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公共R不動産のプロジェクトスタディ
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津山市 グラスハウス利活用事業(後編)
クリエイティブな公民連携から生まれたスポーツ施設「Globe Sports Dome」

2022年5月、岡山県津山市にオープンした総合スポーツ施設「Globe Sports Dome」。2021年3月末に営業を終了した市営のレジャープール施設「グラスハウス」が、RO+コンセッションの方式を活用した再整備事業を経て生まれ変わりました。運営事業者・株式会社Globe代表取締役の関元崇志さんと、津山市 総務部 財産活用課長の川口義洋さんに事業のプロセスをうかがうインタビュー。後半では施設に込める思いや今後の展望についてうかがっていきます。

写真提供:津山市
写真提供:津山市

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自然を感じながら体を動かせる環境

関元さんは2014年より市内の中心地でスポーツ施設「Globe fitness&studio」を経営してきました。今回オープンした「Globe Sports Dome」はその進化型ともいえるGlobe社2つ目の拠点となります。

この建物は25ヘクタールにおよぶ巨大な公園「グリーンヒルズ津山」の一角に位置しており、建物の目の前には広大な芝生広場が広がっています。さらにはガラス張りのドーム型という特殊な建築物。スポーツ施設としては珍しいように思える環境ですが、そもそも関元さんはなぜ次の拠点としてグラスハウスに着目したのでしょうか。

「やはり一番の魅力は『グリーンヒルズ』というロケーションです。この緑あふれる自然豊かな環境で運動ができること。これに尽きますね。いまはスポーツジムやフィットネスクラブがブームで、マンションやビルの一室など閉ざされた場所で運動している人も多いですが、本来は自然を感じながら体を動かすのが一番。そういった意味でグラスハウスは絶好のロケーションです。この公募が出たときにようやく自分たちが本当にやりたいスタイルが実現できると、これは手を上げるしかないと思いました」(関元さん)

巨大な公園に隣接するロケーションやシンボリックな建築物。このような条件や要素を民間企業がいちからつくるのは極めて難しいものです。これこそが公共不動産を活用することの大きな価値といえるかもしれません。

約25ヘクタールという広大な公園「グリーンヒルズ津山」。芝生広場はゆるやかな丘になっていて、いい気が流れている。

2020年に開催されたグラスハウス活用のサウンディングに参加した時点で、すでに関元さんの中で事業のイメージはできあがっていたといいます。

プールを埋めて床をフラットにし、総合スポーツ施設として自由に体を動かせる環境をつくること。市内で8年間フィットネススタジオを運営し、プログラムや会員さんとの信頼関係、事業ノウハウなどは整っている状態。ハードを整えればあとはソフトをインストールするだけであり、「会員さんの満足度を上げる確信があった」と関元さんは話します。

エントランスでは「Globe cafe」がお出迎え。木がふんだんに使われたやわらかな印象の空間。カフェは会員以外でも自由に利用することができ、エントランスはパブリックスペースのように開放されている。カフェの設備の一部はグラスハウスに入っていたレストランの厨房をそのまま活用しており、Globeにとって打って付けの物件だったという。(写真提供:Globe cafe)

予想だにしない資金調達のハードル

プロポーザルに応募するのは今回が初めての経験だったという関元さん。手探りの状態ながらもひとつずつステップを経ていったといいます。

「公募の過程だけでなく、工事に入ってからもあらゆることが進めやすかったです。それは川口さんが事前に制度を整備してくれていたからだと、振り返ったいまならよくわかります。要項の文章が読みやすかったり、資料が見やすいなどの細かい配慮も、僕としてはかなり有難いことでした」(関元さん)

2021年7月に基本協定を締結し、資金調達へと進んでいきました。今回適用されたRO方式は、民間が最初に資金調達して改修工事を行い、市が工事費相当額の2億6500万円をサービス購入料として10年間に分割して民間に返していく仕組みです。市からの返済は見込まれていたものの、新しい事業スキームだったせいか、金融機関に理解してもらうのが相当に困難だったそう。なかなか折り合いがつかず、川口さんも関元さんに同行して説明に回っていたといいます。

徹底的にあらゆる金融機関を調べていたら、PFI事業を担当したことがある銀行にたどりつきトントンと話が進んでいきました。

「今回は融資に至るまでにたくさんの資料提出が求められて、かなりの時間と労力がかかりました。次の世代が津山市で事業をしたいと立ち上がったときはスムーズに進むように、金融機関も積極的にPFI事業や制度の仕組みを勉強してもらえるといいなと思います」(関元さん)

