コラム

トップ・インタビュー vol.02 豊島副区長|2020までに4つの公園を整備する豊島区の戦略と、まちの価値を評価する指標とは

text = 介川亜紀

先進事例を持つ地方自治体のリーダーを取材する特集企画「トップ・インタビュー」。第2回目は東京都豊島区副区長(取材当時の役職。2018年7月現在は国土交通省住宅局住宅生産課建築環境企画室長)、宿本尚吾(やどもとしょうご)さんです。今回は特別編として、”官能都市-センシュアス・シティ”を提唱するLIFULL HOME’S総研の島原万丈(しまばらまんじょう)さんと「グリーン大通り等における賑わい創出プロジェクト」の実践者である株式会社nestの代表、青木純(あおきじゅん)さんに加わっていただき、意見を交えるスタイルを取りました。インタビュアーは、公共R不動産ディレクターであり、青木純さんと共に株式会社nestの共同代表も務めている馬場正尊です。

2014年、日本創生会議が発表した896の消滅可能性都市の中に、東京23区の中で唯一含まれていた豊島区。その後、豊島区は人口減少社会から転換を図るため、さまざまな対策に乗り出します。そのうちのひとつが公園の魅力の向上です。
2015年に策定した「豊島区国際アート・カルチャー都市構想」では、「まち全体が舞台の、誰もが主役になれる劇場都市」というメインコンセプトのもと、ソフト・ハードの両側面から様々な施策を進めています。その中に、公園や街路といった公共空間に関しても、劇場空間としての都市空間解放を進めるという内容も盛り込まれています。

こうした動きについて、豊島区としての戦略、その先のまちの未来像を宿本さんにお聞きするとともに、それらを裏打ちするための評価指標について議論しました。

4つの公園整備でまちを面的に変えていく

豊島区では、2020年までに池袋駅周辺の4つの公園について整備する動きが進んでいます。南池袋公園のほか造幣局跡地の防災公園、池袋西口公園、中池袋公園。合計面積はなんと約3万m2超。限られたエリアでこれだけの公園面積を占めるのは、他のまちではなかなか見ることができないでしょう。

池袋駅周辺4公園整備について(豊島区HPより)

2016年4月にリニューアル工事が終了した南池袋公園は、カフェの併設や緑豊かで居心地の良いデザインであることから、オープン当初から多くの方が来場して、“まちのリビング“として日常的に愛される場所となっています。

新たな池袋のランドマークとなった南池袋公園(写真:株式会社nest)

左から、宿本副区長、都市計画課活田課長、都市計画課江野澤氏、公共R不動産馬場、LIFULLHOME’S総研島原氏

南池袋公園から滲み出す、まちの賑わい

馬場氏(以下、馬場):南池袋公園付近の賑わい創出の動きについて、宿本さんと青木さんに話を伺いたいと思います。南池袋公園の至近にグリーン大通りがありますが、実はnestでの活動は、グリーン大通りの賑わい創出事業が基軸にあるんですよね。

宿本氏(以下、宿本):グリーン大通りは、2015年に特定都市再生緊急整備地域になった後、2016年に国家戦略特区に指定されました。指定されたエリアだけに限るのではなく、グリーン大通りを含むエリア全体の価値が上がるように、新たな仕組みを考えていく必要があると考えています。

馬場:そうですね。nestは南池袋公園とグリーン大通りを連続させるような形でマルシェを企画し、毎月開催することでまちの期待値を上げていきました。そして半年後の2017年11月には、池袋駅から東池袋駅、雑司が谷駅の三角地帯に範囲を広げて、まちをリビングのように楽しむ「IKEBUKURO LIVING LOOP」の開催に至りました。私たちも宿本さんと同様に、面的な活動が必要だと思っていましたから。

青木氏(以下、青木):nestが関わり始めた当初は、グリーン大通りはうまく活用されていませんでした。ただ、南池袋公園が完成して、カフェ内の給排水を活用できる状況になったことでマルシェに飲食店事業者が出店しやすい環境が整いました。南池袋公園とグリーン大通りに連続性を持たせるべく、まずは南池袋公園に集客して、そこからグリーン大通りに人をあふれ出させるような戦略を考えていました。
マルシェを重ねて、グリーン大通りにも人が流れるようになったころを見計らって、IKEBUKURO LIVING LOOPの開催に踏み切ったんです。

グリーン大通りの賑わい創出に尽力していたnest代表青木純さん

馬場:「LOOP」という言葉は、どのようなイメージですか?

