京都福知山 廃校マッチングバスツアー 同行レポート第二弾!!!

京都から2台のバスが到着。

前回、レポート形式でご紹介しました福知山市と京都銀行が協力して行う「福知山廃校マッチングバスツアー」。今回は2つある視察日程の後半のツアーに同行してきました。ツアーとしては前半と同様、活用できる廃校の視察と既に活用が進んでいる事例を巡るツアーとなりました。前回はツアーの様子を建物中心にお伝えしましたが、今回はツアーの運営を手がける行政と、実際に廃校を利活用されている入居企業それぞれの立場からのインタビューをお届けしたいと思います。

大型バス2台分の反響。

マッチングバスツアーのスタート場所になった旧明正小学校には、京都駅からの参加者を乗せた大型バス2台が到着。前回同様、関心の高さを感じるスタートとなりました。まず、廃校になった小学校の歴史や建物の位置関係などの基礎的な説明の後、2組に分かれて実際に建物の各部屋を廻る視察が始まりました。

なんと、福知山市だけで平成24年に存在した全27校のうち13校が廃校になっている現状があります。さらに来年には3校が廃校予定(!)らしく、この加速度的な廃校の増加は福知山市だけでなく日本全国で起こっていることが予想できます。今回はこの「廃校マッチングバスツアー」を主導されている福知山市役所財務部資産活用課の松本課長にお話をお伺いしました。

どれだけやる気を持って廃校の利活用をやるか。スピードが命。

今回お話をお伺いして何よりもびっくりしたのが、そのスピード。なんと松本さんが廃校の活用を担当する資産活用課に着任したのが今年(2020年)の4月。そこからたった半年で京都銀行との連携協定の締結、80名余の参加者を集めて2日程に渡る廃校マッチングバスツアーの実施とプレス対応まで実現されています。

この圧倒的なスピード感が伝わって欲しいなと思うのですが、当たり前ですが廃校の利活用は行政が「やる!」と決めてもそれだけでは実現できません・・・。所有者は教育委員会ですし、何よりも地域の自治会の方々の同意が不可欠です。

今回の廃校マッチングバスツアーでは前半と後半合わせて6つの廃校を巡りました。松本さんは着任してすぐに、この6つを含めた16校分の自治会との話し合いを始めたとおっしゃっています。

「まず地域に入って、廃校になったあの場所を地域としてどうしていきたいですか?と、まずそこから議論をする。誰も使っていなくて、ガランとした状態でいいのだろうか、と。」昼も夜も繰り返し地域の方々との対話を続けたといいます。

オーナーシップを持って他部署、関係者と調整していく。

廃校の利活用は各署との調整の嵐だと言います。役所内、地域、議会、民間事業者などなど。「多岐に渡る課題解決のために関係各署にヒアリングして折衝する必要がある。そのために、誰か任せでは絶対に物事が進まない」と松本さんは言います。特に活用を考える民間事業者のスピード感に合わないと}じゃあ他の地域で考えますね”と言われてしまう、と。「廃校が全国的に増えており、利活用したい自治体は福知山市だけじゃないので、それを言われないようにスピード感を持ってやっている。旬もあるし、熱が醒めないうちにやらないといけないから、3年でやり切る」とのことでした。実際に、ツアーで事例紹介として視察に訪れた旧中六人部小学校は、廃校を活用する今の事業者が決定してから入居までに2年かかってしまったそうです。今年は、4月に廃校活用の方針を立ててから半年で6つの廃校マッチングバスツアーの実施に至り、また別の廃校では具体的な利活用の話も進んでいるそうです。(その利活用の話は今年の5月の時点でスタートしていたというからさらに驚きです。)

廃校利用には地域の方との協調が不可欠

前回同様ツアーの途中では廃校を活用していちご栽培を行う井上株式会社に立ち寄り、     井上社長にお話をお伺いしました。長く福知山市で電気やシステムの事業をされておられますが、廃校活用に取り組まれたきっかけは、これからの10年20年を見据えたときに、本業に加えて地域にお世話になったのでもっと地域に関わっていく事業を始めたいと思ったから、とのこと。いちご栽培を始められたのも「小学校にビニールハウスが並んでいたらなんかいいよね」という着想からだったそうです。

地元が福知山市という井上社長ですが、「廃校を利用したら補助金とかがもらえるからやってみよう、とか地域に根ざした目線を持たずに取り組むと100%失敗します。」と言い切ります。廃校を利活用して事業をするためには「民間業者、行政、地域、この3つの全てがヒートアップしていないとうまくいかない、この3つのどこか一つでも冷めていたらできない」と。反対に、なぜこの地域でやるのか、を考えるとどんどん関係者や協力者が増えていって拡がりが生まれるとおっしゃっていました。 井上社長が地域の方に事業内容について提案した際は、「それええやんか!ほんならワシらは何したらええねん!?」と、間髪を入れずノリノリな反応があったそう。地域の方々に歓迎されて廃校活用がスタートしたことがうかがえるエピソードです。

地域で一番いいところにあるのが小学校

実はこの「地域で一番いいところにあるのが小学校」という言葉、施設管理課の松本課長と井上株式会社の井上社長が、別々の僕のインタビューの中で発言されました。松本課長は、「姿形は変わったとしても地域の真ん中にある場所が盛り上がれば、地域も元気になっていく」という文脈で、井上社長は「小学校は地域の人がどこからでも来やすい場所にあるので、地域との関わりを生む事業には最適の場所」という意味で使っておられました。今回は行政の立場と、利活用する事業者の立場からのインタビューを中心にお伝えしましたが、どちらもキーワードに挙げられたのは「地域との連携」でした。前半でご紹介したプロパティとしての小学校の特長の活かし方と、そこを活用する心持ちとしての地域との関わり方。どちらも廃校利活用には考えておかなければいけないことだと感じました。

PROFILE

水口 貴之

株式会社51ActionR&D 代表 株式会社51Action 代表 1982年京都府生まれ。同志社大学を卒業後、東京にて広告代理店・株式会社ディー・エヌ・エーにて営業・アライアンス業務を担当。 祖父の家が築数百年の茅葺屋根の古民家であることから、同じように「趣きのある物件」を住みつなげるようにしたいと2016年に帰京し独立。 2017年、不動産業を取得し10箇所目のR不動産となる「京都R不動産」をオープンする。 同年、京都市東山区の五重ノ塔を望む築50年のアパートをリノベーションした「RC HOTEL 京都八坂」もオープン。 自社運営しながら、住民減少で存続が危ぶまれ同町内会の町内会長も務めている。 また、京都中央卸売市場の場外にあたり、事務所も構える京都市下京区朱雀宝蔵町のまちづくりメンバーとして同エリアの活性化に取り組んでいる。

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