【公民連載3】 事業構造に迫る! アーツ千代田3331編

連載第3回は、公民連携事業機構がセレクトした公民連携事業の事業構造を、公共R不動産が4つの質問で読み解きます。連載2で、これからの公民連携事業は、「街を食わせる事業であるべき」という議論がなされました。そこで今後の連載では、数ある公民連携事業の中から、事業性がある事業にフォーカスし、その秘訣を探りたいと思います。

本連載の狙い

官と民がそれぞれ役割分担して、公共施設の整備や、公共サービスの実施、さらには都市開発や地域再生などを図る様々なプロジェクトを行うこと、その手法を「公民連携(別名PPP(Public Private Partnership))」と呼びます。

公民連携事業の中には、「にぎわい創出」や「地域活性化」といった、耳障りのいい言葉の裏で、事業性が顧みられない事業も多いのが実情ですが、官・民どちらかだけでは成し得なかった、新しいビジネスの可能性を秘めているものもあります。そんな先進的なプロジェクトに関わっている人に、シンプルな4つの質問を投げかけることで、望ましい公民連携事業のあり方を切り取りたい。それが本連載の狙いです。

公共R不動産の4つの質問

事業性にフォーカスし、以下の4つの質問で事例を切り取ります。

  1. この事業の登場人物は誰ですか?
  2. この事業の収入と支出の構造は?
  3. この事業は銀行と関りがありますか?
  4. この事業は稼げていますか?

アーツ千代田3331

初回は、「アーツ千代田3331」を運営する、コマンドA代表の清水義次さんに話を伺います。「アーツ千代田3331」(以下、3331)は、廃校になった旧千代田区立練成中学校を利用したアートセンター。地下1階、地上3階の建物に、ギャラリー、オフィス、カフェなどが入居しています。(詳細は活用中記事募集中記事を参照)

事業概要

事業開始:2008年
事業主体:合同会社コマンドA
事業内容:不動産賃貸・管理、芸術・文化に関する展覧会、教育普及活動、地域活性化活動等の企画、制作、運営、実施
事業売上:約2億1000万円(年間)

開業から6年、地域にもすっかり馴染んだ3331。(出典:3331公式HP)
開業から6年、地域にもすっかり馴染んだ3331。(出典:3331公式HP)
清水 義次
建築・都市・地域再生プロデューサー/株式会社アフタヌーン・ソサエティ代表。
マーケティング・コンサルタント会社を経て、1992年株式会社アフタヌーン・ソ
サエティ設立。都市生活者の潜在意識の変化に根差した建築のプロデュース、プ
ロジェクトマネジメント、都市・地域再生プロデュースを行う。東京都神田、新
宿歌舞伎町、北九州市小倉などで、遊休不動産を活用しエリア価値を向上させる
家守ビジネスモデルを構築している。
2008年から合同会社コマンドA代表を務める。

1.この事業の登場人物は誰ですか?

馬場 正尊(以下、馬場):公民連携という以上、公(官)と民の役割分担は最初に明らかにしておきたいと思っての質問です。まずはプロジェクト実行に当たった登場人物を紹介してください。

清水 義次(以下、清水):アーツ千代田3331(以下「3331」)の事業においては、千代田区が物件(旧練成中学校)の大家さんです。

千代田区から、公募で選ばれた運営団体、有限責任会社コマンドA(以下、コマンドA)が物件を借り受けて、それをテナントに賃貸しながら自主運営しています。

コマンドAは、東京藝術大学の中村政人さんが中心となり、1998年から続けてきたアーティストによる組織コマンドNを母体に、僕がマネジメントに参画して組成しました。

現在、母体だったコマンドNは一般社団法人化し、新しい芸術表現を追求し続けている一方、コマンドAは有限責任会社(現在は法律改正に伴い合同会社)として3331のマネジメントを行っています。

馬場:役割分担をすることで、表現と運営を両立させ、活動の自律性の維持を図っているんですね。

3331の構成
3331の構成

2.この事業の収入と支出の構造は?

清水:千代田区から物件をコマンドAが借りて、テナントと展覧会やイベントを行う方々に貸し、そこから利潤を生みだす。そしてその利潤を文化芸術活動に投入する、という構造です。

2005年に物件が廃校になると、千代田区はアート活動の拠点にしようと検討を重ね、2007年に事業提案コンペを行いました。

コンペでは、アートを主体とする活動の内容、施設の使い方、そして年間に支払える家賃までを含めた提案を求められました。活動内容と経済性の両方について選考委員会が総合的に評価をするコンペで、30社くらいの参加表明があったようです。

馬場:3331をアート活動の拠点にしようというのはもともと千代田区の意向だったのですね。

清水:はい。我々にはアート活動については中村政人率いるコマンドNがついているから心配ないと。それをどう実現するか、という事業計画について、僕が話したのは以下の4点です。

