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公共R不動産のプロジェクトスタディ
公共R不動産のプロジェクトスタディ 千葉県空き公共施設活用促進プロジェクト

千葉県と地方銀行が二人三脚で取り組む、
空き公共施設活用の仕組みとは

人口減少や施設の老朽化と予算不足によって、全国的に増え続ける空き公共空間。そんな中、千葉県では、地域に雇用を生み出し新たな価値をつくり出す「企業誘致」という観点から、廃校となった学校を始めとする空き公共施設等の活用に取り組んでいます。

勝浦市の旧清海小学校

千葉県と言えば、良品計画が小学校跡地をコワーキングスペースとして活用していたり、mitosayaが元薬草園を蒸留所として活用していたり、公共R不動産でもいろいろな公民連携の事例を取り上げてきた地域です。

そのような先行的な動きをモデルケースとして、県内の公民連携をさらに普及させる事業を推進する、千葉県商工労働部企業立地課の金崎俊也さんと、コンサルティングとして企画運営に関わる、株式会社ちばぎん総合研究所の五木田広輝さんのお二人にお話をうかがいました。

千葉県商工労働部企業立地課の金崎俊也さん(左)と株式会社ちばぎん総合研究所の五木田広輝さん(右)

県をあげた空き公共施設と企業のマッチング事業

2016年から、千葉県は県内の市町村と連携して空き公共施設等と民間企業をマッチングする事業に取り組んでいます。ウェブサイトでの情報発信、企業と市町村とのマッチングイベント、企業向け見学バスツアーなどを通して、これまでに13市町村で28件の企業誘致に成功しています(2019年度末時点)。

空き公共施設等を活用した企業活動の案内資料(提供:千葉県)

県の担当部署は、企業誘致を担当する商工労働部企業立地課。これまでの企業誘致といえば大きな工場や研究施設などを対象とするのが一般的でしたが、最近では、それらに加えて廃校などの空き公共施設の活用を進めています。

「地方部の経済活性化や雇用の確保に向けた取り組みとして、県として空き公共施設を活用した企業誘致を進めています。市町村単体で発信するよりも、千葉県として取りまとめて発信した方が企業にアプローチするには合理的で、マッチング率も向上している手応えがあります」と話す千葉県の金崎さん。

県内外の企業とのネットワークを多く持つちばぎん総合研究所とタッグを組みながら、成功事例を積み重ねています。

こちらの事業の代表的な活動のひとつが「空き公共施設等活用フォーラム」。4年前から年に1〜2回開催され、千葉県で空き公共施設を活用している企業による講演と、市町村ごとのブースで直接話せるマッチング会の二部構成のイベントです。誰でも参加することができ、まずは一度話を聞いてみたい人にとっても敷居が低く、年々参加者の数が増えているそう。

空き公共施設等活用フォーラムのマッチング会の様子。直近では、過去最高の参加者を記録したそう。

また、実際に現地を見られるバスツアーも開催されています。JR千葉駅発着で、1日で2〜3の市町村を回ります。事業者や市町村の担当者に直接話を聞きながら使っている様子や周囲の環境を見学することができ、バスが混雑するほど好評なのだとか。

県内外から参加者が訪れる視察バスツアーの様子

市町村の課題解決のきっかけとして、空き公共施設を活用する

企業誘致までの大まかなステップは、①物件募集→②企業の発掘→③マッチング→④公募→⑤立地・操業の5段階。やはり事業の大元となるのは、①の市町村を対象に行う物件の募集、つまり民間企業からの提案を受け付けることのできる空き公共施設の物件情報を収集することです。

「まず各市町村に気づいてもらいたいことが、空き公共施設はただの課題ではなく、自治体の価値を上げる資源になりうるということです」と話す五木田さんと金崎さんは、市町村向けに説明会を開いたり、個別に相談にのったり、地域の住民向け説明会に出向くなど、地道で丁寧なコミュニケーションを大切にされています。

実際に企業誘致をきっかけに地域に雇用が生まれたり、企業のコンテンツによって地域に新たな魅力が加わったり、いろいろな成功事例を踏まえながら市町村に公民連携の価値を伝え、企業誘致の事業に主体的に参加してもらうことが重要だと言います。

企業誘致までのステップをまとめた資料(提供:千葉県)

地方銀行ならではのネットワークを生かして

一方、民間企業の発掘で力を発揮しているのが、千葉銀行グループのちばぎん総合研究所。千葉銀行は千葉・茨城・東京を中心に200近い店舗を構え、多くの取引先との接点を持っています。そんなネットワークを強みとするちばぎん総合研究所が企業発掘のために行なっているのが、毎年3000件以上の企業に行うアンケートと店舗での情報発信です。

空き公共施設を民間企業の事業に活用できることは、多くの企業にとってまだまだ一般的ではありません。アンケートを通して活用事例や物件情報を発信したり、フォーラムなどのイベント案内も行うことで新たな企業とのつながりを発掘することを目指しているそう。他県での空き公共施設の活用事例をリサーチし、地域を問わず、類似業種の企業へも案内を送ることもあるとのこと。アンケートをきっかけにフォーラムに参加する企業が多いそうで、回答率も予想以上に高いとちばぎん総研の五木田さんは話します。

さらに、千葉銀行の約200の支店向けへの情報発信をほとんど毎月のように行なっているとのこと。企業が空き公共施設の活用に興味を持つタイミングはバラバラなので、定期的に情報を届けることを大切にしているそうです。最近では店舗経由での問い合わせも増えてきたのだとか。

