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公共R不動産のプロジェクトスタディ
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津山市 グラスハウス利活用事業(前編)
RO+コンセッション方式で新たなスポーツ施設へ

2022年5月、岡山県津山市に総合スポーツ施設「Globe Sports Dome」がオープンしました。元は市営のレジャープール施設「グラスハウス」として活用されてきた建物を、RO+コンセッションの方式で再整備して生まれた施設です。利活用事業のスキームと事業のプロセスについて前編と後編にわたってお届けします。

写真提供:津山市
写真提供:津山市

津山市中心市街地から北へ15分ほど車を走らせ、小高い丘をのぼっていくと都市公園「グリーンヒルズ津山」にたどり着きます。25ヘクタールにおよぶ敷地内に、巨大な芝生広場のほかアスレチック広場やフラワーガーデンなどを併設した緑あふれる空間。その一角にドーム型でガラス張りの建物があります。

こちらが2022年5月にオープンした総合スポーツ施設「Globe Sports Dome」です。

「Globe Sports Dome」外観。元の建物「グラスハウス」の設計は建築家・横河健氏によるもの。その特徴的な外観を生かしたスポーツ施設となった。(写真提供:津山市)

芝生広場に囲まれた巨大でシンボリックな建物。吸い込まれるようにしてアプローチを抜けて中に入ると、思わず「わぁ…」と声が漏れました。球体の天井は空と一体化し、開放感にあふれる唯一無二の空間。音楽が響き渡り、スタッフの皆さんのハツラツとした声も聞こえてきます。

エントランスと反対側にあるのがトレーニングエリア。ダンスやバスケット、バレーボールなどが行えるアリーナ、ボルタリングウォール、50mの直線トラック、人工芝エリア、屋外プールなどが組み合わさった多機能空間です。春先からは芝生広場に向かって全面的に開口し、半屋外のように利用されます。視覚的にもカラフルで賑やかで、ここにいるだけでワクワクする、そんな独特のパワーを秘めた空間です。

写真提供:津山市
左 写真提供:津山市 右 写真提供:津山市

この建物はかつて津山市が運営するレジャープール施設「グラスハウス」として使われており、2021年3月に営業を終了した後、グラスハウス利活用事業が立ち上がり、公募を経て株式会社Globeが運営事業者に採択されました。外観はそのまま生かしながら、内部はプールを埋め立てる大胆なリノベーションが行われ、総合スポーツ施設「Globe Sports Dome」へ生まれ変わったという流れです。

今回のグラスハウス利活用事業では、RO+コンセッション方式という全国初といわれる仕組みで公募が行われました。なぜそのスキームに至り、開業までどのようなプロセスを経ていったのか。 Globe Sports Domeの運営事業者、株式会社Globeの関元崇志さんと、津山市 総務部 財産活用課長の川口義洋さんへのインタビューを通じて明らかにしていきます。

まずは前編として、グラスハウス活用事業を主導した川口さんに、事業が立ち上がった経緯から公募要項作成のプロセスまでお話をうかがいました。

津山市 総務部財産活用課長 川口義洋さん(左)と 株式会社Globe 代表取締役の関元崇志さん(右)

グラスハウス活用検討の経緯

グラスハウスは1998年に県営のレジャープール施設として開業しました。2011年には施設を岡山県から津山市へと譲り受け、指定管理で運営が行われてきたものの、毎年1億円を超える指定管理料がかかるうえ施設は年々老朽化。継続して運営するのは困難になり、次第に営業終了の方向性が見えてきました。

とはいえ、約20年間にわたって親しまれてきた市民プール。いきなり閉じるのではなく、市民ワークショップの開催や、市としての財産管理を担うファシリティマネジメント委員会の場で、現状の課題や運営をこのまま継続していくことの困難さを説明していきました。「ランニングコストや市の財政状況を正直に伝えていくと、反対意見というよりも『閉じるのもしょうがない』という空気になっていった」と川口さんは話します。

そんな中、指定管理の契約期間が満了をむかえたことを区切りとして、2021年3月末にグラスハウスは幕を閉じることになりました。

かつてはウォータースライダーを中心としたレジャープール施設で、毎年1億円を超える指定管理料がかかっていた。(写真提供:津山市)

今後の方針を検討するなかで、建物を壊すことも選択肢にあがっていたそうですが、サウンディングをやってみると複数の企業から「プール以外であれば使えるのではないか」「コンベンションセンターやイベント施設として使えるかもしれない」などの声が聞こえてきました。

