コラム

トップ・インタビュー vol.03 |仙台市文化観光局局長 天野元氏に聞く、公共空間を変える都市戦略と実践 / LIVE+RALLY PARK.はいかにしてできたのか?

text = 那須ミノル

 

仙台市役所前に広がる勾当台公園。2018年、ここをフィールドに実施された社会実験が「LIVE+RALLY PARK.(ライブラリーパーク)」。木造の仮設建築を出現させ、ポップアップカフェをひらき、「東北の日常を旅する」をテーマにした本やプロダクトを販売。さらに展示イベントやマルシェの開催などを通して、それまで人々が足早に行き交うだけの通り道にすぎなかったようなその場所に、たくさんの人々が集いゆるやかに繋がってゆく新たな日常の風景をもたらしました。
空間に潜む可能性を顕在化させたこの社会実験を経て、現在は常設化に向けた準備が進められています。この一連のプログラムの仕掛け人である仙台市の天野元局長に、公共R不動産ディレクターの馬場正尊がその目的と方法論をインタビューしました。

 

時限的な社会実験によって
見たことのない風景を見せる

馬場:公共空間の利活用の社会実験としてLIVE+RALLY PARK.(ライブラリーパーク)ができたことにより、仙台市は日本中から注目を浴びています。仙台市はどういうビジョンと方向性を持ち、なぜ勾当台公園からはじめたのか。そしてこの先どういうシナリオを持っているのか。その政策立案とシナリオの描き方についてお話を伺いたいと思います。まず、天野さんはどういう構想を持って、どう歩みはじめられたのかというところから。

LIVE + RALLY PARK. の仕掛人・天野元氏

天野:仙台はもともと市民協働が活発なまちです。中間支援組織、つまりNPOを支援するためのNPOが日本で初めて生まれたのも仙台市でした。何かプロジェクトを起こすとなれば「市民や企業の力を借りない手はないよね」というカルチャーが行政にあります。私は2013年頃まで長く経済局におり、企業とコラボする機会は多くありました。そのなかでひとつのエポックとなったのが「TRUNK – Creative Office Sharing- 」です。

馬場:あれがはじまりだったわけですね。

天野:昭和40年に卸売業に特化して整備された卸町というエリアで、仙台卸売商センター協同組合の方たちに対して「やや前時代的なこのエリアにクリエイターを入れて、新しいものを生み出しましょうよ」とプレゼンして、アジテートしました。そこにはクリエイティブなビジネスへの理解があるアパレルの人もいるから「じゃあ、卸町会館をリノベーションしよう」ということになり、クリエイターやアーティストやエンジニアが集まるクリエイティブ拠点に生まれ変わったわけです。

馬場:なるほど。

天野:業務に特化してつくられたエリアをリノベーションによって変える。それはいわば、近代都市計画へのアンチテーゼです。つまり、高度成長期における近代都市計画の高効率性に対して、ジェイン・ジェイコブスが「そんなんじゃダメで、ごっちゃでないと面白いものは生まれないよね」って言っていたことを、経験として知ることができました。既存ストックをそのまま使いながら、クリエイターを投入し異文化を取り入れることでまちを変えていくこのプロジェクトが私の成功体験になったことは間違いありません。「リノベーションはすごい」と思い知ったわけです。

馬場:そうだったんですね。

天野:リノベーションの本質は「コンバージョン=転用」。つまり、今まで見えてない景色を見せること。2015年頃の私はまちづくり政策局というところにいて、定禅寺通りに仕掛けていこうとしたわけですけど、残念ながら異動となってしまいました。異動したけどやっぱり援護射撃はしたいから、異動先である文化観光局に移ってからもこうしてLIVE+RALLY PARK.をやって、定禅寺通りに面したこの公園のなかのオープンカフェというものをみんなに見せている、というわけです。

LIVE + RALLY PARK. の出現により、勾当台公園には新たな出会いと交流が生まれた。Photo: Kohei Shikama

仮設の木造建築物の中で運営されたカフェ。

馬場:なるほど、まずは見せるんだ、と。

天野:そうです、見たことのない景色を見せることができればいい。ここで、役人のテクニックとして重要なことは「期間限定の社会実験」と位置づけること。これが大切です。財政担当局から予算を引っ張ってくることが役人として大事なところですが、未来永劫やるつもりで進めようとするとハードルが高くて難しい。けれど「これは1年間だけの社会実験です」となれば、財政担当側もゆるくなる。この方がうまくいくし、なにかを変えるときには有効です。