千葉銀行グループとしてこの事業に関わる理由をうかがうと、「誘致が決まると千葉銀行を通していろいろなお金のやり取りが生まれる可能性があるという、本業に直結するメリットがありますが、それ以上に、千葉県全体が豊かになってほしいという長期的な目線があります。千葉銀行で地域活性化の取り組みを行う部署・地方創生部とも連携しながら、千葉銀行グループ全体としての社会的責任を果たしていければと考えています」とちばぎん総研の五木田さんは話します。

単に定量的な効果だけでなく、地域と共に歩む地方銀行としての姿勢が伝わってきます。

市町村への丁寧なサポートで、付加価値のあるマッチングを実現

①物件募集→②企業の発掘→③マッチング→④公募→⑤立地・操業という企業誘致までの5つのステップのうち、千葉県がメインで関わるのはマッチングまで。④以降の操業に向けた合意形成にまつわる具体的なコミュニケーションは市町村と企業が行いますが、千葉県ではより良いマッチングを目指すことはもちろん、その後も円滑な調整が進むための様々なサポートを行っています。

「最近の企業の傾向として、せっかく新たな土地で事業を開始するなら地域としっかり連携したいと話すところが増えています。そんな企業の思いをヒアリングしてより適した市町村を紹介するなど、付加価値あるマッチングができるプラットフォームでありたいと思っています。来た乗客(企業)を電車(市町村)に乗せてすぐ発車(企業立地)させるだけが役割なのではなく、きちんと時間をかけることが付加価値ある事業につながるのだと考えています」と千葉県の金崎さんは話します。

さらに千葉県では、様々な面で仕事の進め方が異なる行政と一般企業とのコミュニケーションをサポートするため、マッチングしたあとのフォローも大切にしています。企業向けには立地するまでのプロセスやスケジュールについての基礎資料を用意し、民間同士の不動産取引とは異なるフローになることを理解してもらいます。市町村向けには、企業の求めるスピード感や丁寧な説明の必要性についての基礎資料を用意したり、地域内合意をとるための相談にのったりしているそうです。

民間企業へ向けた説明資料より抜粋。(提供:千葉県)

自然豊かな環境×都心へのアクセスの良さを活かした多様な事業

このように市町村・企業の間に立つ丁寧なコーディネーションによって誘致された事業は、コワーキングスペース、アウトドア関連、IT関連など多種多様。リノベーションなどを通して自分たちのアイデアを実現している事例もあります。

例えば長南町にある旧長南小学校は、中古パソコンやスマートフォンの販売や修理を行う、リングロー株式会社が活用しています。自社オフィスとして、さらにはITの普及と地域活性化を目的とした施設「長南集学校」として、パソコン・スマートフォンの使い方サポートや教室を無料で行っており、町民が気軽に立ち寄れる地域住民のコミュニティスペースになっています。

「長南集学校」では、月々2万円の施設管理費で、職場として空き教室を利用できる「職in室(しょくいんしつ)」というサービスがあり、アトリエや個人事業主の拠点、短期営業所、長期間利用するオフィスやコワーキングスペースなど様々な利用方法があります。元校長室・職員室を改装した「今日室(きょうしつ)」をスポットで借りられるプランなども充実しています。(詳しくはこちら

旧長南小学校を活用した「長南集学校」

長南集学校の鈴木校長(写真中央)。バスツアー時の説明会の様子。

また、勝浦市の旧清海小学校は、株式会社パクチーによって新しいワークライフバランスを提案するコワーキングスペース「清海学園」として活用されています。シェアオフィスだけではなく、校庭を使った地域住民・利用者向けのバーベキューなどのイベント開催など、地域と連携した取り組みを行なっています。

鵜原海岸まですぐの清海学園。グランドを活用したサービスで手ぶらでBBQが楽しめる。(画像提供:清海学園)

公共空間と企業を繋ぐ、付加価値のあるプラットフォームとして

今年度は新型コロナウイルスの影響でフォーラムやバスツアーの開催は未定とのことですが、今後も取り組みを継続していきたいと、千葉県の金崎さんは話します。

「これから人の流れが変わり、リモートワークやワーケーションへのニーズが高まることが期待される中、今だからこそ千葉県でできることがあると思います。そのためにも、企業と市町村をつなぐプラットフォーム機能を磨き続けていくことが重要です。過去5年間で積み重ねてきた成功事例があるからこそ、さらに多くの方に関心を持ってもらえる営業資料をつくることができたり、企業からの関心事にお応えできたり、新たに企業誘致に取り組む市町村に対してノウハウを提供するなどのサポートができています。これからも地道に成功事例を生み続けることが、いいプラットフォームにつながっていくと考えています」

同じくちばぎん総研の五木田さんも、意気込みをこう話します。

「企業にとって、さらに空き公共施設が身近になり、活用の可能性があることを知ってもらいたいと思っています。今は千葉県の中でもエリアが限定的ですが、これからはもっとエリアを広げて、より多様なニーズに応えられる事業にしていきたいですね」

バスツアーの開催が困難な中、視察する企業のニーズに対応して、施設を見るだけではなく、地域の名産物や名所に触れる「オーダーメイド型の視察」が好評を博しており、引き続き取り組んでいきたいとのこと。これからも千葉県の空き公共空間活用の取り組みに注目していきたいと思います。

民間企業の企画提案のサポートを実施中

公共R不動産では、本業務の一環として、千葉県内の空き公共施設を活用して地域に寄り添った事業を始めたい民間企業からの相談に対して、企画提案のサポートを行っています。地方創生やリノベーションなどに関心はあるものの、どこから始めたらいいか悩まれている企業の方々と一緒に事業企画を考える取り組みです。

ご関心のある方はこちらから、お問い合わせをお待ちしております。
(受付期間:2020年12月末まで)

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