マツダ特派員のロンドン公共事情
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オフィスビルを街にひらく―オープン・ハウス・ロンドン

普段は一般に公開されていない800を超える建物に、無料で入れる人気イベント、「オープン・ハウス・ロンドン」。毎年9月の第三週の週末に行われる、ロンドンの秋の風物詩をご紹介します。

オープン・ハウスって?

今年も9月22日、23日の2日間行われたこのイベント。オフィスビル、個人住宅、政府の重要施設、学校、病院、文化機関に至るまで、用途も様々な838の建物が、秘仏公開よろしく一気に御開帳されました。内覧だけでなく、建築家が自身の作品を解説するツアー、個々の建物の歴史を探るツアー、エリアの見どころを巡るツアーなど、300を超えるツアーも同時開催。

事前予約が必要な場所もありますが、多くは並べば入れます。予約もオリジナルのアプリ(昨年のダウンロード数は48,000件)を使えば簡単に。

私も当日都心のビルをいくつかまわってみたのですが、普段は入れない場所に入れるとあって、いつもはスーツ姿の人ばかりのオフィス街に、観光客が溢れていました。

あっちでもこっちでも、ツアー中。子連れ犬連れの人も。

オープン・ハウスの歴史

オープン・ハウスは、1992年に、オープン・シティ(Open-City)という非営利組織によって始められました。

組織のファウンダーであるVictoria Thorntonによれば、その頃のイギリスは、経済が低迷し、建築にとって冬の時代。さらに当時、現代的なデザインの建物は、歴史的建造物と比べ圧倒的に軽視されていました。その上建築物とそれを取り巻く環境は、人々の日常の基本的な部分に大きな影響を及ぼすにもかかわらず、建築前も後も市民の意見を取り入れる習慣が全くありません。公教育で建築について学ぶ機会もなく、多くの人々は建築家が何を目指しているのか理解できず、自分たちの周りの建物や公共空間の質に意見を表明したくとも、その言葉を持っていなかったのです。ロンドンにはたくさんの優れたデザインの建築があるのに、もったいない!そんな状況を憂いた建築関係者有志が、100人の観光客をバスに乗せ、20の建物を周るツアーを行ったのがはじまりです。

25年の時を経た2017年には来訪者32万人、ロンドンの全33区の800を超える建物が参加する世界最大のまちびらきイベントに成長。現在は1400人以上のボランティアにより、運営されています。

毎年オープン・ハウス開催時に行われる調査では、「現代建築がロンドンに良い貢献をしている」と考える人が年々増加しているのだそう。
1997年にはジュニア向けプログラムを開始し、毎年多くの子どもたちに、建築に触れる機会を提供しています。

真四角なビルばかりの東京比べ、ロンドンに個性的なビルが多い理由の一端に、こうした機会により、市民の建築への意識が高まっていることも挙げられるのかもしれません。

東京でも?まずはオフィスビルから?

ロンドンでの成功を受けて、現在35を超える都市に広がったオープン・ハウスの取り組み。
東京ではオープン・シティ宛にやりたいという打診はありながら、なかなか実現しないのだとか。全部の手法を取り入れずとも、たとえばオフィスビルから、まずは社員の家族や顧客向けに、あるいは有料で、はたまたエリアマネジメントのための集客イベントとしてなど、ちょっとずつ始めてみるのはどうでしょうか。

「行ったことある!」というだけで、その場所が、ぐっと身近になることもある。そしてそのことが、環境を変えるアクションのきっかけになることもある。そんな可能性を大いに感じたイベントでした。

PROFILE

松田 東子

株式会社スピーク/公共R不動産。1986年生まれ。一橋大学社会学部卒業後、大成建設にてPFI関連業務に従事。2014年より公共R不動産の立ち上げに参画。スピークでは「トライアルステイ」による移住促進プロジェクトに携わる。2017年から2020年までロンドン在住。2021年University College London MSc Urban Studies 修了。

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