1.契約期間が5年だったので、それで回収可能な投資しかできない。
2.よって資本金は3000万円くらいが適切だろう。
3.いかに軽いリノベーションで、初期投資をおさえるかが勝負。
4.きちんとした経営とアート活動を両立し、地域にも開く体制が必要。

こういう提案をしたら、僕らの提案が一等に選ばれて、このプロジェクトが実行されることになったわけです。

馬場:初期投資を抑えたのがポイントなのですね。

3331では地域に開かれたアートイベントが多数行われている。(提供:3331 Arts Chiyoda )
3331では地域に開かれたアートイベントが多数行われている。(提供:3331 Arts Chiyoda )

清水:それからテナントリーシングをするときに、この事業の制約として、文化芸術活動をする人たちをここに集積させる、という条件がありました。しかしそのような人たちは往々にして利益を生み出す事業を行っていません。そこでテナントの性格を3つに分類しました。この分類に応じて、三段階の家賃を千代田区と相談した上で決めています。一つ目は文化芸術活動をしながら、ほとんど収益性が望めないもの。二つ目は、ある種の営業活動をアート、デザイン、文化に関する事業を行いながら収益を得て、なおかつ文化芸術活動を一生懸命やっているもの。例えば画廊業を始める人などですね。三つ目は、主に普通の企業活動をおこなっているもの。実際の賃料はスペースの場所や使い勝手に応じて異なるため一律に言うのは難しいですが、分類1の文化芸術活動を行っていて収益力が弱いテナントは分類3の普通の企業活動を行っているテナントの約5〜6割引き、分類2の社会性のある活動を行っていて収益力はそこそこのテナントは約2〜3割引きくらいの設定です。

馬場:収益性は低いけれど文化芸術的な価値が高いテナントは家賃を優遇しつつ、企業活動を行うテナントからは適正な家賃を得ることで、施設の目的を果たしつつ収益を確保しているんですね。

清水:いわゆるテナント管理をしながら、できるだけ空室を少なくして、なおかつ本来の目的にあう人達を入れて、光熱費や清掃費も賄っているというわけです。

馬場:不動産管理・賃貸業ですね。次の質問は結構直球なんですが……

3.この事業は銀行と関りがありますか?

清水:はい。コンペで資本金3000万円くらい、と言ったら、すぐに区から「早く3000万円の現金の証拠を見せろ」とせっつかれました。3000万円は中村さんと僕が声をかけて集めて、それをもとにさらに1500万円を銀行から借り入れました。

馬場:コマンドNは当時NPOですよね?銀行はNPOに貸してくれたんですか?

清水:NPOではダメだといわれて、新たな有限責任会社「コマンドA」を「コマンドN」を母体につくりました。

馬場:ちなみに株式会社じゃなくて有限責任会社にした理由は?

清水:アートの活動やる時に利益を追究するっていう匂いを消したかったんですかね。それで有限責任会社あたりがいいんじゃないかと。まあ株式会社と何も変わらないんだけど。

馬場:銀行と関わったことで結果的に組織体制が整ったんですね。

清水さんと馬場の対談の様子。3331の教室で。
清水さんと馬場の対談の様子。3331の教室で。

 4.この事業は稼げていますか?

清水:さらに直球な質問が来ましたね。はい、なんとかね。経理担当はいつもハラハラしながら、「清水さんこのままいくと現金がちょっと足りなくなっちゃいますよ」とかね、時々言ってきますが、キャッシュフローの予測表を見ながらしっかり経営しています。

馬場:結局、経営の感覚が絶対必要ってことなんですね。3331のような事業をやろうとすると。「稼ぐ」という言葉は少し求めすぎかもしれないけれど、少なくとも事業として成り立ち、持続していく必要がある。

清水:安心してのびのびと活動をおこなうためには、ベースにしっかりとした経営がないといけない。これは最初から、僕が社長を引き受けるんだったら、上手くできるかどうかわからんけど、そういう経営を目指すよ、そのかわりきついことも言うよと言ってきましたね。

馬場:表現のために経営があると。

清水:そうです。それを分かってもらわないと、明日から金がなくなります、という状況の中で、表現活動をするのは辛いですから。

コマンドAという有限責任会社を、アート活動組織であるコマンドNから分離して作り、賃料設定で施設の本来の目的を維持しながら、粛粛と不動産管理をして経営を安定させる。

自由なアート活動を支えるための徹底した経営――これが3331の事業のポイントだと感じました。

次回は、オガール紫波の事例を紐解きたいと思います。

過去の連載は以下ご参照ください。

【公民連載2】街を食わせる公民連携
【公民連載1】街を食いものにする公民連携

PROFILE

松田 東子

株式会社スピーク/公共R不動産。1986年生まれ。一橋大学社会学部卒業後、大成建設にてPFI関連業務に従事。2014年より公共R不動産の立ち上げに参画。スピークでは「トライアルステイ」による移住促進プロジェクトに携わる。2017年から2020年までロンドン在住。2021年University College London MSc Urban Studies 修了。

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