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「旧大宮図書館活用」プロジェクト

【イベントレポート】大宮の新たな拠点に。旧大宮図書館リノベーションプロジェクト キックオフトーク

2020年8月、旧大宮図書館施設活用事業者公募の結果、事業者が「OMIYA COMMON LIBRARY」に決定!
10月にはさいたま市と基本協定を締結、12月13日には市民のみなさまへのお披露目イベントとして、キックオフトークが開催されました。今回は、トークの中で語られた、事業内容と、このプロジェクトにかける想いをお届けします。

生まれ変わる旧大宮図書館。事業プランをお披露目

さいたま市では2010年に策定された「大宮駅周辺地域戦略ビジョン」に基づき、「公共施設再編による連鎖型まちづくり」に取り組んでおり、その一環として2019年5月、新たにオープンした大宮区役所新庁舎内に大宮図書館が移転しました。その跡地である旧大宮図書館は、「大宮」の由来でもある武蔵一宮氷川神社の参道、氷川参道の二の鳥居のそばに建っています。古くから市民に愛され、市民の記憶に残る憩いのシンボルでもある施設でした。

さいたま市は、この旧大宮図書館を民間事業者に貸し付けることを決断し、2020年5月に公募を開始、同年8月、活用事業者に「OMIYA COMMON LIBRARY (※)」が決定。この先10年間はOMIYA COMMON LIBRARYが運営者としての役割を担うことになりました。

※ OMIYA COMMON LIBRARY構成メンバー
  戸田建設株式会社 関東支店
  株式会社キャンプサイト
  一般社団法人バイクロア
  戸田ビルパートナーズ株式会社

今回のキックオフトークは、OMIYA COMMON LIBRARYチームから事業の説明と意気込みを伺うお披露目イベントとして開催されました。

登壇者のみなさん。 前列「OMIYA COMMON LIBRARY」チーム。左から、戸田建設の山田さん、バイクロアの松原さん、戸田ビルパートナーズの対馬さん、キャンプサイトの孫さん。 後列左から、氷川神社権禰宜の遠藤さん、公共R不動産の馬場、さいたま市PPPコーディネーターの宮本さん。

公民連携で街を楽しく変えよう。馬場正尊のオープニングトーク

これまで全国各地で公民連携プロジェクトを手がけてきた公共R不動産ディレクターの馬場正尊のオープニングトークからスタート。テーマは「公民連携で街を楽しく変えよう」です。

実はさいたま市では、役割を終えた公共施設を民間に貸出すのは初めて。規模の大きな自治体ならではの壁もあったと思いますが、市として新しい取り組みとなる公民連携のプロジェクトが実現しました。

馬場がまず紹介したのが、彼自身が東京都豊島区で携わっている株式会社nestでの取り組み。nestは、ローカルなプレイヤーとのネットワークをもつ事業者として、地域に根ざした地元有力企業である良品計画やサンシャインシティなどと連携し、グリーン大通り・南池袋公園を軸としたエリアの賑わい創出事業を展開しています。『IKEBUKURO LIVING LOOP』というイベントでは、南池袋公園や池袋グリーン大通り、その周辺の公共空間を活用してエリアの価値を高めるような取り組みを展開しています。
今回選定されたOMIYA COMMON LIBRARYのチームも、地域のネットワークをもつ事業者と、資金力と信頼をもつ大企業のタッグによるチーム構成。このプロジェクトの発展に期待が膨らみます。(チーム構成についてはクロストークの部分で詳しく・・)

次に、少年自然の家をリノベーションした「泊まれる公園 INN THE PARK(静岡県沼津市)」をとりあげ、事業者であるインザパーク社と沼津市が二人三脚で事業を行なってきたことで、新しい豊かな風景を生み出すことができたと、成功要因を説明しました。
さいたま市も、事業者が決定したことで任せきりにするのではなく、行政が民間にきちんと伴走することが重要だと強調しました。

公共R不動産 馬場のオープニングトーク

「OMIYA COMMON LIBRARY」にこめた想い。観光・地域ビジネス・発信の拠点へ

続いては、いよいよ事業者チーム「OMIYA COMMON LIBRARY」の発表。代表企業である戸田建設株式会社の山田和也さんのプレゼンテーションです。

「OMIYA COMMON LIBRARY」という名前には、”みんなの図書館”というメッセージが込められ、自転車を核とした観光・地域ビジネス・発信拠点となることを掲げています。

