公共R不動産の頭の中
公共R不動産の頭の中

公共不動産リサーチプロジェクト始動。公共不動産の流通について考える

2021年7月に公式リリースした「公共不動産データベース」。これをさらに発展させるべく、新たなリサーチプロジェクトが始動。リサーチの過程を記録・公開しながら知見を掘り下げていく連載を始めます!

公共R不動産の新サービス「公共不動産データベース(公共DB)」。2020年4月からのベータ版を経て、いよいよ2021年7月から有料サービスを備えて公式リリースしました。

私たち公共R不動産が目指しているのは、「公共不動産が当たり前に流通する未来」。その未来を実現するひとつの手段として公共DBを立ち上げ、この1年間でマッチング事例が誕生するなど少しづつ成果が出始めています。

しかしその一方で、いくつか課題も見えてきました。一番大きなもので言えば、自治体による物件登録数の伸び悩み。物件を登録できないことの裏側にどんな事情があるのか、その課題解決に向かって、新たなリサーチプロジェクトを立ち上げました。現状の課題を分析し、解決策の仮説を立て、そのヒントを求めて様々なジャンルの専門家を訪ね歩いていくプロジェクトです。

リサーチの記録は新たな連載として順次公開していき、読者のみなさんも一緒に考えていけるシリーズにしていきたいと思っています。

初回は公共R不動産の矢ヶ部慎一と飯石藍が、ベータ版リリースからこれまでの経過を振り返り、公共DBの運用から見えてきた課題の分析と、本リサーチプロジェクトの展望を語ります。

公共不動産データベース

公共不動産データベース、誕生の経緯

矢ヶ部 公共DBのデータ版をリリースして約1年が経ち、ようやく正式リリースにたどりつきました。この1年間を振り返ると、いろいろと課題が見えてきましたよね。よりたくさんの人に公共DBを利用してもらえるように、現状の課題を頭出しして、解決策の仮説を立てていきたいと思います。

まずは公共DB誕生の経緯を簡単に振り返っていきます。2015年に公共R不動産が立ち上がり、当時はまだ公共空間は使いにくい状況でしたが、ゲリラ的に生まれたおもしろい活用事例を紹介してきました。そして公共不動産とそれを活用したい人とのマッチングサイトとして、遊休化した公共不動産の情報を取材、編集して掲載してきました。

しかし、人口減少に伴い今後もどんどん遊休化した公共不動産が出てくるなかで、自分たちで一件づつ紹介しマッチングの支援をするだけでは数が追いつきません。よりたくさんの物件情報を届けて、あちこちでマッチングが生まれる状況を生み出すにはどうすればいいのか。その解決策として、公共不動産データベースが誕生しました。

公共DBは、各自治体が保有している公共不動産の情報を簡単に登録し、広く民間事業者へ発信する情報プラットフォームです。見やすいデザインと共通の項目で公共不動産情報を一覧化し、民間不動産のポータルサイトのように網羅性の高い情報サイトを目指しています。

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なぜだろう? 物件掲載数の伸び悩み

矢ヶ部 現時点(2021年8月)で、自治体会員は220、登録物件数は290件ほど。じわじわと増えているものの当初の期待からすると反応が鈍いのが正直なところです。

飯石 全国の自治体がそれぞれ数十件づつ登録してくれたら、10万件に近い情報が掲載されて、それを民間の人が自由に検索して物件を選べるような状況をイメージしていました。自治体の物件登録は無料ですし、絶対使ってくれるはず!と思っていたのですが、実際には違ったんですよね。私たちの思いやイメージとのギャップがあまりに大きいので、一体なぜこうなっているんだろう?と、自治体の状況を知りたくなりました。

矢ヶ部 一方で民間からの反応は良好です。登録数は急激に伸びて、民間会員は650を超えています。

飯石 民間は大手企業だけでなく、新しい事業をやりたい中小企業からの登録も毎日どんどん増えていますよね。だけど自治体の物件登録数が少ないがゆえに、圧倒的にまだ情報量が足りず、見合う物件に出会えない状況だと思います。民間からの熱い期待を感じるがゆえに、もどかしさを感じます。

矢ヶ部 そもそも自治体はたくさんの遊休化した不動産があって、情報発信に困っているはずなのになぜ?と疑問に思いますよね。

矢ヶ部 先進的な自治体は、所有する不動産情報を庁内ですべて把握していて(STEP1)、どれを行政で稼働させ続けて、どれを民間に使ってもらうか、売っていくか、戦略的に考えているようです(STEP2)。そのうえで「この物件は民間に使ってもらおう」と判断した物件については公共DBをどんどん活用してくれています(STEP3)。