そもそもグラスハウスは津山市のシンボリックな建築物であり、多くの人を惹きつける存在。建物の状態としても、築20年ほどでまだ十分使うことができます。こうしてプール以外の活用方法を視野に入れて、プロポーザルの準備が始まっていきました。

RO+コンセッション方式

今回の活用事業では、普通財産化した建物に「RO」という事業方式と「コンセッション」という運営方式を組み合わせたPFI事業スキームが採用されました。

・PFI(Private Finance Initiative):民間の資金と経営能力・技術力・ノウハウを活用し、公共施設等の設計・建設・改修・更新や維持管理・運営を行う公共事業の手法

・RO(Rehabilitate Operate)方式:PFIの手法のひとつ。民間事業者が自ら資金調達し、既存施設を改修して管理・運営を行う方式

・コンセッション方式:施設の所有権を行政が有したまま、運営権を民間事業者に設定し、民間事業者が運営権の対価を還元する方式(空港、下水道、公営住宅等に多く採用)

RO方式は本来、民間事業者の資金で施設を改修・運営していくというものですが、グラスハウスは大規模な施設なので津山市も資金を投入しています。民間事業者はその資金とあわせて、改修と運営計画を立てていくという仕組みです。

具体的には、市が改修費に相当する費用をサービス購入料として2億6500万円に設定し、2030年度までの10年間に毎年分割して負担(この金額は、市がプールを埋め立てて床をフラットな状態にするところまでを公共工事で行ったケースとして算出したもの)。代わりに、年間380万円の運営権料(当初3年間は免除)を運営事業者から受け取るという事業スキームです。

民間がクリエイティビティを発揮しやすい事業スキーム

全国初とも言われるRO+コンセッション方式。このスキームを考えるうえで一番大切にしたことは「民間事業者が動きやすい状況をつくることだった」と川口さんは話します。

まず運営方式をコンセッションにした理由は、津山市で前例があり庁内や議会から理解を得やすく、民間が自由度を発揮しやすい手法として川口さん自身も手応えを感じていたこと。指定管理者制度と比べて長期の契約(20〜30年でも可能)を結ぶことができるのも民間側にとってのメリットのひとつです。

2020年7月に開業した、津山市初のコンセッション方式によるホテル「城下小宿 糀や」。江戸時代の古民家をリノベーションした一棟貸しのホテル。コンセッションといえば空港やコンベンションセンターなど事業規模が大きい施設に適用されることが多い中、約500㎡の公共施設に導入した日本で一番小さなコンセッションといわれる事業。

次にRO方式というPFIを採用した理由。そもそも今回のグラスハウスは普通財産化(※)しているので、通常は行政目的をもった施設に使うPFIを採用する必要はありません。むしろシンプルに「貸付」としたほうが行政も民間も手続きが少なく済むため、普通財産にPFIを適用するのは珍しいケースと言えます。

※公有財産には「行政財産」と「普通財産」の2種類に分かれる。行政財産は特定の行政目的に使われるもの。普通財産は行政財産以外の公有財産のこと。

今回の事業であえてPFIを適用したのには、大きく3つの理由がありました。

まずは、市が負担する費用の支払いを分割することができるため。

グラスハウスは大きな施設であり、設備が老朽化していたので、オーナーからの配慮としてプールを埋めたり基本設備を入れ替えるところまでは市がコストを負担したいと考えていました。しかし、その工事費に数億円はかかってしまいます。単年度で予算化していく行政の仕組み上、一括で億単位の資金を調達することができないため、PFIの方式をとることに。そうすることで民間事業者に改修工事費を立て替えてもらい、市は分割して払い戻すことができます。

市が払い戻していく費用は、市が負担するサービス購入料として使途を限定していないのも今回の事業の大きなポイントです。

2つ目の理由は、スピード感。サウンディングにて民間のニーズを感じた川口さんは「できるだけスムーズに工事を行い、開業まではやく進める手段を考えた」と話します。

多くの公民連携事業では「行政工事はここまで、民間工事はここから先」と線引きしますが、今回はRO方式(民間事業者が自ら資金調達し、既存施設を改修して管理・運営を行う)によって民間主導の一括工事となりました。そうすることで、行政と民間の工事区分を明確にするための手間や時間などの調整コストを最小化することができます。

というのも、行政工事は数量をすべてチェックしたり、証明しなければならなかったり、時間がかかるうえに金額も高くなります。民間主導で一括で行うほうが自由度が高く、はやく仕上がり、民間側からすればクオリティコントロールもしやすいというわけです。