馬場:時限プロジェクトをやっている間に民間が続けるというシナリオが見つかればいいわけですしね。民間ではつくれないきっかけづくりを行政がやって、そのスタートアップエンジンとしての社会実験を、極めて積極的に都市戦略のなかにポンってインストールしているような感覚なわけですね。

公共R不動産ディレクター・馬場正尊

天野:時限であることは、公共空間でまだ誰もやっていないビジネスにチャレンジする事業者にも有効です。事業が本当に成り立つのか、フィージビリティスタディになるわけですから。

馬場:実験期間中に試行錯誤できるから、「引くに引けない」という状況にならずにすみますね。

天野:役所にとっても事業者にとっても、どちらにとってもテストマーケティングでもありますし。

馬場:本格稼働のときが来れば、そのノウハウを生かした事業設計ができるので非常にコスパがいいですよね。

天野:実際「1年のテストマーケティングだから」と言うと役所の中でも企画が通りやすい。「成功しても失敗しても1年でやめるからと」なんて言うわけですけど、成功したらやめられない。もしそうなったら他の誰かが引き継いでやってくれる可能性もあるわけです。

馬場:「やってくれ」という市民の声が上がったらそれは大きなコンセンサスが得られたということで、本格的にプロデュースして動かせばいいわけですね。そのワンステップをつくったっていうのが大きいんですね。

横断型の組織づくりは
はみ出し公務員の発見から

馬場:そうすると、LIVE+RALLY PARK. は「観光」がテーマの施設ではあるけれども、その本流には「公共空間利活用と、クリエイターと民間とのコラボレーション」というものがあったわけですね。

LIVE + RALLY PARK. で開催されたトークイベントでの馬場

天野:クリエイティブって、クリエイティブ担当部署だけがやるものじゃないんです。クリエイティビティも公共空間の利活用も、あらゆる部署にインストールしなきゃいけない。どこの部署であろうと、公共空間をうまく使えたら生産性上がるよね、という話はあるわけです。私もまちづくり政策局から文化観光局へと異動になってからも、じゃあこの部署として公共空間の利活用をどうするか、この部署として定禅寺通りのオープンカフェ化にどうやって貢献したらいいかっていうのをずっと考えてきて今に辿り着いているわけです。

馬場:重要なところですね。部署間の横断の仕方、横断型の組織をつくる必要性やテクニックといったものについてぜひお聞きしたいです。
私たちが公共R不動産をやっていくうちに、公共空間が活発に活用されるためには3つの改革が必要だということがわかってきました。まずひとつは風景つまり「空間の改革」です。規制緩和とか用途変更とか社会実験ですね。ふたつめは「制度の改革」。条例を設定しながら規制を外したり、誘導したり。これは行政にしかできないことです。そしてみっつめが「組織の改革」です。
今まさに天野さんから「組織」の話が出ましたけど、公民連携や公共空間の利活用がうまくいっている事例を見ると、一方ではパブリックマインドを持って公共的な主体となる民間側がいると同時に、他方ではそのカウンターパートとしての行政サイドにも部署を横断した目線が不可欠です。それはどうやったら実現できるのでしょう?

天野:私自身もそうですが、公務員のなかにも、自分の組織やドメインから半歩はみ出している「はみ出し公務員」がいるものです。まずはその人を発見すること。で次に、カウンターパートとなる民間企業の人たちの側にも、はみ出している人、つまり本当はその会社の利益を最大化しなきゃいけないのにそうではない、公共マインドを持つ人がいますから、その人を見つけること。そしてはみ出してる人間同士がコラボすると非常にうまくいく、というのが今までの経験から言えることです。まちづくりにしろ市民協働にしろ産学連携にしろ、だいたいそうです。

馬場:天野さんと僕との出会いも、「はみ出し系」の出会いだったわけですね。

天野:そうかもしれません。ヒト・モノ・カネで一番重要なのはヒトです。ヒトさえいればプロジェクトが動き出すし、お金も持って来られるし、制度も改革できるかもしれない。あとはもちろん組織っていうのも重要だけど、役所がすぐにつくりたがる「◯◯課」って非常にスティッフなガチガチなものだから固い動きになっちゃうし、つくった途端に陳腐化がはじまるから気をつけなければいけない。まちづくりとか産学連携においてはクリエイティビティが重要ですが、組織をつくった途端にクリエイティビティが失われていくというのはありがちなことなんです。
しかしまたその一方で、役所としての本気度を示すためのテクニックとして、組織をつくるというのはとても重要です。単なるプロジェクトチームをつくりました、ではダメです。だから「定禅寺通活性化室」というような組織をつくることが、役所としての姿勢を示すことになる。そこまで踏ん切ったんですよ、と。固定的な「課」に比べて、「室」というのはテンポラリーな意味があるんですけど、ここを狙いたい。

