クリエイティブな公共発注について考えてみた by PPP妄想研究会
クリエイティブな公共発注について考えてみた by PPP妄想研究会

第12話:新しい公民連携の仕組み「NEO三セク」とは?

行政経営の効率化を図る公民連携(PPP)。その法制度や仕組みがクリアになれば、もっとクリエイティブな公共発注が可能になるのでは??という問題意識から発足した「PPP妄想研」が、既存のルールを読み解いた上で、「こんな制度が理想的なんじゃないか」論を妄想していきます。

民間のクリエイティビティを損なわない「組織体制」を探る

はじめまして。PPP妄想研メンバーの佐々木晶二です。

これまで妄想研ではクリエイティブな公共発注という観点から、11話にわたって公共発注がこうあったらいいな、と妄想してきました。自由なアイデアを生かしたり、事業収支を確保するといった観点から、できるだけ事業内容を決める段階から民間事業者が参加し、維持管理までを含んだ一体的な発注はどのようにしたら可能になるか、などを提案してきたわけです。

第10〜11話で、これらの提案は、契約という観点からは、少なくとも事業のどこかの段階で、一度は公募型プロポーザル方式というプロセスを経て民間事業者が選ばれる随意契約であるということが示されました。

実は、私たちが妄想研の初回にいくつか目指すべき好事例をスタディした際、民間事業者がクリエイティビティを発揮するための方法として、公募型プロポーザルを通じた事業者選定というプロセスとは全く別の角度から、もうひとつのタイプがあるな、と考えていました。

それは、行政が出資する組織と行政が随意契約し、その組織が柔軟な契約手法をとるという方法です。
その具体例としては、たとえば高度な公民連携事例として名高い、岩手県紫波郡紫波町のオガールプロジェクト岩手県盛岡市の動物公園再生事業大阪府大東市の北条プロジェクト(団地再生)などが挙げられます。
これらの事例では契約のプロセスというよりも、民間のクリエイティビティを損なわないような意思決定を可能にする「組織体制」が鍵を握っているのです。

行政出資のまちづくり会社

では、それは一体どんな「組織体制」なのか?それを探るのが今回のテーマです。

端的に言うと、それは官民の契約の間に「まちづくり会社」を噛ませているということ。ちなみに、ここでいう、「まちづくり会社」とは、「資本金に行政からの拠出が一定程度の割合で入っている半官半民組織」という意味で使っています。(ちなみに、半官半民組織といえば、第三セクター、TMOなど様々な組織体がありますし、逆に行政出資のないまちづくり会社もありますが、ここでは、行政出資のある半官半民組織であることがポイントなので、そのような意味で捉えてください。)

下の図で示すと、行政が、まちづくり会社に対して、随意契約で調査業務から建築工事など一連の業務を発注し、まちづくり会社は、いち民間事業者として振る舞い、見積もり合わせなど、様々な企業の提案を比較検討し、効率性・経済性を確保しつつ、行政の意図もきちんと反映できる民間自業者を契約相手として選定するというタイプです。

公的不動産活用の契約方法として、公募型プロポーザルでの選定・随意契約の他にも、行政出資したまちづくり会社が民間方式で随意契約・発注を受けるパターンがあるのでは?というのが今回の論点です。

まちづくり会社を挟むことで民間のクリエティビティを担保できる秘訣は、まちづくり会社は随意契約に基づき、行政からプロジェクトのディレクションを一任されるという点にあります。つまり、コンセプトメイクから設計施工、テナント付けまで、一貫したコンセプトのもとで、まちづくり会社が事業者選定を行うことができる自由度の高さにその秘訣があるのです。

官民の直接の契約の間に、まちづくり会社という公的な使命をもった組織が入り、官の意向を汲み取りつつ、民との契約業務をフットワーク軽くこなす。いわば、このまちづくり会社は官の代理人(=エージェント)として、民間と交渉するので、アメリカ型の公民連携組織に倣い「PPPエージェント」とも呼ばれます(『公民連携の教科書』参照)。
しかし、なんだか急に難しい外来品のようにも思えて、捉え所がない気持ちになりますし、実際、組成するに当たって、何か特別な条例や法律にもとづいた組織というわけではないので、ここでは分かりやすさを優先し、敢えて「エージェント」という用語は使わずに説明を試みたいと思います。

盛岡、大東、紫波、3つのまちにおける実践から学ぶ

では、この「行政出資のまちづくり会社との随意契約」という発注方法は、どのようにしたら可能になるのでしょうか?