1階は大宮ブランドの発信として、さいたま市を拠点に全国各地で自転車運動会のようなイベントを展開する『バイクロア』の拠点や、地元食材にこだわった飲食店、イベントスペース、屋外にはマルシェができる設えなど、施設の顔としての役割を持っています。
2階は地域ビジネス拠点としてコワーキングスペースやオフィス、保育施設を予定しています。氷川参道の豊かな緑を感じながら気持ちよく働くことができる場、そして様々な業種の方々が交流できる場です。
3階には観光拠点としてさいたま観光国際協会がオフィスを構え、1階のイベントスペースや屋上でイベントを実施することも考えられています。
地下1階にはヨガスタジオやランニングステーションなど健康づくりの場を予定しています。

図は提案時のものです。今後変更の可能性があります。

プレゼンテーションで強調されたのは「タウンマネジメント」という考え方。
この施設が地域の方々が日常的に利用できる場所になるための交流や出会いが生まれることを大切にしています。そのためにも、開業前からプレイベントでのファンづくりや、SNSをつかった情報発信やコミュニティ形成、地元テナントを中心としたマルシェイベントの企画、自転車イベントなどを通じて、地域の方々との接点を増やし、愛着を育てていくような企画を考えているとのことです。

周辺住民の方々や、観光で訪れた方、働く場として利用する方など多様な人が様々な形で関わることができる場所になることを予感させるプレゼンテーションでした。

事業の対象地「旧大宮図書館」は氷川参道のすぐ脇に位置する
戸田建設の山田さんから「OMIYA COMMON LIBRARY」の事業計画をプレゼンテーション

自転車を核としたコミュニティ形成。大宮の魅力を再発見する

後半は7名でのクロストーク。

「OMIYA COMMON LIBRARY」からは、事業プレゼンをした戸田建設株式会社 の山田和也さん、株式会社キャンプサイトの孫銀卿さん、一般社団法人バイクロアの松原満作さん、戸田ビルパートナーズ株式会社 対馬智浩さん。
ゲストには、武蔵一宮氷川神社 権禰宜の遠藤胤也さん・さいたま市 PPPコーディネーターの宮本恭嗣さん。
そして馬場がモデレーターを務めました。

まず、馬場がつっこみをいれたのが、前段の山田さんのプレゼンテーションの中で触れられた、”自転車を核とした”というキーワード。具体的には一体どんなことをしようとしているのか。鍵を握るのは、地域のネットワークを持ち、自転車カルチャーを育ててきたバイクロアの松原さんです。

「一つは、自転車というモビリティを使ったまちづくりです。大宮という地域には氷川神社はじめ盆栽ミュージアムや鉄道博物館、そしてこだわりをもった小さな飲食店も多くあり、魅力的なコンテンツがたくさんあるので、自転車で大宮周辺をぐるっとまわれるツアーを考えたいです。
もう一つはマイクロデリバリーです。カーゴバイクで、地域のみなさんに旧大宮図書館のテナントとなる方々のお料理や野菜などをお届けします。ただし、届けるだけではなく、その先でコミュニケーションをとりながら関係性を築いていく、いわば”現代版三河屋”さんをやりたいです」と言います。

日常と観光のあいだのような、改めて大宮という地域を見直すツールとしての自転車の可能性を期待させます。

クロストークの様子

攻めと守りを兼ね備えたチーム構成

なんといってもおもしろいのはチーム構成。
さいたま市内に支店を構える大手ゼネコン「戸田建設」、さいたま市を拠点に自転車をコンテンツとしたイベントやマーケットを開催し根強いファンと地域のネットワークをもつ「バイクロア 」、建築設計からコワーキングスペースやキャンプ場の運営まで手がけるデザイン力抜群の「キャンプサイト」、そして、”建物の一生を見守る”を会社のビジョンに掲げるビルメンテナンスの専門企業である「戸田ビルパートナーズ」。
資金力と信頼を持つ大企業と、地域のネットワークやコンテンツ力をもつ事業者のタッグです。

馬場からも「”攻める人”と”守る人”がよくバランスしている理想のチーム構成」とコメント。それぞれの強みと弱みを補完しているメンバー構成です。

なぜこんな理想的なチームができたのか。
話を伺うと、キャンプサイトが事業に参加するきっかけとなったのは、旧大宮図書館のすぐ近くにある「デリカ」というワインの美味しい小さなレストランだったとのこと。
新しい事業展開を考えていたバイクロアの松原さんが、キャンプサイトの孫さんを大宮に誘い、素敵なお店を案内し、シェアサイクルに乗り街中を案内すると、孫さんもこの街に魅了されたと言います。「こんなに楽しい街、また来たい」。そんな実体験が、この事業に名乗りを上げるモチベーションだったとのことです。

