馬場正尊のトップ・インタビュー
馬場正尊のトップ・インタビュー

〈後編〉和歌山市長|廃校と水辺の活用による“リノベーションまちづくり”

先進事例を持つ地方自治体のリーダーを取材する特集企画「トップ・インタビュー」。第1回目、和歌山県和歌山市長 尾花正啓(おばなまさひろ)さんをインタビューした後編です。前編はこちら

再開発とリノベーション、民間と公共の掛け算

前編で紹介した「まちなか3大学誘致」の他、和歌山市の中心部では、再開発とリノベーションによるまちづくりが同時並行で次々と進行しています。

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和歌山市のデータより

南海電鉄 和歌山市駅の再開発に伴い、耐震性が不足している和歌山市民図書館を駅ビル内へ移設予定。また新設する大学の隣接地に市民会館を移転・併設する計画もあります。

このように民間事業と公共事業を結びつけることで相乗効果を生み、結果的に「都市再生整備計画事業(国土交通省)」の交付金を総じて適合できるという一挙両得な都市計画を導き出しています。
さらに、空き家や公共空間などの遊休資産を活かした地域の交流拠点も、民間主導・行政サポートにより多数誕生しています。

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インタビュアーは、公共R不動産・ディレクターの馬場正尊です。

若者の軽やかさが生む“リノベーションまちづくり”

馬場さん

和歌山市では商店街や水辺などを舞台に、若者を中心とした“リノベーションまちづくり”が展開されています。リノベーションスクールの実績を見ても、地元参加率も事業実現率も日本一。彼らが次の街のリーダーになっていくというのは楽しみですね。

尾花さん

遊休資産を活用しようという発想が若手にも浸透し、非常にうれしく思っています。特に最近では、個人の物件だけでなく、水辺や駅前といった公共空間を市民の憩いの場として活用する取り組みが増え、県外の方から注目をいただく機会も多くなりました。
今後は、この動きが点ではなく線となってつながってほしい。物件の持ち主と借りたい人との接点づくりは民間だけでは苦戦しがちですから、ここは行政のがんばりどころです。

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リノベーションスクール。その道のプロに“芸術的なほど見事なシャッター街”と呼ばれた「ぶらくり丁商店街」にて撮影。2014年より6回開催。
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スクールをきっかけに、2016年に誕生した日本酒BAR「水辺座」。川に背中を向けていた空きビルを活用して、川を表へと変える取り組み。(撮影:武内淳)
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水辺座の窓から川を覗くと、手づくりのイカダが停泊。行政職員に尋ねると、民法上の緊急避難の扱いだとか(笑)写真は試験的な運行の様子。(写真提供:水辺座)
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和歌山市駅前の車道を歩行者空間に変え、緑と憩いの広場にする社会実験「SHI-EKI“GLEAN-GREEN”PROJECT」。2015年より3回開催。(撮影:武内淳)

まちづくりに官民連携は必要不可欠

官民一体となって伸びやかに変化しつつある和歌山市について、市議会議員はどう捉えているのか。和歌山市議会議員を代表して、所管する経済文教委員長 浦平美博さんにも一言いただきました。

浦平さん

これからのまちづくりに官民連携は必要不可欠です。リノベーションスクールの実施も、開始当初は懐疑的に捉えられることもありましたが、今では市議会議員の賛同者が多く、当然に必要なものという認識へと変わってきています。

リノベーションスクールがきっかけとなって、若年層を中心にまちづくりの火が付き、次なる地域の担い手をつくる人材育成にもつながっていて。さらにその状況を、地元で長く営む企業の代表者が応援してくれているんですよね。
今後は、地域の未来を担う若者たちの活動を、政策として我々もしっかり応援し、若者がより活躍しやすい環境をつくれるように、議会全員で意思疎通を図っていきたいと思います。

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剣道歴35年、サムライブルーのジャケット姿が頼もしい浦平さん。

30年前が現在につながる、水辺の過去と未来

躍進的なまちづくりのなか、とりわけ興味深いのは水辺の使い方です。内川という総称を持つ、市内を流れる5つの河川。かつては人々が憩う美しい川でしたが、工場や生活排水により汚れてしまいました。昭和40年代には内川を綺麗にしよう・楽しもうという民間主導・行政サポート型の活動が始まり、近年ますます加速しています。

