[レポート(1)]神田警察通り賑わい社会実験&トークセッション

2016年11月21日~26日にかけて、公共空間プロデュースで世界的に著名なゲール・アーキテクツが神田警察通りにやってきました! 彼らの監修のもと、「車から人へ」というコンセプトの実現に向けて5日間みっちりとプログラムが組まれ、アクティビティ調査と社会実験、それからゲール・アーキテクツのデイビッド・シムさんと公共R不動産ディレクター馬場のトークセッション&ワークショップが開催されました。前編である今回はリサーチと社会実験を、後編はトークセッション&ワークショップを中心に、その模様をレポートします。(イベント時のコラムはこちら

前編㈺
誰でも参加できるオープンワークショップでは町の方にお気に入りスポットを付箋で貼り付けてもらいました(写真提供:UR都市機構)

 

神田警察通りって?

今回、街の将来を描くため、ゲール・アーキテクツをお招きしたのは、対象地域である神田警察通り沿道整備推進協議会とUR都市機構からなる「神田警察通り賑わい社会実験実行委員会」のみなさんです。神田駅北側から神田警察署の前を通り、靖国方面へ伸びる神田警察通り。オフィスビルが立ち並び、サラリーマンのまちというイメージのあるこの界隈ですが、大手町、神保町、御茶ノ水、秋葉原など、それぞれ異なる個性をもったまちのちょうど真ん中に位置し、それらのエリアをつなぎ回遊性を高めるハブ的な立地と言えます。が、現状でははっきり言って、何の変哲もない道路。むしろ、緑が少なく、複数車線で意外と車通りも多い。左右には背の高いビルが並び、歩いて楽しめるコンテンツにも乏しい印象で、個性的な街の間を分断してしまっているようにすら見えます。そこで、その現状を打開すべく、推進協議会を立ち上げることで、エリアの改善に取り組み始めています。海外の様々な都市で街の表情を変えてきたゲール・アーキテクツは、この神田の街にどんなビジョンを描いたのでしょうか?

神田警察通り
神田警察通り

 

Health Checkで街の健康診断

ゲール・アーキテクツは、ビジョンづくりの前提として非常に綿密なリサーチをするのが特徴です。それを街の状態を把握するための「Health Check/ヘルス・チェック」、つまり街の「健康診断」と呼んでいます。その街がどういう使われ方をしているのか、どんな課題が潜んでいるのか、その実際の街の様子を丁寧に観察してみることで、街の状態が掴めると言います。今回のヘルス・チェックでは、交通量調査、アクティビティ調査、ファサード調査の3つの調査を行います。共立女子大学や慶応義塾大学などの学生も参加し、3日間に渡り総勢66人で徹底的に調査が行われました。

 

交通量調査

まずは、基本的な交通量の調査。各時間帯毎の自動車、自転車、歩行者の量を調べます。今回調査の対象の、神田警察通り周辺の緑破線エリア周辺の31ポイントで、車、バイク、自転車、歩行者のトラフィックをカウントしました。時間帯も朝昼夕方と3度に分け、平日休日の別も考慮して何度も計測していました。また、どんな人が、どの方向に向かっていったかなどもメモに残していきます。

 

前編㈪
今回対象となった神田警察通りエリア(緑破線)と31の調査ポイント(資料提供:UR都市機構)

 

こうした調査自体は日本でもよく見かけますが、ゲール・アーキテクツはそれぞれのトラフィック量に対して「公共空間の適切な配分」がなされているかどうかという視点で分析を行います。有名なニューヨークのタイムズスクエアのプロジェクトでは、歩行者の数に比べて歩行者向けのスペースが圧倒的に不足していることを課題として抽出し、歩行者空間化に向けた論拠の一つとなりました。

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タイムズスクエアでの調査報告書から(資料提供:UR都市機構)

 

②アクティビティ調査

次に行ったのは、屋外のオープンスペースでのアクティビティ調査と空間の質的な評価。アクティビティ調査は、オープンスペースが時間帯によってどういった属性の人にどのように使われているのか、性別、年齢、その時見られたアクティビティの内容などを二人一組で、立ち止まりながら丁寧に記録していきます。両手を広げ「自分がスキャナーになったように」その場をくまなく「スキャニング」するのがポイントとのこと。

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スキャニングの様子。町に誰がいないのか?も重要。(写真提供:UR都市機構)

 

この調査は、そのスペース自体の使われ方を観察することで、空間がニーズにマッチしているのか、誰のための空間になっているのか、さらに「誰がいないのか?」を抽出するのも目的の一つです。

