公共空間のトリセツ
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1-3公園のトリセツ:地域のためになる事業者の公募

連載コラム「公共空間のトリセツ」公園編3回目のキーワードは「地域のためになる事業者の公募」です。これまで、公園にカフェをつくるまでの前提づくり(基本計画の位置づけ)やお試しでやってみる方法(社会実験)をお伝えしましたが、今回は実際に整備する施設や事業を、地域貢献につなげるための枠組みを紹介します。
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【事例から学ぶ】豊島区「南池袋公園」

2016年の春リニューアルオープンした南池袋公園。数年前までは暗くて近寄りがたいイメージでしたが、広々とした芝生広場に開放的なカフェが併設された素敵な空間へと生まれ変わりました。
まるで海外のような雰囲気ですが、カフェの運営は地元企業で、公園の運営には住民が関わるなど、地域に根ざした仕組みが整っています。果たして、この仕組みはどのように実現されたのでしょうか?

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南池袋公園オープニングの様子(出典:minami ikebukuro park)

【官民協働に至るプロセス】

松田:話題の南池袋公園!都心の真ん中に突然現れた印象だけど、昔から計画はあったのかな?

加藤:契機は2006年、地下に変電所をつくる計画があり、その工事をきっかけに公園も再整備することになりました。その後、東日本大震災による防災意識の高まりや、庁舎移転に伴う地域全体の活性化が求められました。そこで、公園を安全で賑わいのある場所にするために民の力を活かした事業にしようという方針になったのです。

松田:具体的に民間事業者や地域住民はどうやって関わることになったの?

加藤:まずは、総合プロデューサーにランドスケープの専門家が起用され、都市経営の視点が取り入れられます。具体的には、持続的に公園を運営するために、民間のカフェレストランを併設し、売上の一部を公園運営に使う仕組みなどです。事業者は、ただ稼ぐだけではなく地域貢献に意欲があることが求められる訳ですね。また、公園運営に地元住民が参加する体制も考案されます。

松田:地域貢献に意欲のある民間…、判断が難しそうだね。

加藤:そこが最初のポイント。地域のために機能してくれる事業者を選ぶために、募集要項に具体的な要求水準を明記したのです。ゴミ回収やトイレ掃除に加え、商店会や防災イベントなどの地域活動への参加が条件になっています。また、売上の0.5%を地域還元費として地域運営に充てる仕組みや、2Fに「地域貢献施設」を設置することも求められています。

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参照:豊島区立南池袋公園カフェ・レストラン 設置管理運営業務事業者募集要項

 

松田:上野公園の事例に似ているけど、公園だけでなく地域貢献につながる内容も盛り込まれているんだね。ちなみに「地域貢献施設」ってどんな施設?

加藤:カフェの2階に設置されている、本を読んだり、学習体験などの賑わい創りに使えるスペースです。また、1階には災害用の備蓄倉庫も設置されています。


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1Fのカフェと2Fの地域貢献施設(出典:kato yuichi)
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2Fの地域貢献施設でのワークショップ(出典:minami ikebukuro park)

 

【カフェ設置の裏付けとなる制度】

松田:カフェだけじゃなかったんだね!でも、公園にそんなにたくさんの施設をつくっていいの?

加藤:そこが次のポイント。そもそも公園につくることができる施設は、下記のように都市公園法で「公園施設」と定義され、植栽は「修景施設」、ベンチは「休養施設」、ブランコは「遊戯施設」というように分類されています。カフェの場合、売店やトイレが該当する「便益施設」として設置が認められることが多いのですが、原則として建築物は公園の敷地面積の2%しか建てられません。

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参照:都市公園法

 

松田:2%…、超えてない?

加藤:実は都市公園法施行令では、利用者のためになる施設であれば、建築面積の特例措置があり、南池袋公園もこの手法を使って建築面積2%以上の建物を建てることができたのです。

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参照:都市公園法施行令

 

松田:カフェがメインだと思ってたけど、公園施設の一部としてカフェがある位置づけなんだね。法律って規制ばかりのイメージだけど「ただし書き」とか「特例」とか、割りと自由が効く幅を持たせているんだね。

加藤:他にも、休憩施設など施設の種類に応じて最大で30%までの特例が認められますし、2%はあくまで「参酌基準」なので自治体の条例で変えることもできるんです。都市計画法で定められた用途地域ごとの建ぺい率の範囲内ではありますが、地方の小さい公園でもチャレンジできるということですね。

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自由に使われる芝生と子どもの遊びを促すリボンスライダー(出典:minami ikebukuro park)

 

【事業の体制】

松田:地域の事業者が、公園の運営に関わる仕組みは理解できた。じゃあ、地域の住民はどんな関わり方をしているの?

加藤:住民が公園の運営に参加できるように「南池袋公園をよくする会」という官民協働の組織を設置しています。行政に加え、住民代表、カフェ事業者、学識者が参加する議論の場をつくることで、行政だけで公園の運営を行わない体制をとっています。

松田:公園の運営に住民が参加!?

加藤:具体例としては「南池袋公園でイベントを行いたい」という依頼に対する区の判断に、この会の意見が尊重されています。公園に相応しい内容かどうかを利用者や事業者の視点で判断する場になっており、そこで合意を得ると区から許可がでる仕組みです。

松田:官民協働の組織の判断=行政の判断ということは、住民参加の組織が行政のエージェント機能を果たしているということね。民の視点が取り入れられることで、経済性や住民の主体性が高まり、持続可能性にもつながりそうだね!

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作図:公共R不動産

 

【まとめ】

南池袋公園の風景をつくりだしたポイントは以下の三つ。
①募集要項に要求水準を明記し地域に貢献する民間企業を誘致
②施設を教養施設と位置づけることで建物の面積を増やした
③官民協働の組織をつくり住民が公園運営に携わる体制を整えた

志の高い民間事業者に関わってもらうための条件整備だけでなく、持続的な運営を可能にする住民組織と原資(地域還元費)まで考えられている。ステキな風景の裏にはしっかりした仕組みがあるんですね。

PROFILE

加藤 優一

Open A/公共R不動産/(一社)最上のくらし舎代表理事。1987年生まれ。東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻博士課程単位取得退学。2011年より東日本大震災の復興事業を支援しながら自治体組織と計画プロセスの研究を行う。2015年より現職にて、建築の企画設計、まちづくり、公共空間の活用、編集・執筆等に携わる。銭湯ぐらし主宰。編著書に『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』。

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