クリエイティブな公共発注について考えてみた by PPP妄想研究会
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第11話:公募型プロポーザル再考(後編)

行政経営の効率化を図る公民連携(PPP)。その法制度や仕組みがクリアになれば、もっとクリエイティブな公共発注が可能になるのでは??という問題意識から発足した「PPP妄想研」が、既存のルールを読み解いた上で、「こんな制度が理想的なんじゃないか」論を妄想していきます。

価格だけでは決定できない複合的な要素からパートナーを選定するための随意契約理由づくりが可能な公募型プロポーザル。しかし現況は壮大な無駄も発生してしまっています…!

選定後のプロセスの柔軟性に大きな違い

10話(前編)では、公募型プロポーザルについて改めて整理し、この手法が、提案を通じて契約相手となる「人」を選ぶものだと言えることが見えてきました。
今回は、 その選び方の具体的な方法について妄想していきます。

「案」を選ぶか、契約相手となる「人」を選ぶか。

何が違うのかというと、選定後のプロセスが異なります。
総合評価型」の場合は、バチバチに決まった仕様をこなせるのかどうか?の能力の精査が行われ、最終的に価格によって落札者が決まります。そういうわけなので、仕様自体を契約後に柔軟に変えるわけにはいきません。したがって、あくまで仕様発注的な側面が大きくなります。

他方、「公募型プロポーザル」の場合、提案ではその事業の目的に、どの事業者の考え方が合っていそうか?また、公民連携案件で大切な、行政側の価値観やニーズ、案件への理解度、相性、地域へのコミット度合いやインパクト、といった価格以外の要素も判断材料として重要になってきます。
そのような評価軸を事前に提示しておき、審査を経て、あくまでも「パートナー」を決めるということ。もちろん、要項である程度のことは定めておく必要がありますが、企画内容自体は、提案書が提出された時のままでなくとも、優先交渉権者となった後、行政と協議しながら柔軟に、お互いがwin-winになるよう、よりよい企画を詰めていけばよいことになります。

特に、遊休公共資産の民間事業型の活用では、民間が資金を投入して整備・改修することが多いため、どんな事業をするかも提案によって振れ幅が大きく、公共側のコミットの仕方もあらかじめ詳細に計画しておくことが難しいでしょうし、公募要項という、数枚の紙に文字で表現された資料から、民間側が行政の真のニーズが読み取るのは至難の技。公募型プロポで、この人がよさそうだという相手を選んでから、じっくりと膝を突き合わせて事業をつくっていった方が官民両者にとって納得のいくものができる可能性が高いのではないかと思います。

「案」を選ぶか、契約相手となる「人」を選ぶか

公募型プロポーザルの特性を活かしたあり方を妄想してみる

今や、現場の運用としては、競争入札と同じかそれ以上に長期間にわたり、詳細な要綱と手の込んだプロセスを経ることが多くなってしまっている「公募型プロポーザル」。でも本来、この手法は、ある目的で行政が事業を実施する際に、価格だけでは決定できない複合的な要素からパートナーを選定するための随意契約理由づくりが可能なプロセスである、と言えそうです。

そうであるとすれば、「透明性」「経済性/効率性」「客観性/公平公正性」を確保できさえすれば、もっと工夫できることがあるのかもしれない、という妄想が頭をもたげてきます。

自治体に書式やノウハウが蓄積されていないことも多いのがひとつの理由ですが、現在の公募型プロポーザルは、おそらく一般競争入札と同等かそれ以上に手間のかかる複雑な手続きを必要とするようになっており、随意契約の長所である発注手続きの簡便性、そしてスピード感が損なわれています。さらに、民間事業者が参加するには、相当の提案書類を自らの負担で用意せねばならず、それが複数社の場合には、選定される一社以外の提案書作成への労力は水泡に帰すのです。

随意契約ガイドラインには、随意契約は手続きが簡易であると記載されているものの、実際のところは、行政側も公募型プロポーザルの要綱準備や審査には、非常に時間がかかってしまっています。また、民間事業者の金銭的(人件費)・時間的コストまで勘案してみれば、社会的には壮大な浪費です。そして、そのこと自体が、「遊休公共資産を使って事業にチャレンジしてみたい」と思う、新規参入企業へのハードルとなっており、もっとスピード感のある、効率のよい公募型プロポーザルが必要だと感じます。

