コラム

連載②「お試しでやってみる」後編―地域科学研究所の実験―

text = 馬場 正尊

朴木小学校のカフェフロアにて 手前左から、大分県由布市の耕作放棄地を開墾し、無農薬栽培による農業を行う農業生産法人ほおのき畑を起ち上げた同社元社員の林田真人氏、同社公共イノベーション&サポート事業部課長西田稔彦氏、株式会社地域科学研究所 代表を務める平井慎一氏

 まずは自分たちで学校を借りてみよう!と始まった地域科学研究所のインタビュー。後編はサービスを提供するまでのお話や自治体と向き合う中での気づきをお聞きします。

一線での試行錯誤の中に、ハードだけでなくソフトも実践する地域科学研究所ならではのサービスのヒントが隠されています。
(前編はコチラ

 

(↓続き)

点から面への展開

馬場 正尊(以下、馬場):ところで、そもそも地域科学研究所が公共施設に新しいマネジメント手法が必要だと思ったきっかけを教えてください。

平井 慎一(以下、平井) :まず、我々の会社は不動産鑑定士の現会長木下光一の仕事がベースにありました。不動産鑑定というのは、例えばこの土地・建物がいくらかという評価を、一筆ごと一棟ごとに行っていきます。その不動産鑑定を合理的に行うためにシステムを開発したのが次の段階です。

馬場:どんなシステムを作っていったのですか。

平井:まずは鑑定に必要となる、土地の間口や道路の幅員を入力していきます。他に、近くに公共施設や公園があるというのは評価の上でプラスになりますので、そういった情報。反対に地価形成にマイナスを与える施設がある場合は減価される、というようにシステムにインプットしていきます。

これを行うには、どうしてもその土地・建物だけを見る「点」としての情報では不足してしまいます。周囲の環境や状況もインプットでき「面」として見て使えるシステムが必要でした。弊社がシステムに地図情報を組み込むようになった理由はここが大きいです。そして、このシステムを作ったことが、弊社サービスの大きな転換点となりました。

 

新しいマネジメント手法

馬場:そこからどのように不動産向けから行政向けへと進化していくのでしょうか?

平井: 10年前に市町村合併があったのをきっかけに、地方の人口減少と相まって公共施設が再配置されることになってきました。コスト的に考えると公共施設の再配置は合理的なのですが、小学校など地域の拠点がなくなると、地域の活力までなくなる。そこをどうしようかという相談が自治体から来るようになりました。

馬場:公共施設の再配置ではどういうお手伝いをしていたのですか?

平井:まず、自治体の中で、資産の持っている総量というものが、固定資産台帳として完全に把握されていない状況がありました。

民間では決算書にバランスシートがあり、そこで、持っている資産がはっきり記載されていますが、自治体は、単式簿記による会計管理のため、正確なバランスシートの数字としては把握されてきていませんでした。これをまずデータベース化して、クラウドシステムで共有できる環境づくりからお手伝いを始めました。これによって、どのくらい老朽化した施設がどこにどれくらいあるのか?類似施設が近くにないかなど、視覚的に自治体が政策判断できるシステムサービスを提供し始めました。今は、これを基に総務省からの要請でこれからの公共施設の在り方を政策的に決める「公共施設等総合管理計画」を地方自治体が策定しています。弊社もこれを作成するお手伝いをしています。

今後施設をどうしていくか?ということについては、自治体も悩まれていますね。例えば、「建物を残そう」というのは簡単ですが、維持管理費がかかってお金を生まないわけです。そこで代替案を提案していました。具体的な内容としては、公共施設を稼げる施設として活用できるよう、使われなくなった学校給食調理場を地元で6次産業化を進めている起業家さんの加工施設として活用できるように自治体と民間企業の人をつないだり、大きな施設では施設維持管理費の中でも大きな割合を占める清掃経費や、水道光熱費が適正にマネジメントされているかなどを診断して、再配置せずともコスト削減できないかといった運営方法の見直しをしたりしました。