飯石 平成26年に、自治体が持つ全公共施設の状況を整理すべく、「公共施設等総合管理計画」策定指針が全自治体に展開され、ほぼ全ての自治体でこの総合管理計画は策定されています。すべての公共不動産はリスト化されて、ざっくりとそれぞれ統合や更新、廃止、活用などの方針が決まっているはず。ところが、個別の物件に対してどうやって活用していくか検討を進めるという次のステップに至っていない自治体が多いことがわかってきました。民間から問い合わせが来ても対応しきれず困ってしまうので、物件情報が公共DBに出てきていないのだろうと推測しています。

矢ヶ部 すごくもったいないですよね。そこで仮説を立てみました。公共DBに物件が掲載されない理由。そこにはざっくりと2つの壁があるのではないかと。そもそも「不動産」と思っていない壁と、縦割り組織の壁です。

そもそも「不動産」と思っていない壁

矢ヶ部 まずは、そもそも自治体のみなさんは、遊休化した施設や土地などを「不動産」だと認識していないのではないか、という仮説。例えば、廃校を活用してほしいと思うならば、民間の不動産と同様に、基本的な物件情報の整理は必須ですが、多くの場合はされていません。

飯石 国交省がサウンディングの手法についてガイドラインを出しており、民間企業がどんな情報を求めているのかがそこに書いてあります。例えば、築年数、規模面積、法的な制約、アクセス、立地条件、過去3年の施設の収支など。民間不動産からすれば当たり前の情報なのですが、これらが整っていないから、民間は検討しようがないという状態なのですよね。

国交省によるサウンディング手法のガイドライン より。民間事業者が求める基礎情報については、青枠の部分。(青枠は公共R不動産が追加しました)


矢ヶ部 さらに不動産情報として世の中に流通させなければ使いたい人に届かないと思うのですが、「自分たちのHPに載せているから大丈夫です」と自治体の方から回答をされてしまうこともあります。

飯石 HPに掲載していても、物件を探している人がひとつひとつの自治体HPを訪れて情報にたどり着くのは困難。だからこそ、全国の物件情報を一元化している公共DBに民間企業のみなさんが期待してくれているのですよね。

矢ヶ部 もうひとつ、自治体の物件掲載に至らない大きな要素だと感じているのが、「自治体は活用ニーズがないものに調査のお金をかけられず、一方で十分な物件情報がないと民間は判断できないという悪循環が起きている」という点。そもそも物件の状態を調査するのにはお金がかかり、自治体はその予算がとれないんですよね。なぜなら使ってもらえる保証がないから。「確実に使ってくれる人がいるなら調べます」というスタンスなんです。

飯石 公共DBではオンラインニーズ調査(※)を実施していますが、それは自治体から「そもそもその施設や土地にニーズがあるのか?」を知りたいという声があるからです。自治体には、それを知れる手段が現時点ではほぼありません。

民間不動産はプロセスが逆で、使い手を見つけるために先行投資して物件を調査するケースが圧倒的に多いです。しかし使い手が付かなかったら調査費用は無駄になってしまうわけで。

※ 公共DBに掲載されている物件に対して、活用のニーズや可能性を探るための簡易なウェブアンケートによる調査

矢ヶ部 自治体の場合は税金を使うので、民間と同じようにはできないのかもしれませんが、先行投資をしないと使い手が現れる可能性はガクっと落ちてしまいます。

飯石 「ニワトリが先か、タマゴが先か」の問題ですね。

矢ヶ部 ニーズが不明確なものに予算がつけられない。つまり、予算をひっぱってくる道筋が立てきれていないということ。

飯石 これはもしかすると一番大きな壁の要素かもしれないですね。不動産は流通させてなんぼ。先行投資型で予算の付け方を考えていかなければいけません。

縦割り組織の壁

矢ヶ部 もうひとつは、庁内では取り扱う内容ごとに部署を分けており、その縦割り型の組織が壁となってしまうケース。これは行政に限らないのですが、その部署が担当していない内容であったり、部署をまたぐような内容になると、動きが鈍くなったり、止まったりしがちです。

例えば「隣の土地と一緒に活用してみてはどうですか?」と提案しても「隣の部署との合意形成が必要なので、できないんです」ということがあったり、情報公開をするにも時間がかかります。行政の中の意思決定の壁があり、先ほどの図でいうとSTEP1で止まってしまうようです。

飯石 本来は財産管理(ファシリティマネジメント〈FM〉)の部署が施設全体を統括しているはずなのですが、建物単体の活用を考えている所管課がFMの課との意思疎通がとれていなかったり、そもそもそ物件のオーナーが所管課かFMの課かどちらなのかが定まっていないケースもあります。つまり、行政の中でお見合い状態になっているんですよね。