馬場:なるほど、全体としてのエスタブリッシュが必要になってくるわけだ。

天野:そうなれば市議会とかいろんなところで発表もされるし、役所のなかに場所ができて、役所のエレベーターにもちゃんと「定禅寺通活性化室」って表記されるわけで、それって相当なことなんです。そういうのをひとつのマイルストーンにするっていうのは大事なことです。

馬場:「室」まで持っていければ、プロジェクトとしてオフィシャルにドライブさせることができるわけですね。

天野:そこでも注意しなきゃならないのは、陳腐化や組織防衛です。入口はすごくクリエイティブな話だったのに、その組織ができた途端、出口はまるでクリエイティブではなくってしまっているなんてことになりかねない。だからこそ、1年限りでスタートするのが非常に良い。5年も続けるってことになると、いろんな人からビジネスプランに対して「精査したのか?」って突っ込まれますけど、「1年だけですから」って言えばいい。これは非常に不謹慎なことを言ってるようであって、そうじゃないんです。テストマーケティングをやっているということなんですから。

馬場:そこは企業と違わないのかもしれませんね。そういう意味では民間も行政もない。やってること一緒だと。

天野:そういうことです。

市民からの共感獲得の
指標としてのクラウドファンディング

天野:ただし、民間は事業の収益性をつねにチェックするのに対して、役所は「指標をつくるのが難しい」という理由から効果測定せずに進めてムダな事業をやっちゃう可能性があるから気をつけないといけない。大切なことは「どれだけの人に支持されるか」ではないでしょうか。そこで注目するのがクラウドファンディングです。例えばあるプロジェクトについてクラウドファンディングで100万集めたなら、役所でさらに100万アドオンしましょう、みたいな手法でやれたらいい。あなたのプランに多数の支持者がいるなら、役所としても同額をマッチングファンドとして出しますよ、と。

馬場:なるほど、面白いですね。

天野:現状、あるプロジェクトにお金を出すかどうかの審査をやると、いつの間にか銀行の審査部門みたいになってくるんです。事業計画の収支が合ってないとか、収支の計算が甘いとか言ってるうちに、銀行が融資するような案件にしか補助金が出せなくなっている。新しい取り組みをしたいって言っているのに、これじゃあ意味ないじゃん、って。そうではなくて「どれだけ支持を集めたプロジェクトなのか」を大事にしたい。

馬場:協力したい、お金を出したいって言っている市民がどれだけいるかを評価できるシンプルな指標としてクラウドファンディングを使えばいい、と。

天野:共感をたくさん得られたプロジェクトは、市がお金出すものとして適切ですよね。

馬場:はい、画期的な方法論だと思います。

天野:まちづくりにぜひそれを実現してみたいんです。

馬場:既存の行政の予算制度のなかで、それができる可能性はあるんですか。

天野:できます。今までは銀行の審査のようにやってきた補助金のプロジェクトの審査のやり方を変えたいというだけですから。

馬場:なるほど。じゃあ審査するのは行政ではなくて市民だってことなんですね。

天野:そういうことです。共感をいっぱい集められたプロジェクトにはお金を出す、と。そうすれば、プロジェクトを起こす人たちは、なるべく多くの人の共感を得ることができるように事業計画をブラッシュアップするようにもなりますし。

馬場:まったく新しいタイプの資本主義のように見えますね。公園のなかにカフェのような便益施設をつくるには、そういうやり方もあるかもしれない。

天野:そう。都市の中心部のアノニマスな環境である公園のなかでのカフェでもいいでしょうし、住宅地のなかに交流カフェをつくりたい、みたいなことでもいい。まさにその地域の住民がどれだけお金を出すかがはっきりとわかります。

馬場:そうですね。熱量がそこにどれだけあるのかも的確にわかるし。行政からみるとそれ自体がマーケティングになっているわけだし。役所が補助金を出すプロジェクトを支持してくれる人がいる。それは正しい補助金の使い方ですよね。まだこれをやっているところは…

天野:ない。だからね、やってみたいんです。

安い賃料が
まちに好循環をもたらす

馬場:さて、最後に話を仙台市に戻します。LIVE+RALLY PARK.という社会実験は、おそらく次のフェーズへの布石なのだろうと思います。これからの仙台市の公共空間の利活用について聞かせてください。

天野:これは仙台市だけの課題ではなくどこの自治体でも同じかもしれませんが、駅周辺エリアがナショナルチェーン、ドラッグストア、ファッションビルばかりが立ち並び、どんどん無個性になってきています。まるでミニ東京のようで、やがて飽きられると思うんですね。東京行った方がいいよねって話だから。そうではない個性のあるまちをつくるにはどうしたらいいかを考えなくてはならない。

