公民連携事業機構連携連載2 街を食わせる公民連携

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連携第二回は、4月19日に行われた、「公民連携ってそもそも会議」後半の様子をお届けします。実践の中で公民連携事業機構の皆さんが感じてきた、真の公民連携事業とは何なのか。どんな民間と連携すべきか?行政にしか出来ない仕事とは何か?地方だからこそできる事業とは?熱い言葉の数々をお見逃しなく!(登壇者のプロフィールはこちらからご確認いただけます。)

公民連携は組む相手が大事

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木下:今まで公共建築などを無駄に建てるのが役所の役割、というような、誤った考え方もあったと思うので、みかんぐみの竹内さんに。

竹内:今日は公務員の方が多いと聞いてきたので、建築家として僕がお伝えしたいのは、誰と組むかということです。

何かを建設するプロジェクトの場合、組む建築家によっては、建築コストがものすごく高くなることがあります。施主に沢山お金を出させるのが建築家としての甲斐性だなんてことを教わっている人もいます。だからそういう建築家には発注しないほうがいいですよと言いたい。

清水:実は建築のコストコントロールってめちゃくちゃ大事で。まずファイナンス(資金をどう調達するか)があって、その資金の中で建築のコストコントロール、プロジェクトマネジメントがあって、その下に建築家がいるというのが事業の常識です。アメリカもヨーロッパもそうです。日本だけが異様な建築の世界。これにまた補助金などをくっつけて、無駄だらけのPFIの事業が、月賦払いにすると財政負担が軽くなる(※1)などという。

木下:BS(貸借対照表)がちゃんとない(※2)ので、負債という認識がないんですよね。

行政主導・言い訳市民参加から、責任ある市民/民間主導へ

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馬場:とはいえ入札資格などの問題で、大手に発注せざるを得ないと思っている行政の人も多いと思うんです。清水さんが仙台で行っているような、行政が主導しているように見せつつ民間を取り込んで事業を把握させるプロセスの方法論を教えてください。

清水:今までは行政主導でとりあえず「言い訳型」市民参加をやってきましたが、最近民間の20から30代くらいに、パブリックマインドを持つ市民が山のように出てきている。行政はそういう人たちと協力していくべきだと思っています。仙台ではその取り組みが進んでいます。

リノベーションまちづくりを行ったHEAD研究会の運営方式を取り入れているのですが、市民が主体になってそこに行政の関連部署がテーマに応じて参加してくるというやり方で、これはどの都市でも行えます。民間側で、パブリックマインドを持ち、事業もでき、企画力もあり、先を読む力を持つ岡崎さんのような人がいさえすれば本当は軽くできてしまうんです。

木下:とはいえなかなか岡崎さんのような「変態」はいない。岡崎さんは何か意識していることはありますか?

岡崎: 公民連携やるときに一番大事にしていることっていうのが、少し歩み寄るということです。妥協しないと相手も妥協してくれない部分があるので、許すべきところは許すし認めるべきところは認めてあげるというのが大事。歩み寄らないと絶対成立しない。民間と行政もそれぞれ歩み寄らないと。

行政にしか出来ない調整の仕事

馬場:行政でしかできないことっていうのもたくさんあって。建築の許認可だとか用途変更の手続きが必要な時に、民間の僕がいきなり担当部署に行くとすごく反感を買うようなことも、行政の人が一緒に行って背景にある施策や意図を説明してくれたりすると、担当部署の人のスタンスが全然違ったりすることがあるんですよね。

そういう根回しをしてくれたり、行政ならではのロジックを組み立てて、上にあげたり横に展開したりしてくれる行政マンというのは、本当にありがたい。

だから行政マンが、民間のロジックを行政のロジックに翻訳して伝えてくれるということが、すごく重要だなと思いますね。

清水:北九州市では、リノベーションまちづくりを補助金を一切入れず、民間投資で行っています。その時に行政は何をやるのかというと、担当課の行政マンが、確認申請の場面で、事前に審査係に申請の内容をブリーフィングしておいてくれる。その後に設計事務所行くと、話がすんなり通ります。消防署しかり保健所しかり、これをやってくれるだけで民間側は話が楽になる。これをしてくれるかどうかが事業が進むか頓挫するかの分かれ目になるわけです。

