公共R不動産研究所
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 「公共不動産データベース」担当の頭の中 #02 もっと不動産活用の実験をしよう!!「土地」

「使われなくなった公共不動産」とひとくくりにする中にも、多岐にわたるカテゴリーがあり、またその活用にあたってはそれぞれの課題を抱えています。公共不動産活用の情報プラットフォーム「公共不動産データベース」に携わる担当者の目線から、日頃感じていることをエッセイ的に綴ります。第2回は「土地」についてです。

公共不動産の大半は「土地」ですが

公共施設がハコモノと揶揄されることがあるように、公共不動産といえば建物の方に目が行きがちですが、建物が建っているのは土地の上。実は公共不動産の大半は当然「土地」です。とはいえ今回取り扱う「土地」は、建物が建っていない状態のまっさらな土地のことです。不動産の世界では、建物がなく付帯する権利のない状態を差して「更地」と言ったり、使われていない状態を差して「空き地」と言ったりします。

あなたのまちにもある更地/空き地

行政が入札などにより譲渡する公共不動産の多くも、この更地・空き地です。老朽化した建物を解体できず、手がつけられていないものも残る中、解体費用を考慮した入札で「マイナス入札」を実施した深谷市の例も話題となりました。

民間の不動産でも「空き家・空き地」が問題視され、不動産マーケットに流通しにくい遊休不動産をどのように扱うかが課題になっています。地域によっては民間でも行政でもなかなか買い手がつかないという現状が見られます。

実は登録数の45%を占める「土地」

「公共不動産データベース」の物件カテゴリーでは、「土地」はちょっと説明に困るカテゴリーです。大雑把に言えば、建物がない土地全般のうち『公園』を除いたもの全部、です。このため、道路や駐車場などすでに機能を持ったものも含まれてきますが、そのほとんどはいわゆる「更地・空き地」です。

データベースに登録された物件の中で、最も登録数の多いカテゴリーでもあります。登録物件全体のうち「土地」物件が占める割合はなんと45%、ほぼ半分。圧倒的に数が多いことが分かります。登録情報からの推測ですが、多くが建物が老朽化等ですでに解体された跡地のようです。

広さに着目すると、500m2前後のものも多く並ぶ中、学校跡地など10,000m2を超えるものもあるなど、ピンキリです。データベースに検索機能があってよかったとつくづく思うところです。

また、半数以上は住居系の用途地域にあるものでした。住宅だけでなく他の用途と掛け合わせた施設が好まれる中、住居系のゾーニングにある遊休不動産をそのまま不動産マーケットに出すだけでは、なかなか厳しいところがあるかも知れません。

公共不動産データベースに登録される画像からも悩ましさが伝わってきます。使われていない土地は、何とものっぺりして、特徴なく、写真映えしないものです。どうしたらよいか分からない困惑が、そのまま写真に現れているとも言えます。

使い手の構想力を刺激する試行錯誤が必要

使われていない寂しげな空き地を見ると、これを活用することなどできるのだろうか?と思うこともあります。しかし活用イメージを持てる主体に巡り会えば、その場所は宝のような場所になります。

ただ、あまりにもまっさらな状態の空き地は、使い手が使い方を考える「手がかり」の一部が失われているとも言えます。現地に行けば、その場所に立って空気感や周辺との関係などの手がかりを得ることもできますが、事前にネット等で物件を探している段階では、手がかりはそこに掲載された情報しかなく、写真だけを見て「この土地、使えるかも?現地に行ってみよう!」とは、なかなかなりにくいのが正直なところ。

これは民間不動産における空き家・空き地活用とも共通していることです。では、民間不動産では、どういった工夫や取り組みをしているでしょうか。

たとえば「家いちば」というサイトでは、売り手がストーリーを語り、価格だけではない部分で想いが伝わり取引が成立します。あるいは、現地で「まち歩きツアー」という形で、まちの魅力を紹介しながら空き家・空き地を巡り、使い手の構想力を刺激する工夫をしている地域も多くあります。

これまでどんな人たちがどんなことに使ってきた場所なのか。このまちの中でこの場所がどういった歴史を歩んできたのか。それが、使い手の構想力を指摘する手がかりとして新たな使い方の刺激やヒントになったり、その場所を使いたいという意欲や共感につながったりすることがあります。

ヒストリー/物語からのアプローチ「お宝物件を掘り出せ!公共不動産ディぐるナイトvol.3

行政も、使い手に対してメッセージを発信することが大切です。現に、ツアー形式のサウンディング調査を積極的に実施している行政はあります。公共施設こそ、多くの人たちに使われてきた時間軸があったり、まちの中の位置付けがあったりしてきたはずです。公共不動産の新たな使い方を考える時、不動産としての基礎的な情報を揃えるだけでは不十分です。こうすれば解決!という簡単な処方箋などない空き家・空き地には、使い手の構想力を刺激する試行錯誤が必要です。

都市政策とセットで考える

空き地は民間・公共両方に共通する現象です。何も考えずにただ公共不動産を民間不動産マーケットに流すだけでは、供給過剰な状態をさらに進めてしまう恐れがあります。官民で空き地を押しつけあったり、数少ない使い手を奪い合ったりしても仕方ありません。

不動産オーナーの中でも公的セクターは、不動産を長期保有できるのが特徴です。この特徴を活かした不動産活用を戦略的に考えたいところです。不動産の使い方を変えると、まちのあり方が変わります。まちの大半を占める公共不動産は、特にその可能性を秘めています。