4ヶ月ほどで終えた今回の工事。同じ工事を行政が行うと書類確認や段階チェックなど手続きが煩雑になり、1年以上かかると見込まれる。(写真提供:津山市)

ちなみに今回採用したRO方式は以前から存在している手法ですが、これだけ大規模なリノベーションに適用している例はかなり稀だといいます。ROの「R」はRehabilitate=更正させるという意味。本来はリフォームのように機能回復の改修で採用される形式ですが、今回は用途を大きく変更するリノベーションの事業に適用されました。このように制度の解釈の幅を広げていくことも、川口さんの手腕のひとつといえます。

3つ目の理由は、議会の承認を得るため。PFI事業では、段階的に議会承認が必要となります。川口さんは今回の事業内容を多方面にしっかり共有し、合意形成をとりながら安定的に事業を進めていきました。「複数回に渡って議会承認をとっていく手続きは確かに大変ではあるものの、議会にもコミットしていくことで、結果的により強固なプロジェクトになっていくのではないか」と川口さんは話します。

公民連携(PPP)事業の積み重ねの成果として

RO+コンセッションの組み合わせは日本初と言われています。前例がないことへの挑戦になりますが、庁内や議会への説得は大変ではなかったのでしょうか。

「今回のグラスハウスの前に、この3年間で民間提案制度を活用して廃校をリノベしたパン屋さん『たかたようちえん』やコンセッション方式によるホテル『城下小宿 糀や』など、PPP事業を積み重ねてきたことが大きいですね。

特にグラスハウスは巨大な案件であり、市民からの注目度も高かった。最初からグラスハウスをやっていたら、これだけスムーズにはいっていなかったはずです。これまでが助走期間となり、今回もいままでの事業の発展型としてポジティブに受け止められたのだと思います」(川口さん)

この3年間で津山市ではいくつかのPPP事業が生まれ、庁内も議会もそのメリットを体感し、事業が育ちやすい土壌ができつつある時期でした。少しづつ新たな挑戦を積み重ねていくことの大切さを感じます。

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民間企業の視点に立った公募要項づくり

今回のグラスハウス活用事業では、公募要項からもオリジナリティが感じられます。

「大企業だけでなくローカルの小さな事業者でも手があげやすいように、他のPFI事業と比べてずいぶんとハードルを低くしています」と川口さん。まずは漢字が多く一般の人では読みづらいであろう公募要項をできる限り読みやすい文章で表現したり、「事業者募集要項の概要」として要点を抽出し、1枚の資料にまとめられていたりします。多様な民間事業者を導いて手を上げやすいように公募の敷居を下げることもまた行政マンの手腕が問われるところです。

また、一般的にPFI事業では企業の規模感や実績が重視されることが多いなか、今回の募集要項の配点では「企画提案」に最もウェイトが置かれています。「参入の姿勢」として挙げられている「意欲・熱意」も珍しい項目です。

「グラスハウス利活用事業 事業者募集要項」より抜粋

「一番重要なのはその事業内容であり、さらに事業者にどれだけの思いがあるかも欠かせない要素である」。項目とその点数配分は、行政側がどんな人を求めているかというメッセージでもあるのです。

また、一般的にPFIでは「設計」「施工」「運営」が一体で動くためにSPC(特定目的会社)をつくって契約するケースがほとんどですが、今回はその縛りも設けられていません。本事業で一番重要なのは、設計と施工ではなく「運営」の部分。JV(共同企業体)での応募も可能ですが、運営者が動きやすくするために、「単独の法人」での応募が可能になっています。

こうして2021年4月から公募が開始され、株式会社Globeが運営事業者に採択されました。

最終的に手を挙げたのはGlobe1社だったとのこと。当時はコロナが流行し始めたタイミング。世間のムードとして新規事業が起こしにくい空気のなかでの応募であり、Globe社にどれだけの熱意があるかがうかがえます。

後半では、Globe社の関元さんから、Globe Sports Domeの概要と今後の思いについてうかがっていきます。

≫ 後編へ続く

PROFILE

中島彩

中島彩

公共R不動産/OpenA。ポートランド州立大学コミュニケーション学部卒業。ライフスタイルメディア編集を経て、現在はフリーランスとして山形と東京を行き来しながら、reallocal山形をはじめ、ローカル・建築・カルチャーを中心にウェブメディアの編集、執筆など行う。