公共R不動産のプロジェクトスタディ
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大街道プレイスメイキング実証実験「PubL」
松山市大街道商店街

アーケードが掛かる広くて立派な商店街。昔に比べると通行量も減り、余計に広く感じてしまう、なんて風景をよく目にします。ときどきやるイベントも楽しいけど、普段からもっと使いたい。商店街を市民のリビングにしてしまうような実験が、2015年愛媛県の松山市で行われました。

広いアーケードに、座り場出現

ある日、商店街がリビングに

アーケードが掛かる広くて立派な商店街。昔に比べると通行量も減り、余計に広く感じてしまう、なんて風景をよく目にします。ときどきやるイベントも楽しいけど、普段からもっと使いたい。そんな、商店街を市民のリビングにしてしまうような実験が、2015年8月24日~9月6日にかけて、愛媛県の松山市で行われました。

「大街道プレイスメイキング実証実験『PubL』」。老若男女が隣りあわせながらも、思い思いに自分ならではの時間を過ごす光景に、往時のこのまちの姿を懐かしむ方もいたようです。

実証実験 PubL

ここ、大街道は松山市を代表する商業の中心。しかし、以前に比べると歩行者通行量も随分と少なくなり、ところどころ、空き店舗の姿も。開催されるイベントの数では、全国でもトップクラスで知られるこの商店街も、さらなる活性化への道を模索していました。そこへ、この実証実験を提案したのが、この数年、コンサルタントとして松山市の中心市街地の活性化に関わってきた日建設計総合研究所。公共空間の魅力と居心地を良くする実践的な手法を探ってきた同社が、自主研究事業としてこの実験を行うことを申し出て、地元である松山大街道商店街振興組合がこれに協力する形でこのプロジェクトが実現しました。

「まちに出るのがこわかった」

突然のリビング出現に、はじめは戸惑っていた通行人たち。でも一人二人と好奇心で座る人が現れるうち、すぐに使ってよいのだとわかるように。利用する人は曜日や時間帯によってもまちまち。スマホ片手に商談をいそぐサラリーマンから、お友達にもらった手作りのケーキでティータイムを楽しむ女子たちまで、実にさまざまです。

だれでも、いつでも、ご自由に

お散歩途中のお年寄りは「途中で気分が悪くなっても、休める場所がないと思うと不安で、最近は街に出るのがこわかった。うれしい。」と、とても助かっている様子。

赤ちゃんにご飯をあげるために座る場所を探していたという若い夫婦からは、「店の中だとかえって人目が気になる。外にあるとありがたい。」という声も。

左 照明の暖かな光が、まるでリビング。 右 お子さん連れにも大人気。

またイタリアからの観光客は、「旅行者には、お金を払わなくても休める場所が有り難い。イタリアにはたくさんあるけど、日本にはないので、とてもいいと思った」と話してくれました。

実験が商店主の「パブリックマインド」をもあぶりだした

この実験によって掘り起こされたのは、市民の心の中にしまわれていたニーズだけではありません。商店街の沿道店舗からも次々と声が寄せられました。「お客さんからもとても評判がいい。少しずつなら、自分の店も収納や出し入れに協力できる」「お店のことも見えるし、自分たちにも良い休憩場所になる」「自分の店の前にも欲しい。通りの中心が公園のようになればいい」「これを維持するために運営する会社を起ち上げてもいい」。公共空間が豊かになることで、地域の価値が高まり、商売もしやすくなる。だからこそ、地域のために自分たちができることは何かを考えたい。みなさんが心の中に持っていたパブリックマインドが、この実験をきっかけに、声となって表れ始めているようです。

ほどほどが肝心な座り場のデザイン

利用者へのアンケートでも、多数の人から「居心地がよい!」と支持を受けたこの座り場。「座る場所がほしい、との声は常にあった。でも、今まで座って休憩してもらえるようにと色々工夫してきても、ここまでうまくいったことはない」と商店街の関係者は話します。この実験を監修した筑波大学の渡和由准教授は、この空間について、「可動イスはもちろんだが、ポイントは緑と照明。これがリビングにいるような感じをぐっと高めている。それでいて作りこみすぎると、おしゃれ過ぎて近寄りがたい雰囲気となり、利用者に敬遠される。そのバランスが大切」と解説してくださいました。雨などの天候に左右されないのも、アーケードをもつこの座り場の強みです。

左 松山市が実施した10月の実証実験では人工芝を敷いて寝転がれ るスペースを。 右 ごろーん

無理なくできるけど、ちゃんと心地よい

一方で、これだけ作りこむのはちょっとメンテが大変では?というのが気になるところ。しかし、よく見ると、ここにあるのは可動のイスとテーブル、それにキャスターがついたプランターや植栽、いくつかの照明など、実は簡単に動かせるものばかり。設営も撤収も、慣れれば20分ほどで終わります。「毎日でも無理なく出来るけど、ちゃんと居心地がいい。」そのポイントを見極めるのも、この実証実験の目的の一つのようですね。今回のPubLの動きに呼応して、10月と11月には松山市がさらにバージョンアップした実証実験を行いました。初期投資さえしてしまえば、ベストな形を探りつつ継続していけるのも、このプロジェクトのいいところです。

左 松山市実施2回目、11月には交換本棚を設置。 中 老若男女、様々な人が集いました。 右 お仕事できます、というポストカードが机に。その一言で気兼ねなく 使えます。

松山のパブリックに、異状あり!?

今、松山のパブリックな空間で起きているのはこれだけではありません。松山市は2年前に都市デザイン課を設置。翌年には、愛媛大学と共同で松山アーバンデザインセンター(UDCM)を起ち上げ、まちなかで市民が自由に使えるスペース「みんなの広場」を社会実験として開設するなど、公共空間を豊かにしていく取り組みを次々と行っています。松山のパブリックからも、目が離せなくなりそうです。

同じく筑波大学の渡和由准教授が監修された、公園での座り場実験の記事はこちらから

PROFILE

松田 東子

株式会社スピーク/公共R不動産。1986年生まれ。一橋大学社会学部卒業後、大成建設にてPFI関連業務に従事。2014年より公共R不動産の立ち上げに参画。スピークでは「トライアルステイ」による移住促進プロジェクトに携わる。2017年から2020年までロンドン在住。2021年University College London MSc Urban Studies 修了。

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