民間の視点を大事に

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竹内:行政マンから見るとどうしようもないボロボロなビルでも、民間人は安く貸してもらえるなら事業ができるかもしれない、と考えます。行政マンとは全然違う見方を民間人ができるということを、まずちょっと覚えておいていただきたいなと思います。

公共建築物の維持管理と省エネを一緒に考えるとか、森林をエネルギー源という意味でも地域の資産として捉えていくとか(※3)民間と話せばいろいろアイディアが出てきます。

木下:たとえば、住宅をきちんと断熱することで、各世帯の年間の灯油代が10分の1になる。それだけで何十万という余剰を生むことが可能です。
オガールでは、竹内さんが断熱についての技術指導を行って、紫波町が持ってる土地を分譲用地として提供した。そしてその分譲用地の分譲要件に、エコ住宅じゃないとダメ、という要件を入れた。

岡崎:それでエコ住宅を作ってみたら民間事業者も工夫してくれて、どんどん売れるようになって。すると今度は、あれに似たものを作ってくれないかと他の地域からも声がかかるようになった。こうして新産業が生まれたわけです。今では断熱効果の高いトリプルガラスしか売ってませんっていう工務店の人がいるぐらいなんですよ。

木下公民連携ってやっぱり地域経営の基本的な方針がないといけない。複数テーマを同時に扱うことで地域の抱える課題を解決するという複線的理解が、この公民連携の肝だと思う。

岡崎:そしてそれに気がつくか気がつかないか。技術の問題じゃなくてマインドの問題。

清水:マインドセットだけですから、本当は変えようという意思の問題だけなんですよ。PFIも再開発も、制度的に見ると別にさほど悪くない。でも実態は最低最悪。

これをどう変えればいいか。僕らは再開発反対派じゃない。たとえばオガールって中心部分の容積率(敷地面積に対する建物の延べ床面積の割合)100%の再開発なんですよ。つまり平屋建てです。再開発で容積率が緩和されるからといって、その容積を目一杯使った超高層タワマンを地方に作ってもしょうがない。

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土地が安いからこそ出来るニッチなサービス

岡崎:オガールがある岩手と都心部を比べると、金利と建設コストはほとんど一緒です。一方で全く違うのが、土地代なんです。

金利と建設コストが一緒で土地代が安いから、じゃあどんどん建てちゃえという発想で開発する人がいる。土地代が安いのはそもそもそこに人気がないからです。人気がないところに床ばかり作って客が入るわけがない。

土地代が安いからこそ出来るサービスもあるんです。それを見つけるのが我々民間の仕事。土地が安いからこそマニアな業態ができるわけです。マニアな業態でも成立する仕事があるわけだから、そのマニアを呼ぶためのコーディングを使えと思う(※4)。

都心部と地方の差を活かしてニッチな事業を作っていくのが公民連携の仕事なんだと。そこだけは忘れないでほしい。

馬場:その手渡し方みたいな感じが面白い。民間企業だったら不採算分を整理していけっていうのは普通の発想なのに、行政にはそのスキルがない。特に公民連携においては行政のあらゆるものを管理しなければいけないという呪縛にかかっている。

これからの行政はあらゆるものを節約して合理化しなければいけない。でもそれをバサっと切っていくことが行政の仕事ではなくて、クリエイティブな状況をどう民間と一緒に作るかってところにポイントがあって。竹内さんの話も節約や省エネルギーををいかにクリエイティブにするかって話ですよね。不採算部門を民間と組んでクリエイティブにして、しかも民間もまあまあ儲けられるように行政が手放していく。その繰り返しをいかにやれるかにポイントがあるような気がするんですよね。でそのスキームがないから考えようっていう。その端緒を作ったのがまさに岡崎さん、まさにオガールなのかなと思います。 