一方の戸田建設も、地域になにか貢献できる事業を新たに展開したいと考え、この図書館活用事業に関心を持っていたそう。ただ施設運営の実績もなく、地元テナントとのネットワークもないことに悩んでいたところ、紹介によりバイクロア・キャンプサイトチームに出会いました。話し合いを重ねる中で、お互いの描くビジョンがすりあっていき、今回のチームが誕生したとのことです。

左 戸田建設 の山田さん 右 キャンプサイトの孫さん
左 バイクロアの松原さん 右 戸田ビルパートナーズの対馬さん

地域の歴史を継承し新たな大宮らしさを発信したい、地域からの期待

開口一番、「このイベントを氷川参道でやりたかった!」とコメントしたのは氷川神社権禰宜の遠藤さん。
地域の歴史や伝統を感じられる場所にしてほしい、ストーリーをつくることが大事だと語ります。自転車と絡めて、氷川神社のお祭りにつかう山車とコラボしたり、参道で人力車を走らせ結婚式をしたり、などなど、様々なアイデアが飛び出します。
年末年始には200万人が参拝に訪れる氷川神社。目の前の氷川参道をどのように使うか、氷川神社との関係を築くことで、より地域に根ざした場所となりそうです。

さいたま市PPPコーディネーターの宮本さんからは、
「氷川参道沿いという立地からも、大企業やナショナルチェーンだけでなく地域を表すようなローカルテナントが入ることで、大宮らしさを発信していけるような場所になることを期待します。また、旧大宮図書館は閉館後、2019年9月〜2020年11月まで『さいたま国際芸術祭』の市民活動プログラム『サーキュレーションさいたま』の活動拠点としても利用されていました。そんな市民の活動を支えるようになってほしい」と、”ローカル” の視点を大切にするコメントがありました。

左 氷川神社権禰宜の遠藤さん 右 さいたま市PPPコーディネーターの宮本さん
旧大宮図書館の目の前を通る氷川参道。2kmにおよぶケヤキ並木

新しい大宮の拠点に、乞うご期待!

会場からは、チーム名の「OMIYA COMMON LIBRARY」の「ライブラリー」に込められたコンセプトとは?との質問が。
それに対しては、戸田建設の山田さんから、
「図書館だった記憶を継承するということに加え、図書館は、新しい発見をしたり、人を成長させたりする場だと感じています。今回のプロジェクトは、事業者チームである私たち自身も新しい挑戦をしています。そして入居されるテナントのみなさん、この場所を訪れるみなさんにとっても、新しい発見や成長をもたらす場になってほしい、していきたいという想いを込めています」と熱い回答がありました。

最後に馬場から、
「さいたま市にとっても、事業者にとっても、新たな挑戦であり大きな覚悟や決断の上で実現したプロジェクトだと改めて実感し、日本全国をみてもインパクトの大きな公民連携事業になると思います。今日もみなさんから積極的な意見やアイデアがたくさん生まれました。これをきっかけに、行政、事業者、そして市民のみなさんが積極的に関わりながら事業が展開されていくといいなと思っています」
という力強い希望をこめた言葉とともに、イベントは締めくくられました。

当日は、コロナ対応のため定員を絞っての開催となりましたが、満員御礼50名の方からのご参加をいただき、これからの期待が膨らむ会となりました。
施設のオープン2021年の秋頃を予定している。大宮の新たなシンボルとして、地域に愛される場所となることを願いながら、オープンを心待ちにしたいと思います!

図版提供:戸田建設(株)関東支店

 

※当日、会場からいただきましたご質問につきましては、下記ファイルの通り回答させていただいてますので、ぜひご覧ください!

 

PROFILE

菊地 純平

OpenA/公共R不動産/NPO法人ローカルデザインネットワーク。1993年生まれ。芝浦工業大学工学部建築学科卒業。筑波大学大学院芸術専攻建築デザイン領域修了。2017年にUR都市機構に入社し、団地のストック活用・再生業務に従事。2019年にOpenA/公共R不動産に入社。また、2015年より静岡県東伊豆町の空き家改修、まちづくりプロジェクトに携わる。

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