随意契約のよさは簡易的な手続きにあり、とされているものの、実際の運用には壮大な社会的コストが発生してしまっています。

公募型プロポーザル妄想1:事業構想・事業性2段階審査

効率のよい公募型プロポの妄想案……。考え始めると、とめどなく浮かんできます。例えば、随意契約ならではの、あくまで蓋然性の高い交渉相手を選ぶのだというスタンスを明確にして、民間提案までの負担を減らす。確度が高まってから、労力と時間をかけられるようなプロセスはできないだろうか。とか。

ひとつめの妄想は、「事業の構想」と「事業の確実性」に分けた2段階審査です。

現状の公募型プロポーザルでは、上記ふたつの要素を同時に提案しなければならないので、事業計画や事業収支、管理体制、果ては調達手段の安定性と、かなり詳細まで盛り込んだ提案書の作成が必要です。

評価の配点も、事業の構想:事業の安全性・安定性:価格点で1:1:1。つまり、おもしろい新規事業の構想をもっているものの実績のない地元企業と、資金力や実績のある全国チェーンのドラッグストアが戦った場合、配点割合的に後者を評価してしまいかねない評価軸になっていることがほとんどなのです。

しかし、この事業の目的はそもそも何で、敢えて随意契約という手法を用いてまで、どんな資格を事業パートナーに求めようとしたのか?当初の目的は「この遊休公共施設を活用して、いかによいインパクトをまちに与えてくれるか?」ということではなかったでしょうか。

審査すべき軸は、いかに高い賃料を支払ってくれるかでも、いかに安定的に長期間借りてくれる相手なのかでもなく、パブリックマインドや、わくわくするような事業構想を持ち、ともに進められる想いと信頼感のあるパートナーを選ぶことだったはず。にもかかわらず、結果、資金力や実績などの安定性で判断してしまうという落ちになってしまっています。

審査のプロセスで随意契約の意味を見失ってしまっているかも…?

というわけで妄想案。

まず、ファーストラウンドでは、「真に求めたい資質を持っているかどうか?」という、現状ではなかなか審査対象となっていない、地域への想いやコミットメント、その事業へのモチベーションといった非常に定性的な、しかし重要な部分から始め、どんな仲間たちと事業構想をもっているのかをまずスクリーニングし、そこで数社に絞り込みます。

セカンドラウンドでは、「本当に構想した事業が実現できるのか?」という視点で、事業計画や収支、安定性などを含めた、より詳細な事業提案資料を作成します。
このラウンドでは、資料を作成するプロセスで、行政とコミュニケーションを重ねて、お互いにとってよい条件を引き出しあったり、既存建物・設備の改修作業についての現地視察や資料提供を受ける、打ち合わせるなど、ある種双方の手の内を明かしながら、現実性とパートナーへの信頼感を確かめ合う機会とします。その上で、設定されていた期間の末に、再度最終版の提案書の審査を経て、事業者の最終選定を行う。
これであれば、事業構想的に可能性のある事業者しか、事業の本格検討という負担のかかる作業を行いませんし、審査で何を大切にするのかの優先順位も明らかです。

ファーストラウンドでは、全事業者に機会を均等に与え審査を経ること、セカンドラウンドでは、官民共に現実的な事業性を共に検討することで、公平性、透明性、一定の経済性の観点は担保されると考えられます。

公募型プロポーザル妄想1:事業構想・事業性2段階審査

余談ですが、このパターンは、近年、採用自治体が増加している「随意契約保証型 民間提案制度」と類似してますね。
提案を受け付ける事業を幅広く募集し、民間事業者からやわらかめの提案を受ける。その提案内容がよければ、自治体と協議に入り、実現性が十分にあると判断できたところで、随意契約を交わすというもの。自治体側としては、詳細な公募要綱の作成の必要もなく、民間事業者側としては粗めの提案書から始め、感触がよければ行政とコミュニケーションを精度を上げていける。おまけに、そのまま契約まで持っていけるというスピード感。さらに、先日まで行われていた岩手県紫波町の「随意契約可能性もあるサウンディング」も、かなり柔らかい段階で民間事業者からの提案を求め、行政として「これは!」と思うものがあったら独占的にそこから交渉を開始する……という点で、このパターンと被ります。

民間提案制度に関する記事はこちら
紫波町のサウンディングに関する記事はこちら

公募型プロポーザル妄想2:ポートフォリオ審査

ふたつ目の妄想として、もっと簡易なポートフォリオ審査もあり得るかもしれません。海外の設計コンペや、日本でも民間コンペで見られる、2段階審査です。ファーストラウンドは公募型プロポーザルで、ポートフォリオだけを提出する。そこから、この案件に合っていそうだな、と思う相手を行政が選び、セカンドラウンドは、そこからは数社を指名し、行政から企画提案料を支払って、提案書をいくつかつくってもらう。で、最終的に良さそうだと思った人たちを優先交渉権者として交渉する。