写真提供:津山市

幸せな建築への再生

資金調達に目途が立ち2021年12月に着工。1ヶ月で解体し3ヶ月で改修工事を終え、あっという間にオープンを迎えました。タイトなスケジュールでの設計・施工でしたが、施工会社内に設計者がいたことも、スムーズにアイディアを図面化し施工までもっていけた理由だったそうです。

プールのエリアは部分的に腐食していたものの、全体としては築20年ほどで比較的新しく、躯体は一部を塗り替えた程度。ウォータースライダーを撤去してプールの9割を埋め、アリーナやトラックなどの運動スペースへ。建築物として外観の魅力は維持したまま、内部を中心にリノベーションが行われました。

ガラス張りでドーム型という特殊な建築デザインがゆえに、夏は暑くなったり空調効率が悪くなるという課題もあります。そこで活躍しているのが、日陰をつくるため随所に張られたタープです。また、運動中は思い切り汗をかき、休むときにはしっかりクールダウンができるように、必要な場所にスポットクーラーが入っています。スポーツ施設だからこそできる、メリハリを効かせた空調の使い方です。

施設内のいたる所に直射日光を遮るタープが張られている。

完成した空間に立ち、川口さんはこのように振り返ります。

「プールを撤去してスポーツ施設として生まれ変わったことは、結果的に建築として喜ばしいことだったと思います。多くの公共施設を見ていると、管理者が苦労していたり、やる気がなかったりとネガティブな印象を受けることが多いんですよ。グラスハウスだった時代も決して指定管理者が悪いわけではなく、巨大プールの維持管理という業務自体に相当な苦労が見られました。

だけど関元さんはこの空間に強い魅力を感じて事業をしてくれています。やはり建築は人に使われて、愛されて活きてくるもの。そのポジティブなマインドが建築物としてもすごく幸せなことで、僕自身もすごく嬉しく思っています」(川口さん)

津山から世界へ。スポーツリズムトレーニングのメッカに

Globe Sports Domeでは、スポーツリズムトレーニングを導入した子ども向けのプログラムを中心に、フィットネスやヨガなどあらゆる健康増進のためのプログラムが実践されています。

スポーツリズムトレーニングとは「リズム感」を高めることで運動能力を向上させる新しいトレーニングの手法。Globe社の顧問である津田幸保さんが考案した津山発祥のトレーニングで、現在は日本国内はもとより、中国、韓国、台湾、タイの海外4カ国でも展開されています。

2018年には「一般社団法人 スポーツリズムトレーニング協会」を組成し、トレーナーが資格化されました。3年間で国内の有資格者は1万人という成長速度で、今回の事業でもスピード感を大切にしており、「川口さんが民間のスピード感を持って活用事業を進めてくれたことがありがたかった」と関元さんは話します。

子ども用のスポーツリズムトレーニングプログラム「STARアカデミー」。体操やリズムジャンプを通して体の使い方を学び、運動の基礎を身につけていく。(写真提供:Globe)

また、この立地や建築物としての魅力が事業にさらなる付加価値を生み出しているようです。

「7月には、年に1回開催されるカンファレンスがあり、約100人の指導者が集まりました。コロナが落ち着いたら、アジアから子どもたちを集めてトレーニング合宿をしたり、指導者たちも呼んで勉強会を開催する予定です。

特に人を集めるときには、一般的な体育館ではなくこの場所でやることに意味があります。シンボリックな建築であり、この空間には人をワクワクさせる力があるからです。トレーナーの中には“リズムの聖地”として、津山にくることをモチベーションにしている人もいます。ここには“メッカ”としてのベストな状況が整っているので、プログラムと空間が生み出す相乗効果を生かしていきたいと思います」(関元さん)

このように世界へ事業展開する一方で、ローカルにも根を張るGlobe社。津山市内のすべての小学校の体育の授業でリズムトレーニングが導入されているそうです。すべての年齢が取り組めて市民の健康促進につながるGlobe社の事業は、行政から見ても公益性の高いプログラムであると川口さんは話します。

「Globeの取り組みは行政がやってもいいと思えるほどの内容です。この場所は津山市民にとって思い入れのある場所なので、Globeのような公益性のある企業に使ってもらえるのはとてもありがたいことだと感じています」(川口さん)

グリーンヒルズの一部としてのグラスハウス

関元さんは「ここはみんなの施設だ」と話します。スポーツ施設としては会員制となりますが、エントランスに併設されたカフェには誰でも気軽に立ち寄ることが可能です。そして「コンサートをしたい」「アパレルのポップアップをしたい」など、この場所を使ってみたいという要望が寄せられており、今後はGlobeのコンセプトに合うかたちでイベントやスペース貸しも行われていくとのこと。