馬場:自治体の資産管理システム開発とそのデータベース化の仕事をしているうちに、相談を受けるようになったということですね。10年前は、自治体も公共施設の負担が重荷になることへの気づきがなかったような気もするのですが。

平井:そうですね。そのころから気づいていた自治体は一部だったと思いますね。ただ、合併すると国から下りる交付税の特例はあるけれど、その後減るのは分かっていました。さらに、合併によって文化ホールが2つになったり、施設の重複も出てきますし、2008年をピークに日本の総人口は減りはじめていますが、地方は早い段階から減っています。そうすると、地域の産業も衰退し、自治体の税収が減ることになりますので、財政面でも施設を維持することが難しくなってきます。

馬場:自治体の公共施設のデータベースの見える化を進めながら、自治体経営の視点で、自治体財政が厳しくなっていくことを最初に具体的な数字として、リアルに感じざるを得ない立場にいたということですね。

 

低利用の公共空間を保有するリスク

西田 稔彦(以下、西田):2011年に東洋大学の根本祐二教授が書かれた『朽ちるインフラ』(日本経済新聞出版社)という本に「公共施設更新費用推計」という推計方法が紹介されていました。建物を維持管理して建替えや大規模改修をしたら、財政負担がどのくらいになるかという簡易シミュレーションのことです。それを取引のある自治体でもやってみたところ、建替と改修費用に何百億円もかかる、という結果が出てきました。

これは首都圏だけの問題ではなく、日本中で大問題になるなと。役所の財政に大きく影響を及ぼして、ボディーブローのように効いてくる。建替えもできなくてボロボロになる施設が、どんどん増えてくるというのがリアルに分かり始めました。

馬場:そこで直面したんですね。

西田:今は、今後の自治体の財政負担をシミュレーションするといった自治体の財政課の仕事も受けているので、自治体が保有する施設全体の資産を考えなければいけません。これまでは長期的な視点に立ったハコモノやインフラの更新費用の歳出の見込みなんて財政の計画にはっきりと入れていなかったわけで、自治体によっては、今後どうやって施設の更新予算を組めるか本当に分からない状況です。自治体の中でも、全庁的に取り組まなければいけない、という動きは、ここ3、4年くらいで出てきました。結果、除却という選択であれば、早めに決断をしたほうが財政負担は少なくて済む。ただし、地域の合意形成も必要なので急に除却すると言っても難しい。一方で、使えるところは使うという両方の選択肢を提案しています。

2015-05-29 13.48.30

朴木カフェの暖炉

 

活用すべきか除却すべきか優先順位の付け方

馬場:残すべきものを残し、除却するべきものは除却する、とすると、どのあたりが最適なバランスなのでしょうか。

平井:そこが一番難しいところです。例えば、明らかに利用者が少なく、老朽化が著しく進んだ危険なキャンプ場のような利用者が不特定多数な施設などは、除却の合意形成もしやすいですが、地域のコミュニティにかかわる施設や化施設などは、利用者が少なくても、なかなか単純に除却する合意形成が難しいところです。また、どういった基準で、残す施設と除却する施設を決めていくかというプロセス自体もまだ自治体の中で確立できていないところが多いのが実情です。

西田:僕らとしては、まずそのプロセス部分で自治体の中で議論や判断ができる材料の見える化を自治体の資産管理システムを通してできないかと提案しているところです。例えば、品質面と需要面と財務面など、ある程度の偏差値を作って、一度整理をします。施設分類ごとに、同じような施設だけど極端に財務状況が悪いところがあれば、どこに問題があるかを探っていき、検証をします。一定の基準を作り、まず総量全体の最適化の優先順位をつけていくという段階です。

今後は、除却する施設がありながらも、これはデザインがいいから何とかしようとか、地域に愛されているからなんとかしよう、という個別解を見極めていく感じなのかと思っています。

馬場:優先順位を付ける方法論を整理していかなければいけない時代にきているんですね。

 

信頼のある中間組織

馬場:数字で自治体財政の課題が見えてきて、実際に自分たちでも遊休公共施設を使い始めてみてと、いろいろな視点で地域に関わっていますね。今後のシナリオみたいなものを考えたことありますか?