妄想研ではそのリサーチとして、実際に行政が所有する建物や公園、土地の活用にあたって、民間の知恵を最大限に活かして「公的不動産プロジェクト」を実現した行政側のプロフェッショナルにお話をうかがいました。

お話を伺ったのは以下の3名の方々です。それぞれのプロジェクトは、いずれもユニークな試みで、紹介しようとすると、とてつもなく長くなってしまいます。ですから、今回の記事では、あくまでもお三方の話から見えてきた、「行政が出資したまちづくり会社と随意契約を結ぶ」発注方法がうまくいくためのポイントに絞って分析を試みます。

ヒアリングをお受けいただいた方々

事例1
長沢幸多さん/株式会社もりおかパークマネジメント
プロジェクト名:盛岡市動物公園再生事業(岩手県盛岡市)
プロジェクトの特徴:老朽化し経費増大・入館者減退の課題に直面した動物園動物公園の再生事業。行政出資の公園活用会社、(株)もりおかパークマネジメントが設立され、収益事業と併せ、動物園運営を担う。

事例2
入江智子さん/大東公民連携まちづくり事業株式会社〈コーミン〉
プロジェクト名:北条まちづくりプロジェクト(大阪府大東市)
プロジェクトの特徴:老朽化した団地建替えにあたり、大東市は市の代理人として大東公民連携まちづくり事業株式会社に、事業の開発権を付与。借上げ公営住宅、民間賃貸住宅の住宅棟、生活利便施設等の整備を進めている。

事例3
鎌田千市さん/紫波町役場
プロジェクト名:オガールプロジェクト(岩手県紫波郡紫波町)
プロジェクトの特徴:駅前の公有地10.2haの開発にあたり、町出資の(株)オガール紫波を設立。エリア全体のデザインガイドライン策定、オガールプラザ(図書館及び民間テナントの複合施設)の整備・発注や、計画、開発、運営を一体で進める。

いきなり夢を砕くようで申し訳ないのですが、この「まちづくり会社が主体となり公的不動産活用プロジェクトを成功させた事例」は、実はまだ多くありません。また、それぞれのプロジェクトごとの背景や特徴に大きく左右される部分もあり、何か共通の「こうすれば上手くいく方法」を整理するのは現時点では難しいのが正直なところ。

とはいえ、3つの事例に共通するいくつかのポイントが導き出せたことは非常に有益だったので、この記事ではそれらをピックアップしていきます。

ポイント1:随意契約を結べる主体となるには?

まず、3事例で共通する点に組織体制(スキーム)が挙げられます。公的不動産の活用という目的のために、まちづくり会社が民間事業者との間に入る仕組みとして、3事例とも共通して、まちづくり会社が、さらにまちづくり事業会社を組成する体制をとっています。

公的不動産活用のために立ち上げられた「まちづくり会社」と「まちづくり事業会社」

時系列的には、まず最初に行政出資を受けて「まちづくり会社」が設立され、随意契約で事業立ち上げにあたっての調査やマーケティング業務を行います。

そして、事業実施の段階で、「まちづくり事業会社」という、実際の事業を行う会社を立ち上げます。このまちづくり事業会社は、まちづくり会社からの出資や、地元の金融機関の融資、として、行政からの出資を受け、プロジェクトごとに組成されます。まちづくり事業会社は、公有地などの賃貸借契約を行政と結ぶとともに、建築物の建築や基盤整備について行政側からの発注がある場合には、行政からの随意契約により建設工事などの業務を実施します。

この「まちづくり会社」も、「まちづくり事業会社」も、調査業務や建設工事においては民間事業者が通常行う、見積もり合わせなど柔軟な発注方式を取っています。役人の方ならご存じの通り、行政発注では、基本的に行政が要件を民間事業者にオープンにして、民間事業者からは価格や企画が提出され、それを審査して一番優位(価格が安い、評価が高いなど)な事業者を選定するという形しかとれません。任意で色々な事業者から見積もりを取ったり、業者からの提案を受けて、対話をしながら契約内容を決めるなんてことは、全然できないのです。 (※なお、これ以降は「まちづくり会社」と「まちづくり事業会社」を、総合して「まちづくり会社」として説明していきます。)