どのような公共不動産活用も、都市政策に紐づいたミッションを持つ公民連携プロジェクトと考えることができます。行政・民間の比重はそれぞれミッションに応じて異なってきますが、そのグラデーションの中に位置付けることが可能です(民間不動産であっても、規制・規制緩和、補助金、税制・金融上の優遇など、政策目的を達成するための規制・誘導は行われており、どのような不動産活用も公民連携的視点で捉えることは可能です)。

現状、社会ニーズの変化を捉えた行政の上位計画はなかなかないため、公共不動産活用プロジェクトごとにあらためて、行政が実現したい都市・地域の姿や方向性(ビジョン)や、少なくともどのような都市・地域課題を視野に入れ、どのような方向性で解決されたいのか、認識や設定した仮説などを提示することがとても大事です。もしすでに未来志向の都市政策やビジョンがあれば、どのような公共不動産活用であっても、これに沿うことが大事です。

たとえば、公有地を民間に分譲する場合でも、条件付きとすることで、地域再生・経済循環の一端を担わせることができます。循環型まちづくりを掲げる岩手県紫波町は、オガールプロジェクトの一角において町産材を使った高気密高断熱の紫波型エコハウス基準に沿ったオガールタウンを実現しましたが、町はその後の別の町有地分譲においても、「住宅用に用いる場合は紫波型エコハウス基準を満たす」という条件を付して実施しました。

ひとつひとつは小さくても、都市政策に沿った地道な取り組みを継続し、積み重ねていくことはできます。地域に波及することなく不動産単体で頑張っていても、それは当該地域の限られた不動産ニーズを単に公共不動産側が獲得しただけに過ぎず、そのしわ寄せは、民間不動産の遊休化という形で残り、地域課題の解消にはなりません。

公共不動産の活用は、地域の魅力・価値の向上に貢献してこそ、その意義が示せるのではないでしょうか。

新たな土地利用の実験的アプローチ

今後、数十年単位あるいはそれ以上の期間、国土利用・土地利用はまだら状に変わり続け、都市政策もこれを捉えながら変化し続けます。当然、不動産活用のあり方も同様です。空き地も、従来の使い方が不向きになっただけで、ちょっと違った使い方には向いている可能性があります。

社会状況が変化すれば使い方も変わってくると考えると、期間限定でちょっとした実験のように新たな土地利用を試してみる、というくらいのスタンスがちょうどよいのではないでしょうか。

こうした新たな土地利用の社会実験やトライアルサウンディングなどを実施することも、有効な都市政策の一環になり得ると考えています。

トライアルサウンディングの実践の場となった「トライアルパーク蒲原」(撮影:石母田諭/OpenA)

「守口さんぽ」は、大阪府守口市の道路・公共空間などを活用した社会実験で、エリアリノベーション戦略の一環として実施されました。一過性のにぎわいづくりイベントではなく、社会実験に先立ちエリアリノベーション戦略を立案し、その戦略の仮説検証として社会実験を実施しています。暫定的ではありながら、未来の日常風景がイメージできる空間が生まれることで、これまで繋がりの薄かった市民や事業者に関係性が生まれ、自発的にまちに関わる意欲が生まれてくるなど、プレイスメイキングの要素も意図されています。

大阪府守口市・守口さんぽの様子(撮影:佐伯慎亮)

近年、エッジAIカメラなどを導入し、その場所がどのように利用されたか等のモニタリング・分析ができるようになってきました。これによって、サンプル的な計測と熟練者の達観・推測に頼ってきた部分が、相当補完できるようになります。社会実験やトライアルサウンディングは、都市計画の見直しを進めるプロセスの一環にもなり得るはずです。

不動産マーケットで出口が見えない土地であるほど、色々試してみる必要があります。エリアによってはもう建築物を伴わないような活用(公園、農地、緑地、原っぱなど)の方が現実的な選択肢になっています。所有者不明や管理不全などの課題を真正面から解決するのは大変であっても、少しずつエリアに変化を生み出す「タネ地」として暫定的に活用することが可能ならば、取り組み方が見えてくるところもありそうです。

未来に向けた都市政策を仮説として掲げ、公共不動産を使って実験的な土地利用のトライアルを積み上げていく。そんな場所と機会をつくることも、公的セクターにできる有効な施策ではないかと考えています。

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もっと不動産活用の実験をしよう!

はじめに触れたとおり「土地」と言っても千差万別。地域の特性も敷地の条件も、もちろんさまざまな個別の要素があります。それでも今回、なるべく全般的に共通する要素に注目して進めてみました。違いを特定しすぎる前に共通点を見出して、これまでとはちょっとだけ違う角度から捉え直してみる「実験」でした。

状況が大きく変わっていく中では、ひとつの方法、ひとつの目的に固執せず、少しだけ方法を変えてみる、少しだけ目的をずらしてみるといったトライを重ねてみると、展開が変わってくる。今回「土地」カテゴリーを取り上げて、不動産活用の実験をもっと重ねる必要があるのではないか、と感じるところでした。

公共R不動産研究所は隔週水曜日更新!
次回は5月31日(水) 高松研究員によるコラムをお送りする予定です!

PROFILE

矢ヶ部 慎一

文学部出身の再開発コンサルを経由して公民連携分野へ。1976年生まれ。株式会社タカハ都市科学研究所にて、法定再開発の事業コーディネート等に従事し、経営企画等も経験。東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻修士課程を修了後、現場経験をベースに公民連携分野へ展開中。東洋大学PPPリサーチパートナー/公共R不動産/株式会社アフタヌーンソサエティ/その他、埼玉県小川町でのNPO法人正会員など。

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公共R不動産の本のご紹介

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