民間側から見ても、どちらの部署にアプローチすればよいのかわからず、たらい回しにされてしまうのはよく聞く話です。

矢ヶ部 公共施設が廃止されて、別の部署に担当が切り替わると業務の連続性が消えてしまうことも課題です。例えば閉校を検討中の学校施設について、学校教育課がにぎわい施設に向けた活用を検討するなど、本来はまちづくりを考える部署ではなかったところが、急にまちづくりを見据えた施設の活用を考えなければいけなくなる。大変な状況も理解できますし、それも壁になっていると思います。

飯石 縦割りの問題は、公共不動産の活用に限らず、公民連携においてはすべての案件に発生する壁で、根深い問題ですね。

各ジャンルに精通した、実践者や専門家たちへのインタビュー

矢ヶ部 このように公共不動産の流通に関する課題、立ちはだかる壁について仮説を立てたわけですが、今後はこの仮説に基づき、それぞれその道をよく知る方へのインタビューを通じて、解決策へのヒントを探っていきたいと思います。お話をうかがいにいくのは、例えばこんな人たちです。

公共不動産を活用したい民間事業者のニーズ。
もっとこうなると検討しやすいのに!

矢ヶ部 まずは民間事業者へ。民間事業者がどのように公共不動産を探しているのか、どんなふうに公共不動産の情報が出てきたら使いやすいと思うのか。そういった点をダイレクトに聞きたいと思います。

また、できれば実際の公共DBユーザーであり、自治体にアクセスした経験のある民間事業者さんにもお話をうかがえないかな、と思います。

公共不動産も「不動産」。
民間不動産からみた公共不動産の流通の課題とは?

矢ヶ部 言ってみれば公共不動産は、民間でいう中古物件と同じ扱いになります。どれくらい痛んでいるのか、修繕の状況や耐震など、民間事業者は建物の状態について情報を出してほしいわけです。それを民間の不動産では、どんな管理でどのように調査しているのかを聞きに行けると、公共不動産にも参考になるのではと思います。

飯石 民間ではインスペクションという物件調査の専門機関があるので、公共不動産だったらどのようにできるか、公共不動産と民間不動産の違いを含めて聞けたら課題が見えてきそうですね。

公共不動産の民間活用を進める前のゼロフェーズ。
行政の現場では何が起きている?

矢ヶ部 縦割りにとらわれず、庁内で一体感を持って施設管理(FM)に取り組む自治体に、その具体的なやり方を聞きに行きたいと思っています。公的不動産の適正な施設管理を職員自らが行う体制づくり、チェックポイント、民間提案制度、または民間提案制度に捉われない活用を実践する自治体からみた公共DB活用への期待も聞いてみたいですね。FMだけでなく、公共不動産の流通のヒントが掴める気がしています。

そのほか、ファイナンス、不動産流通、施設管理など、いろいろな角度から各専門分野の方へのヒアリングを検討中です。インタビューを重ねる中で、別の道筋が見えてくる可能性もあるので、取材先は進めながら考えていきたいと思います。

公共不動産がもっと当たり前に流通する未来を目指して

矢ヶ部 このリサーチプロジェクトでは、仮説を組み立てながら情報を集め、公共DBをより多くの方に使ってもらうことで、公共不動産がもっと当たり前に流通する未来を実現したいと思っています。

公共不動産の活用に向けて、課題を抱えながら取り組む自治体さんたちが多くいます。ぜひこのリサーチ結果を活用していただき、現場の担当者さんがより動きやすくなるように、情報を集めていきたいと思います。

「こういう悩みがある」「こんな情報がほしい」という声があれば、そして、不動産分野で「こんな課題解決のアイディアやヒントがあります」という情報があれば、ぜひお寄せください。みなさまのご意見やご要望、お待ちしております!

初回は、民間不動産から見た公共不動産の課題について、不動産の専門家へのインタビューから開始します。

構成・文/中島 彩(公共R不動産)

※本企画は、令和3年度 国土交通省「ランドバンクの活用等による土地の適切な利用・管理の推進に向けた先進事例構築モデル調査」の一環で実施しています。

PROFILE

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全国の魅力的でユニークな公共空間再生の事例や、公共空間を楽しく活用する人々のインタビューなどをお届けします。

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公共R不動産の本のご紹介

クリエイティブな公共発注のための『公募要項作成ガイドブック』

公共R不動産のウェブ連載『クリエイティブな公共発注を考えてみた by PPP妄想研究会』から、初のスピンオフ企画として制作された『公募要項作成ガイドブック』。その名の通り、遊休公共施設を活用するために、どんな発注をすればよいのか?公募要項の例文とともに、そのベースとなる考え方と、ポイント解説を盛り込みました。
自治体の皆さんには、このガイドブックを参照しながら公募要項を作成していただければ、日本中のどんなまちの遊休施設でも、おもしろい活用に向けての第一歩が踏み出せるはず!という期待のもと、妄想研究会メンバーもわくわくしながらこのガイドブックを世の中に送り出します。ぜひぜひ、ご活用ください!

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