馬場さん

和歌山市の水辺の活動は、実にユニークで活発です。若い世代を巻き込みながら、多彩な水辺の活用案が続々と実現されていて。

尾花さん

実は私自身、県職員時代はずっと河川の技術担当で、内川沿いに遊歩道をつくっていました。30年経った今、自由な発想で水辺を積極活用してくれる若者の姿を見ると、非常に感慨深いです。

馬場さん

なんと、今の風景のベースは市長がつくられていたんですか。

尾花さん

当時ウォーターフロント開発が流行り、「まちづくりは川から変えて行こう!」という風潮がありました。しかし川沿いに遊歩道をつくってみたものの、当時は「家の裏を歩かれては困る」という周辺住民から反対の声があがり、一部閉鎖せざるえなくなったりと難しさがありました。
ようやく今、あのときにつくった遊歩道が30年前を経過して活かされることとなり、新しい形の河川利用が水辺で広がっていて、大変うれしく思っています。

水辺というパブリックスペースを安全に楽しく活用していきたい。せっかくつくった遊歩道なので、思う存分使ってほしいですね(笑)水辺が和歌山市の代表的な景観の一つとなり、日本においても類を見ない光景が広がる場所となるのではと期待しています。

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市堀川沿いの遊歩道と駐車場を活用した約1カ月間の社会実験「ワカリバ」。2017年に実施。カフェを設置し、マルシェやヨガなどのイベントも開催。
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「ワカリバ」のオープニングイベントの様子。特別ゲストにオペラ歌手が登場。水辺に美しい歌声が広がり、みんな飲めや歌えや大盛り上がり!(撮影:武田健太)
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2017年「ワカリバ」という期間限定の水辺の社会実験にて、毎日SUPレンタルを実施。また、ぶらくり丁商店街で毎月開催される「ポポロハスマーケット」でSUPやカヌー体験ができることも。(撮影:友渕貴之)
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内川クルーズが実施されることも。川の歴史について知識ある人の解説を受けながら、普段とは異なる角度でまちを捉え直します。(写真提供:Wakayama Days)
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まちづくりイベント「ポポロハスマーケット」の一環で、フロート桟橋を設置。なんとも自由に楽しげに、水辺の活動が繰り広げられています!(撮影:武田健太)

絶え間ないチャレンジが、まちの未来を変える

馬場さん

尾花市長はかつて一人の若き行政マンだった頃、今の民間の若者たちが活躍するためのフィールドをつくっていたんですね。他の地域では水辺の活用案がうまく進まないことも多いのですが、和歌山市は30年前につくられたベースがある。だから今、こうやってスムーズに水辺の活用ができているのだと理解できました。

尾花さん

もちろん当時は、未来に向けて戦略的に行ったわけではありませんが、チャレンジを続けることは大事だと改めて感じています。なにより、昔から活動する地域の人々や最近加わった若い世代が、がんばってくれているからこそ迎えられた和歌山市の変化ですね。

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行政や市民の飽くなき挑戦が、目の前だけでなく数十年後のまちをも変えていく。このたび和歌山市長にインタビューさせていただき、まちに対して働きかけ続けることの大切さを再確認することができました。

和歌山市の最近の動きが気になる方は、ぜひ実際に訪れて、その目で確かめてみてはいかがでしょうか。 LCCを使って行ける都市の数が日本一の関西国際空港からJR和歌山駅前まで、バスを使えば直通で約40分という意外な近さですよ。

≫ POINT

・再開発とリノベーション、民間事業と公共事業を組み合わせる
・地域の若者を活動の主体に、行政が政策として支援する
・絶え間ないチャレンジが、まちの未来を変える

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※こちらの記事に関するお問い合わせは、<w
>下記の電話番号までご連絡ください。
・公民連携担当:和歌山市役所 市長公室 政策調整部 政策調整課 073-435-1013
・リノベーションまちづくり担当:和歌山市役所 産業まちづくり局 産業部 商工振興課 073-435-1233
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PROFILE

前田 有佳利

全国200軒以上のゲストハウスをめぐる編集者。1986年生まれ。2011年よりゲストハウス情報マガジン「FootPrints」を運営。2016年に書籍『ゲストハウスガイド100 -Japan Hostel & Guesthouse Guide-』(ワニブックス)を出版。2017年より大正大学の月刊誌『地域人』でコラム連載。2018年より毎月各地で「ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-」を開催。旅先で得た知見を活用し、和歌山県の移住PR事業にも携わる。

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