馬場正尊のトップ・インタビュー
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〈前編〉「新しい公共空間のつくりかた」馬場正尊×西田司

『PUBLIC DESIGN 新しい公共空間のつくりかた』の出版を記念して行われた、全4回の対談の模様を、たっぷり各3回にわたりお届けします。 第一弾は株式会社オンデザインパートナーズ代表の西田司さん。対話を重視した設計に定評のある西田さんは、馬場と何を語るのか…!?せんだいメディアテークというビッグな会場で行われたこの対談。大盛況の会場の熱気を思い描きながら、お楽しみください。

西田 司 (オンデザイン)
1976年神奈川県生まれ。1999年横浜国立大学卒業後、スピードスタジオ共同設立。2002年東京都立大大学院助手(~07年)、2004年オンデザインパートナーズ設立。その後、首都大学東京研究員、神奈川大学非常勤講師、横浜国立大学大学院助手、東京理科大学非常勤講師、東北大学非常勤講師などを兼任。「ヨコハマアパートメント」2011年度JIA新人賞受賞。
http://www.ondesign.co.jp/

 

空間の冗長性

馬場さん

約2年ぐらい前ですかね。『RePUBLIC 公共空間のリノベーション』という本を書きました。ここで公共空間、パブリックスペースというものをリノベーションしてみたい、変えてみたいという欲求を初めて具体化したんです。そこで次にリノベーションしていく、価値観みたいなものを変えていく場所があるならば、そこはパブリックスペースなのではないかと思い始めます。

時代を見ると、人口も減る、税収も減る、高齢化も進む。行政はパブリックスペースに投資できなくなるけど、サービスの質は低下できない。それを誰かが、民間が、市民が、受け取って運営せざるを得なくなるじゃないか。であれば、そのプログラムと空間はどうやって作られるべきだろうと。今考えないと、もう間に合わないんじゃないかという思いになって、この本を書いています。

その中で、一つ気がついたのが、「冗長性」とか「冗長空間」というところです。余分な、何となくの空間という意味ですね。この言葉がすごく気になったのは、人工頭脳(AI)をやっている友達が、「ほとんどのことは機械のプログラミングで何とでもなるんだけれども、一番できないのは冗長性だ」と言うんですよ。何となくこっちとか、こういう予感がする、という感覚が、人間には備わっている。それが冗長性というものだと。どんなにプログラムを発達させても、この冗長性というのが作れないんだという話をしたんですね。

僕ら固有の、「何となく」の感覚、ということがどれだけ大切か、ということを彼は言っていたんですが、もしかしたら、空間も一緒かもしれない。僕らはその空間にもう一回光を当てなければいけないんじゃないかみたいなことを考えました。

インターネット空間と冗長性

西田さん

インターネットって、冗長性が重要視されていますよね。作るときのそもそものマインドが9割でOK。10割を目指さない。残りの1割を埋めようと思うと、すごくコストがかかるから。そこは止まってもいいじゃん、みたいな感覚でやっていくと、残りの1割の方に、面白さとか、普段だったら入り込めなさそうな弱い、儚い部分もちょっと参加できる余地があったりしていて、そういうことでどんどん新しさが生まれていくと。

例えばGoogleにおいてはそれは働き方で、9割はちゃんと仕事してください、1割は自由研究してください、みたいなことをやっている。新しいソフトとかコンテンツの半分は自由研究から生まれている、みたいなところがあって、儚くて、もしくは個人的過ぎて、これってうまくいかないんじゃないかみたいなことは、実はインターネットの世界では、1割の元々持っている仕組みの冗長性が全部拾い上げている。