また、そのオープンスペースについて、空間のクオリティを「12の質的基準」に照らし合わせて評価していきます。空間の質自体も、当然ながらスペースを利用する人々の活動や数に影響を与えます。見た目がきれいに出来ていてもビル風が強かったりすると「空間の質」としては評価が低くなるなど、「人」の目線からの評価が徹底されています。

 人間の街12の質的基準
12の質的基準(出典:「人間の街」ヤンゲール著、鹿島出版会)
 

ファサードチェック

最後に、主な通りでの「ファサードチェック」。これは、単に建物の1階部分の外観が良いデザインかどうか、というものではなく、建物自体のスパン(間口)が大きすぎないか、建物内が通りから見通せるかどうか、入り口の数は複数か、などその建物の1階部分が「通りに対して」どの程度よい影響を与えているのかを5段階で評価するもの。

そして、この評価結果を5段階で色分けして街の様子をビジュアルで表現していきます。こうすることで、課題の多そうな通りやエリアが直感的に把握できるようになり、どの場所を改善するのが最も効果的か、などの判断がしやすくなるそうです。

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シドニー市での調査報告書から(資料提供:ゲール・アーキテクツ)

 

学生たちがこれらのリサーチ結果を持ち寄り、最後にゲール・アーキテクツのスタッフに口頭で報告、フィードバックをもらうセッションを行います。日本ではパブリックスペースでスマートフォンに目を落としている人が多いことがわかり、アクティビティ調査の項目として「スマホをいじっている」が加わるなど、国や地域の事情に合わせてフレキシブルに調査の内容を調整していたのが印象的でした。

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各班ごとに決められた調査ポイントに出かけ、調査から戻ったら結果をフィードバック(写真提供:UR都市機構)

 

Open Workshopで街の声を聞く

こうして観察した街の様子をデータとして活用する一方、日々その街を利用している人々の声も大切です。その人々が日々体感していることの積み重ねがその街のイメージに直結するからです。というわけで、調査と並行して、神田警察通りの路上に設けた特設パブリックスペースで「Open Workshop/オープンワークショップ」を実施し、街のみなさんからの声を集めました。実際にいつもは道路として使っている場所にリビングのような空間を演出し、体験してもらいながら、「あったらいいな」と思う空間の写真を選んだり、自分のお気に入りの場所を地図に付箋で印を付けてもらったりしました。やはり人気があるのは小さなお店が集中し、歩くのが楽しい神田駅前エリアでした。

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通りすがりの方にもお声掛け。学生からお年寄りまで、様々な世代の方から声が集まりました。この街に「あったらいいな」と思うシーンを選んでもらってます(写真提供:UR都市機構)

 

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声を集めるだけでなく、路上に非日常的な空間を演出してみました(写真提供:UR都市機構)

 

この調査を通じ、ゲール・アーキテクツのクリエイティブディレクター、デイビッドさんは何を感じられたのでしょうか?後編では、ワークショップでの、デイビッドさんのインスピレーショントークを中心にご紹介します。公開までお待ちください。

 

【緊急告知】

上記でレポートしてきたゲール・アーキテクツによる調査分析やワークショップでの将来像の提案について、ゲール・アーキテクツディレクター デイビッド・シム氏が再来日し、報告会が開催されます。

アクティビティ調査やワークショップに参加された方はもとより、「神田でこんなことやりたい!」という方から単に「興味あり」という方まで、広くご参加頂けるとのこと。

奮ってご参加ください!

■ 「神田警察通り 賑わい社会実験 2016 開催報告」 <東京>
日時:2017年3月13日(月)
第1回15:00~17:00
第2回18:30~20:30
会場:
第1回 共立女子大学 本館 地下B101講義室
(東京都千代田区一ツ橋2-2-1)
第2回 the C  C-Lounge
(東京都千代田区内神田1-15-10 地下1階)
登壇者: デイビッド・シム
(ゲール・アーキテクツ クリエイティブディレクター) 
参加費:無料
問い合わせ窓口: UR 都市機構 東日本都市再生本部 
事業企画部第 1 グループ (担当者:月岡・今井) 
TEL:03-5323-0421 
Eメール:kanda-pj@ur-net.go.jp 
お申込み・詳細はこちらをご覧ください。 

 

 

PROFILE

菊地 マリエ

公共R不動産/アフタヌーン・ソサイエティ。1984年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。日本政策投資銀行勤務、在勤中に東洋大学経済学部公民連携専攻修士課程修了。日本で最も美しい村連合特派員として日本一周後、2014年より公共R不動産の立ち上げに参画。現在はフリーランスで多くの公民連携プロジェクトに携わる。共著書に『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』。

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