役所の人間として都市のリノベーションに携わる一方で、私は仙台市のいちユーザーとして、こういうのがあったらいいよねっていう風景に出会いたいし、個性的なまちになってほしいと願っています。ではどうやって個性をつくっていくかとなると、莫大な投資を新たに行うことは現実的ではないから、やはりリノベーションを最大限活用するしかない。

仙台駅周辺エリアは、ミニ東京であり高効率な近代的都市計画のエリアです。その対抗軸となるエリアとして定禅寺通り周辺にフォーカスし、個性あるまちづくりを展開してみたいわけです。そうするとシンプルな二項対立的な図式ができあがります。で、大切なのは、そのバランスです。このままだと一極集中が進む仙台駅周辺は賃料が高いからナショナルブランドばかりになって、もう地元が入り込む余地がなくなってしまい、日本中どこにでもある店ばかりになってしまう。でも、それでいいわけがないから、そこのバランスを取るためにも、個性のあるまちを増やすようにリバランシングしていきましょうよって、そういう説明になるんです。

馬場:戦略的にわざと二項対立にすることで理解しやすくしている。

天野:実際、最近は「仙台駅一極集中でいいのか?」ってみんな言うようになりました。

馬場:多くの人が感じていたことだったんでしょうね。リバランシングの象徴として一方では仙台駅前のビル群やペデストリアンデッキがあり、もう一方では定禅寺通りの並木や勾当台公園の緑がある。風景の対立軸でもあるわけですね。

天野:そう。高効率と非効率、ビジネスとライフスタイルの対立軸でもある。

馬場:クリエイターを含めて仙台に住んでる若い世代は、仙台駅周辺にはもはや消費者としてコミットする以外、自分たちが入り込む隙間はないって本能的に感じ取っちゃっている気がします。

天野:そうですね。でも、定禅寺通りの裏通りにはまだ隙間がたくさんありますから。

馬場:隙間があるということは自分たちもコミットできるチャンスがあることだと嗅ぎつけている。そこの枠組みをつくってもらったおかげで、クリエイターたちはまんまとその隙間にスッと入っていけるわけですね。

天野:定禅寺通りの裏通りの中古ビルの2階とか3階なら賃料が安いから、そこにクリエイティブな空間をつくったりすることはできるわけです。だから、実は、賃料ってものすごく重要なんですよ。その意味でも、古いビルというのは必要なんです。賃料という視点から見たら、古いビルがまちに欲しいから、だからどうか壊さないで欲しい、と思います。

馬場:安い賃料を保つために古いビルは必要なんだっていうロジックですね。確かにスタートアップできる隙間があるほど、都市の風景というのは豊かな気がします。

天野:新しい時代には、新しい感覚を持った事業者が絶対に必要です。名掛丁にある「Linkup」という着替えスペースとテンポラリー・ショップが併設されたコインロッカーをよく引き合いに出させてもらうんですけど、すごく着眼点と感性の鋭いビジネスですよね。そうした新しい事業が、新しいサービスを生み出し、どんどん人を惹きつけていく。新事業が生まれる動きをさらにブーストするべく役所も支援策を考えようと、いま「仙台市交流人口ビジネス活性化戦略」というのをつくっています。そういうビジネスの担い手がいると新しいコンテンツが生まれるんです。そこで話は戻りますが、だからこそ、賃料が安いっていうことは非常に重要なんです。賃料は上げちゃいけないんですよ。

馬場:本当にそうですね。

天野:賃料が安く、起業家がたくさんいるまちにしたいわけです。これはまた別の文脈ですけど、実は仙台は「日本一起業しやすいまち」をめざしています。開業率の高さは、今は福岡に次いで全国で2番目です。新しいビジネスが起きると新しいサービスが起きて人が寄ってくるという循環は非常に重要ですが、その起点となるのが実は「安い賃料」なのです。

馬場:なるほど。
そうやって天野さんは文化観光局にいてもどこにいても産業ビジネスを仕掛けてるんですね。そういう意味では、もうどの部署にいようと関係ないですよね。どっからでもいくんだっていうその柔軟性がすごく重要なんだという気がしました。

天野:まちのなかで、有象無象の小さな業者たちが群雄割拠するような構造でいいんですよ。それが都市の魅力であり個性だし、それこそが懐の深い都市計画っていうことになるんじゃないでしょうか。

日経BP社「新・公民連携最前線」に公共R不動産のコラムを連載中