提案書づくりに金を支払うだって?!と驚かれるかもしれませんが、行政としても、要項の作成のために最終的な責任をとってくれるわけでもないコンサルにお金を支払うより、ここで民間によいアイディアを練ってもらうことにお金に当てた方が、よほど本気度の高い質のよい提案をしてもらえる可能性が高まると思います(ただ、コンペの賞金だけを目的とした、キラキラしているけど事業性のない案を避けるための工夫が必要そうですね)。
社会全体として官民ともに消耗せず、質のよい提案を求めていけるようになるのではないでしょうか。

公募型プロポーザル妄想2:ポートフォリオ審査

他にも、ここから3話連続くらいで公募型プロポーザル妄想シリーズにしてもいいのでは、と思うくらい、審査員についての工夫、評価軸についての工夫……と大小あれこれ、妄想は膨らみます。ここで生まれるアイデアを各自治体が随意契約ガイドラインに盛り込められれば、やりやすくなるかもしれませんね!

なにより大切な公募型プロポーザルのふたつの原則。
「透明性」「経済性/効率性」「客観性/公平公正性」を押さえること案ではなく「パートナー」を選ぶこと
これらを守って、よりクリエイティブな公募型プロポーザルを発明する自治体が日本に増えていくことを祈ります!

イラスト:菊地マリエ

    

佐々木さん

一般競争は、一見公平に見えますが、結局、この方式では、市民によいサービスを持続的に提供できる民間事業者と行政が一緒に仕事できないというのが、プロフェッショナル公募型手続きが多く用いられている背景にあります。
今後は、都市間競争ももっと厳しくなるとともに、都市の持つ経済ポテンシャルの低下も心配されることから、行政は、単なる「発注」という上から目線でなく、本当に知恵と能力のある民間事業者と一緒に仕事をしていく姿勢が大事だし、そういう姿勢のある都市に、優秀な民間事業者が集まっていくことになります。競争の時代だからこそ、随意契約の仕組みなど、各自治体にそのやり方が委ねられている契約方式について、積極的に改善して、自分のまちの活性化につなげていくこと大事だと思います。今回の随意契約の提案も、参画したい民間事業者側の本音が反映された新しい方式の可能性を示していると考えます。

矢ヶ部さん

競争手続きにおいて「相手」と「価格」をいっぺんに決めるやり方。

競争手続きで「相手」を決めて、その後の検討・協議により妥当な「価格」を決める二段階方式。という提案は、いいですね。
競争性も透明性も公平性も損なわれないし、価格の妥当性(経済性/効率性)も確保できる。
入札だって結局、低価格入札したところで、その価格で確実に遂行できるかどうかの妥当性が求められるわけで。相手先の決定を「安いから」一辺倒から脱しさえすればよい。
価格は「妥当性(経済性/効率性)」の確認でよいはず、と思います。

   

公共R不動産では、民間事業型の公共不動産活用を促すためのデータベース作成にも取り組んでいます。詳細は【公共不動産 データベース】をご覧ください。

PROFILE

菊地 マリエ

公共R不動産/アフタヌーン・ソサイエティ。1984年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。日本政策投資銀行勤務、在勤中に東洋大学経済学部公民連携専攻修士課程修了。日本で最も美しい村連合特派員として日本一周後、2014年より公共R不動産の立ち上げに参画。現在はフリーランスで多くの公民連携プロジェクトに携わる。共著書に『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』。

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公共R不動産の本のご紹介

クリエイティブな公共発注のための『公募要項作成ガイドブック』

公共R不動産のウェブ連載『クリエイティブな公共発注を考えてみた by PPP妄想研究会』から、初のスピンオフ企画として制作された『公募要項作成ガイドブック』。その名の通り、遊休公共施設を活用するために、どんな発注をすればよいのか?公募要項の例文とともに、そのベースとなる考え方と、ポイント解説を盛り込みました。
自治体の皆さんには、このガイドブックを参照しながら公募要項を作成していただければ、日本中のどんなまちの遊休施設でも、おもしろい活用に向けての第一歩が踏み出せるはず!という期待のもと、妄想研究会メンバーもわくわくしながらこのガイドブックを世の中に送り出します。ぜひぜひ、ご活用ください!

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