公共R不動産がピックアップする物件
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富山県射水市「放生津小学校 跡地利活用プロジェクト」が始動!地域と育む新たな活用に向けてアイディアを募集中

富山湾から続く河川が流れ、レトロな港町の風景が残る富山県射水(いみず)市放生津(ほうじょうづ)地域。このエリアの中心的役割を担ってきた放生津小学校の利活用プロジェクトが始動します。2023年の現段階では、4年後の本格稼働に向けて多方面から活用アイディアや要望を集め、活用方針を固めていくというステータスです。印象的なデザインの校舎と地域の歴史や文化をうまく絡めながら、次の世代へとつないでいくためのプロジェクト。本記事では計画の概要や地域の特色、校舎の詳細などをご紹介していきます。

河川が流れる風情豊かなエリア

射水市の北側に位置し、富山湾の海岸沿いにある放生津エリア。富山湾から続く「内川」がまちを流れており、北前船による商いや漁業などで栄えてきた町です。内川に停泊する漁船の背景には雄大な立山連峰が見え、穏やかな雰囲気と昭和レトロな港町の風情がただよいます。
ここは市内を代表する観光地でもあり、放生津小学校から徒歩20〜30分圏内には海の貴婦人と称される帆船海王丸が体感できる海王丸パークや、特産のシロエビ、ベニズワイガニなどの新鮮な海産物が味わえる市場があるほか、内川沿いには古い町家を活用したカフェやバー、ショップなどがオープンしており、観光だけでなく日常的な側面でも新しいまちづくりの動きがみられるエリアです。

内川に浮かぶ漁船。背景には雄大な立山連峰が町を見守る。
左 放生津エリアの海岸には市場があり、特産のシロエビ・ベニズワイガニなど、旬の新鮮な魚介類がたっぷり味わえる。 右 帆船海王丸を中心とした憩いのベイエリア「海王丸パーク」

もうひとつ、放生津エリアを語るうえで欠かせないのが新湊曳山(しんみなと・ひきやま)まつりです。放生津八幡宮の秋季例大祭のひとつとして、飾り物がついた絢爛豪華(けんらんごうか)な13基の曳山が「イヤサー・イヤサー」のかけ声でまちを練り廻し、曳山が狭い街角を急カーブで曲がる瞬間は迫力満点。国指定重要無形民俗文化財に指定されており、地域の歴史や文化を象徴する行事となっています。

毎年10月1日に開催される新湊曳山まつり。夜には提灯山のあかりが町を明るく照らします。

小学校の統廃合と同時進行するプロジェクト

そんな放生津エリアの中心的存在である放生津小学校。現在の校舎は1989年に建てられ、地域の歴史や文化と共に歩んできたものの、児童数の減少により同エリアにある新湊小学校と統合することになりました。

統合後は新湊小の既存校舎を改修して活用することが決まっています。新校舎の改修工事中は放生津小学校が使われますが、その後2027年4月1日をもって小学校としての機能が廃止される予定です。

とはいえ、これまで地域コミュニティの中心となっていた放生津小学校の校舎を廃校のまま放置したくない。この校舎を新たな用途として活用しながら地域の活性化につなげていきたい。そんな想いから、本年度(2023年)より小学校の統合計画と同時進行で放生津小学校の跡地利活用の計画を進めていくことになりました。

母船に見立てたアイコニックな校舎

放生津小学校は教室棟、特別教室棟、体育館、そしてグラウンドという構成になっています。

竣工時の外観。右側が教室棟でアーチを描く階段部分の左側に特別教室棟が続く。校舎は母船をイメージしてデザインされたという。
メインの建物となる教室棟と特別教室棟は4階建。教室棟と特別教室棟は通路でつながり、コの字型の真ん中には中庭があります。

校舎のデザインについては、港町の小学校という背景から母船をモチーフに全体が設計されているそう。またアクセントとなっている丸くて太い柱の数々は、子どもたちのたくましい精神性を願ったものだと言われています。

階段の踊り場にあるステンドグラスも圧巻です。こちらは日本のステンドグラス作家の草分け的存在であり、地元出身者である故・大伴二三彌(おおとも ふみや)さんによる作品。地元アーティストによる、地域ならではのクリエイティブな要素も校舎に組み込まれています。

校舎の外にも内側にもドン!とかまえる太くて丸い柱が空間のアクセントに。
階段部分の外壁はアーチを描き、ステンドグラスがついている。左は竣工時の外観、右が建物の中から見た様子。

機能的にもまだまだ使えます

校舎は鉄筋コンクリートの4階建。全体的にゆったりと開放的なつくりになっています。特筆すべきは教室にも匹敵するほどの広さがある廊下です。各部屋同士をつなぐ共有スペースでもあるので、イベント時に有効活用できそうだなとか、廊下の空間全体がギャラリーにもなるんじゃないかな?など妄想が広がります。

「ここは廊下⁉️」というくらいゆったりしたサイズの廊下。さて、どんなふうに使いましょうか。
教室の木製の建具もかわいい!
左 教室棟や特別教室棟、体育館の中心に中庭がある。ここで子ども用のイベントをしたり、夜には小さな野外上映会をやったら素敵かも。 右 昇降口も木の天井がいい雰囲気を醸し出しています。

校舎は築34年(2023年時点)で、耐震性は問題なし、電気やガス、給排水もあり。まだまだ活用できる建物です。建物は使われず空き家になると一気に劣化が進みますが、ここは直前まで現役の小学校として使われるのでブランクがなく建物を使用できることがポイントです

校舎の詳細やスペックについては、公共R不動産データベースにも記載があるのでご参照ください。

どんなふうに活用していく?

