公共R不動産のプロジェクトスタディ
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廃校卒、温泉トラフグ
温泉トラフグ養殖場

トラフグ君がお出迎え

栃木県に海はありません。しかし、ここ栃木県那珂川町の名産品は、なんと海の幸「トラフグ」。しかもこのトラフグ、遡れば廃校で生み出され逸品なのです。

隠れた地域資源:水質・泉温・廃校!

温泉トラフグの養殖会社を経営しているのは、水質検査や環境分析の専門会社。地元那珂川町の人口減少に心を痛め、何か貢献できないかと考えた社長さんが、この土地の温泉に含まれる塩分と冬期でも一定の泉温に着目。廃校の教室にたらいを並べ、試験的にフグ養殖を開始されたのがことのはじまりだそう。
社長さんの想いに応え、町が廃校となった小学校の教室を無償貸与するかたちでスタート。確かに、学校といえば建物の構造はシンプルだし、基本的な設備は揃っている。パイロット事業に、まず廃校を貸りて初期投資を抑えるというパターンはかなり使えそうです。

廃校卒業後、廃プールに漕ぎ出したフグたち

現在は施設の老朽化に伴い、場所を近くの廃プールに移して事業を継続されています。ちょっと国道を外れた公園の横、屋内プールのエントランスを入ると、25mプールを勢いよくグルグル泳ぐフグ達の姿が!プール内のコースラインや、電気、時計、管理室などの内装は殆どそのままであるが故に、泳いでいるのが人間ではなくフグというところに、驚きとともに、なんだか楽しさがこみ上げてきます。
当初100匹程度だったフグの数も、2015年時点で年間2万5千匹を出荷するまでに。町に雇用も生み出しています。さらに、周辺の旅館や食事処でもどんどん扱いが増え、れっきとした地域の名産となっているようです。更に、全国からフグ養殖の問い合わせも殺到しており、フランチャイズ化も開始。日本の廃校にフグが溢れる時代の到来、かもしれません。

まちの余白は宝物

町の「余白」を上手く利用し、既存の地域資源と結びつけ、新たな価値を生み出す。
絵に描いた餅で終わってしまうケースの多いこのモデルを、ビジネスとしてきちんと確立し、地域にも還元している希有な例といえましょう。念のため、フグのお味も確認し、温泉にも浸かって、那珂川町の地域資源、五感で堪能して参りました。

(写真提供:(株)夢創造)

PROFILE

菊地 マリエ

公共R不動産/アフタヌーン・ソサイエティ。1984年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。日本政策投資銀行勤務、在勤中に東洋大学経済学部公民連携専攻修士課程修了。日本で最も美しい村連合特派員として日本一周後、2014年より公共R不動産の立ち上げに参画。現在はフリーランスで多くの公民連携プロジェクトに携わる。共著書に『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』。

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