青木:人の流れです。たとえば、グリーン大通りから入って、造幣局跡地の新公園まで来ますよね。そこから大塚界隈まで広くぐるっと回る人もいるし、雑司ヶ谷界隈の散策を楽しんで池袋駅に戻る人たちもいる。ひとつの大きなループというより、エリアごとに個性のある豊島区ならではの複数のループをイメージしています。

IKEBUKURO LIVING LOOPで配布されたエリアマップ

臨機応変な管理運営を進め、個性ある公園を生む

IKEBUKURO LIVING LOOPではグリーン大通りにストリートファニチャーの設置実験も実施

馬場:エリアを様々な視点で評価している島原さんに伺います。今後、公共空間はどうすればもっと魅力的になっていくとお考えでしょうか。

島原氏(以下、島原):それぞれの公園が周辺環境やニーズに合わせて、デザインや管理運営を行うようにすれば良いのではないかと思っています。先日、ニューヨーク市公園局に勤務する方から聞いた話【コラム参照】では、ニューヨーク市の公園は管理方法が千差万別で、市民が求めるものを臨機応変に認めていったところ、管理運営などに違いが生まれたのだと。逆に行政が規制を作りすぎていたら、画一的になっていたかもしれませんね。

ポルトガルのリスボンでは、通りに自由にテーブルを出していて、至る所オープンカフェが広がる魅力的なまちになっています。エリアマネジメントという発想ではない気がしますが。

馬場:ニューヨーク市の公園管理方法を豊島区に照らし合わせると、公園やストリートごとに管理運営の主体は違ってもいいけれど、それぞれが緩やかに繋がる方がいいんじゃないか、そこにもループというイメージは重なりますね。

青木:いっそ「公園都市」というコンセプトを豊島区が掲げてもいいのかもしれません。公園やストリートでのくつろぎが、池袋での過ごし方であると訴えかけていく。

ストリートファニチャーでくつろぐ風景(写真:株式会社nest)

グリーン大通りではキッチンカーの設置許可も得ている(写真:株式会社nest)

IKEBUKURO LIVING LOOP開催日の南池袋公園(写真:株式会社nest)

宿本:南池袋公園が注目されていますが、実は、豊島区には小さな公園がたくさんあります。これらについても、今後、使い方や管理運営を検討していきたいと考えています。今は、ラジオ体操や保育園の園庭、喫煙所として使われているケースも多いです。公民で連携、役割分担して、地域のニーズに合った新しい空間にしたいと思います。ちなみに、この一環として、公園トイレの改修を進めるとともに、今年の10月から、全ての公園において禁煙化に取り組むこととしています。

馬場:大きなコンセプトや戦略は行政が担いつつ、公園ごとにキャラクタライズして、利用を促すような仕組みが必要ですね。

まちの変化に合わせ臨機応変に管理運営

馬場:nestが南池袋公園とグリーン大通りに関わるようになって、1年以上が経ちました。その間に、豊島区や池袋の見られ方が変わった気がします。

宿本:そうですね。池袋のみならず、大塚や巣鴨など、豊島区全体が注目されるようになってきた気がします。

馬場:賃貸居住者を対象にしたある調査では、池袋が“住みたいまちランキング” 1位になりました。これは偶然なのか、これまでの南池袋公園の活用を促すさまざまな活動での結果なのか。

たとえば、公園などの公共空間が変わると、まち全体のイメージや、まちの賃貸物件の家賃、分譲マンションの価格のような定量的な数値まで変わるのではないか?その数値が活用できるなら、豊島区に限らず、統一の指標で公共空間を評価することができるんじゃないかなと考えているんです。

評価の議論に入っていく前に、まずは豊島区の公園政策についてお伺いしたいと思います。

宿本:私が着任したとき(※2016年4月)には、政策は現在のようには固まってはいませんでした。南池袋公園が完成し、造幣局跡地の防災公園の基本計画が固まったという段階でした。

都市再生を考える場合、どうしても再開発などによる建物の建て替えをメインにしがちですが、限られた時間や条件の中で、池袋のまちの印象をがらりと変えるような施策を考えた結果として、公園の整備に行きつき、「公園からの都市再生」をテーマにして進めていこう、ということになりました。