馬場さん

そうですよね。リアルな空間の中で起こっていることも、インターネットという世界の中で起こっていることも、やっぱりそこには相似性があるような気がして仕方がない。仕事の領域でもいいし、空間的な領域でもいいし、そういうものを定格化し決めれば決めるほど、その枠組みの中でしかいろんな物事は発想できなくなるじゃないですか。でも、そのインターネットの中にあった、まあいいやという1割の中にこそ、いろんなものが入りやすくて。今の進化したIT会社なんかには、そのポン という突然変異的なアイデアみたいなものをちゃんとすくい止めるシステムというか、すくい上げるような何かがあるような気がするところなんですね。

ビルディングタイプに固執しないことで生まれる新しい空間

馬場さん

空間も一緒で、僕らビルディングタイプをかなり厳密に学校教育で習ったじゃないですか、図書館、学校、役所…というふうに。それでビルディングタイプに固執し過ぎる体質があったのではないかと。それが余裕の1割みたいなものを失わせてしまった気がする。

最近感じるのは、違うビルディングタイプを強引にぶつけた時に起こる摩擦とか、どうしても間に存在しなきゃいけない何らかの仕組みとか、そういうものから新しい空間が生まれてくるみたいな感覚があって。そこに何かしらのヒントがあるような気がしてるんです。

西田さん

何かそこをちょっと馬場さん、楽しんでやっていますよね?通常は飲食NGの公園の法律の中で、屋台とか出たら面白いことができるんじゃないかというのを企んでいるというか、楽しんでいるというか。

馬場さん

西田さんも一緒じゃん(笑)

西田さん

僕もつい最近、共著で「事例で読む 建築計画」という本を出しました。ホールはこうです、図書館はこうです、というようないわゆる建築教育の中で学んでいくことよりも、何かもっと今行われていることを紹介して、どういう仕組みでできているのかを読み解いて、そこに少しでも触れてもらった方が、生きる知恵になるかなと。

「計画」というのはアカデミズムなので、積み重ねの学問なんですよね。図書館といったら歴史は、みたいな話になるんですけど、でも計画という概念自体も、今までの文脈をちゃんと引き継ぎながら、次の時代に乗せ換えていく。法律も変わるし、制度も変わる。そこを掘り下げるということも必要なんじゃないかというのはすごく感じます。

西田本

「計画」の概念が変わる

馬場さん

面白いですね。計画という単語、言葉の使われ方自体、僕も変わっていくタイミングなんじゃないかと思うんですよね。マスタープラン型、要するに今までの計画というのは、この辺にゴールを置いて、それに向かって進めていく方法論みたいなものを計画って読んでいたと思うんですよ。でも最近は何を作るべきなのか、ということ自体を問うということが、計画に求められるのではないかと思うんです。なぜかというと、あらゆるものはもうでき上がっているから。今この時代に、この状況の中で、どこに何を作るべきかということを的確に持っておかないと、間違った税金の無駄遣いをついしてしまいそうじゃないですか。

西田さん

まさに「公共R不動産」のマニフェスト的なところですね。

馬場さん

計画という言葉は、要するに帰納法的にゴールがあって、というわけじゃなくて、もうちょっと演繹的なものだと思うんです。今の状況はこうだから対処するためにこれが必要で、それと実際に起きたことをつなげて。そのつながった部分の集積で、いつの間にかに全体が柔らかくでき上がっていくような。そういうような出来方でしか、空間の物事は成立していかないんじゃないかという実感値みたいなものがあって、それを計画というんじゃないか。または計画に代わる単語を見つけてそうするのかはわからないけど、都市計画にしろ、空間の精製にしろ、そういうイメージがあるんですよね。

さん

(中編に続く)

PROFILE

飯石 藍

公共R不動産/株式会社nest/リージョンワークス合同会社。1982年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、アクセンチュア株式会社にて自治体向けのコンサルティング業務に従事。その後2013年に独立し、2014年より公共R不動産の立ち上げに参画。全国各地で公民連携・リノベーションまちづくりのプロジェクトに携わりながら、南池袋公園・グリーン大通りのPPPエージェント会社の立ち上げにも参画。

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