」などの目的や理由、頻度、ユーザーの数、公園に滞在する/しない、などですね。公園を管理運営する上で「なぜ、その公園なのか」「近所に違う公園がある場合でも、なぜ他のエリアの公園に行くのか」。アクセスが良いとう物理的条件からか、あの公園が嫌だからこの公園に行くという個人感情なのか、公園を選ぶ決め手はどこなのか、そういう数字からは単純に見えて来ない微妙なところについてアンケートを取ることがあります。

馬場

おそらく評価指標が一律であるわけではなく、定性的なリサーチが丁寧に行われているんですね。

島田

エリアマネジメントが存在するエリアは、独自の指標に基づいて調査を外注しているところもあるようです。例えばブライアントパークの場合、公園の利用客数や行動パターンを調べ、どうやって人の流れを生かし、効率的に周辺を含む公園の収益に結び付けるか、といった内容に基づく調査を行っているようです。行政が運営している公園には、研究・調査目的以外では特に決まった指標はありません。

質疑もどんどん出てきます

―最後に、馬場さんは次のような言葉でディスカッションを締めくくりました。

馬場

僕らに足りなかったのは、まず情報公開のデザインや技術でしょう。そこをクリアすれば、また違う覚醒が起きそうだ、ということもわかってきました。また、市民の公園に対するモードを変えるデザインも重要。
今回のトークの目的に、公園を評価する指標の模索がありました。島田さんを中心に議論をすすめて、統一の指標は全然ダメで、仮説の立て方が重要であること、その仮説に対する指標をどうデザインするか個別の公園ごとに考えるのが、どうやら大切そうだというのを学ぶことができたと思います。会場の皆さんも、ここで得たことを仕事に持ち帰って、どのように実践に生かすかぜひ考えていただきたい。

2回に渡る、密度の濃いレポートいかがでしたでしょうか。公共R不動産は今後も国内外の公共空間に携わるプロフェッショナルをゲストに迎えたトークイベントを開催していきます。ご期待ください!

PROFILE

介川 亜紀

建築、不動産、都市計画、UDがフィールドの編集者。特に、建築や都市の再生に興味津々で全国を飛び回っている。自らも約築40年のマンションに住み、自邸のリノベーションのほか理事として大規模修繕、インフラの刷新に取り組む。昨今は時代に合う住まいや暮らしの在り方についても再考中。

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