盛岡市動物公園再生事業計画(盛岡市HPより)

ちなみに、なぜ、このまちづくり会社が随意契約をできるのか?という点について、疑問に思う方もいると思うので、補足しておきます。
地方公共団体の随意契約については、地方自治法第234条と地方自治法施行令第167条の2に定められています。特に、後者の施行令に含まれる「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」については、解釈が地方公共団体に任されています。随意契約ガイドラインという名称で、随意契約内容を示しているものを見てみると、公共的団体など、行政がその公共性を認める団体を随意契約の対象と明記している地方公共団体もあります。

このような各地方公共団体の契約実務の実態から見てみると、行政出資のまちづくり会社と随意契約を結ぶことは、内部的にも説明しやすい論理なのでしょう。なお、地方自治法上は、地方公共団体の出資比率によって、地方公共団体のチェックの度合いが変わってきます。

ポイント2:事業の透明性確保

さて、この「行政出資のまちづくり会社」。上記で補足した通り、公的な役割を帯びているので随意契約が結びやすい一方、透明性の確保が課題になりますよね。ともすれば「これって単に、行政の隠蓑的に使われているだけでは!?」と疑われかねません。

しかし、お話を伺った3事例共に、そこについてもきちんとガバナンス体制を整え、特別委員会や全員協議会といった開かれた場で、丁寧に説明をしています。
特に、大東市では、「大東市公民連携に関する条例」を制定し、公民連携のための計画や事業者選定の際の審査手続までを定め、議会からのチェックによって、事実上、どのような契約についても、公の目をきちんと通ることで透明性を確保していく仕組みになっています。

大東市の団地再生「北条プロジェクト」イメージ(大東市HPより)

また、議会や首長との関係についていえば、いくらまちづくり会社が随意契約をしやすいとはいえ、まちづくり会社がスムーズに事業をすすめていくためには、複数年度にわたる予算の確保を約束する「債務負担行為」について議会の議決を得る必要がでてくる場面が多々あります(詳しくは第7話参照)。
なぜなら、まちづくり会社は一般的にプロジェクトファイナンス型で事業を進めるため、初期投資を自ら負担し、その後、行政になんらかのサービスを提供する見返りとして、行政からの支払いをキャッシュフローの担保として融資を受けるからです。たとえば、大東市の北条プロジェクトの場合、団地の建設費用は民間が負担するものの、その後の借上げ賃料を返済原資に当てています。
債務負担行為は、議会の多数の賛成による議決が必要なため、議会の理解と応援を得られていなければなかなかハードルの高い行為。このような観点からも、議会にきちんと理解をしてもらいながら、行政出資のまちづくり会社の事業を進めていくのが望ましいですよね。

ポイント3:行政職員のモチベーション維持と窓口の一本化

民間のクリエイティビティを生かした公的不動産の活用プロジェクトは、市民によいサービスを提供しつつ、同時に財政負担を軽減するという、まさに一石二鳥的なメリットがあります。
その一方で、行政内部のモチベーションを保つことも重要な課題です。まちづくり会社の設立や随意契約の導入など、従来のやり方では生じなかった、事務的な手間や負担も大きくなってくるからです。

このため、まちづくり会社のカウンターパートとなる行政側にも、柔軟で積極性のある人材を備えた横断型の部署をきちんとつくることが大事です。その部署に窓口を一本化して、民間側の提案も積極的に受け入れ、持続的に支援すること。これがなければ民間事業者はその都市に投資してくれません。

「オガールプロジェクト」全体マップ(株式会社オガールHPより)

ポイント4:地域に還元すること

まちづくり会社の最重要ミッションは、民間事業者の様々な知恵やアイデアを公的不動産活用にうまく結びつけ、地域の課題解決と両立させていくことです。要は、頭を使うこと。これが最優先です。

事業がうまく立ち上がると、次に必要になってくるのが、建築工事などハードの事業。このハードの事業については、地元の会社が受注するなど、地域にお金が回るように工夫することが大事です。そして、まちづくり会社のトップは事業の構想に撤し、自ら受注はせず、「李下に冠を整さず」の対応が望ましいです。

また、周辺住民の合意形成や地域経済への貢献という観点を重視して、まちづくり事業会社が建設工事などを受注する場合には、まちづくり事業会社のトップに、地元に信頼のある方を据えるなども一案でしょう。

いずれにしても、地元企業や地元住民にきちんと利益が還元され、不公平だ、利益相反である、という批判を受けないように、細心の注意を払うことがポイントと言えそうです。

行政出資のまちづくり会社」と「第三セクター」の違いは?

