コラム

連載②「お試しでやってみる」前編―地域科学研究所の実験―

text = 馬場 正尊

今パブリック空間を考える熱い人にインタビューを行う『新・公民連携最前線』との連載企画。大変長らくお待たせを致しました。2回にわたって第2弾インタビューの模様を公開。

 今回インタビューをするのは、西日本エリアを中心として、官公庁向けに自治体の資産管理システムサービスを提供する株式会社地域科学研究所。自治体の財政状況分析と公共施設白書や公共施設等総合管理計画の双方の業務に携わる立場から、公共施設の新しい活用法やマネジメント手法を提供している。

 代表を務める平井慎一氏、同社公共イノベーション&サポート事業部課長であり、新しい公共空間の使い方を提案するPublic+を立ち上げた西田稔彦氏、さらに地域科学研究所の出資のもと、大分県由布市の耕作放棄地を開墾し、無農薬栽培による農業を行う農業生産法人ほおのき畑を起ち上げた同社元社員の林田真人氏にインタビューを行った。

自治体の財政状況を肌で感じる3人に、地方が抱える課題とその先に見える可能性に迫る。

 

 

実例を自ら作ってみる

馬場 正尊(以下、馬場):地域科学研究所では、自治体の公共施設マネジメントの支援やシステム開発だけでなく、自ら由布市で廃校の活用を始めました。どんなきっかけがあったのですか?

平井慎一(以下、平井):公共施設をなくすのは簡単なのですが、我々としては「施設を維持、活用できるのならば、なるべく残していこうよ」という話をできるだけするようにしています。ただ、地域に愛されているといっても、残すためにはお金もかかるし、何に使うんだ、という状況ではあるので、個別の活用方法を模索しながら提案してきました。その過程で、我々自身で何かしなければいけないという考えになり、この廃校(大分県由布市の朴木小学校)を当社の拠点として活動することにしました。

馬場:具体的に関わらなければ、ということですね。

平井:そうですね。システム開発やコンサルティングはやっていますが、なかなか実践の形がありませんでした。具体的にすぐに自治体にメリットがあるかというと、必ずしもそういうわけではなかったんです。少しのお金ですが、まずは私たちが借りてみようと。

馬場:実例がないなら自ら実例を作るしかない、と。

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朴木小学校全景

朴木小学校

馬場:そうして、実際に地域に愛されていた小学校の廃校を使い始めたわけですね。まず、どうやってこの小学校を見つけたのですか?

西田稔彦(以下、西田):大分県由布市で資産管理システムのデータベース化を行っていたので、廃校があるというのは分かっていました。その中で、いくつかの小学校を実際に見に行きました。建物の状態や雰囲気、地元でも愛されていた場所であったことを見て、とりあえず借りてみましょう、と私から会社に提案しました。

馬場:学校を借りるって簡単にできるんですか?

西田:この建物はすでに廃校になっていて、普通財産化されていました。自治体の方も、活用方法について、明確に決めてはいない状況であったので、タイミングもよく比較的スムーズに賃貸契約の手続きをすることができました。平成25年2月から借り始めています。

 


林田氏が開墾した元耕作放棄地の畑(一部)


プレイヤーとして地域との関係を耕す

馬場:何に使うか考えずにとりあえず借りてみたと。

西田:まずは会社の入社式をやってみました。その後サテライトオフィスとして使ってみようと社内で検討をしました。
その時に参加していたのが、今、この小学校をメインで使っている林田真人君です。当時、彼は当社で一緒に仕事をしていた社員でした。朴木地区はもともと農家が集まる小さな集落です。今は、人口の減少とともに農家も減り、耕作放棄地もたくさんあることが分かっていました。そこで、元々、大学時代から農業を学んで、農業法人を立ち上げたいという希望があった林田君とも話をして、2013年に当社から出資を行い、この朴木地区を拠点に、地区の耕作放棄地を借りて、無農薬野菜を家庭向けに提供する農業法人「ほおのき畑」を立ち上げました。

まず、彼と一緒に人が集まるスペースを作って、地区の人も旧校舎の敷地に入ってこられるような場所を作ってみようというところから始めました。会社としてはサテライトオフィスとして新入社員の研修場所として使ったりしていますが、林田君家族が料理教室をやって家族連れでご飯を食べるスペースとして使ったり、無農薬野菜を大分市内のオーガニックマーケットなどに出店してつながったカフェ農家さん、朴木地区の農家の方たちとつながって、ここで「ほおのきフェスティバル」を開催して、物販スペースを作って地元の人に出店してもらったりしています。

少しずつやり方を模索しながらやっているのですが、ここ1年くらいで急激に使えるようになってきたんです。活動の動きは徐々に建物単体から地区の観光協会や自治会の方々など、エリアの動きに波及してきている気がします。

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ほおのきフェスティバルの様子

 

馬場:最初から戦略的に使ってみようと思ったわけではなく、実験的な位置付けなのですのですね。ここからは林田さんにも参加いただきますが、この地域で農業を始めた経緯を教えてください。

林田真人(以下、林田): 元々、自治体の資産管理の仕事をしていましたが、入社したときから将来は、この会社を独立して、農業の分野での仕事をしたいと思っていました。朴木小学校を借りてみるというプロジェクトが立ち上がったことで、社長とも話し、出資を頂いてほおのき畑を立ち上げ、独立するという流れになっていきました。小学校跡地を事務所やキッチンなどとして使用し、近くの耕作放棄地を再生した農園で生産活動をしています。

馬場:地域の人とはどういう風に馴染んでいったんですか?

林田:僕は、何をするにしても、うまくいくかどうかは、いかに地域の人と良い関係を作っていけるかにかかっていると思っていました。元々将来的には農業をやりたいと思っていたので、地域科学研究所の人、ではなく農家林田としてお近づきになれているのかなと。

立ち上げは、想像以上に大変でした。耕作放棄地を農家の方や由布市の方の協力も得ながら、貸していただき、そこを1年かけて畑として開墾できるように再生していきました。再生して畑に戻していくところを見てくれていて、こいつは多分本気でやるんだろうな、と思っていただけたので関係がつながってきたのかなあと思っています。

今は、カフェやレストラン向けの無農薬野菜と家庭向けの無農薬野菜の生産販売事業を行っています。野菜の出荷には、広い出荷スペースが必要です。朴木小学校は野菜の出荷場としても活用させてもらっています。また、私の妻と定期的に、子どものいるお母さんたちを集めた野菜を使まった料理教室や農業体験などを、ここを拠点スペースとして使ってできるようになってきました。

 

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これまでの同社の朴木地区における取り組みをまとめたもの。地区の収穫祭にて掲示された。

 

(続く→ )

後編では、新しいマネジメント手法について、現場で求められるニーズとリスクなど最前線にいるからこそ見える公共マネジメントの今を語ります。

 

 

日経BP社「新・公民連携最前線」に公共R不動産のコラムを連載中