公民連携はコストカットじゃない。事業だ。

清水:長年東洋大学で公民連携を教えてきましたが、公民連携の本質が全然伝わりません。本気で良かったなあと思える公民連携の事例がオガールくらいしかないんです。

岡崎:公民連携って学問じゃないんです。だから我々が何で一般社団法人を作って「公民連携事業機構」と名付けたかというと、公民連携は事業であるべきだと思っているからです。だから皆様方もプレーヤーとして事業に関わっていってもらいたいなと思います。

清水:公民連携イコールコストカットだ、という話になっている気がしてならない。指定管理もコストカットのためにやむをえずしているような感じです。もう維持できないんで指定管理出すしかありませんって。無駄をしちゃいけないのは当たり前です。でもじゃあ無駄をしなければそれで継続的な都市経営ができるかというと、そんなはずもない。それなのに今までの公民連携はコストカットだけをする方向に、邁進してきたような気がします。

節約志向から稼ぐ公民連携へ

木下:結局お金がないって言ったときに節約志向があるんですよね。300万足りないって言ったときに300万節約しようというところから入るわけです。図書館の維持費がかかるので図書購入費どんどん削減して本買えません。しょうがないじゃんお金ないんだから、って。それはないでしょう?というのが僕らの考え方で。そこに何万人とか十万人とか集まってるなら、今まで放置してたスペースを使って、もう1000万でも稼いで子供達のために本を買えるようにしようと思うのが本当のパブリックマインドじゃないのか?っていうのが我々の意識なんですよ。

だから「稼ぐ」公民連携。民間はパブリックマインド、行政は経営マインドをお互い持ちながら。公を助けて公のためならず、これは行政マンも民間人も同じだと思うんですよね。行政マンも、必要なものは税金かけてただやればいいって話じゃないし、民間人も公共に資するものだから税金くれっていうんじゃなくて、収益を生み出す方向に力を注ぐっていうのが公民連携の基本なのかなって思うんですよね。

地方からの改革

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木下:先ほど(前編参照)国は仕組みづくりをやるべきだという話がありましたが、地方はそれを待っていてはいけないと思う。その代わり100ぐらいの事例を作って、地方の自治体連合が国の官僚に必要な制度改善を迫っていく、それがこれからの地方のあり方だと僕は思うんですね。

だから今後地方からどんどん変えていくという実践をみなさん一緒に。

さらに情報発信をみんながアクセスできるようなオンラインの公共R不動産で発信していく。そうしてちゃんと価値のある公民連携を作っていこうというわけです。

今日はそのキックオフでございます。お忙しいところお集まりいただきありがとうございました!

前後編にわたる怒涛の講演、いかがでしたでしょうか。公共R不動産はこれから公民連携事業機構の皆さんと一緒に、価値ある公民連携事業を発信していきます。ご期待ください。

※1:PFI(Private Finance Initiative)とは「公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法(内閣府HP)」のこと。日本では、施設整備にかかる資金調達を民間が行い、民間が施設を建築後、施設の所有権を自治体に移転、自治体が民間が立替ている施設整備費を割賦払いで返済する手法を用いることが多い。月々の支払負担は軽くなるが、施設整備費は全額自治体負担となるため、財政負担が軽くなるわけではない。

※2:現金主義をとる従来の公会計制度においては、企業会計上のBSにあたる財務諸表がなく、現金以外の資産の残高を一覧できないこと、買掛金や未払金といった債務(企業会計では負債に分類される)が、現金支出が行われるまではコストとして認識されないことが問題点の一つと言われている。

※3:オガールでは、地域熱供給に紫波町の森林資源を活用した木質チップが使われている。

※4オガールにはバレーボールに特化した専用体育館があり、全国から多くの人が合宿に訪れている。

PROFILE

松田 東子

株式会社スピーク/公共R不動産。1986年生まれ。一橋大学社会学部卒業後、大成建設にてPFI関連業務に従事。2014年より公共R不動産の立ち上げに参画。スピークでは「トライアルステイ」による移住促進プロジェクトに携わる。2017年から2020年までロンドン在住。2021年University College London MSc Urban Studies 修了。

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