区としては2020年の東京オリンピックまでに戦略的に何かやろうとした。実は、公園を対象にまちづくりをPRしているのは印象操作という面もあります。現状、出来上がっている公園は南池袋公園1つしかありませんし(笑)。それでも、まちのイメージは大きく変わってきています。

馬場:なるほど、印象操作ですか。

宿本:とはいえ、それぞれの公園が、これまでにないランドスケープのデザインや管理の仕組みを取り入れた南池袋公園から刺激を受けて、新たな挑戦をしようと動き出しているのは事実です。

馬場:最初から4つの公園を含む大きなマスタープランがあったわけではないのですね。

宿本:そうですね。今回は高野区長から、4つの公園をなんとか生かしたい、という話があって考え方の整理が進みました。そのように、政策や施策は臨機応変に考えています。
その後、東アジア文化都市2019開催都市となり、それに向かってまちを形作ろうという勢いがでてきました。

東アジア文化都市2019豊島の事業イメージ(豊島区HPより)

宿本:ただ、明確なマスタープランではありませんが、2015年に「都市づくりビジョン」を策定したときに、既存の3つの公園を連携して使いこなそうという提案が盛り込まれていました。

馬場:豊島区は、状況に応じて編集するように都市を変えていると。

宿本:それは、リノベーションしているからだと思います。公園を新設するなら、おそらくマスタープランが先にあって、それに基づいて設計が進んでいくはずと思います。

公共空間の価値を図る“身体性の指標

馬場:島原さんから見て、池袋はどのように変わりましたか?

島原:南池袋公園を含めて付近がきれいになって、インスタ映えするようになりましたね。訪れた人がSNSを中心にビジュアルつきで情報発信して、さらにシェアされ相乗効果で評判が高まったように思います。

馬場:島原さんが監修された「官能都市」では、都市の魅力を図る指標がたくさんありますが、公園や道路に適用できそうなものはありますか?

島原:たとえば、「まちを感じる」という大きな指標の中に、まちの活気を測るというものがあります。その具体的な評価項目には、公園でパフォーマンスを見かけたといった、人のアクティビティを計測している項目がある。また「自然を感じる」という指標では、単に公園が多いのではなく、木陰で気持ちいい風を感じたとか、水や緑に直接触れたというような、五感に基づく経験値に関わる評価項目があります。

「官能都市」には大きく分けて、「関係性の指標群」と「身体性の指標群」があるわけですが、公園や道路の指標は後者がフィットするのではないでしょうか。つまり、身体が、五感が心地よく感じるアクティビティが発生しているかどうか。

馬場:今までの都市計画やまちづくりは、KPIが定量的で、やたらと数字で示せと言われていましたね。

島原:近年の技術的な進歩からいくと、その場にいる人の表情を画像認識して、AIで分析することができるかもしれない。まだ技術的に表情の解析が難しいなら、「楽しい」行動をこちらで定義したうえで、現場を観察して測定する方法も考えられますね。

宿本:リノベーションした公園は、新築に比べて評価が難しい。従来の尺度では魅力が評価できないですよね。ですから、島原さんが手掛けた「官能都市」のような尺度が重要になると思います。議会で説明が求められたときなども、「官能度」という人間の五感に即した指標でつくった、と明言できればいいと思います。

馬場:「官能都市」が公開されたとき、それまではどう評価していいかわからなかった、でも誰もが重要だと認識している五感に関する評価指標が生まれたと、嬉しかったのを覚えています。今後、オフィシャルな形で使われていくようになるといいですね。

 

まちの価値を高めていくための起爆剤として、これまでにない大規模公園の整備にチャレンジしている豊島区。パークマネジメント、ストリートマネジメントのモデルを検討しながら、新たな公民連携のあり方を見出していくため、公民連携での実験は続きそうです。

また、数値的な評価だけでなく、より心地よさや快適さを追求した「身体性の指標」は、今後公園のあり方が多様化すればするほど求められるものかと思います。公共空間の質向上がエリアの価値を上げていくという視点を誰もが共有できるといいですね。

ここから2020年までの2年間で、池袋駅周辺の風景は激変します。変化しつつある池袋エリアでは、4つの公園整備だけでなく、小規模公園の活用実験や東アジア文化都市にまつわる様々な文化イベントが開催されるなど、飽きさせない企画が盛りだくさん!変化の最中を見られるのはこのタイミングしかないので、ぜひ今の豊島区を味わいに訪れてみてはいかがでしょうか。

 

日経BP社「新・公民連携最前線」に公共R不動産のコラムを連載中