2023年10月時点のステータスとしては、建物の活用方針はまだフラットな状態とのこと。今後実施していく企業向けオンラインニーズ調査や住民向けのアンケート、地域振興会との意見交換会などを通じて方針が定まっていきます。

大きな建物なので、市としては、市が単独で活用したりひとつの企業に貸し出したりするのではなく、市や公的団体、民間企業が共存するかたちで、複合的な活用をイメージしているといいます。民間企業にも自由な発想でこの場所を利活用してもらうことで、地域経済の活性化や市民サービスの向上にもつなげていきたいとのことです。

注意点として、グラウンドの一部が市指定史跡放生津城跡になっており建築制限がかかる。

市からは、「本物件の向いには保育園があることから幼児にまつわるコンテンツとも相性が良さそうだ」という意見や、「今後の公共施設の再編に応じてエリア内の空き施設の活用とも連動していきたい」というコメントがありました。

地域振興会からは「新湊曳山まつりという歴史的文化や港町ならではの海鮮や食の文化など、地域の特性を生かした事業や活動が生まれていってほしい」という意見も出ているそうです。

また、このエリアでは民間事業者による空き家活用の動きが進んでおり、カフェやバー、小売店などこの数年で25〜30件の新しいビジネスが生まれています。新しいまちづくりの動きと連動しながら回遊できるまちづくりを目指せることも、この場所が秘める可能性のひとつです。

教室の壁は木製でナチュラルでいい感じの雰囲気。
左 階段部分の窓はカーブを描き、バルコニーからは中庭が見えます。こだわった造りです。 右 教室の大きさは約67.5㎡(階によって違いがあります)。
左 体育館は802㎡ほどの大きさ。教室棟などがあるメインの建物とは2階の通路でつながっています。 右 体育館の下はピロティーに。雨天や雪の日のイベント時に活躍しそう!

活用方針の決定はこれから。
可能性を秘めたプロジェクトです!

民間企業については、地元企業はもちろん県外の企業もウェルカムとのこと。今後実施していく企業向けオンラインニーズ調査では、どんな条件であれば入居したいか、またどんな事業内容を展開していきたいかなどをヒアリングしながら、市が今後の方針や改修計画などの詳細を固めていきます。

最後に射水市で利活用事業を担当する、射水市 資産経営課長 佐藤昌宏さんからこんなメッセージをいただきました。

「現在、市としては活用方針についてフラットな状態です。ここは観光資源が豊富な地域であり、食文化も豊かです。祭りの歴史があり人情深い気質もあります。ここで事業をしてみたいと考える方、この建物に興味をお持ちの方はぜひお気軽にアイディアをお聞かせください。多様なご意見を受け止めながら地域のみなさまとも検討を重ね、みなさんと一緒に地域を盛り上げていければと思っています。お問い合わせをお待ちしております!」

佐藤さんが「まだフラットな状態」と話すように、これから出てくるアイディア次第で方向性が決まっていくという可能性にあふれるプロジェクトです。建物を見てインスピレーションがわいた方、プロジェクトにご興味のある方は、まず市との意見交換から始めてみてはいかがでしょうか?

企業のみなさまは、令和5年11月1日 〜 11月30日に開催される企業向けオンラインニーズ調査にもぜひご参加ください!

屋上からは富山湾が見える。

今後のスケジュール

令和5年度 地域や民間事業者の意向調査を実施
※令和5年11月15日(水)午後7時〜 住民向け講演会
令和5年11月1日(水)〜11月30日(木)民間企業に向けたオンラインニーズ調査

令和6年度 利活用方針を決定

令和7年度 事業者公募で事業者を選定

令和8年度 選定した事業者と基本協定を締結

令和9年度 改修工事、放生津小学校の跡地利活用スタート

学校跡地の利活用について(射水市)
https://www.city.imizu.toyama.jp/event-topics/svTopiDtl.aspx?servno=27219

画像提供:射水市

PROFILE

中島 彩

公共R不動産/OpenA。ポートランド州立大学コミュニケーション学部卒業。ライフスタイルメディア編集を経て、現在はフリーランスとして山形と東京を行き来しながら、reallocal山形をはじめ、ローカル・建築・カルチャーを中心にウェブメディアの編集、執筆など行う。

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