平井:色々とパターンはあると思うんですけど、実際に公共施設を使ってみて分かったことは、やはり使ってみないと、地域のことやコミュニティのことなどが分からないということです。

自治体としては、愛された学校や幼稚園などが使われずに朽ちていくより、雇用や産業を小さくても生み出せる施設として蘇り、そこに企業が定着することで、面的なコミュニティの広がりも生まれます。それは回りまわって税収という形で、自治体に還元されるものなので、うまくいけば、使う側も使われる自治体にとってもうれしいことであると考えています。ただ民間企業としては、やはりある程度シビアに継続的に事業として継続できるかどうかを判断できる材料やデータを総合的に判断できる材料がほしいだろうなと思います。

事業体も当社のようなシステム開発などを手掛ける会社にとっては、ネット環境さえあれば、この自然環境は、都会にはないクリエイティブな環境として、プラス要因にもなります。田舎のほうであっても活用できる可能性があるなと思いますね。

実際、当社に公共不動産の件で、問い合わせがある企業は、東京でシステム開発をしている方などで、環境の良いところで仕事ができるスペースとして活用したい、という理由が多いです。

1年中借りるのではなく、お試しで借りたり、3か月だけ活用したり、それを複数の企業でシェアしたりなど、もっと自由な賃貸や売却のカタチが公共不動産でもできるようになれば、活用の幅も広がるのではないかと思っています。

東京などの大都市圏で生活していると、こういう場所があるというのがわからないと思うんですよ。地方も伝える努力はもっとしなければならないのかな、と思いますね。

西田:意外に民間の人は公共施設が借りられるということを知らないし、行政側も発信の方法が分からないという状況があります。また借りたいという人がいても、それを受け入れる窓口が一般化していない。そんな両者の間に僕らがいるような気がしていて、行政と民間の橋渡しが1つの役割として今の時代には求められていると思います。「こんな場所あるよ!」という発信をもっとして、「こんな風に使えるんだ」くらいのところまで見せていって、「お試しでも使ってみようかな」という機会を生み出せないかと思っています。

 

今後の展望、まずはお試しでやってみる

西田:今「Public+(パブリックプラス)」という名称のサイトを運営しています。

このサイトは、公共不動産の新しい使い方を実践してみよう!という主旨のサイトで、当社の実験的な取り組みも掲載しています。老朽化してしまった公共施設を、自治体の財政負担増を避けるためにも廃止する・減らすといのは、住民サービスを維持するためにも必要なことなんですが、すべてを減らすのではなく、活用できるものは地域に残し、日常生活により必要で楽しさを感じられる新たな使い方を生み出したり、雇用の場につなげるという活用方法を実践する仲間(プレイヤー)を増やしていきたいという狙いもあります。段階も3段階あって、まずは使ってみる(一次貸出)、次に借りてみる(賃貸)、そして買ってみる(売買)まずは、一時貸出というハードルの低いところから取り組めるようにしています。

 http://publicplus.urdr.weblife.me/

 

馬場:全部「てみる」なんだ。このスピードは重要だよな。

西田:不動産をもう少しライトな感じで使えるんだよ、自治体さん一緒にやりましょう!みたいな公民連携の流れができないかと……。

馬場:そういうライトな「やってみるか!」みたいな感覚からじゃないと始まらないよな。盤石な体制を準備して走らせようとすると無理という感じもしてきた。社会実験の枠組みを拡大すればいいんだ!できるか調べてみないと・・・

 

まだ調査結果は出ていませんが、実際に朴木小学校は地域科学研究所の手によって学校という役目を終えても愛される施設として活用され続けています。ライトな「やってみよう!」というマインドによって。同じようなことが日本中で起きるように、方法論を探っていきたいと思います。

 

 

日経BP社「新・公民連携最前線」に公共R不動産のコラムを連載中