「ここをどのように使っていけるか、みんなで考えていきたいです。津山市民でもここの魅力に気がついていない人がたくさんいます。この場所の楽しみ方をたくさんの人に知ってもらえるように取り組んでいきたいと思います」(関元さん)

プールの向こう側にはグリーンヒルズのゆったりとした芝生広場が広がる。

この建物の契約期間は10年間。そこからさらに10年契約を延長することも可能です。今後の展望についてうかがうと、話題はグリーンヒルズ全体を活用する方向へと展開していきました。

「この施設の一番の魅力は、グリーンヒルズにあること。Globe Sports Domeはグリーンヒルズ全体をおもしろく活用するひとつの拠点であり、この広大な公園自体を盛り上げていけたらと思っています。Globe Sports Domeのテーマは運動ですが、ほかにもグリーンヒルズ内に宿泊機能があってもいいし、飲食機能がもっと増えてもいい。いろんな機能が存在しながら、その真ん中には巨大な芝生広場があってみんなが思い思いに過ごしている。そんな風景が生まれたらいいなぁと思います」(関元さん)

「この場所がオープンしたから終わりではなく、ここから10年、市としてどう伴走していくかが大切だと思っています。そのひとつの切り口として考えられるのが、グリーンヒルズとの連携です。きっとGlobe Sports Domeを含めた好循環が生まれていくはずなので、市としても次のミッションとして取り組んでいきたいと思います」(川口さん)

津山市では2019年〜2022年にグリーンヒルズのトライアル・サウンディングを実施。公民連携による活用に向けて動き出している。

いかに民間のクリエイティビティを引き出せるか

1年前までは毎年1億円の公的資金が投じられ、津山市の“お荷物”ともされてきたこの建物。いまでは新しい息が吹き込まれ、ポジティブなエネルギーを持つ空間へと生まれ変わりました。「まるで絡まりまくった大きな糸の束をていねいに、かつ大胆に紐解いていく作業だった」と川口さんが振り返るように、その道のりは平坦なものではなかったはずです。

今回のグラスハウス利活用事業において一貫していたのは、川口さんの「いかに民間のクリエイティビティを引き出せるか」という視点。この明確なゴールに向けて逆算するように、緻密に思考し、ひとつひとつのアクションをていねいに重ね、そこに関元さんのパッションが注ぎ込まれたことでGlobe Sports Domeは誕生しました。

川口さん(左)と関元さん(右)。「数年前だったら、お互いにここまでたどり着けなかったはず。このタイミングで一緒に事業ができたことが何より良かった」と話すお二人。事業パートナーとして信頼し合う様子が伝わってきた。

次の10年に向けて、地域へそして世界へどのような影響を与え、グリーンヒルズとどのように連携していくのか。津山市の丘の上から日々リズムを発するGlobe Sports Dome。まるでパワースポットのように、そこに秘めるエネルギーと可能性は無限大です。

Globe Sports Dome
https://globefs.net/

プロフィール

関元崇志さん
株式会社Globe代表取締役 (一社)スポーツリズムトレーニング協会マスタートレーナー/ アディダス契約トレーナー/大阪リゾート&スポーツ専門学校卒
幼少期から父の影響で野球を始める。専門学校時代は、専門学校の全国大会で優勝を経験。卒業後津山に戻りフィットネスクラブをオープン。優れた知識とノリの良い指導で、多くの顧客を持つ。 また、スポーツリズムトレーニングのマスタートレーナーとして多くのプロアスリートを指導。オフには彼の指導を求めプロ野球選手が津山まで訪れる。

川口義洋さん
津山市 総務部 財産活用課長
1971年岡山県生まれ、1995年明治大学建築学科卒業。
1999年津山市役所に入庁し、16年間建築営繕及び建築指導部門の業務に携わる。
2015年FM部門に異動、それ以降、建築の視点から公共施設のマネジメントや公共空間の利活用などに取り組む。
2018年から旧苅田家町家群のコンセッション事業に関わる。
2019年には全国初の取組となる学校断熱ワークショップを企画、実践。
2020年からグラスハウス利活用事業を主導する。
公民連携とFMの両軸で活動中。

PROFILE

中島彩

中島彩

公共R不動産/OpenA。ポートランド州立大学コミュニケーション学部卒業。ライフスタイルメディア編集を経て、現在はフリーランスとして山形と東京を行き来しながら、reallocal山形をはじめ、ローカル・建築・カルチャーを中心にウェブメディアの編集、執筆など行う。