ここまで読んできた皆さんの中には、ここでいう「行政出資のまちづくり会社」って、要は、既存の第三セクター(以下、三セク)なのでは?と疑問に思っている方もいるかもしれません。私たちがその違いをどのように捉えているのかを説明します。

まず、大きく異なるのが、経営責任のあり方です 。従来型の第三セクターは通常、借入に対して行政が保証する形になっていたため、赤字が膨らんでもすぐに倒産することはなく、税金が注がれ続けることが普通になっていました。数年ごとに変わる前提で行政から送り込まれる経営者も多く、責任が曖昧だったことも否めません。
しかし、今回スタディしたまちづくり会社は、金融機関からあくまでプロジェクト単体の収支を前提に資金を調達し、行政の保証などは基本的になされないものです。経営不振が続けば当然、破綻しますから、緊張感がまったく異なります。必要な時はシビアな判断が下されることが当然という世界になり、経営者も腰掛け感覚を前提に選ばれることはなくなるでしょう。

その組織の担う責任に伴い、従来の三セクと圧倒的な違いが生じるのが、まちづくり会社のトップや役員に求められる能力です。まちづくり会社のトップは、クリエイティビティを見出し、それを経営的に成り立たせる民間的能力と、行政知識という公的な能力、ふたつの能力を併せ持つことが必要な、極めて難しい職能といえます。これまでの三セクのトップのように、役所で功成り名を遂げて定年になった役人OBに務まる仕事ではありません。

第三セクターは、天下りや、不健全な経営などの問題が多い組織でしたが、こうした点を踏まえると、行政出資のまちづくり会社と、これまでの三セクとは、能力、資金計画などまったく違うものなのです。

「NEO三セク(仮)」のあり方を目指して議論は続く……

民間のクリエイティビティを発揮する公共発注として、10話〜11話で説明してきた「公募型プロポーザル方式」とは別のかたちで随意契約を活かした「行政出資のまちづくり会社」型、の特徴がお分かりいただけたでしょうか?

さて、3事例からある程度、このタイプの事例の重要なポイントが導き出せたものの、これをより積極的に普及させていくために、具体的に何をすべきなんだろうか? 結局、このような難しい仕事ができる人材の確保や育成は可能なんだろうか? など、議論すべき点はまだまだ残っています。

また、行政が出資しているまちづくり会社には、行政出資に伴う政治リスクにさらされるというデメリットもありますので、随意契約を行政と結ぶことができるというメリットと比較していくことも大事です。

まずは、既存の第三セクターと誤解されそうなこの仕組みに、新しく名前をつけるところから始めてもいいかもしれませんね。ひとまず「NEO三セク」とでも呼んでみましょうか。
この「NEO三セク」をもう一歩前に進めていくために、行政側にやってもらいたいこと、民間側ですべきことについて、これからも探究していきたいと思っています。皆さんもご意見お寄せください!

イラスト:菊地マリエ

    

寺沢さん

今回、なかなかテクニカルな内容だと思いますが、やっぱり重要なのはビジョンとコンテンツを持ち、共有することですね。NEO三セクが経営感覚とパブリックマインドを持っていることと、本文でも記されているように、これに呼応する行政としての姿勢が問われると思います。
今回提案した「NEO三セク」も、よく考えれば本来の三セクの姿ですよね。「三セク=悪」みたいなレッテルが貼られてますが、天下りシステムとか補助金・赤字垂れ流しの経営体制が問題なのであって、プロジェクトベースで考えたら実は三セクってめっちゃポテンシャルあるのかも!

   

公共R不動産では、民間事業型の公共不動産活用を促すためのデータベース作成にも取り組んでいます。詳細は【公共不動産 データベース】をご覧ください。

PROFILE

佐々木 昌二

1982年東京大学法学部卒業、建設省入省。岐阜県都市計画課長、建設省都市計画課課長補佐、兵庫県まちづくり復興担当部長、国土交通省都市総務課長、内閣府防災担当官房審議官、国土交通省国土交通政策研究所長を経て、現在は(一財)土地総合研究所 専務理事などを務める。

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